尾上校長の六浦小学校訪問レポート(前編)「尾上校長の半日に密着してみたら…」
「校庭を里山に作り変え、外部人材を積極的に活用しながら、自然体験を通じた活動を学校教育活動の中に位置付けた。子どもたちは自然と触れ合って体験する喜びを実感し、自然を通じて子どもたち同士の交流が深まった。」
これは、令和元年の時事通信社第34回教育奨励賞優秀賞、文部科学大臣奨励賞の受賞理由の一部です。
校庭を「里山」…!?
この賞の受賞者である尾上伸一校長は、いま、受賞時とは別の学校の校長先生を務めておられますが、現任校においてもブレずに自己の信念に基づく教育実践をしておられました。
この度、現任校の横浜市立六浦小学校にお伺いさせていただき、半日、密着するとともに、インタビューの機会をいただきました。
その記録として、前編・後編2本の訪問レポートをお届けしたいと思っています。
前編は、尾上校長のある平日の午前中のルーティンに一緒についてまわらせていただいた記録「尾上校長の半日に密着してみたら…」、
後編は、そうした日頃の行動を裏打ちするお考えや信念についてのインタビュー記事「とにかく子どもが幸せに生きていけるように」です。
前編・後編あわせてお読みいただくと、尾上校長の子どもへの温かな眼差し、六浦小学校が子どもの息吹きがする学校であること、そして尾上校長のお考えや信念が伝わるものとなっているかと思います。
ぜひお読みいただけたら、そして、ご感想も含めて、反応をお寄せいただけたら嬉しいです!
2021年12月6日(月)、横浜市立六浦小学校を訪れ、尾上校長の半日に密着しました。
これまで意外に、普段、校長先生って、学校で、具体的にどんな時間を過ごしているんだろう?と謎に包まれた部分もありましたが、尾上校長の半日は、校長室にいる時間はほぼなく、学校を歩き回る半日、そして、想像を遥かに超えた温かさと安心感と笑顔に包まれた半日でした。
午前7:20 尾上校長の朝は早い
尾上校長の朝は、学区内を自転車でぐるぐる、子どもの登校の見守りと地域の人へ朝のご挨拶をすることからスタート。
校長先生自ら、朝の登校の見守りを行います。
通学路に交通面で危険な横断歩道があり、下校の際も、その場所で横断旗をもって、毎日下校指導を行っているとのこと、「通学路で登下校時の子どもたちに『おはようございます。』と『さようなら。』の声かけをしながら一人ひとりの表情を見たいんです。」と話してくださいました。
尾上校長は、前任校の横浜市立飯島小学校のときは、毎朝校門で「子どもを待ち構えていた」と言います。
学校に自分を待ってくれているひとがいる、自分と会うと嬉しそうにしてくれるひとがいる、この感覚はきっと、子どもがいざ学校に行くことに不安を感じたとき、ちょっとした勇気となって、子どもの心を助けてくれるだろうな、と思いました。
※毎朝続けられる地域住民と保護者の見守り活動と校門でのあいさつ運動/六浦小学校 学校ホームページ むつうらっ子ニュースより
午前9:00 個別支援学級の朝の会に参加
登校すると、それぞれの学級で朝の会が始まります。
六浦小学校の個別支援学級(※)の朝の会は、交流級がある子どもが交流級での朝の会を終えたあとの時間帯に行われます。
交流級から徐々に子どもたちが個別支援学級に集まるとき、先生たちから「おかえり~」と優しい声かけが飛び交います。
(参考)個別支援学級とは
横浜市における特別支援学級のこと。
個別支援学級の朝の会では毎朝、尾上校長からの挨拶の時間がとられるとのこと。
この日は、校長先生がある箱を持って登場したため、クラスは大騒ぎ。
「何が入っているでしょう?」
のクイズでは、
「ハムスター!」「見たい!見たい!」
と興味津々。
箱の中には文鳥の雛がいました!
…お孫さんが飼いたいと切望され、飼い始めることになったとのこと。
3時間おきに餌やりが必要なので、その日から文鳥とともに出勤しているとのことです笑
子どもたちは、朝の会では少し見せてもらっただけでしたが、お昼休みに校長室に行ったら、文鳥と遊べる!と知って、大喜び。
「またねー!」
と嬉しそうに尾上校長に手を振って、朝の会が終わりました。
午前9:10 校内ぐるぐる
授業が始まると、尾上校長は、スケッチブックを片手に、校内をぐるぐるまわります。
この日、まず始めに訪れたのは6年生の理科の授業。
六浦小学校は全学年教科担任制を採用しているとのことで、理科室では、理科の先生による月の満ち欠けの授業が行われていました。
ボールに光を当てて様々な角度から見てみます。
次は1年生の国語の授業を覗くと、子どもがいきなり尾上校長に質問を出してきました!
「校長先生だー!校長先生、いちたすいちはなーんだ」
「えええー田んぼの田ー!」
嬉しそうに答える尾上校長。
「せいかーい!!!」
喚声があがります。
午前9:30 打合せ
続いては、毎朝行われるという校長室での打合せ。
尾上校長、副校長先生、児童支援専任教諭(※)、教務主任、養護教諭で行います。この日は、スクールカウンセラーも参加しました。
(参考)児童支援専任教諭とは
いじめや不登校等の課題に対応するため、児童支援における学校内での中心的役割や関係機関及び地域との連携窓口を担う教諭。横浜市が独自で小学校全校に配置している。
私の校長先生観をがらりと変えたこの打合せの正体は…
不登校になりそうな子ども、心配な子ども一人ひとりの今日の状態の共有と対応の検討の時間でした。
学校に関わる誰ひとり取り残さない、その子どものそのときの状況に応じたサポートができるように、それぞれが必要な情報を共有し、対応を考えます。
「専任」と呼ばれる児童支援専任教諭が中心となって、課題がありそうな子どもの情報を積極的に集めるのみならず、担任の先生もクラスの中での変化を見逃さずに、専任に伝え、すぐに連携します。
尾上校長によると、この毎朝の打ち合わせのおかげで学校全体の様子が関係者に適切に共有され、結果、校内で気になる子どもの様子を見かけたときに、適切に迅速に声かけができるんだそうです。
学校内の情報共有が大切と一般的に言われますが、まさにそれを日々高いレベルで実践するために欠かせない25分間の打ち合わせ。
教室の内外で幾重もの温かな大人の目が子どもを見守っているという感じがしました。
一人ひとりの状況を細かく把握し、子ども自身の気持ちを本当に大切にして動く、温かなチームの様子がうかがえました。
午前10:00 PTA会議
続いて、学校を支えてくださるPTAの皆さんとの打合せ。この日は、月に一度のPTAの実行委員会が開かれていました。
尾上校長は「私がこの六浦小学校に赴任してここまでの1年と半年間はコロナ禍と呼ばれる時期が続いています。特に着任時は緊急事態宣言が発令され、学校運営の舵取りがとても難しかったです。そのような中、PTA役員の皆さんには様々に支えていただいています。」と話します。
また、六浦小学校は、明治6年、学制とほぼ同時期にスタートした小学校とのことで、これから2年後の創立150周年の節目に向けて、行事などの準備を進めるとのことです。その準備にあたっても、子どもがリアルな体験ができるように、PTAの皆さんの協力やアイディアが大きな力になっていく、とのことです。
午前10:30 校内ぐるぐるその2
PTAの皆さんとの打合せを終えたその足で、今度は、2年生の図工の授業に向かいます。
この日はメンターチームによる公開授業が行われていました。
横浜市では、若手の教員にはメンター(※)がつくとのことで、そのメンターや同じく新任の教員が互いに授業を見合ってよりよい指導方法を目指す取組みが行われているとのことです。
(参考)横浜市におけるメンターチームとは
横浜市では経験の浅い人材(メンティ)とサポートを担う複数のメンターがメンターチームを作り、学校の中で人材育成を行う仕組みと文化があるとのこと。メンバー構成や取組内容は学校によって様々、多くの学校で実施されている。
この日は、初めてカッターナイフを使うという緊張した面持ちの子どもたちが、一方で、この日のお題である「窓を開ける」をどう画用紙を使って表現するのかワクワクする気持ちを押さえ切れずにいる様子が伝わってきました。
校長先生も、安全に注意しながら、隣で一緒に授業を受けます。
続いては、3年生の算数の授業。
分からなそうにしている子どもや、教室でポツンとしている子どもにはすかさず声をかけます。
途中で、別室に登校している子どもの様子も見に行きます。
「いま何をやってるの?」
「このプリント…!」
どう時間を過ごしているか、声をかけます。
自然なやり取りから、子どもが学校に受け入れられているという感覚が持てるような声かけが行われていました。
ちなみに、尾上校長は、授業を見に行くと、こんな感じでスケッチをするそうです。
見せていただいたスケッチブックのなかには、子どもたち一人ひとりの似顔絵が大切に描かれているページもありました。
尾上校長の子どもたちへの深い愛情と、子どもたち一人ひとりの表情の変化、さらには授業で声かけをする先生たちへのリスペクトがこめられていました。
※最近行われた校内授業研究会での4つの授業の記録、「子どもの表情とつぶやきを見逃さない、聞き逃さないように」記録しているとのことです/写真提供 尾上校長
午前11:45 検食&給食当番
給食の時間が近付いて来ると、尾上校長も白衣を着て、給食の準備です。
会う子どもが次から次へと、
「あ、校長先生ー!いま山をつくってるんだよー!」
と話しかけ、なかなか給食室までたどり着けない尾上校長。
先日は、子どもと一緒に楽しくなってしまい、担任の先生に、
「校長先生!子どもと一緒にふざけないでください!」
と言われてしまったそうです笑
そんな尾上校長の姿に、あるまた別の先生は、
「尾上校長は、行動から何を考えているかが分かる。とにかく子ども一人ひとりを大切にしたいんだなぁということがよく分かる。本当に尊敬しています。」
とおっしゃっていました。
12:00 尾上校長の半日に密着してみたら…
あっという間に12:00、予定していた時間が終了です。
尾上校長の半日に密着してみたら…
とにかく子どもに声をかけ、安心させ、笑顔にする、魔法使いのような校長先生としての姿を見ることができました。
この半日だけでも、尾上校長は、なんと多くの子どもたちの、ほっと安心した表情と笑顔を引き出していただろうと思うと、そこに、尾上校長のお考えや信念が隠されている気がします。
また、こうした尾上校長の背中は、一緒に働く教職員の皆さんにも、大きく語りかけているものがあるだろうと思いました。
次回は、こうした日々を送る尾上校長が考える、「とにかく子どもが幸せに生きていけるように」、インタビューさせていただいた内容をお届けします。
(編集後記)
日々の、尾上校長の学校散歩の記録「むつうらっ子ニュース」は、こちらに更新されています!
尾上校長ご自身が作成しているとのこと。ぜひアクセスいただけたら嬉しいです。
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