『一般人間学』第07講まとめby森章吾
■第07講の要点-方法論的な内容
方法論1.魂的考察は共感・反感の観点から、霊的考察は意識状態の観点から観察する。
方法論2.基本的な方法論は「事実と事実を結びつけること」である。ただし、霊的&魂的事実も含める。
方法論3.言葉による概念ではなく、事柄に沿って見る必要があり、事実を相互に関連させる必要がある(18)。
方法論4.ベネディクトの例:論は間違っていても正当な観察をしている可能性はあるし、正当な観察は学ぶ価値がある。
■第07講の要点 人間学的考察結果
人間学1.人間は成長に伴って変化する。子ども=体的、壮年=魂的、老年=霊的である。
人間学2.子どもでは感情が意志に結びついているのに対し、本来の老人では諸理念が個的感情と結びついているので、諸理念が温かく響く。
人間学3.感受は認識的ではなく、意志的・感情的範疇に入る。
人間学4.身体の表面と深部では眠り、中間層で目覚めている。表面=感覚器や皮膚、深部=代謝系や血液、中間層=神経。
人間学5.子どもの感受は特に意志的であるので、それを念頭に感受に働きかける教育をする必要がある(16)。
人間学6.霊を把握できるのは、神経が霊的に無であるから(重要、要説明)。
人間学7.睡眠と覚醒を時間軸で考察すると、表象複合体が入眠すると忘却であり覚醒すると想起である。
■ 方法論2.事実を結びつける
アントロポゾフィーの方法論は、「事実を事実と結びつける」ことに尽きる。理論を構築するのではなく、あくまでも事実を結びつける。ただし、事実にもさまざまな層があり、物質的事実もあれば、魂的事実、霊的事実も存在する。したがって、事実を結びつけるときには、こうした領域も視野に入れなくてはいけない。
6年生からの科学の授業でも、理論ではなく、「事実を事実と結びつける」方法が重要視されている。
■ 人間学1.2.子どもと老年の比較
子ども=体的、中年=魂的、老年=霊的
子どもでは感情が意志につながり、老年では感情が思考につながっている点を取り上げている。これは、日常的にも体験できるので、納得しやすいだろう。子どもは喜ぶと跳ね回るが、老人はそうではない。たとえば、晩年の桂米朝や桂歌丸による人情噺には若手とは違う人を惹きつけるものがある。
■ 人間学3.感受は意志的(認識的ではない)
第04講の解説で述べたことをくり返す。
知覚が成り立つ際には3つの段階がある。
外からくるもの =印象
受け取られたもの =感受
受け取ったものの意識化=知覚
このうちの「感受」とは、光印象が身体に取り込まれ、身体において何らかの生理作用が行われているレベルを指している。
ドイツでは、春先にくしゃみが止まらなくなった人が「私は花粉に感受的になっている」と表現するし、これは花粉と身体の生体反応である。
したがって、「感受」を無意識な体的プロセスと考えれば、これが意志的(意識されない)とするのが妥当である。
■ 人間学4.覚醒、睡眠の身体地図
意志領域は眠っているので、代謝系・四肢系、つまり体深部は眠っている。さらに意志に属する感受においても眠っているので、皮膚や感覚器官といった表面付近も眠っていることになる。それに対し、身体中層部に当たる神経領域は目覚めている。これはシュタイナーのここまでの論理をたどれば、当然の帰結である。そして、「神経では霊的に無であるので、霊を把握しうる」という次の説明につながっていく。
■ 人間学5.「感受が意志的」という視点は何に重要か?
「感受が意志的」と知ることで、何が実際に分かるかを見てみよう。
生徒、特に低学年の生徒が先生の話を聴いている状況を考えよう。 生徒は、たとえば「お姫様がお城の中に入っていきました」と聞き、その内容は意識的に捉えている。 しかし、《感受》という側面で考えれば、そこには同時に、子ども自身には意識されず、しかし身体的・魂的には深い影響を与える部分がある。 その意識されない部分の一つが「教師の声の質」である。響きが豊かで包み込むような声であれば、教師としては理想的である。逆に、ビリつくような声、鼻づまりの声、響きがなく弱い声が望ましくないのは明らかだろう。実際、学級崩壊を起こしたクラス担任の声が何らかの意味で弱いという事実はしばしば観察される。
この点を考慮すると、1919年にこの『一般人間学』と並行して、ルドルフ・シュタイナーが教師向けにゼミナールを行い、そこで言語造形の練習を取り上げていることは注目に値する。教師の話す内容だけでなく、そこでの言葉の質や声までもを重視していたと考えてよいだろう。
また《感受》を重視するなら、学校や幼稚園の空間の快適さも重要な要素である。 もちろん、予算を無視して理想空間を作ることはできないにしろ、空間が及ぼす影響が人間の深部にまで渡ることを知っていたら、空間の快適さが単なる「贅沢」ではないことがわかるし、効率だけを考えて教室を建築することはないだろう。
■人間学6.霊を把握できるのは、神経が霊的に無であるから
この内容を段階的に理解しよう。
まず、「眼は透明であるので、外界を見ることができる」という事実は納得しやすい。
次に、「舞台には物体がないので、物である身体が自由に動ける」も問題ないだろう。
こう考えると、「霊を把握できるのは、神経が霊的に無である必要がある」ことは推論できるだろう。もちろん、「霊的に無」というのがどのような状態かは想像しにくいかもしれないが。
■ 「神経が霊的に無である」とはどういうことか。
まず、私たちが《秩序》や《法則》と呼んでいるものはすべて霊的なものである。なぜなら、私たちはそれを外的感覚器官では捉えないからである。たとえば、幾何学で言う大きさのない《点》を見ることは不可能である。幾何学では《点》という霊的な法則性を思考によって捉えている。
さて、私たちの身体ではタンパク質や糖類がさまざまに結合し、考えられないくらいに高度に複雑にからみあい、調和を保っている。これらの複雑な過程を現代の分子生物学は克明に解明していく。これらの事実を知れば知るほど、生体の諸過程が厳密に法則性に則って進行していることがリアルに想像できる。だたし「その法則性の本質はDNAである」と考えてしまったら間違いである。確かにDNAはそうした法則性の物質的な条件ではある。しかし、法則性そのものではない。
このように、生体が成り立っていくためには、厳密な物質過程が必要で、その物質過程一つ一つに法則、つまり霊的なものが浸透しているのは否定できない事実である。したがって、人体が成り立つためには、とてつもない霊性が物質的にかかわっているし、その物質にかかわる霊性をここでは仮に《タイプ1の霊性》と呼ぼう。シュタイナーは、この《タイプ1の霊性》を人間は意識することはないし、意識できないように守られている、とも言っている。
さて、霊性にはもう一つのタイプがある。幾何学などに現れるタイプの霊性で、これを人間は像として意識的に捉えることができる。これを《タイプ2の霊性》としよう。 すると、「神経では霊的に無であるので、霊を把握しうる」という言葉は、より厳密に「神経では《タイプ1の霊性》が無であるので、《タイプ2の霊性》を把握しうる」と言い換えることができる。
神経も生体の一部であるから、法則性を持った何らかの生理作用がなくては生存できないし、神経伝達でも何らかの法則性が必要である。その意味では、《タイプ1の霊性》が完全にゼロなのではない。そこで神経伝達のおける法則性を思い起こしてみよう。
細かい説明は興味のある人だけに譲って、ここでは結論を先に述べると、神経伝達は主として電気的=非生命的である。(シナプスは生命的であるが)。つまり神経伝達とは、もちろん厳密に言えば生理作用の一つではあるにしろ、そこでの生命作用、つまり《タイプ1の霊性》は極限まで抑えられていると言える。ちなみに、神経において生理作用が重要な働きをするのは、神経の機能回復に際してである。
【参考】 神経における生理作用の考察
神経の細胞膜では、カリウム(K)をエネルギーを消費しつつ積極的に取り入れ、ナトリウム(Na)を積極的に排出している。これはナトリウム・ポンプと呼ばれる。
細胞外はNaが多く、内はKが多いので、電気的には外が+、内が-になっている。(分極)
刺激がやってきて、神経が興奮状態になるとKとNaの内外濃度が瞬間的に逆転する。(脱分極)。これにはエネルギーは不要で、立てたドミノが倒れるような現象である。(神経がドミノだとすれば、倒れたドミノはすぐさまエネルギーを使って立てられることになる)。
神経の興奮を物質的に見るとこのような現象であり、現在の研究レベルでは「三角形についての思考」であろうと、「リンゴを美味しそうと思う」のも、同じ脱分極反応でしかなく、《タイプ1の霊性》という立場からは、同じものでしかない。
肝臓はブドウ糖にもアミノ酸にも働きかけるが、そこではそれぞれ別な《タイプ1の霊性》がかかわるのであるから、生体の化学工場と言われる肝臓には無数の《タイプ1の霊性》が存在する。ところが神経伝達では、その内容が何であれ脱分極という《タイプ1の霊性》だけで済むので、両者は対照的である。
以上が神経における《タイプ1の霊性》の様子である。 つまり、わずかな生理作用、言い換えるとわずかな《タイプ1の霊性》を基盤に、《タイプ2の霊性》が豊かに活動している、と言えるだろう。
【参考】 現象の対応
第9講の内容を予告するかたちで、記憶・忘却がそれぞれ覚醒・睡眠に対比できることに触れている。
『神秘学概論』では 死・誕生、睡眠・覚醒、忘却・想起を自我、アストラル体、エーテル体、物質体の四構成体との関係でまとめている。
死 睡眠 忘却
--------------------
自我 自我 自我
アストラル体 アストラル体 =分離=
エーテル体 =分離= アストラル体
=分離= エーテル体 エーテル体
肉体 肉体 肉体
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?