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Ulm
すでに約2年も前のことになりますが、2022年7月最後の週、ウルム(Ulm)というバーデン=ビュルテンベルク州にあるドナウ川沿いの中規模都市(日本の感覚からすると、小さな街)へ行きました。川を渡ればバイエルン州です。ここには教会建築の中では未だに世界で一番高いと言われれる塔を戴く大聖堂(Münster)があります。この「世界で一番高い」とは一体どのくらいの高さなのか、一度は自分の目で見てみたいと以前から思っていました。この頃はまだコロナウィルスの感染拡大傾向が安定しておらず、その年の夏は早々にドイツからの脱出を諦めた私たち。それでもちょっとは「夏休みの旅行」をしてみたかったので、フランクフルトから列車で乗り換えなしで比較的簡単に行くことができるウルムに行くことにしたのです。私の目当てはウルム大聖堂、夫の目当てはウルム近郊にある修道院図書館でした。
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今回の宿は大聖堂があるMünsterplatzに面した小さなホテルです。まずここが大当たりでした。部屋が広いことに加え二方向に窓があるので、風が部屋の中を吹き抜けるのです。幸いウルムに行った週の最高気温は毎日30℃以下だったので、空調のない部屋でも暑いと感じることがなく過ごすことができました。日本のような空調完備のホテルが少ない夏のドイツの旅行にあっては、この一点だけでも十分成功でした。加えてホテルの1階は同じ経営者によるイタリアン・レストランで、ここの料理や飲み物が美味しいのなんのって。東京の一等地に店を出しても十分に戦っていける味だと思いました。パスタは完璧なアルデンテ。イタリア風に中にクリームが入ったクロワッサンは焼きたてのパリパリ。実際、地元の人たちにも非常に人気のようで、昼食時はあっという間に満席、夕食時から23時の閉店までも常に混雑していました。
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大聖堂は、圧倒的な迫力がありました。この迫力、言葉では上手く追いつきません。今まで最も印象に残っている聖堂は、南仏のアルビという街にある大聖堂(Cathédrale d'Albi)でしたが、入口から聖堂内に足を踏み入れた時に感じる「うわっ」という湧き上がる気持ちは、このアルビの大聖堂以来だったと思います。教会に頼らず専らウルム市民の財力によって何百年にもわたり拡張した結果がここにあること、第二次大戦中の爆撃倒壊を免れたこと(ウルムの街自体は約80%破壊されています)などが、類い稀なる迫力となって私に押し寄せてきたのかもしれません。外の熱気とは全く異なるヒンヤリした空気が静かに漂っていました。何百年も前の空気がそのままずっと聖堂内に留まっている、...そんな錯覚を覚えました。
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ウルムの旧市街はMünsterplatzの南西、ドナウ川沿いに広がっていますが、Münsterplatzの北側に東西南北にわたり何本か通っている通りも、全てなかなか散歩し甲斐があるきれいな通りばかりです。何と言ってもオシャレで小さなカフェが多いのが嬉しい。特筆すべきはウルムという街の雰囲気が非常に良いことです。おっとりしているというか、のんびりしているというか。レストランやカフェ、ホテルなどで言葉を交わした人も、みな押し並べて感じが良く、ごく自然な笑顔を浮かべているのが印象的でした。そして、地図で見る限りは片田舎の中規模都市でしかないウルムですが、カフェのみならず高級時計店とか趣味の良いセレクトショップ、品揃えが個性的な書店、本格的なデリカテッセンなど、自宅最寄り都市にすらないような垢抜けた店が少なからずあるのです。街ゆく人も、思わず振り返ってしまうような素敵な服装をした人々が歩いていたりします。そうかと思えば、滅多にお目にかかれないような高級車がさりげなく道の側に停めてあったり。「不思議な街だな」と思っていたら、iPhoneで何やら検索していた夫が「ウルム市民の平均年収は、ドイツ全体の平均年収の2倍なんだって」と言うではありませんか。なるほど。将来、夫が現在の仕事を退職したら、今住んでいる山を降りてどこか別の場所に引っ越す予定なのですが、私は心の中のその候補地メモに、すかさず「ウルム」という文字を書き込みました。
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この文章の元は、2022年8月、ウルムから帰ってきて間もない頃にブログに書いた記事です。今回、若干の修正を加えてnoteに転載しました。この時は書くのを忘れましたが、ウルムは白バラ運動(第二次世界大戦中のドイツで行われた反ナチス抵抗運動)により逮捕・処刑されたゾフィー・ショルの裁判が行われた場所でもあります。たまたま通りかかった裁判所の建物の入り口横に、その旨を示すプレートが掲げられていました。ゾフィーが生まれた場所はシュトゥットガルト
(Stuttgart)の北東に位置するフォルヒテンベルク(Forchtenberg)ですが、その後彼女の家族はウルムに引っ越し、ミュンヘンの大学へ進学するまでの大半をこの街で過ごしたそうです。
余談になりますが、夫が退職した後住む場所について、今でも夫とは時々話します。ウルムも良いですが、最近では「やはり国際空港へ簡単にアクセスできる場所がいいね」という方向へ向かうことが多く、現在ハンブルクがトップを独走(海も近いことですし)。もし可能であれば国境を超えてウィーンに住むのも悪くないかもしれないなどと夢は膨らみます(ただし、こちらは健康保険など事前にクリアしなければならない問題が控えていますが)。しかし、昔も今も変わらず山歩きが大好きな私が最も住みたいのは、実はスイス(ドイツ語圏)。しかし、この国はそもそもEUに加盟していないし、何よりもともかく物価が高いので、まあ、不可能だろうとは思っています…。言うだけ無駄なので、口にも出しません。その代わり、Instagramでフォローしているスイス人が、毎週あちこちの山に登り撮っている写真(しかも、時折「大判カメラ」で撮っている!)を、毎日のように指をくわえて見ています。
なお、ここに投稿した写真は、例によって例のとおり、全てRolleiflex 2.8FとIlford HP5 Plusで撮りました。