【vol.19】第Ⅵ段階 学校再編の決行(2020年2月27日~現在)
◆はじめに
今回は、内海・内浦学区の学校再編が「決定」された2020年2月から現在までの期間を扱います。この第Ⅵ段階では、市行政によって学校再編が「決定」され、具体的に学校規模適正化が実施されていきました。
◆第Ⅵ段階の概要
はじめに、第Ⅵ段階の概要を述べます。
前回の第Ⅴ段階では、最後の2020年2月27日の「内海説明会」において、内海・内浦学区の学校再編が「決定」されました。第Ⅵ段階では、市教委が学校再編は「決定」されたものとして、再編後の新しい学校づくりに関する話し合いを強引に行います。また、山野学区でも2020年8月に福山市から出された「山野小学校・中学校の再編に係る対応方針について」という文書によって学校再編が「決定」されました。どちらの学区においても、第Ⅵ段階では学校再編は行政が責任をもって進めていくものであり、そこに住民は関係ないとする市の考えが貫徹されています。最終的に、市行政は学校再編に反対する保護者や地域住民の意見は無いものとすることで、強引に学校再編を行いました。
第Ⅴ段階以前の分析では、行政の論理が「数」に偏向していることを述べてきました。「数」への偏向とは、例えば「一定の子どもの『数』が揃わなければ教育はできない」や「児童生徒の『数』が少ないので、学校再編は不可避だ」というものです。第Ⅵ段階ではその「数」が人口推計だけに依拠していることがわかります。つまり、たとえ住民による移住者呼び込みなどが地域の人口の下げ止まりを実現していたとしても、 福山市の学校再編計画はあくまで2015年当時の人口推計値を基準とし、そこで人口が減るとされているのであれば、将来地域の人口は増えないとして学校を取り上げようという市の姿勢がわかります。第Ⅵ段階を通して「人口が減る地域は消滅するものだからインフラの整備は必要ない」という市の考えが露呈します。
また、第Ⅳ段階ではこれまで市教委が挙げてきた教育理念を再び取り上げて再編を正当化しますが、ここで行政から挙げられる教育理念はすべて「一定の集団規模」を確保することによって成し遂げられるものだということがわかります。ついには市教委から「教育的に良いがどうかは別だが、適正規模に満たないなら再編する」という発言までされました。つまり、市教委はこれまで子どもたちのためと銘打った様々な「教育理念」や「学校再編の理由」を挙げて学校再編を説得してきましたが、それらは全て表向きの発言でしかなく、結局は「子どもの数」が足りないという理由一辺倒だったということが明らかになります。
さらに、学校再編が「決定」された後では行政の態度が一転するということも第Ⅵ段階の分析でわかります。特に、学校と地域の関係について、市教委はこれまで「学校と地域は別」ということを住民に主張し続けてきましたが、学校再編が「決定」された後は手のひらを返したように学校と地域は密接だという考えを住民に示し始めました。また、地域活性化や人口減少についても、これまで行政は「市教委ではなく別部署が行う」と主張してきましたが、第Ⅵ段階では人口減少と教育行政は関係があることを示唆する市教委の発言があります。
このような再編が「決定」された後の市行政の態度の豹変 は、市行政が学校再編を「決定」したことによって行政が住民に向き合って説得する必要がないと考えた結果として生じたものなのではないかと考えられます。つまり、第Ⅵ段階を通じて市行政は学校再編を「決定」し、それを遂行さえできればいいという姿勢であることが推察できます。
このように第Ⅵ段階では、行政の一方的な方法で学校再編が「決定」されていきましたが、その過程において目立った行政の姿勢は、行政に賛同する住民に対しては柔和な対応をとるが、反対する住民に対しては強硬な対応をとるということです。内海・内浦学区では、学校再編を「決定」した後に行政が住民の移住推進の取り組みを肯定する様子がみられます。ほかにも、市教委が学校再編の対象の地域住民に対して学校再編後の新しい学校で地域教育に協力してほしいというお願いをしている様子や、山野学区で「学校再編をしたら、山野に教育の場を考える」という発言もみられます。このような言動には、行政の行う事業に賛同する住民だけを教育に関わらせるという姿勢が示されており、ここに行政に対して反対する住民を排除しようとする市の姿勢がみられました。
それだけでなく、市は、行政に反対する住民を非難する様子もみられます。それは、「学校再編に反対するものは大人の責任を果たしていない」「学校再編に反対する人は、本当に子どものことを考えていない」「学校再編に反対する人が住民を追い詰めている」などの発言に見られます。このように市は、学校再編の推進を妨げる住民をあたかも“悪人”のように扱い、さらに「そのような住民の意見は聞く必要がない」として反対意見を無いものとすることで学校再編を断行したことが、第Ⅵ段階で明らかになります。
このように第Ⅵ段階では、市が「数の論理」を用いることによって住民を無理やり丸め込む様子や、学校再編が「決定」されれば教育には関係のない人口減少や地域衰退などはどうでもよいという姿勢、さらには市の言うことは絶対であり、反対する住民は悪人だとする姿勢が明らかになります。このような姿勢は、「最終的に学校の設置や教育、ひいては住民の生活について決めるのは行政であり、住民ではない」という前提から派生したものであると推察できます。このように、市は住民自治を完全に無視した形で学校再編を断行しました。
◆第Ⅵ段階の資料一覧
次の表は、本段階の分析に用いた資料の一覧です。
◆行政の論理 ①人口減少
はじめに行政側の資料から「①人口減少」に関する発言を抽出し、論理を整理します。
(A)の発言からは、市行政が、内海内浦学区で行われてきた住民による移住推進の取り組みを肯定している様子が見られます。これまで見てきたように、市は学校再編を推進する過程において、すでにこの住民の移住推進の取り組みについて認知していました。しかし、学校再編が決定される以前は「学校再編問題とは別である」として住民の取り組みに目もくれない対応をしてきました。むしろ、学校再編の実施により、移住推進の取り組みを妨げてきたともいえます。ところが、学校再編が決まったことを機に、市教委は急に態度を翻して住民の取り組みを評価し、さらには一緒に協力するとまで発言しました。このような態度の変化からは、市教委が市の施策に賛成し協力する地域に対しては柔和な対応を示す反面、市の施策に反対する地域に対しては強硬な対応を示すということがわかります。
統廃合が「決定」されて以降の(B)の発言からわかることは、市教委は「適正化計画(第1要件)」が策定された2015年段階の人口推計を確定的な事実としてとらえて学校再編を進めていたということです。つまり、人口推計で子どもの数が減少するとなっているから再編をするということであり、実数ではなく推測としての「数」のみで再編を決行しています。しかし、人口推計はあくまで予測であり、事実としてとらえるべきものではありません。特に人口減少の推計は、行政が施策を講じることによって実数値を変えていくために使われるものであるといえます。しかし、市教委はこの推計値を「前提」 とし、第Ⅴ段階で見られた「人口の少ない地域はどうしようもない」という考えを展開していることがわかりました。この点、市教委は(A)で肯定した住民による移住推進の取り組みを本当の意味では理解していないのではないかということが推察できます。
◆行政の論理 ②学校と地域の関係
次に行政側の資料から「②学校と地域の関係」に関する発言を抽出し、論理を整理します。
内海内浦学区では、第Ⅴ段階で学校再編が決定されたことにより、市教委の学校と地域の関係に対する説明が変化していることがわかります。これまで市教委は、「学校と地域は別で考える」という説明を住民にしてきました。しかし、学校再編が決定されて以降の第Ⅵ段階では、「地域の方と学校運営は本当に密接に関係している(A)」として学校と地域の関係を肯定しています。これほど態度が覆るのは、市教委の目的であった学校再編を達成することができ、住民を説得する必要がなくなったと考えたことで、反対する住民に向き合う必要がなくなったからだと推察できます。そして、これまで言われていた「学校と地域は別問題」という考えも、あくまで学校再編を進めるためだけに言われていた論理であるということが明確にわかります。
しかも市教委は、学校再編の決定後に学校と地域の関係を肯定することにより、再編対象学区の住民に対して、今度は「地域とともにある学校づくり(B,G)」を行うと説明し、それに協力するよう要請しました(A)。このような「お願い」は第Ⅴ段階でも見られたものですが、第Ⅵ段階では学校再編を決定したことによってより明確に住民に対して要請するようになっています。このことは、市教委の施策に賛成する住民は学校に参加させるが、市教委に同調しない住民は学校から排除するという市の姿勢を示しているといえます。
一方、山野学区では住民が学校再編に反対の声を上げ続け、学校再編が「決定」されていないため、市教委はこれまでの「学校と地域は別」という前提を引き継いでいます。特に、2020年8月12日の「市教委と山野学区住民との話し合い」の中では、市教委は「学校と地域は別問題だ」という前提のもと「学校がなくても、公民館などの町づくりの単位は残る(D)」と住民に説明し、地域活性化は学校がなくてもできるという考えを示しています。しかし、同じ日の話合いでは「学校を残せば地域が残るわけではない(E)」という発言もありました。この発言は、その地域で学校を再編しようとすることを踏まえると「学校があったとしても、なくなる地域はなくなる」と言い換えることができます。さらには、なくなる地域に学校を残しておく必要はないという考えを市が持っているとも推察できます。ここで市の言う「地域が残るわけでもない」ということは「人口が維持できない・減少する」ということであり、「①人口減少」での発言に見たように、市は人口推計を不変の事実として話を進めている、つまり計算によって導かれた「数」だけで再編を考えているということがわかります。
また山野学区では、2021年8月に学校再編が「決定」されますが、それ以前から学校再編後の地域づくりについての具体的な話が市教委からされていることが(C)の発言からわかります。特に、2020年9月1日の「企画政策課と北部地域振興課との話合い」では、「教育環境をなくして地域活性化プランは持っていない(F)」とし、「学校再編後には教育環境の場づくりを考える」という姿勢が読み取れます。このように、まだ再編を決定していないにもかかわらず学校再編後の地域づくりの話を進めている市の言動からは、内海内浦学区では反対があっても学校再編を達成した、そのため山野でも同じやり方で学校再編を達成できるという考えが露呈しているといえます。
そして、山野学区でも2021年8月に学校再編が「決定」された後に市教委の姿勢が一転していることがわかります。これまで市教委は、山野学区に対し教育環境を残さないという強硬な態度を示していましたが、2021年10月28日の説明会では「これからは山野に教育機能の場を考える(H)」「住民が教育機能を強く求めていることもわかっている(J)」という発言がありました。このことから、内海内浦学区と同様、学校再編が決定したことを機にこれからは住民の意見を聞くように市教委の姿勢が変化したことがわかります。そして、学校再編が「決定」された後に市教委の態度が一転するということからは、市教委が学校再編さえ決定できれば、後はなんでも良いという姿勢であることがうかがえます。ここで注意したいのは、この時点で市教委は住民の意見に対する具体的な施策は何も考えていないということです。つまり、学校再編が「決定」されたから住民の意見を肯定的に聞くようになっただけで、実施するかはまた別の話だとしているのです。
さらには、「学校再編を進めるために、学校と地域は別として考えた、学校と地域は関係がないとは全く思っていない(I)」という発言もありました。この発言によって、これまで市教委が説明していた「学校と地域は別問題」という考えが、ただ単に学校再編を進めるためだけの論理であったということが明確になります。このように学校再編を進めるために、学校と地域の関係の有無を都合よく使い分けているという市教委の対応からは、市教委が学校と地域に関係は「あってもなくてもどちらでもよい」と捉えていることがわかり、たとえ学校再編が「決定」された後で「学校と地域が密接に関係している」と市教委が主張しても、本当に両者の関係を考えているとはいえません。
◆行政の論理 ③教育理念
次に行政側の資料から「③教育理念」に関する発言を抽出し、論理を整理します。
(A)の「子どもたちがたくましく生きていける力を育成する」という教育理念は、第Ⅰ段階から挙げられているものです。そして第Ⅳ段階では、この「たくましく生きる力」というものが「集団における競争やぶつかり合い」によって培われると説明されました。また、第Ⅳ段階で特に主張されていた「競争」「ぶつかり合い」などという教育理念は、第Ⅵ段階でも挙げられています。しかし、「時にはぶつかり、我慢したりしながら、自分を鍛えていくこと(F)」や「互いに意見を戦わせながら(I)」など、第Ⅳ段階に比べて「競争する」ということが一段と強い言葉で述べられています。
(F,H)で挙げられている「思いやりや優しさ、助け合いの心」「ローズマインド」「21世紀型スキル&倫理観」ということは、第Ⅲ段階で主に挙げられていた教育理念でした。この教育理念は、第Ⅳ・Ⅴ段階では挙げられず、第Ⅵ段階で再び市教委から発言されています。
さらに(G)より、新たに「想像力、チャレンジ精神、判断力、表現力」ということも併記されていることがわかります。そしてここでは、「21世紀型スキル&倫理観」という言葉が、「ローズマインド」に代わる福山市の教育理念として挙げられました。この「21世紀型スキル」という言葉は、いかにも福山市独自のものであるという説明がされていますが、この言葉はATC21s(Assessment and Teaching of 21st Century Skills=21世紀型スキル効果測定プロジェクト)という国際団体が提唱したもので、2011年に文科省が公表した「教育の情報化ビジョン」で使われていた言葉です。つまりこれまでと同様に、福山市は自分の言葉ではなく他の言葉を流用して学校再編について説明しており、結局福山市が目指す教育理念には中身がないと推察できます。
(B)の「子どもたちがより良い未来を描き、社会を築いていこうとする力」や(J)の「自分で未来を作る、自分で社会を作る」力の育成は、第Ⅵ段階で新たに挙げられた教育理念でした。(B)は内海沼隈学区で、(J)は山野学区で発言された教育理念ですが、どちらも学校再編が決定した後に新しく市教委から説明された教育理念であることが共通しています。また、この理念はこれまで挙げられていたものに比べ、より壮大で抽象的な理念であるともいえます。このように学校再編後にこのような新しい教育理念を挙げていることからは、市教委の学校再編を決定させた後の余裕さえも感じさせるものです。
(C,D,E)は、千年学区に新設される小中一貫校での「目指す学校像(C)」「目指す子ども像(D)」、そして新しい学校づくりに向けた説明会で説明された「学校再編の目的(E)」です。(C)で挙げられている「知・徳・体のバランスを良く身に付け」という箇所は、第Ⅱ段階で挙げられていた教育理念です。また(D)の「知識や経験をつなげながら考え、新たな学びを展開する力を持った子ども」という理念や、(E)の「変化の激しい社会をたくましく生きる力」は、第Ⅰ段階から挙げられています。いずれも学校再編計画の策定当初に市教委によって挙げられていた教育理念であり、第Ⅲ段階から第Ⅴ段階で挙げられていたほかの教育理念は新しい学校における学校像や子ども像では挙げられていません。このことから、市教委は学校再編を達成させるためだけに様々な教育理念を挙げてきたということがわかります。そしてここからも、学校再編が決定したことで住民を説得させる必要がなくなったために、計画策定当初に挙げられていた教育理念を、再び新しい学校で目指される学校像や子ども像として掲げたということが考えられます。
ただし、 (D)の「目指す子ども像」で併せて挙げられている「多様な文化を認めあい、人との関係を尊重できる子ども」「命と健康を大切にする心を持ち、粘り強くやり抜く子ども」は、後から追加された理念です。さらに、(C)の「様々な人々と協働して地域・国・世界の発展を担う人づくり」という理念はこれまで挙げられたものではなく、第Ⅵ段階で初めて挙げられたものです。このような点を考えるに、福山市は一貫した教育理念がなく、そもそも教育理念について真面目に考えていないのではないかと推察できます。
このように、第Ⅵ段階では「適正化計画(第1要件)」が策定してからこれまで市教委が述べてきた様々な教育理念が挙げられ、さらにこれまで一度も挙げられていない新たな教育理念までも説明されていることがわかりました。しかも、これらの教育理念は文科省の言葉をそのまま流用したものであることや、抽象的で具体的な説明がないものが多く、福山市の一貫した教育理念はありません。つまり、学校再編を成し遂げるためだけに、その時の状況に合わせて都合のよい様々な教育理念を挙げているのではないかと推察できます。このことは、最終的に新しく開校する学校の「目指すべき学校像」や「目指すべきこども像」で挙げられている理念とそうでない理念があるということからもいうことができます。
ただし、第Ⅵ段階で挙げられたこれらの教育理念には共通していることがあります。それは、どの理念を取り上げても実現するためには「一定の集団規模が必要」だということです。つまり、「教育理念は数によって成し遂げられる」という考え方がここで明確に示されていることがわかります。このような市の考えは、「④学校再編の理由」の分析によってはっきりと示されています。
◆行政の論理 ④学校再編の理由
次に行政側の資料から「④学校再編の理由」に関する発言を抽出し、論理を整理します。
第Ⅵ段階では、山野学区でも学校再編が「決定」されます。このように学校再編がすべて「決定」されていく段階において、学校再編の理由がどのように説明されているかを確認していきます。
(A)では、学校再編の理由を「変化の激しい社会を生きる子どもたちに、主体的・対話的で深い学びを通じて必要な力を育む」ためだとし、これまでと同様に学習指導要領の言葉を使って説明しています。そして、そのような力は「より多くの友だちとの関わりや経験を通して、多様性を認め、理解し、尊重し合うことのできる教育環境」「自分の可能性や能力に気づき、伸ばしていくことのできる教育環境」の中で培われるとし、そのような環境を整備するためには「一定の集団規模が必要」という論理によって学校再編の必要性を述べました。さらに、学習指導要領で「子ども同士の話合いや探究・問題解決的な学びを保障していくこと」が求められているとし、そのような学習を保障するにも集団が必要であるとも説明しています。ここで学校再編の理由として挙げられている文言は福山市オリジナルのものではなく、すべて外部の言葉にすがるものだといえますが、市教委はこれらの教育環境を「『福山100NEN教育』の学びを支えるもの(B)」だとすることによって強引に福山市の学校再編の理由にこじつけていることがわかります。
このような「学習環境の整備」については、「子どもたちが一緒に生活しながら、自分の力をしっかり伸ばしていける環境(E)」、「多様な子どもたちがいる環境の中で、自分の意見をしっかり持ちながら相手を認め、一緒に協力しながら課題を解決していく環境(J)」「切磋琢磨しながら学びを深めていく環境(K)」などとしています。とりわけ、第Ⅵ段階では「友達・仲間」といった言葉が多用されています(A,D,F,I,J)。また、市は「多様性を認めあうことのできる教育環境」の整備を進めている反面、他方では「友達・仲間」に限定していることから、第Ⅴ段階以前と同様に教室の中だけの「多様性」を担保しようとする市の姿勢がわかります。
いずれにせよ、第Ⅵ段階で挙げられたどの教育環境を整備するにしても、市は「一定の集団規模が必要」だとしています。むしろ、第Ⅴ段階と同様に教育内容は後回しであり、あくまで「数」だけが理由で再編を進めています。このことが顕著に表れているのが、(C)の市教委の発言です。これまで市は「子どもたちのために教育環境を整備する必要がある」という説明を重ねて行ってきました。そして、第Ⅵ段階でもそのような説明が多くなされています。しかし、(C)では「適正規模に満たなければ、再編する。再編することが子どもたちのためになるとは思っていない。」という市教委の発言がみられます。つまり、学校再編は子どもたちのためだとは思っていないが、数が足りていないので再編するという姿勢です。市は、これまで様々な学校再編の理由を挙げていましたが、結局は「数」が足りていないということだけであることがわかります。
◆行政の論理 ⑤行政の役割
本節では、⑴内海・沼隈学区の学校再編、⑵山野・広瀬学区の学校再編、⑶新型コロナウイルス感染拡大への対応、⑷学校長寿命化計画、⑸市長の選挙公約の変更、⑹教育長のパワハラ問題の6つに分けて分析していきます。
⑴内海・沼隈学区の学校再編
内海・沼隈学区では、第Ⅴ段階の2020年2月27日の「内海説明会」で強引に学校再編が「決定」されました。その後、第Ⅵ段階では「千年学区」「内浦学区」「内海学区」それぞれで「新しい学校づくりに向けた説明会」が実施されます。その際、市教委は(A)のように改めて7小中学校の学校再編及び、小中一貫教育校の開校を公言しました。
そもそも、市教委は2017年3月の「(仮称)千年小中一貫教育校の整備計画」の中で、「小中一貫教育をより効果的に推進するため」に学校再編を行い、小中一貫教育校を設置するという説明をしていました。そのため、小中一貫教育校を開校するにあたっては、小中一貫教育について優先して協議されるべきだといえます。しかし、開校準備委員会では校名や校歌、校章などといった学校の形式的な部分を協議するとし、小中一貫の教育については協議の内容には含まれていません。このことから、市教委が教育内容よりも新しい学校の形式を優先させているといえます。つまり、「小中一貫教育の効果的な推進」という理由は、学校再編を成し遂げるためだけの理由になっているのであり、学校再編によって行おうとしていた教育の内容などは重要ではないとする市の姿勢が表れています。また、このように内海・沼隈学区の学校再編や新しい学校づくりを早く進めることによって、山野学区などの学校再編がまだ決まっていない地域の再編を推進しやすくしたのではないかとも考えられます。
⑵山野・広瀬学区の学校再編
第Ⅴ段階と同様に、「特認校」は「集団になじめない子の教育環境の確保(E)」のために整備するとされており、かつ全市的な取り組みであるということが強調されています。他方で、2020年に7月8日の山野住民からの「特認校」は山野ではなく広瀬に開校するのかという問いに対しては、「①校区から通っている児童がいて、生徒数が増えていること」、「②広瀬学区には児童養護施設があること」の2点を挙げて説明しています。
しかし、「①校区外から通っている児童がいる」ということは山野も同じ状況です。そして「②児童養護施設がある」ということについても、この児童養護施設は市立ではなく私立であり、市が連携をとる必要があるという説明では不十分だといえます。また児童養護施設に在園する子どもが抱える問題と、 「不登校」の問題は必ずしもイコールで結びつくとはいえないため、児童養護施設のみを「特認校」開校の根拠とするのは不十分だと考えられます。そして、そもそもこの児童養護施設があるために学校を残すことが必要であるならば、2015年に策定された「適正化計画(第1要件)」の中で、広瀬小学校・中学校は再編対象校として名前が上がらないはずです。このように、山野学区にも広瀬学区と同様に、以前「不登校」に該当していた子どもが通っているにもかかわらず、市教委は山野学区ではなく広瀬学区に「特認校」を開校することを決めました。そして、山野学区ではなく広瀬学区に「特認校」を設立する理由は明らかにされないままでした。
さらに(B)のように、市教委は山野住民に「特認校」の説明をしていますが、この説明がされた時にはすでに2019年2月13日の教育委員会会議で「特認校」の開校が決定されていました。他方、「特認校」が設置される広瀬学区では、2019年2月13日以前ですでに説明会が2度ほど実施されていることが、同教育委員会会議の議事録でわかっています。つまり、市教委は山野学区には説明をせずに広瀬学区における「特認校」の開校を決定したことが明らかになりました。
「特認校」の開校準備を進めていく中で、特認校準備委員会によって「特認校」に通う対象児童が定められています。その定められた対象児童の中には、「特認校の教育環境を希望する」生徒が含まれています。そして、ここでは「特認校の教育環境」は「一人ひとりに応じた学びや体験学習」とされました。しかし、この「一人ひとりに応じた学びや体験学習」は、これまでも小規模校で行われています。つまり、「特認校の教育環境を希望する生徒」とは「小規模校での教育を希望する生徒」であるといえ、このことから、広瀬学区に設置される「特認校」の実態は、「小規模特認校」であると考えられます。つまり、広瀬学区は「小規模特認校」という形で学校が残ったといえるでしょう。
一方、山野に小規模特認校を作らない理由として、市教委は「一定規模の集団を確保するために学校再編を行っているため、小規模特認校は考えない(C)」と回答しました。つまり、福山市では小規模特認校を作らないということです。しかし、先述の通り広瀬の「特認校」の実態は小規模特認校であるといえます。つまり、市教委は、山野学区では「福山市で小規模特認校は考えない」と説明しているのにもかかわらず、広瀬学区に小規模特認校を新たに設置して学校を残すことにしたということになります。このことから、市教委の「広瀬には学校を残すが、山野には学校を残さない」という意思が明確であり、明らかに市は地域を選別したうえで末端切りを行っているといえます。つまり、学校再編に反対した山野学区には、学校を残さないという考えであるということです。
このような「山野に学校は残さない」という考えは、(F)の「山野に学校を作る、残すとかいうことではない」という教育長の言葉からもわかります。この発言からは、「学校を残す、残さないということは過去の話だ」という市の姿勢が表れています。また、市は「町づくりとして、何を作っていくか、町づくりのために何をしていくかということは考える(F)」としており、「市教委の行う学校再編に賛同するならば、まちづくりを考える」という行政の立場を利用した高圧的な姿勢が読み取れます。しかし、この段階ではまだ山野で学校再編は決定されていません。それでも市がこのような断定した言い方をするようになったのは、内海・沼隈学区での学校再編が「決定」できたために、山野学区でも学校再編を決行することができると確信したからなのではないかと考えられます。
山野学区でも学校再編を達成できると確信したとする市の姿勢は、(G)の教育長の発言からもわかります。これまでの学校再編についての話し合いの中で、「学校再編はさらなる人口減少を引き起こす」という話題は何度も挙げられてきましたが、その都度、市側は「学校と地域は別問題である」として学校再編が人口減少や学校再編に与える影響を度外視してきました。しかし、第Ⅵ段階になって急に教育長が「これまで子どもが少なくなってきたのは、教育行政が反省するところ(G)」だと発言しています。つまり、「②学校と地域の関係」の分析でも明らかになった通り、学校再編が「決定」できると確信した段階で、急に「学校と地域の関係」や「学校教育が地域存続に関係している」ということを肯定しています。このように市の考えがこれまでと一転したのは、やはり市行政の中で山野学区の学校再編が確定したという意識があり、地域や住民に対して真に向き合う必要がなくなったと考えているからなのではないでしょうか。
そして、「人口減少の進行は、教育行政が反省するところ」といいながら、それでもさらなる人口減少を引き起こす学校再編を断行するということからは、市教委が山野地域の過疎化が進行することについて何も考えていない、さらには地域の衰退は教育には何も影響を及ぼさないので、地域がなくなっても構わないとする市教委の態度が明らかに示されています。
以上のように、市は強引なやり方で山野学区を追い詰め学校再編を押し進めていきました。そして、この学校再編に対して、市長は「次代を担う子どもたちを育てることは、今を生きる我々大人の責任(D)」だとして再編を正当化しています。この発言は、市の施策に反対する人々は、責任を果たしていないという意味にも取れます。しかし、山野・広瀬学区の学校再編について言えば、市が小規模校に通う生徒が集団になじむことが難しい児童であるという実態を把握したのは再編計画を策定した後であり、「特認校」の設置も後出しでした。それに対して、住民はずっと地域の学校教育に積極的に参加し協力しています。これまでの経緯から、どのように考えても市の方が責任を果たしていないといえますが、市長はその立場を利用し「責任」という言葉を用いて住民の問いに対して回答することによって学校再編を強引に進めていきました。
さらに問題なのは、2020年12月11日の市と住民との話し合いによって、市が山野小学校の耐震性がないことがわかっていたにもかかわらず、「学校再編の対象校であるため耐震化は行わない(H)」という市の考えによって耐震化をしてこなかったということが明らかにされたことです。この耐震化の対応からも、再編が「決定」していないのにもかかわらず、市が「学校再編は実施したもの」として勝手にその先の事業に着手していることがわかります。また、小学校に耐震化がないということ自体を保護者や地域に一切説明していなかったということは、明らかに市が職務を怠っているといえますが、むしろ人口が少ない地域は消滅するものだからインフラを切っても構わないという市の姿勢が露呈しているといえます。
このように、まだ山野学区で学校再編が決定されていない段階にもかかわらず、市は学校再編が実施されたものとして様々なやり方で強引に山野学区を追い詰め、最終的には市のやり方を押し通す形で2021年に山野学区の学校再編は「決定」されました(I)。
⑶新型コロナウイルス感染拡大への対応
第Ⅵ段階では「新型コロナウイルス拡大防止」という新たな視点が生じました。コロナ対策に関して、住民から「感染防止の視点においても、学校再編による大規模学級の編成は避けるべきなのではないか」という意見が出されましたが、市教委はそれに対し「文科省の新しい生活様式マニュアルに沿ってコロナの感染防止に努めるが、学校再編は違う問題であるため別で進める(J)」と回答しました。むしろ、コロナによって住民が話し合いをすることのできない状況を利用して再編を進めたともいえます。このような回答から、たとえどんな状況があっても、学校再編は決定したから成し遂げられるものだとする市の前提が露呈しているといえます。
⑷学校長寿命化計画
2020年3月に、市教委は新たな施策として「学校長寿命化計画」を策定しました。この計画は市内小中学校の学校施設の老朽化に伴い、中長期的な建て替え・改修のトータルコストの縮減を図るために策定されたものです。しかし、この計画の中には、なぜか学校再編の実施状況が記載されています。具体的には、再編後の新しい学校の開校予定年月と再編対象校が挙げられました。
なぜ、学校再編の実施状況が計画の中に書かれているのでしょうか。それは、7か月後の2020年10月に山野学区で行われた「小学校校舎耐震化の問題についての話し合い」において、明らかになります。つまり、「学校長寿命化計画」に再編計画や開校予定時期が記載されたのは、市全体のトータルコストの縮減のために再編で閉校になる学校は建て替え・改修をしないという趣旨だったのです。ここでの問題は、住民の合意を得ていない学校再編を既定事項として、別の計画の立案を進めていることだといえます。
また、学校再編と並行してこのようなコスト削減を目的とする計画が出されていることから、第Ⅲ段階以降見られるようになった、福山市の公共施設・コスト削減の方針を進める上で学校を1つのターゲットとして考えていることが確認されました。
⑸市長の選挙公約の変更
2020年8月2日に福山市長選が行われ、現職の枝廣氏が無投票再選を果たします。この市長選に向けて作られた選挙公約は、実は当初作られたものを途中で変更していました。まずはその変更について確認します。
枝廣氏は、選挙公約の1つとして「5つの挑戦~変化を確かなものへ~」を掲げています。その中の「挑戦4 未来を創造する人材の育成」では、当初「義務教育学校・イエナプラン教育校・小規模特認校の開校」ということが掲げられました。この「小規模特認校の開校」が公約として掲げられたのをみて、特に再編対象学区の住民は驚きとともにそれに期待したといいます。なぜなら、内海学区や山野学区の住民は、これまで繰り返し小規模特認校の開校を市に要望してきたものの、市は「小規模特認校は考えない」という姿勢を示し続けてきたからです。この公約の発表後、住民は市長の公約を踏まえて改めて市教委に小規模特認校の設置を要求しました。2020年7月30日の「『新しい学校づくりにむけた説明会』内海学区」では、次のような市教委と住民とのやり取りが行われてます。
市長の公約として掲げられた小規模特認校の開校について、住民から問われた市教委は、「広瀬学園は小規模特認校ではないが、公約ではその学校のことを指しているのではないかと思う」と回答しました。しかし、市長の公約には「小規模特認校」という言葉が書かれていることに加え、これまで市教委は、広瀬学区の「特認校」は小規模特認校ではないと住民に説明をしていることから、この公約を読んだ住民はだれしも「特認校」とは別に、市が「小規模特認校」を認めたと理解するでしょう。
ところが、このように住民が市教委に小規模特認校の設置について問われる最中、市長の選挙公約は、「挑戦4 未来を創造する人材の育成・義務教育学校・イエナプラン教育校・特認校の開校」と変更され、「小規模特認校」が「特認校」に書き換えられています。つまり、市教委が2020年7月30日に公約の「小規模特認校」は「特認校」のことではないかと発言したことが、変更によって「特認校」だと公言されたということです。さらに、変更に関して市長から説明されることはありませんでした。つまり、市民への説明なく市長が勝手に変更したのです。この点、市長は市民を軽視している姿勢がみられます。
さらに、この公約の変更は地域住民が市教委に小規模特認校についての問いかけをした後に行われていることから、公約の変更過程には市教委が絡んでいることが推察できます。つまり、市教委が「特認校」という表記に変えるよう示唆したのではないかということです。このことは、市長が学校再編に対して正確に理解していないということを示しています。つまり学校再編についてきちんと理解していないのにもかかわらず、市長は学校再編を推進しているということです。このように、市長が学校再編について理解していないという様子は、第Ⅲ段階でもみられました。つまり、市長自らが学校再編自体を目的としており、再編の過程においては子どもの教育や学校の意義を軽視しているということがいえます。
⑹教育長のパワハラ問題
2020年11月に、教育長によるパワハラ問題が報道されました。現職の校長が教育長と定期面談を行った際、教育長に強く叱責され怒号を浴びせられたという報道です。この問題からは、教育長の高圧的な人格が表れています。
ここで報道された教育長の様子は、2019年5月10日に「内海説明会」で見られた教育長の様子と重なるものがあります。この説明会の際も、教育長が住民に対して怒号を浴びせ、威圧する形で強引に学校再編を推し進めていました。つまり、教育長自身の高圧的な人格が市民を威圧したことによって、学校再編を強行することができたともいえます。
◆行政の論理 ⑥決定のあり方
最後に、行政側の資料から「⑥決定のあり方」に関する発言を抽出し、論理を整理します。
繰り返しとなりますが、内海・沼隈学区では、第Ⅴ段階の2020年2月27日に行われた説明会で学校再編が「決定」されました。ここで、住民との合意がなされていないにもかかわらず市教委が強引に学校再編を「決定」した理由として、教育長が実施した希望する保護者一人ひとりとの非公開での個別面談が挙げられています。この個別面談を実施した理由として、市教委は「話合いの場ではなく、一人ひとりの話し合いの場が欲しいという保護者からの意見があった(A)」からだとしました。市教委によると、この個別面談では保護者から「学校再編に賛同する」ということ、また「説明会の場では学校再編に賛成する意見が出しにくい」という意見が出されたということです。そして、市教委はこの個別面談の結果を踏まえ、学校再編が「保護者や地域住民の総意である(B)」と判断しました。
もちろん学校再編に賛成する人がいることや、個別面談でそのような意見が出されたことは否定できません。しかし、これまでの説明会で多くの保護者や地域住民が学校再編に対して反対の声を上げてきたことや、アンケートの結果7割以上の住民が学校再編に反対しているということも事実であり、そのことは市教委も把握しています。それでも市教委は一方的に市の主張を押し付け、個別面談で出された賛成の意見だけを取り立てて「住民の総意」としました。このような市のやり方からは、市教委に反対する人の意見はないものとするという考えが露呈しています。
そして学校再編が「決定」したことで、これまで以上に市教委の「住民に向き合う必要がない」という態度が明確になります。それは、「もう説明会は行わない(C)」という発言や「学校を残すという考えはない(F)」「『学校再編はわかった。町づくりの方で』と言われるなら、私は全面的に何とかしたいと思います(H)」という発言に表れています。また、第Ⅵ段階では「責任は市がとる(C)」という発言が見られます。このことは、学校を残す・残さないという“生殺与奪権”は市行政にあり、住民は従うのみだという市の考えを示しているといえます。
しかし、学校の設置などの事業の遂行は、行政だけで進めるということはあり得ません。住民の意見を全く聞かずに再編を強行することは、住民自治の根本を揺るがすものだといえます。このことについて、市は「基本方針」や「適正化計画」は教育委員会だけで作ったものではないと主張し、学校再編が行政だけで決定したものではないと主張しています(E)。この発言、及び「基本方針」や「適正化計画(第1要件)」の主体は誰なのかについては、後の記事で確認します。
山野学区では2021年8月に学校再編が「決定」されますが、内海・内浦学区と同様に決定される前から学校再編を前提だとする市の態度がみられます。特に第Ⅵ段階では内海・沼隈学区での学校再編が「決定」されているため、そのような態度がより一層表れています。このことは「学校を残したいという気持ちには答えられない(G)」「学校についてはない(H)」という発言から読み取ることができます。
そして、(I)では「学校再編は教育委員会の中で当然決まった」という発言もされました。これまで市教委は、説明会などで住民に対しては「行政が独断で学校再編を進めることはない」ということを主張してきました。しかし、ここで「学校再編はすでに教育委員会内で決定していることだ」市教委が明言したことから、学校再編は「適正化計画(第1要件)」策定時から、すでに住民との合意関係なく「決定」されているものだったのではないかということが推察できます。そして、学校再編が「既定」だったということを第Ⅵ段階で明言したのは、やはり内海・沼隈学区のやり方で山野学区でも再編が達成できると市教委が確信したからではないでしょうか。繰り返しになりますが、もちろんこの時点ではまだ山野学区での学校再編は「決定」されていません。2021年1月14日の「市政懇談会」においては、市教委は「地域住民に説明できていないなら説明させてほしい(J)」という発言をしました。この発言にも、「説明はするが、学校再編について考え直すことはない」という市の態度が表れています。
このように市教委は「学校再編は決まったもの」という前提で、学校再編を無理やり押し進めました。そして「⑤行政の役割」でも見られたように、地域住民を強硬に丸め込む形で2021年8月に学校再編が「決定」されました。
最後に、内海・内浦学区の学校再編が正式に市議会で決定された際の議事録を確認します。内海・内浦学区の学校再編、及び想青学園の開校は、2021年6月24日の「福山市議会定例会 本会議」において、福山市学校設置条例の一部改正が賛成多数で可決されたことにより決定されました。
なお、山野学区については、広瀬学園(=特認校)の開校が2021年9月28日の「福山市議会定例会 本会議」で決定されたものの、現段階では山野・広瀬・加茂学区の学校再編に伴う福山市学校設置条例の改正は決定されていません。しかし、市教委は山野学区の学校再編を「決定」したとして政策を進めており、内海・内浦学区と同様、今後市議会による条例の改正がなされ学校再編が決定されることが考えられます。
以上のように、学校再編を最終的に正式に決定する権限を持った市議会では、共産党による反対意見が見られたものの、賛成多数で条例改正案が可決されました。これにより正式に内海・内浦学区、沼隈学区の学校再編、そして想青学園の開校が決定されました。
◆住民の論理 ①人口減少
ここからは、住民側の資料から各観点における住民の論理を確認します。まずは、「①人口減少」に関わる発言を抽出していきます。
住民からは、「学校をなくしたら、若者が住めない。そしたら、人が増えない。地域活性化できない。(a)」という意見が出されています。このような、学校再編はさらなる人口減少、少子化を引き起こすという論理は、「適正化計画(第1要件)」の策定時から一貫して主張されています。
◆住民の論理 ②学校と地域の関係
次に、「②学校と地域の関係」に関わる発言を時系列で 抽出し、住民の論理を確認します。
「①人口減少」と同様、「学校と地域は一体だ」という論理が「②学校と地域の関係」でもみられます。そのため、「学校がなかったら町づくりはできない(c)」、「周辺部は学校と町づくりを切り離しては考えられない(d)」と主張されました。また、学校は地域にとって重要な役割を果たしているという意見も出されています。それは「小さい学校は宝(b)」という言葉に示されています。つまり、学校は「地域のためにも非常に大事な財産(a)」であり、それらを切り離して考えることは不可能だと主張しています。
◆住民の論理 ③教育理念
次に、「③教育理念」に関する発言を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。
住民は「一人一人の子どもを人間として育てる教育内容が大切だ(d)」として小規模校の教育が子どもたちに必要なものだということを訴えました。また、郷土愛は「地元の教育環境の中で育って生まれてくるもの(a)」だという意見からも小規模校の役割が主張されています。このように小規模校は子どもたちのための役割を果たしているとともに、「地域の協力なくして学校というものはあり得ないと思う(b)」として、学校にとって地域は必要だとし小規模校を残すべきだと主張しました。また、「子どもの数がいればいいということは言えない、自然の環境や色んな環境がある(c)」という発言によっても小規模校の必要性を訴えています。
◆住民の論理 ④学校再編の理由
次に、「④学校再編の理由」に関する発言を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。
「④学校再編の理由」の分析では、小規模校では「ちゃんとした教育はできない、進められないっていうのを全く理解できない(a)」「統廃合しないと、そういう子どもは育たないのか?(e)」という住民の発言からわかるように、行政の説明する再編の理由を受け入れることができない様子が示されました。
また、行政が教育以外の理由を学校再編の理由として挙げることに対しては、これまでと同様に疑問視する様子もみられます。それは「自分たちの予算の都合で学校を造ろうとしていることに一番腹が立つ(c)」という意見や、「耐震化とか再編とかは同じ話なんですか?(d)」という意見に示されています。この点、学校再編を実施する際には子どもたちのためなのかという当たり前のことを考えなければならないとする住民の考えが示されています。さらに、「鞆の浦学園は、小規模校なのに、義務教育学校でした(a)」と主張し、どうして地域ごとに差があるのか、そこにどういう基準があるのかということを疑問視する声も挙げられました。
◆住民の論理 ⑤行政の役割
次に、「⑤行政の役割」に関する記述を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。
これまで見てきたように、住民は小規模校の利点を主張したうえで、「⑤行政の役割」では、「小規模学校にも教職員と児童生徒の人間的ふれあいや教育的な利点があるから無理な統廃合は行うべきではない(e)」として学校を残すことが行政の役割だとしました。
内海内浦学区では、(f)(g)のように内海に少なくとも1校を残すべきだという意見が出され、山野学区では「小規模特認校にしてほしい(h)」という意見によってその論理が示されています。また、学校と地域を切り離して考えようとする行政に対しては、住民の地域おこしの取り組みを「応援し励ますのが福山市としての姿勢ではないか(b)」との意見や実際に小中学校に行き、そこで子どもたちがどれだけ成長しているかを見るべきだ(c)という主張がされました。
さらに第Ⅵ段階ではコロナ禍に対する行政の対応について非難する声もみられます。具体的には、コロナ対策と学校再編は別問題としてとらえる行政に対して、学校再編は「今、真逆の政策ではないか(a)」という意見が出されました。また、山野学区では「学校再編の対象になっている学校は耐震化しない」という行政の姿勢に対し、「小学校校舎の耐震工事もされないまま、危険な状態で子どもたちが学校生活を送っていることは、地元の住民からすれば、行政の怠慢としか思わざるを得ません(d)」として非難しています。
この明らかにインフラ切りといえる施策を進める行政に対し、「教育行政は学校を守るのが基本だ、小さい学校でも育てていく姿勢でいてもらいたい(j)」とも反論しました。もっとも、行政は学校再編を行うことによって子どもたちの「多様性を認め合う力」を培おうとしますが、教育環境については「一定の集団規模を確保する」という画一的な環境を無理やり揃えようとしています。この行政の再編の進め方に対して「子供たちの多様性を認めながら、一定の学校規模しか認めないのはなぜなのか(i)」という疑問が出されました。
◆住民の論理 ⑥決定のあり方
最後に「⑥決定のあり方」に関する記述を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。
内海・内浦学区では、2月27日の説明会で保護者と教育長との「個人面談」を経て学校再編の「決定」されたことに対し、「どうしても統廃合をやりぬくという教育委員会の露骨な懐柔行動、説得工作・突破へのアリバイつくりと言われても仕方のない、『保護者個人面談』は妥当なものと言えない(a)」と非難の声が上がっています。
また、この個別面談を経て学校再編の実施が総意だとする市教委の判断に対しては、一部の保護者からの学校再編に賛成の声を聞いただけで、「『総意』であるはずがなく、どう見ても統廃合は反対、学校を残すという意見は多数であることも動かしがたい事実(b)」「どこに内海町の保護者住民の総意があるかという見極めが、教育委員会の方で十分に出来ていない(e)」としました。そして、「内海の多数の意見のところを無視するというか、それを強行するっていうのは、絶対に到底、認められるものではない(c)」、「これで打ち切って前へ進めるというのは乱暴すぎる(d)」と強く非難しました。
この点、住民が実施しているアンケートの結果や署名の数から学校再編に反対している住民の方が多いというのは明確であり、総意ではないという住民の主張は妥当なものだといえます。それにもかかわらず、賛成の声だけを声高に主張し学校再編を強行する市教委の方法は、行政の決定プロセスとして到底認められるものではありません。
山野学区では、計画の策定当時に「住民の合意がなければ再編は進めない」と市教委が説明したことを改めて確認し 、この学校再編は地域として合意できないということを主張しました。その際、行政が住民との合意形成を図ることなく学校再編に踏み切ることは「権力の横暴(g)」だとして強く非難しています。しかし、行政は「最終的には行政が決定する」として住民との協議を避けてきました。この行政の姿勢に対し、住民は「話し合いをする意味があるのか?(h)」「行政ははじめから結論ありきだ。市教委の押し付けにしかとれない(i)」「決まっているから、やるというのではなく、それ以前に話し合いがないのはなぜか?(j)」と反論しています。
最終的に、山野学区は他学区の学校再編の「決定」や耐震化問題をはじめとする行政のインフラ切り、広瀬学区にのみ認められた「特認校」の設置などによって学校を残すということを主張することが難しくなり、行政に追い詰められる形で学校再編を受け入れ、山野学区の学校再編も「決定」されました。
◆行政と住民の論理のずれ
ここで、本段階で生じた行政の論理と住民の論理の齟齬を確認します。今回は、大きく「地域」「教育」「行政」の3つに分けて整理していきます。
⑴「地域」に関する齟齬
はじめに、「地域」についての行政と住民の考えの相違を「①人口減少」と「②学校と地域の関係」の分析を整理することによって確認します。「①人口減少」の分析では、行政は2015年当時の人口推計だけで判断して、今後は人が増えることはないと決めつけたことで、強引に学校再編を進めていることがわかりました。つまり、住民がいくら地域の人口を増やそうとする努力を行っていたとしても、あくまで「適正化計画(第1要件)」を策定した当時の推計値だけで判断し、その推計で人口減少が想定されているのであれば、地域衰退は「決まっている」としたということです。
しかし、内海・内浦学区では、住民の取り組みによって実際に児童生徒数が増えています 。現に、2021年の内海小学校の生徒数は「適正化計画(第1要件)」の基準に当てはまらず、学校再編をする必要はありません。それでも、行政はそのような住民の取り組みやその結果に対しては目もくれず、「学校再編は決定している」という一点張りで再編を強引に進めました。このような行政のやり方からは、人口の減る地域には学校、及びインフラの整備は必要ないという考えのもと、学校再編の推進を妨げるものは無視するという行政の姿勢が明確に示されています。
一方、住民は「適正化計画(第1要件)」の策定時から一貫して学校再編を行えば人口減少がさらに進んでいくという主張をしています。また後述の「⑤行政の役割」の中では、「行政は住民の移住対策の取り組みを支援すべきだ」という意見も出されていることから、行政はとにかく学校再編を実施することで人口の少ない地域から学校をなくすということに執着しており、その再編を妨げるような地域の取り組み、さらに学校再編に反対する地域の存在は軽視していることがわかります。それに対し、住民は地域存続に向けて人口を増やすためには学校が不可欠だとし、学校再編は地域の人口減少をさらに促進させるとして地域に学校を残すよう強調しました。
学校再編が「決定」されると行政の態度は一転し、地域の人口を増やそうとする地域住民の移住対策を肯定し、さらに支援するという態度を示していることがわかりました。この行政の態度からは、学校再編を説得する必要がなくなり、住民に向き合わなくて良いという姿勢、そして学校再編を実施さえできればあとはどうでも良いという姿勢が読み取れます。
「②学校と地域の関係」の分析からは、行政のなくなる地域に学校を残しても仕方がないという態度が明らかに表れています。そしてここでも、学校再編の推進を妨げる学校と地域の関係を意図的に排除 して話を進めていることがわかります。ところが学校再編が「決定」されて以降、行政は学校と地域は関係があると発言し、そして新しい学校に協力するよう住民に呼びかけました。この態度の一転も、学校再編を実施さえできればよいという考えから派生しているものだと考えられます。
一方、住民はこれまでと同じく「学校と地域は密接だ」という前提のもと、地域存続には学校が不可欠だということを主張しています。さらに、学校にとっても地域は切り離せないものだということも主張しました。以上より、行政は学校再編を決行するために学校と地域を切り離して考えるとしている一方、住民は、地域にとって学校が切り離せないものだけでなく、学校にとっても地域は切り離せないものであるとして、学校と地域を別問題として考えることはできないと主張していることがわかりました。
⑵「教育」に関する齟齬
次に、「教育」に関する行政と住民の考えの相違について「③教育理念」と「④学校再編の理由」での発言を整理して確認します。「③教育理念」の分析では、行政はこれまで挙げてきた教育理念を第Ⅵ段階において再び取り上げていることがわかりました。しかし、それらすべての理念は「一定の集団規模」を確保することによって成し遂げられるものという点で共通しているものでした。
また「④学校再編の理由」では、子どもたちの教育環境の整備のためということが繰り返し主張されましたが、その教育環境にも「数」が不可欠だとしています。つまり、行政の考える教育には「数」が不可欠であり、「数」がなければ教育は成立しないとする論理であることがわかりました。そしてついには、「教育的に良いかは別として、適正規模に満たない場合は再編する」という発言までしています。結局は、この学校再編は子どもたちのためでなく、ただ子どもの数が少ないという理由だけで進められていることが露呈しました。
それに対して住民は、「一人ひとりの子どもを人間として育てる教育」が大切だと主張しました。このような教育は、地域による教育によって成立するものです。つまり、住民は「地域のこどもは地域で育てる」という前提のもと、市の子どもではなく「地域の子ども」として地域が教育を行っているのであり、これからも地域単位で教育を行うべきだという論理であることがわかります。また、「④学校再編の理由」に関しては、行政の説明に対して「良い教育環境は、数を揃えるだけで整備できるものではない」と反論し、「数」の理由一辺倒で学校再編を決行する行政を非難しました。
このように、行政は、教育には「一定の集団規模」が不可欠だという前提で、数が足りなければ良い教育ができないため学校再編をするとし再編を決行しました。一方、住民は「一人ひとりの子ども」を育てることが教育の本来の役割だとし、教育には「一定の集団規模」が不可欠だとする行政の考えに反論しました。学校再編が「決定」された今もなお、「一人ひとりを育てる教育をすでに行っている地域の学校を残すべきだ」と主張を続けています。
⑶「行政」に関する齟齬
最後に、「行政」に関する行政と住民の考えの相違について「⑤行政の役割」と「⑥決定のあり方」の発言を整理して確認します。「⑤行政の役割」の分析からは、行政はどのような条件があったとしても学校再編を断行することが行政のやるべきことだとして無理やり学校再編を推し進めたことがわかりました。このような行政の姿勢は、新型コロナウイルスの感染拡大についての行政の態度から明らかに読み取れます。つまり、学校再編は最初から決められていることであり、遂行しなければならないという論理によって、このような強硬な学校再編が行われたと推察できます。また、学校再編を推進する過程では、「人口の少ない地域にインフラを残しても仕方がない」とする行政の考えもみられました。この考えは、山野学区における「耐震化」の問題によって明らかに露呈されています。
それに対して住民は、行政の役割は学校再編を進めることではなく、地域の学校を守ることだと主張しています。そして、行政が学校再編を無理やり進めていることに対しては、教育理念として「多様性を認め合う」ことを挙げているのに、どうして教育環境の多様性を認めることができないのかと声を上げました。さらに、新型コロナウイルス感染拡大を受けてもなお「感染対策と学校再編は別の問題だ」として再編を進める行政に対し、学校再編を進めて教室内の生徒数を増やすのは行政のやるべきことに逆行しているのではないかという非難の声も上げられました。
「⑥決定のあり方」については、行政はこれまで見てきたように学校再編は絶対に実施するという考えのもと、再編を妨げるような取り組みや状況を無視しています。第Ⅵ段階では、行政に対して賛成の立場をとる地域や住民には柔和な態度をとり、反対の立場をとる地域や住民に対しては強硬な態度を示すという差別によって、住民が学校再編に反対するという状況を作りにくくしている様子が明らかになりました。さらに2020年2月27日の内海地域説明会においては、学校再編に反対する住民に対して「本当に子どものことを考えていない」「住民を追い詰めている」と非難する行政の発言もありました。そして、最終的には学校再編に反対する住民の声はないものとされ、再編の実施は住民の総意だと行政が恣意的に判断することによって、学校再編が「決定」されています。
このような決定の仕方に対して、住民からは多くの非難の声が上がりました。特に内海・内浦学区では、「再編に反対だとする住民が大半であることがアンケートや署名によって明らかであるのに、どうして反対の声を無視できるのか、そしてどうして再編が総意だと判断できるのか」という非難が殺到します。さらに教育長が個別で保護者と面談をしたということに対しては、「教育長がその立場を利用して保護者に圧力をかけたのではないか」という声も上がりました。
山野学区でも、同様に「住民との合意形成がなされていないのになぜ学校再編を前提とした話が進んでいるのか」として行政を非難し、その決定のやり方を「権力の横暴」だと主張しています。
このように、行政はどんな手段を使ってでも学校再編を実施するという姿勢のもと、最後まで住民の意見を無視し行政の一存で学校再編を推し進めました。それに対して住民は、行政の在り方としておかしい、住民自治の根幹を揺るがすものだとして非難を続けています。しかし、住民が反対の声を上げれば上げるほど行政の強硬さは増し、ついには学校再編に反対する住民との協議が回避され、行政の判断で「決定」と判断されました。実際、内海・内浦学区では住民の8割が学校再編に反対していましたが、行政はその8割の住民と向き合って話をすることを避け、行政と同じ考えの住民だけと話し合いを行ったことで住民との合意形成を図ったとしています。行政がこのようなプロセスで学校再編を進めたことにより、住民の反対の声が行政に届くことなく、行政の恣意的な判断によって学校再編は「決定」されました。それでもなお、住民は反対の声や行政を非難する声を上げ続けています。
次回は、第Ⅰ段階から第Ⅵ段階までの全体を通じた行政の論理を見ていきます。
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