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「統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません)―推しと福祉に救われて社会復帰するまでの劇的1400日―」ズミクニ著 を読んで
感想文集ー統合失調症をもつ人の著作を中心にー no.14
統合失調症で措置入院となり職も失ったズミクニさんご自身による実録漫画。
山あり谷ありの道のりが軽快なタッチで描かれた、力強い作品です。
本書を貫く大きな流れは、発症から治療、福祉の利用を経て再就職活動に至る経過です。
併行して、折々の出来事が数々の4コマ漫画となって添えられています。
川の流れとともに岸辺の風景を細やかに描くようなこの構成のおかげで、とても読みやすくなっています。
頼りになる恋人とかはいなかったけれど
Twitterのフォロワーや支援員さん お医者さんに看護師さん 元の職場の人たち 他にも出会った人達は 統合失調症になった私にも優しかった
一見希薄な細い糸に見える関係だけど 私には確かに命綱だった
ズミクニさんは家族親戚に頼らない一人暮らしで、恋人のみならずリアルの友人も現れません。
SNS上のつながり、病院や福祉の人々、諸制度や就労支援事業所の利用、そして「推し」への思い。
それらを命綱とした歩みは、天涯孤独でも生き延びられるという希望を伝えてくれます。
ズミクニさんが回復途上で出会った人たちは、元の職場も含めて優しい。
一方で本書をよく読めば、軽快に描かれてはいるけれど実は大変な困難をくぐりぬけてこられたことが分かります。
発病時の各所の対応、初期の病院のトイレ場面、自分でたまたま見つけない限り知りえない、福祉や制度のアクセスの悪さ…。
さらには描かれていない辛い経験もいろいろあったのではと思います。
それでも人の優しさに焦点をあてるズミクニさんの心には、優しさを受けとめる美しい器があるんじゃないか。自ら道を切り開く姿勢とともに、それがズミクニさんの秘めた力ではないか。私にはそんな気がしました。
退院を控えたズミクニさんが他の入院患者さんや看護師さんと言葉を交わす、印象的な場面があります。
「退院 私には出来ないけど あなたは出来るのだから 祝わせて」
「もうこんな所 来ちゃダメだからね」
これらを受けてズミクニさんが内心で思ったことは
病院で人の優しさに触れた事で 自分の病気は寛解できたのだと思います
どの病院でも薬物療法を受けることはできますが、「優しさ」といった形のない、しかしおそらく統合失調症の回復のために必要不可欠な事柄を重視しているか否かは、病院によって、また従事者によって、異なるのではないでしょうか。
だからこそ、当事者による「人の優しさに触れた事で寛解できた」という言葉は重要だと思います。
精神医療に大切なことを忘れないでいてもらうためにも、精神医療では不十分な事柄が別の機会によって補われるためにも。
私がこの漫画を描こうと思ったのは、統合失調症のことを知らないと、患者さん本人もまわりの人も医療につながれないのではないか、と思ったからです。私はたまたま知っていたから早く治療を受けることができた。
少しでも多くの方が統合失調症を知るきっかけになればと思いペンをとりました。
本書もまた、学校の図書室に置いてほしい一冊です。