春と買春と松山千春
「あのぉ・・・」
仕事からの帰り道。 改札を出て数歩のところで不意に呼びとめられた。
振り返るとそこには推定、140㎝、100㎏超のピグモンがいた。
一見して60代。場末のスナックのママの様な赤髪にピザの様に散らかったメイクに徳翔龍を思わせる突き出た腹。そして、無駄に短いスカートからはエレファントカシマシもびっくりな太く短い象足を覗かせていた。
誰?
咄嗟に記憶の糸を手繰り寄せてみた。確かに先週末、錦の熟キャバで出会った女性も八段腹の巨漢だったし、先月地元の姉キャバで遭遇した嬢は垂乳根の48歳だった。 しかし、それ以上に強烈なインパクトを放つ目の前の女性は私の中のキャバクラ名鑑には存在しなかった。と言う事は宗教か何かの勧誘か。面倒なことに巻き込まれるのはご免だと思い足早にその場を立ち去ろうとした。しかし、次の瞬間
!?
背後から腕を掴まれた。一瞬にして全身に鳥肌が立つ。おそるおそる振り返るとピグモンが上目遣いでこう言った。
「タナカダヨネ?」
確かにハンドルネームはタナカであるが、本名はタナカではない。風俗を予約するときはだいたい「タナカヒロシ」の偽名を使うが実際にはヒロシですらない。だからはっきりと「タナカじゃないよ」と答えればよかったが国籍不明のイントネーションで突如向けられたタナカ疑惑に恐怖を感じた私は声が出せず、クビを横に振るのが精一杯だった。そのジェスチャーで私がタナカじゃないと言うことは十二分に伝わったはずだから人違いで終わると思ったのだがそうはいかなかった。ピグモンは手にぐっと力をこめてこう言った。
「カオミテキャンセルズルイ!」
「えぇ。私もナオトインティライミの歌好きです」
勝手にナオトインティライミの話にすり替えて「今のキミを忘れない」と言ってその場をやり過ごそうと思ったが顔を紅潮させながら何かを必死に訴えるピグモンの前ではうまく事は運ばなかった。「顔見てキャンセル」と言う事はテレクラか何かであろうか。恐らく本物の「タナカ」は遠目にピグモンを確認して逃げ出したのだろう。 タナカの選球眼の良さとリスク管理能力の高さに脱帽であったがピグモンは私を「タナカ」だと思い込んでいる訳で兎に角その誤解を解かなくてはならない。
「だからタナカじゃないって・・・」
今度ははっきりとそう口にした。しかし、それを聞いたピグモンはヒートアップした。
「タナカウソヨクナイ!50フン35000エンデキモチヨクナルヤクソクシタ!!
ワタシソノタメトオクカラキタジテンシャデ10フン!!!!」
自転車で10分はたいして遠くない。そしてピグモンに35000円とはいつから日本はベネズエラの様なインフレになったのだろうか。 突っ込みどころ満載であったが一つ一つに突っ込んでいる余裕はなかった。 買春を匂わす言葉に反応した周囲の人たちの視線が突き刺さる。 出張で訪れた遠くの街ならまだしも、ここは私の生まれ育った街。このままでは私がピグモンを買春していたと言う噂が街を駆け巡ってしまう。 そうならないために一刻も早くこの事態を収拾する必要があった。
さてどうするか。
にげる
たたかう
かう ←
ひていする
据え膳食わぬは男の恥。 昔の人は良く言ったものだ。もしかしたらピグモンの中は愛の国ガンダーラかもしれない。 袖振り合うも多生の縁。 腰振り合うと気持ちいいな。 私はその場でチャックをおろしいただいてみることにした。
いただきまーす!!!!
買って良い訳がない。衝動買いにも程がある。仮に買ってそのレビューをAmazonに投稿すれば賞賛コメントが乱舞するかもしれないが 嫁(いつか出会うはず)が悲しんでしまう。
さてどうするか。
にげる
たたかう ←
ひていする
相手はピグモン。怪獣だ。きっと強い。しかし、私には高校から大学まで7年間続けたラグビーで磨い抜いたタックルがある。 後はマウントポジションからのパウンド攻撃で・・・
いっきまーす!!!!
タックルしてよい訳がない。 仮にタックルが成功したとしよう。しかし、それは周囲からみたら性交しようと押し倒したようにしか見えない。 つまりはタックルがセックルである。
さてどうするか。
にげる
ひていする ←
恐らくこれが正解。もう一度だけ否定することにした。
「タナカじゃないです!」
「プーギー!!!!!!!!!!!」
いてぇええええええええええええええええええ
再度タナカであることを否定するとピグモンは奇声を上げながら上腕に真っ赤な爪を突き立てた。 まさかの不正解。
「タナカデンワデボウズイッタ。 オマエボウズオマエタナカマチガイナイ! ワタシハアソコガマルボウズ!」
エキサイトするピグモン。アソコが丸坊主。ごくり。淫靡な言葉に反応し自然と沸きあがる唾液を飲み込み静かに勃起した。沸き上がるわけがないし、勃起もしない。それにしても「坊主だからタナカ」は 無茶苦茶なセオリーである。 坊主が全員タナカだったら海老蔵もタナカ。ブルース・ウィリスもタナカ。瀬戸内寂聴もタナカ。ジャパネットタナカ。北の町から南の町まで日本中にタナカが溢れ返ってしまう。
坊主だったらほらそこにだって・・・
苦痛に顔をゆがめながら辺りを見回したが行き交う人々は全員フサフサ。
坊主は私一人。
私=タナカ 確定。
いや、違う。私はタナカじゃない。 そもそも短髪なだけで、坊主ですらない。
どうする・・・
解決策を導き出せないまま押し黙ってしまった私に向かってピグモンはわめき散らす。
「マフィアナメンナヨ!デカチンコツブスゾ!!!」
時々ケフィアは舐めるがマフィアを舐めたことはない。そしてチンコはでかくない。
むしろちょっと小さい。正直に言うとかなり小さい。 タナカとピグモンは電話で
「オレチンコデカイ。ハァハァ」
「ワタシアソコマルボウズ。ハァハァ」
とでも言い合っていたのだろうか。キモチワルイ。ハァハァ 。 しかし、こんな啖呵を切ると言う事は背後には大掛かり、かつ危ない組織がいると言うことだろう。
人生\(^o^)/オワター
振り返れば人生の先行きに暗雲立ち込め途方に暮れる日々もありました。悔しい思いで枕を涙で濡らす日々もありました。それでも、総じていい人生だったとはっきりと言えます。唯一心残りなのは年老いた両親より先に逝くこと。宮崎あおいと結婚できなかったこと。金玉の裏の出来物が痛いこと。 みなさん今までご愛読ありがとうございましたー!
糸冬
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制作・著作 NHK
「おい!!!!!!!!!」
構内に突如怒声が響く。マフィア来襲。 恐怖で足が小刻みに震え、先ほどまで肥大していた股間は見る影もなく姿を消した。覚悟はしていたものの まさかこんなに早くやってくるとは思わなかった。 もしかしたら逃げられるチャンスがあると思っていた私に絶望の2文字が襲いかかる。 このタイミングから考えるとこれは買春なんかじゃなくて美人局だったのかもしれない。
しかし、ここから事態は意外な展開を見せた。恐怖に震えたのは私だけじゃなかった。ピグモンもだった。ピグモンはずっと掴んだままだった私の腕を離すと数歩後ずさりした。
何だ?
背後に目をやるとその瞬間、何かが私の横をすり抜けた。
ドッ!
鈍い音が聞こえた。 ピグモンがいた方に再び視線を戻すとそこには唖然とする光景があった。数メートル後方に転がるピグモン。それに蹴りを入れ続ける男。 しかし、その男は決してマフィアの様な出で立ちではなくよれたTシャツにジャージを纏った普通のおじさんだった。
「よしこぉおおおおおおお!!!! またこんなことしやがってぇええ!!!おまえってやつはぁああああ!!!!」
ピグモンはよしこ。まさかのメイドインジャパン。
「ひー!!!!!!!あんたごめんなさい。 ごめんなさい!!!!」
よしこは人妻。
「チンコが・・・パチンコがしたくてええええええ!!! パチンコ玉の様な男の頭が憎くてぇえええ」
人妻よしこは末期のギャンブル依存症。
よしこはおっさんに自慢の赤髪をひっぱられながらパンツ丸出しで駅の外へ消え去った。 ちなみにパンツも赤かった。パチンコと坊主は絶対にやめよう。そう誓った春の夕暮れ。
その後、何故か人肌恋しくなって超熟キャバに行ったのはここだけの話。