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【vol.19】第Ⅵ段階 学校再編の決行(2020年2月27日~現在)

◆はじめに

 今回は、内海・内浦学区の学校再編が「決定」された2020年2月から現在までの期間を扱います。この第Ⅵ段階では、市行政によって学校再編が「決定」され、具体的に学校規模適正化が実施されていきました。

◆第Ⅵ段階の概要

 はじめに、第Ⅵ段階の概要を述べます。

 前回の第Ⅴ段階では、最後の2020年2月27日の「内海説明会」において、内海・内浦学区の学校再編が「決定」されました。第Ⅵ段階では、市教委が学校再編は「決定」されたものとして、再編後の新しい学校づくりに関する話し合いを強引に行います。また、山野学区でも2020年8月に福山市から出された「山野小学校・中学校の再編に係る対応方針について」という文書によって学校再編が「決定」されました。どちらの学区においても、第Ⅵ段階では学校再編は行政が責任をもって進めていくものであり、そこに住民は関係ないとする市の考えが貫徹されています。最終的に、市行政は学校再編に反対する保護者や地域住民の意見は無いものとすることで、強引に学校再編を行いました。

 第Ⅴ段階以前の分析では、行政の論理が「数」に偏向していることを述べてきました。「数」への偏向とは、例えば「一定の子どもの『数』が揃わなければ教育はできない」や「児童生徒の『数』が少ないので、学校再編は不可避だ」というものです。第Ⅵ段階ではその「数」が人口推計だけに依拠していることがわかります。つまり、たとえ住民による移住者呼び込みなどが地域の人口の下げ止まりを実現していたとしても、 福山市の学校再編計画はあくまで2015年当時の人口推計値を基準とし、そこで人口が減るとされているのであれば、将来地域の人口は増えないとして学校を取り上げようという市の姿勢がわかります。第Ⅵ段階を通して「人口が減る地域は消滅するものだからインフラの整備は必要ない」という市の考えが露呈します。

 また、第Ⅳ段階ではこれまで市教委が挙げてきた教育理念を再び取り上げて再編を正当化しますが、ここで行政から挙げられる教育理念はすべて「一定の集団規模」を確保することによって成し遂げられるものだということがわかります。ついには市教委から「教育的に良いがどうかは別だが、適正規模に満たないなら再編する」という発言までされました。つまり、市教委はこれまで子どもたちのためと銘打った様々な「教育理念」や「学校再編の理由」を挙げて学校再編を説得してきましたが、それらは全て表向きの発言でしかなく、結局は「子どもの数」が足りないという理由一辺倒だったということが明らかになります。

 さらに、学校再編が「決定」された後では行政の態度が一転するということも第Ⅵ段階の分析でわかります。特に、学校と地域の関係について、市教委はこれまで「学校と地域は別」ということを住民に主張し続けてきましたが、学校再編が「決定」された後は手のひらを返したように学校と地域は密接だという考えを住民に示し始めました。また、地域活性化や人口減少についても、これまで行政は「市教委ではなく別部署が行う」と主張してきましたが、第Ⅵ段階では人口減少と教育行政は関係があることを示唆する市教委の発言があります。

 このような再編が「決定」された後の市行政の態度の豹変 は、市行政が学校再編を「決定」したことによって行政が住民に向き合って説得する必要がないと考えた結果として生じたものなのではないかと考えられます。つまり、第Ⅵ段階を通じて市行政は学校再編を「決定」し、それを遂行さえできればいいという姿勢であることが推察できます。

 このように第Ⅵ段階では、行政の一方的な方法で学校再編が「決定」されていきましたが、その過程において目立った行政の姿勢は、行政に賛同する住民に対しては柔和な対応をとるが、反対する住民に対しては強硬な対応をとるということです。内海・内浦学区では、学校再編を「決定」した後に行政が住民の移住推進の取り組みを肯定する様子がみられます。ほかにも、市教委が学校再編の対象の地域住民に対して学校再編後の新しい学校で地域教育に協力してほしいというお願いをしている様子や、山野学区で「学校再編をしたら、山野に教育の場を考える」という発言もみられます。このような言動には、行政の行う事業に賛同する住民だけを教育に関わらせるという姿勢が示されており、ここに行政に対して反対する住民を排除しようとする市の姿勢がみられました。

 それだけでなく、市は、行政に反対する住民を非難する様子もみられます。それは、「学校再編に反対するものは大人の責任を果たしていない」「学校再編に反対する人は、本当に子どものことを考えていない」「学校再編に反対する人が住民を追い詰めている」などの発言に見られます。このように市は、学校再編の推進を妨げる住民をあたかも“悪人”のように扱い、さらに「そのような住民の意見は聞く必要がない」として反対意見を無いものとすることで学校再編を断行したことが、第Ⅵ段階で明らかになります。

 このように第Ⅵ段階では、市が「数の論理」を用いることによって住民を無理やり丸め込む様子や、学校再編が「決定」されれば教育には関係のない人口減少や地域衰退などはどうでもよいという姿勢、さらには市の言うことは絶対であり、反対する住民は悪人だとする姿勢が明らかになります。このような姿勢は、「最終的に学校の設置や教育、ひいては住民の生活について決めるのは行政であり、住民ではない」という前提から派生したものであると推察できます。このように、市は住民自治を完全に無視した形で学校再編を断行しました。

◆第Ⅵ段階の資料一覧

 次の表は、本段階の分析に用いた資料の一覧です。

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◆行政の論理 ①人口減少

 はじめに行政側の資料から「①人口減少」に関する発言を抽出し、論理を整理します。

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・企画課:これ(内海の移住者取組)については、地域の持続可能性を高めていく、そういうことに地域住民の方が主体的に取り組まれている、非常に重要なよい取り組みだなというふうには考えています。・・・そういった取り組みを、われわれとしても引き続き、さまざまな市の施策でありますとか、そういったものを通じてご支援、一緒にいろんなことをしていければなというふうに思っているところです。(p.9)・・・(A)

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内海学区】(2020年7月30日)
・教育長:仮に内海に一つ学校を造るとしても、人口推計で見ても幼・小・中を合わせてもなかなか厳しい状況がある。そうしたことも含めて新たな学校を造るということへの前向きな話しをする場をスタートさせてほしい。(p15)・・・(B)

 (A)の発言からは、市行政が、内海内浦学区で行われてきた住民による移住推進の取り組みを肯定している様子が見られます。これまで見てきたように、市は学校再編を推進する過程において、すでにこの住民の移住推進の取り組みについて認知していました。しかし、学校再編が決定される以前は「学校再編問題とは別である」として住民の取り組みに目もくれない対応をしてきました。むしろ、学校再編の実施により、移住推進の取り組みを妨げてきたともいえます。ところが、学校再編が決まったことを機に、市教委は急に態度を翻して住民の取り組みを評価し、さらには一緒に協力するとまで発言しました。このような態度の変化からは、市教委が市の施策に賛成し協力する地域に対しては柔和な対応を示す反面、市の施策に反対する地域に対しては強硬な対応を示すということがわかります。

 統廃合が「決定」されて以降の(B)の発言からわかることは、市教委は「適正化計画(第1要件)」が策定された2015年段階の人口推計を確定的な事実としてとらえて学校再編を進めていたということです。つまり、人口推計で子どもの数が減少するとなっているから再編をするということであり、実数ではなく推測としての「数」のみで再編を決行しています。しかし、人口推計はあくまで予測であり、事実としてとらえるべきものではありません。特に人口減少の推計は、行政が施策を講じることによって実数値を変えていくために使われるものであるといえます。しかし、市教委はこの推計値を「前提」 とし、第Ⅴ段階で見られた「人口の少ない地域はどうしようもない」という考えを展開していることがわかりました。この点、市教委は(A)で肯定した住民による移住推進の取り組みを本当の意味では理解していないのではないかということが推察できます。

◆行政の論理 ②学校と地域の関係

 次に行政側の資料から「②学校と地域の関係」に関する発言を抽出し、論理を整理します。

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内浦学区】(2020年7月21日)
・教育長:いま言われたように、地域の方と学校運営は本当に密接に関係している。お互い協力していくことは、新しい学校になっても間違いなく同じだ。いま内海地域で、地域と子どもたちと学校が一緒になって教育をしていることについては、本当に素晴らしいことだと我々も思っている。今の内海の教育を否定しているということは、以前にも述べたように適切ではない。・・・決して地域とのつながりを否定するということではない。ぜひ一緒に新しい学校を造るために、子どもたちのために協力をして頂けたらと思っている。(p.7)・・・(A)

【山野連合会要望書に対する市長の回答】(2020年7月31日)
再編後も地域とのつながりを大切にし、地域に出向いたり、ICT(情報通信技術)も利用しながら交流し、広がった校区の歴史や伝統文化、人材、産業等豊富な地域資源を活用した教育活動を積極的に行い、「地域とともにある学校づくり」を進めて参ります。・・・(B)

・地域活性化については、・・・とりわけ学校再編により学校がなくなる地域では、これまで地域活動を学校施設で行っていたこともあり、地域コミュニティの維持に対する不安の声も伺っています。こうした地域では、学校跡地利活用を含めた地域活性化について、地域と行政が一緒になって考え、地域活力の向上につなげていく必要があります。・・・(C)

【市教委と山野学区住民との話し合い】(2020年8月12日)
・教育長:学区がなくなっても町づくりの単位は残る
・室長:学校がなくなったから、公民館などがなくなることはない。(p.1) ・・・(D)

・教育長:学校残せば町が残るというのではない。内海は10年前に一校残そうということでまとまれなかった。子供のために、町のためにまた同じことを繰り返してはいけないと何人かが言われた。(p.1)・・・(E)

【企画政策課と北部地域振興課との話合い】(2020年9月1日)
・(山野)「地域と学校は分けて考える」という考えや学校統廃合について、どう思っているか?
・(山野)地域と学校を分けて考える理由を聞きたい。廃校後の地域をどう描いているか聞きたい。
→(市側)教育環境をなくしてその地域を活性化させるプランは持っていない。それを探すために、地域の声を聞く。・・・(F)

【2020年度第2回市政懇談会】(2021年1月14日)
・室長:再編後も地域とのつながりを大切にする。「地域とともにある学校づくり」を進める。(p.1)・・・(G)

【学校再編に係る説明会】(2021年10月28日)
・学校再編推進室長:今後の山野地域のあり方や再編後の教育機能について、地域保護者の皆様と行政が検討するための協議の場を設置し、地域の持続活性化に向けて取り組んでまいります。・・・(H)

・管理部長:役員会としては、子供たちの教育環境をどうして行くかって言う所をあの皆さんと話したいという思いで、教育環境をどうしているかということと、地域の、学校が再編すると、その後の地域づくりを心配される思いというのは、当然、私たちもわかっているので、そこを考えていかないといけないということは当然わかっているんですが、そこのところも一緒に考えてしまうと、子供たちの教育環境をよくしていくという取り組みが進まないということもあって、そこはやっぱりあの別の問題として、皆さんとしっかり話し合っていこうというスタンスで話し合ってきたということです。関係ないという思いは全く持っておりません。・・・(I)

・管理部長:今回協議会を作って、みなさんと話を始めるわけですけれども、あの強く教育機能というところを思われているということも、しっかりわかっておりますので、皆さんのご意見をしっかり聞きながら一緒になって考えていきたいと思っております。お約束します。(中略)郊外フリースクールについても、1つの、提案の1つなので、教育委員会の方も色々考えてみたいと思っておりますし、地域の方々も地域にはこういう機能っていうところを一緒に考えていただけたらなと思っております(後略)・・・(J)

 内海内浦学区では、第Ⅴ段階で学校再編が決定されたことにより、市教委の学校と地域の関係に対する説明が変化していることがわかります。これまで市教委は、「学校と地域は別で考える」という説明を住民にしてきました。しかし、学校再編が決定されて以降の第Ⅵ段階では、「地域の方と学校運営は本当に密接に関係している(A)」として学校と地域の関係を肯定しています。これほど態度が覆るのは、市教委の目的であった学校再編を達成することができ、住民を説得する必要がなくなったと考えたことで、反対する住民に向き合う必要がなくなったからだと推察できます。そして、これまで言われていた「学校と地域は別問題」という考えも、あくまで学校再編を進めるためだけに言われていた論理であるということが明確にわかります。

 しかも市教委は、学校再編の決定後に学校と地域の関係を肯定することにより、再編対象学区の住民に対して、今度は「地域とともにある学校づくり(B,G)」を行うと説明し、それに協力するよう要請しました(A)。このような「お願い」は第Ⅴ段階でも見られたものですが、第Ⅵ段階では学校再編を決定したことによってより明確に住民に対して要請するようになっています。このことは、市教委の施策に賛成する住民は学校に参加させるが、市教委に同調しない住民は学校から排除するという市の姿勢を示しているといえます。

 一方、山野学区では住民が学校再編に反対の声を上げ続け、学校再編が「決定」されていないため、市教委はこれまでの「学校と地域は別」という前提を引き継いでいます。特に、2020年8月12日の「市教委と山野学区住民との話し合い」の中では、市教委は「学校と地域は別問題だ」という前提のもと「学校がなくても、公民館などの町づくりの単位は残る(D)」と住民に説明し、地域活性化は学校がなくてもできるという考えを示しています。しかし、同じ日の話合いでは「学校を残せば地域が残るわけではない(E)」という発言もありました。この発言は、その地域で学校を再編しようとすることを踏まえると「学校があったとしても、なくなる地域はなくなる」と言い換えることができます。さらには、なくなる地域に学校を残しておく必要はないという考えを市が持っているとも推察できます。ここで市の言う「地域が残るわけでもない」ということは「人口が維持できない・減少する」ということであり、「①人口減少」での発言に見たように、市は人口推計を不変の事実として話を進めている、つまり計算によって導かれた「数」だけで再編を考えているということがわかります。

 また山野学区では、2021年8月に学校再編が「決定」されますが、それ以前から学校再編後の地域づくりについての具体的な話が市教委からされていることが(C)の発言からわかります。特に、2020年9月1日の「企画政策課と北部地域振興課との話合い」では、「教育環境をなくして地域活性化プランは持っていない(F)」とし、「学校再編後には教育環境の場づくりを考える」という姿勢が読み取れます。このように、まだ再編を決定していないにもかかわらず学校再編後の地域づくりの話を進めている市の言動からは、内海内浦学区では反対があっても学校再編を達成した、そのため山野でも同じやり方で学校再編を達成できるという考えが露呈しているといえます。

 そして、山野学区でも2021年8月に学校再編が「決定」された後に市教委の姿勢が一転していることがわかります。これまで市教委は、山野学区に対し教育環境を残さないという強硬な態度を示していましたが、2021年10月28日の説明会では「これからは山野に教育機能の場を考える(H)」「住民が教育機能を強く求めていることもわかっている(J)」という発言がありました。このことから、内海内浦学区と同様、学校再編が決定したことを機にこれからは住民の意見を聞くように市教委の姿勢が変化したことがわかります。そして、学校再編が「決定」された後に市教委の態度が一転するということからは、市教委が学校再編さえ決定できれば、後はなんでも良いという姿勢であることがうかがえます。ここで注意したいのは、この時点で市教委は住民の意見に対する具体的な施策は何も考えていないということです。つまり、学校再編が「決定」されたから住民の意見を肯定的に聞くようになっただけで、実施するかはまた別の話だとしているのです。

 さらには、「学校再編を進めるために、学校と地域は別として考えた、学校と地域は関係がないとは全く思っていない(I)」という発言もありました。この発言によって、これまで市教委が説明していた「学校と地域は別問題」という考えが、ただ単に学校再編を進めるためだけの論理であったということが明確になります。このように学校再編を進めるために、学校と地域の関係の有無を都合よく使い分けているという市教委の対応からは、市教委が学校と地域に関係は「あってもなくてもどちらでもよい」と捉えていることがわかり、たとえ学校再編が「決定」された後で「学校と地域が密接に関係している」と市教委が主張しても、本当に両者の関係を考えているとはいえません。

◆行政の論理 ③教育理念

 次に行政側の資料から「③教育理念」に関する発言を抽出し、論理を整理します。

【「新しい学校づくりに向けた説明会」千年学区】(2020年7月17日)
・(教育長のお願い)「最良は必ずしも最適ではない」ということを理解していただき、子どもたちがたくましく生きていく力を育て伸ばすことができる教育環境について考えていただきたい。・・・(A)

・(教育長のお願い)子どもたちは、どのような環境の中でも、何とかして学び、何かを作り出す力を持ち、様々な課題を解決しながら、自分たちが生きる新たな世界をつくっていきます。地域の皆様の御協力・御支援をいただき、子どもたちがより良い未来を描き、社会を築いていこうとする力をつけていくことのできる学校、学びの場をつくっていきます。・・・(B)

・(目指す学校像)グローバル化が進展する中で、知・徳・体のバランスをよく身に付け、様々な人々と協働して地域・国・世界の発展を担う人づくりを行う学校・・・(C)

・(目指す子ども像)
(ア)知識や経験をつなげながら考え、新たな学びを展開する力を持った子ども
(イ)多様な文化の違いを認め合い、人との関係を尊重できる子ども
(ウ)命と健康を大切にする心を持ち、粘り強くやり抜く子ども・・・(D)

・(学校再編の目的)
1 学校規模を適正化し、変化の激しい社会をたくましく生きる子どもを育成する。
2 市全体の学校配置を見直し、将来を見据え、教育の質の維持・向上を図る。
→子どもたちの学びを支える教育環境の整備のため、「学校再編」に取り組みます。・・・(E)

【自治会連合会要望事項への市教委回答】(2021年7月19日)
・教育委員会が実施している全ての施策は、一人ひとり違う子どもの学びを促し、変化の激しい社会をたくましく生きる子どもを育てていくためのものです。知識や技能はもとより、思いやりや優しさ、助け合いの心、いわゆる”ローズマインド”などの資質・能力の育成に努めています。これらの資質・能力を「21世紀型”スキル&倫理観”」とし、日々の授業を中心とした全ての教育活動の中で育み、日常の様々な場面で行動化できる確かな学びにしていくため、2016年度から「福山100NEN教育」を宣言し、「子ども主体の学び」づくりに取り組んでいます。
子どもたちの可能性や能力は、一定の集団規模で子ども同士が切磋琢磨する中で引き出され、「21世紀型”スキル&倫理観”」が育まれていきます。多くの友だちと協力し、意見を出し合ったり、価値観の違いから時にはぶつかり、我慢したりしながら、自分を鍛えていくことが大切です。
子どもたちのこうした力を育んでいくために、再編は必要です。・・・(F)

【学校再編に係る説明会】(2021年10月28日)
・学校再編推進室長:子供たちが生きる社会は変化の激しい社会です。そのような社会で生きて行く子ども達は知識技能だけでなく、想像力、チャレンジ精神、判断力、表現力やコミュニケーション能力などが必要です。・・・(G)

・学校再編推進室長:今、おっしゃっていただいたその日本古来からの伝統や文化、そういったものを大切にしていく、そして守り続けていく。そういったことをしていくためにもここにあります例えば、粘り強さであったりローズマインドであったり、またコミュニケーション能力、そういったものが必要になってくるというふうに考えております。・・・(H)

・学校再編推進室長:これからは一定規模の集団の中で子どもたちが試行錯誤しながら、また互いに意見を戦わせながら深く考えているといった力を必要としています。そういったところで、今回この一定規模の集団という形で書かせていただいております。ただ、先ほど言われましたように、環境を整えれば、子供達にこういった力がつくというふうには思っておりません。環境を整える中で、本当に日々の教育活動、教育の内容、そういったところをしっかり新しい学校の教職員、校長を中心として教職員で作っていきながら、子供達と一緒に作っていきながら、内容の充実というところを図っていきたいと思います。・・・(I)

・子どもたちがそもそも学ぶ意欲等を持っているところから、子どもたちが主体的に学ぶ、そういった日々の教育活動というところを目指していきたいと思っております。ご存じの通り、国が新しい教育の方針を示しました、学習指導要領というものができました。その中で、ここにもあります変化の激しい社会、そこを生きていく子どもたち、この子どもたちは、自分で未来を作る、自分で社会を作る、そういった力を、これから付ける必要があると書かれています。・・・(J)

 (A)の「子どもたちがたくましく生きていける力を育成する」という教育理念は、第Ⅰ段階から挙げられているものです。そして第Ⅳ段階では、この「たくましく生きる力」というものが「集団における競争やぶつかり合い」によって培われると説明されました。また、第Ⅳ段階で特に主張されていた「競争」「ぶつかり合い」などという教育理念は、第Ⅵ段階でも挙げられています。しかし、「時にはぶつかり、我慢したりしながら、自分を鍛えていくこと(F)」や「互いに意見を戦わせながら(I)」など、第Ⅳ段階に比べて「競争する」ということが一段と強い言葉で述べられています。

 (F,H)で挙げられている「思いやりや優しさ、助け合いの心」「ローズマインド」「21世紀型スキル&倫理観」ということは、第Ⅲ段階で主に挙げられていた教育理念でした。この教育理念は、第Ⅳ・Ⅴ段階では挙げられず、第Ⅵ段階で再び市教委から発言されています

 さらに(G)より、新たに「想像力、チャレンジ精神、判断力、表現力」ということも併記されていることがわかります。そしてここでは、「21世紀型スキル&倫理観」という言葉が、「ローズマインド」に代わる福山市の教育理念として挙げられました。この「21世紀型スキル」という言葉は、いかにも福山市独自のものであるという説明がされていますが、この言葉はATC21s(Assessment and Teaching of 21st Century Skills=21世紀型スキル効果測定プロジェクト)という国際団体が提唱したもので、2011年に文科省が公表した「教育の情報化ビジョン」で使われていた言葉です。つまりこれまでと同様に、福山市は自分の言葉ではなく他の言葉を流用して学校再編について説明しており、結局福山市が目指す教育理念には中身がないと推察できます。

 (B)の「子どもたちがより良い未来を描き、社会を築いていこうとする力」や(J)の「自分で未来を作る、自分で社会を作る」力の育成は、第Ⅵ段階で新たに挙げられた教育理念でした。(B)は内海沼隈学区で、(J)は山野学区で発言された教育理念ですが、どちらも学校再編が決定した後に新しく市教委から説明された教育理念であることが共通しています。また、この理念はこれまで挙げられていたものに比べ、より壮大で抽象的な理念であるともいえます。このように学校再編後にこのような新しい教育理念を挙げていることからは、市教委の学校再編を決定させた後の余裕さえも感じさせるものです。

 (C,D,E)は、千年学区に新設される小中一貫校での「目指す学校像(C)」「目指す子ども像(D)」、そして新しい学校づくりに向けた説明会で説明された「学校再編の目的(E)」です。(C)で挙げられている「知・徳・体のバランスを良く身に付け」という箇所は、第Ⅱ段階で挙げられていた教育理念です。また(D)の「知識や経験をつなげながら考え、新たな学びを展開する力を持った子ども」という理念や、(E)の「変化の激しい社会をたくましく生きる力」は、第Ⅰ段階から挙げられています。いずれも学校再編計画の策定当初に市教委によって挙げられていた教育理念であり、第Ⅲ段階から第Ⅴ段階で挙げられていたほかの教育理念は新しい学校における学校像や子ども像では挙げられていません。このことから、市教委は学校再編を達成させるためだけに様々な教育理念を挙げてきたということがわかります。そしてここからも、学校再編が決定したことで住民を説得させる必要がなくなったために、計画策定当初に挙げられていた教育理念を、再び新しい学校で目指される学校像や子ども像として掲げたということが考えられます。

 ただし、 (D)の「目指す子ども像」で併せて挙げられている「多様な文化を認めあい、人との関係を尊重できる子ども」「命と健康を大切にする心を持ち、粘り強くやり抜く子ども」は、後から追加された理念です。さらに、(C)の「様々な人々と協働して地域・国・世界の発展を担う人づくり」という理念はこれまで挙げられたものではなく、第Ⅵ段階で初めて挙げられたものです。このような点を考えるに、福山市は一貫した教育理念がなく、そもそも教育理念について真面目に考えていないのではないかと推察できます。

 このように、第Ⅵ段階では「適正化計画(第1要件)」が策定してからこれまで市教委が述べてきた様々な教育理念が挙げられ、さらにこれまで一度も挙げられていない新たな教育理念までも説明されていることがわかりました。しかも、これらの教育理念は文科省の言葉をそのまま流用したものであることや、抽象的で具体的な説明がないものが多く、福山市の一貫した教育理念はありません。つまり、学校再編を成し遂げるためだけに、その時の状況に合わせて都合のよい様々な教育理念を挙げているのではないかと推察できます。このことは、最終的に新しく開校する学校の「目指すべき学校像」や「目指すべきこども像」で挙げられている理念とそうでない理念があるということからもいうことができます。

 ただし、第Ⅵ段階で挙げられたこれらの教育理念には共通していることがあります。それは、どの理念を取り上げても実現するためには「一定の集団規模が必要」だということです。つまり、「教育理念は数によって成し遂げられる」という考え方がここで明確に示されていることがわかります。このような市の考えは、「④学校再編の理由」の分析によってはっきりと示されています。

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◆行政の論理 ④学校再編の理由

 次に行政側の資料から「④学校再編の理由」に関する発言を抽出し、論理を整理します。

【山野小・中学校保護者からの質問に対する回答】(2020年7月8日)
・回答:学校再編は、少子化により学校の小規模化が進行する中で、変化の激しい社会を生きていく子どもたちに、主体的・対話的で深い学びを通して、必要な力を育んでいくためのより良い学びの環境づくりのために進めているものです。
子どもたちには、より多くの友だちとの関わりや経験を通して、多様性を認め、理解し、尊重し合うことのできる教育環境、また、自分の可能性や能力に気づき、伸ばしていくことのできる教育環境が必要です。山野小・中学校の児童生徒数の現状と推移、今年度から小学校で、来年度から中学校で実施する学習指導要領を踏まえると、子ども同士の話合いや探究・問題解決的な学びを保障していくことが求められており、一定規模の集団を維持していくための学校再編は避けては通れません。(p.1)・・・(A)

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・室長:学校再編そのものが、福山100NEN教育の学びを支える、教育環境の整備のために行っているものであります。(p.8)・・・(B)

・再編室:(現状の学校をすべて改修したら25億円かかるということについて)そこは申し訳ないんですが、今25億円だっていう話をしていただいたんですけれど、例えば内海小学校にしても、能登原小学校にしても、適正規模の児童がそこで学んでいれば、再編しましょうと。再編することが子どもたちのためになるんですよというような、われわれもそういう考えは当然、持てない。当然、校舎が古くなったら改修してくし、もう老朽化したら改築していくしかないんですけれど、老朽化してるから再編じゃないんです。(p.12)・・・(C)

・室長:実際、なんかがあったときにオンラインでも学びが止まらないようにっていうところも、今回いろいろなところで学んだところであるけれど、基本的に子どもたちが友達関係の中で育っていく部分がものすごく大きいんです。(中略)地域の中で、より多くのいろんな考えを持った友達との関わり、そういった環境に置いてやらないといけない。そのために再編してるんです。(p.13)・・・(D)

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内浦学区】(2020年7月21日)
・教育長:今ICTの環境も進んでいる。遠隔授業、テレビ会議というところも出来ないことはない。
ただ子どもたちが直接一緒に過ごす、一緒に学ぶというところがやはり子どもたちの可能性や力を引き出していくことにおいてとても大事だと思っている。
内海から千年の義務教育学校への通学はバスで15~20分程度で行ける。そこで子どもたちが一緒に生活しながら、自分の力をしっかり伸ばしていける環境で育てていきたいのが私たちの考えだ。(p.13)・・・(E)

【山野連合会要望書に対する市長の回答】(2020年7月31日)
・学校再編は、子どもたちが、主体的・対話的で深い学びを通して変化の激しい社会を生き抜く力を付けることができるよう、より良い学びの環境をつくるため取り組んでいます。次代を担う子どもたちを育てることは、今を生きる我々大人の責任です。
山野小学校・山野中学校は、現在、児童・生徒数がそれぞれ4人、10人となっています。多様な仲間と直接触れ合いながら学ぶ中で、子どもたちに必要な力を育んでいくために、一定規模の集団は必要です。・・・(F)

【市教委と山野学区住民との話し合い】(2020年8月12日)
・教育長:集団の規模というのが中心ですべてです。お金でいえば、県全体の財政を考えれば、県財政も非常に厳しい。また、教員の数が全然確保できていない。採用しようと思っても倍率は2倍を切っている。人がいない。増やしても、社会全体で働き手がいない。市としての財政的負担はない。人材的に厳しい状況。福山市だけの話ではない。(中略)小規模の学校が全然だめだとは思ってないです。(p.4)・・・(G)

【2020年度第2回市政懇談会】(2021年1月14日)
・室長:市教委のすべての施策は、(中略)たくましく生きる子どもを育てる・・・。学習指導要領の主体的対話的で深い学びができる授業づくりをしている。山野は小学生4人、中学生10人。協力して学びを深める授業が出来ない。そういう力を育むためには一定の規模が大切。山野は人数が少なすぎる。・・・山野小中の現状と推移を考えると、学校再編は避けて通れない。(p.1)・・・(H)

【学校再編に係る説明会(山野)】(2021年10月28日)
・教育長:教育委員会は、教室の中に学校の中に多様な個性を持った友達がいて、一緒に学び、一緒に育つ環境を整えるため、学校の再編に取り組んできています。・・・(I)

・子どもたちが学ぶ環境として、子どもたちは、色んな考えを持った、多様な子どもたちがいる環境の中で、自分の意見をしっかり持ちながら、相手の考えとか、相手のこともしっかり認めながら、一緒に協力しながら、色んなものを築き上げていく、課題を解決していく、そういう環境を作りたいと思って再編をしております。感染症のところはしっかり対策を施しつつも、やはり子どもたちの学びの環境というところは、やはりある程度の人数がいて、色んな友だちと出会いができて、その友だちと一緒に経験を積みながら、そういう環境を作っていきたいと思っております。・・・(J)

・一人一台の端末を使いながら、様々な意見を出し合ったり、話合ったりということも、活用して、そのようなところにも、使っていきながら、しかし、実際に、やはり対面で、どこかいって、相手の意見を聞いたり、そういった学習の場を作るということも、同時に大切にしたいと思っております。そういった中で、子どもたちが切磋琢磨しながら、学びを深めていく、そういった学校を目指していきたいと思っております。・・・(K)

 第Ⅵ段階では、山野学区でも学校再編が「決定」されます。このように学校再編がすべて「決定」されていく段階において、学校再編の理由がどのように説明されているかを確認していきます。

 (A)では、学校再編の理由を「変化の激しい社会を生きる子どもたちに、主体的・対話的で深い学びを通じて必要な力を育む」ためだとし、これまでと同様に学習指導要領の言葉を使って説明しています。そして、そのような力は「より多くの友だちとの関わりや経験を通して、多様性を認め、理解し、尊重し合うことのできる教育環境」「自分の可能性や能力に気づき、伸ばしていくことのできる教育環境」の中で培われるとし、そのような環境を整備するためには「一定の集団規模が必要」という論理によって学校再編の必要性を述べました。さらに、学習指導要領で「子ども同士の話合いや探究・問題解決的な学びを保障していくこと」が求められているとし、そのような学習を保障するにも集団が必要であるとも説明しています。ここで学校再編の理由として挙げられている文言は福山市オリジナルのものではなく、すべて外部の言葉にすがるものだといえますが、市教委はこれらの教育環境を「『福山100NEN教育』の学びを支えるもの(B)」だとすることによって強引に福山市の学校再編の理由にこじつけていることがわかります。

 このような「学習環境の整備」については、「子どもたちが一緒に生活しながら、自分の力をしっかり伸ばしていける環境(E)」、「多様な子どもたちがいる環境の中で、自分の意見をしっかり持ちながら相手を認め、一緒に協力しながら課題を解決していく環境(J)」「切磋琢磨しながら学びを深めていく環境(K)」などとしています。とりわけ、第Ⅵ段階では「友達・仲間」といった言葉が多用されています(A,D,F,I,J)。また、市は「多様性を認めあうことのできる教育環境」の整備を進めている反面、他方では「友達・仲間」に限定していることから、第Ⅴ段階以前と同様に教室の中だけの「多様性」を担保しようとする市の姿勢がわかります。

 いずれにせよ、第Ⅵ段階で挙げられたどの教育環境を整備するにしても、市は「一定の集団規模が必要」だとしています。むしろ、第Ⅴ段階と同様に教育内容は後回しであり、あくまで「数」だけが理由で再編を進めています。このことが顕著に表れているのが、(C)の市教委の発言です。これまで市は「子どもたちのために教育環境を整備する必要がある」という説明を重ねて行ってきました。そして、第Ⅵ段階でもそのような説明が多くなされています。しかし、(C)では「適正規模に満たなければ、再編する。再編することが子どもたちのためになるとは思っていない。」という市教委の発言がみられます。つまり、学校再編は子どもたちのためだとは思っていないが、数が足りていないので再編するという姿勢です。市は、これまで様々な学校再編の理由を挙げていましたが、結局は「数」が足りていないということだけであることがわかります。

◆行政の論理 ⑤行政の役割

 本節では、⑴内海・沼隈学区の学校再編⑵山野・広瀬学区の学校再編⑶新型コロナウイルス感染拡大への対応⑷学校長寿命化計画⑸市長の選挙公約の変更⑹教育長のパワハラ問題の6つに分けて分析していきます。

⑴内海・沼隈学区の学校再編

【「新しい学校づくりに向けた説明会」千年学区】(2020年7月17日)
内浦小、内海町、能登原小、千年小、及び常石小並びに内海中及び千年中学校が一つになった新しい義務教育学校を、現在の千年中学校の位置に整備します。
開校に向けて、校名や校歌、校章をはじめ、通学や服装、PTA、地域連携に関することなどを協議するため、7つの学校の関係者で組織する開校準備委員会を設置しました。
協議した内容や、開校に向けた情報について、このたよりでお知らせしていきます。・・・(A)

 内海・沼隈学区では、第Ⅴ段階の2020年2月27日の「内海説明会」で強引に学校再編が「決定」されました。その後、第Ⅵ段階では「千年学区」「内浦学区」「内海学区」それぞれで「新しい学校づくりに向けた説明会」が実施されます。その際、市教委は(A)のように改めて7小中学校の学校再編及び、小中一貫教育校の開校を公言しました。

 そもそも、市教委は2017年3月の「(仮称)千年小中一貫教育校の整備計画」の中で、「小中一貫教育をより効果的に推進するため」に学校再編を行い、小中一貫教育校を設置するという説明をしていました。そのため、小中一貫教育校を開校するにあたっては、小中一貫教育について優先して協議されるべきだといえます。しかし、開校準備委員会では校名や校歌、校章などといった学校の形式的な部分を協議するとし、小中一貫の教育については協議の内容には含まれていません。このことから、市教委が教育内容よりも新しい学校の形式を優先させているといえます。つまり、「小中一貫教育の効果的な推進」という理由は、学校再編を成し遂げるためだけの理由になっているのであり、学校再編によって行おうとしていた教育の内容などは重要ではないとする市の姿勢が表れています。また、このように内海・沼隈学区の学校再編や新しい学校づくりを早く進めることによって、山野学区などの学校再編がまだ決まっていない地域の再編を推進しやすくしたのではないかとも考えられます。

⑵山野・広瀬学区の学校再編

【山野小・中学校保護者からの質問に対する回答】(2020年7月8日)
・質問:「特認校」を山野に提案しない理由
→回答:広瀬小・中学校には、集団の中で学ぶことが難しい、地元の学校で不登校になったなどの理由で、多くの児童生徒が、校区外から通っており、再編計画を公表した後も児童生徒が増えています。また、校区内には児童養護施設があり、個々の状況に応じた対応が求められるケースが多く、施設と学校との緊密な連携が必要です。
こうした状況と、多様で適切な教育機会の確保のための施策を国、自治体の責務とした「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の趣旨を踏まえる中で、全市的な教育環境の整備・充実の一環として、広瀬地域に、小規模特認校とは目的の異なる特認校(小中の児童生徒数計105人)を設置することとしたものです。(p.2)・・・(B)

・質問:山野小中学校を小規模特認校に指定しない理由
→回答:教育委員会は、学校再編の必要性から、全市的に学校規模・学校配置の見直しを行うこととしています。一定規模の集団を確保するとの考えから、学校再編に取り組んでおり、小規模特認校を設置することは考えていません。(中略)全ての子どもたちが、協働や対話を通して、学ぶ意欲や知的好奇心を発揮できる 「子ども主体の学びづくり」を推進していきます。(p.2)・・・(C)

【山野連合会要望書に対する市長の回答】(2020年7月31日)
・学校再編は、子どもたちが、主体的・対話的で深い学びを通して変化の激しい社会を生き抜く力を付けることができるよう、より良い学びの環境をつくるため取り組んでいます。次代を担う子どもたちを育てることは、今を生きる我々大人の責任です。・・・(D)

【市教委と山野学区住民との話し合い】(2020年8月12日)
・教育長:(特認校について)集団になじめないとか、小さい集団がいいとか、そういう子どもが学ぶ場を学校の外にも中にも多様な学びの場を作ろうということ。基本は集団の規模を確保するということ。(p.1)・・・(E)

・教育長:山野には学校でなくて、町づくりとして、何を作っていくか、町づくりのために何をしていくかということは、そこはしっかりと考えさせていただきたいと。しかし、学校を作るとか学校を残すとかいうことではないという風に考えている。(p.1)・・・(F)

・教育長:10年20年学校再編が大きく進んでいく中で、福山市はしてこなかった。それは、地域を大事にするという一方、子供の集団というものが小さくなっていって、そのままにしてきていたというある面教育行政が反省するところはあります。
大きければいいとは思いません。しかし、ここまで小さくなってきていて、十分責任を感じています。(p.2)・・・(G)

【小学校校舎耐震化の問題についての話し合い(山野)】(2020年12月11日)
・施設課課長):山野小中で言いますと、山野小学校の校舎は耐震性がないという結果になっています。それで、教育委員会としては耐震化に向けて取り組むというところなんですけれども、一方で学校再編の計画がありますので、学校再編の計画と整合性を持たせるということで、小学校の校舎については耐震化の計画は立てていない。…(耐震性の結果について)住民の方、保護者の方にはお知らせしてないです。・・・(H)

【山野小学校・中学校の学校再編に係る対応方針について】(2021年8月)
・2022年度(令和4年度)としていた再編時期を1年延期し、2023年度(令和5年度)から、現在の山野、広瀬及び加茂の小学校区を一つの小学校区として現在の加茂小学校に、山野、広瀬及び加茂の中学校区を一つの中学校区として現在の加茂中学校の位置に設置します。
これに向けて、今年度中に各地域の代表や保護者の代表等で構成する開校準備委員会を設置し、新しい学校の校名等を検討していきます。
なお、2022年度(令和4年度)は、現在の加茂の小学校区及び中学校区に人瀬の小学校区及び中学校区を加えるとともに、新たに広瀬学園小学校及び中学校を設置します。・・・(I)

 第Ⅴ段階と同様に、「特認校」は「集団になじめない子の教育環境の確保(E)」のために整備するとされており、かつ全市的な取り組みであるということが強調されています。他方で、2020年に7月8日の山野住民からの「特認校」は山野ではなく広瀬に開校するのかという問いに対しては、「①校区から通っている児童がいて、生徒数が増えていること」、「②広瀬学区には児童養護施設があること」の2点を挙げて説明しています。

 しかし、「①校区外から通っている児童がいる」ということは山野も同じ状況です。そして「②児童養護施設がある」ということについても、この児童養護施設は市立ではなく私立であり、市が連携をとる必要があるという説明では不十分だといえます。また児童養護施設に在園する子どもが抱える問題と、 「不登校」の問題は必ずしもイコールで結びつくとはいえないため、児童養護施設のみを「特認校」開校の根拠とするのは不十分だと考えられます。そして、そもそもこの児童養護施設があるために学校を残すことが必要であるならば、2015年に策定された「適正化計画(第1要件)」の中で、広瀬小学校・中学校は再編対象校として名前が上がらないはずです。このように、山野学区にも広瀬学区と同様に、以前「不登校」に該当していた子どもが通っているにもかかわらず、市教委は山野学区ではなく広瀬学区に「特認校」を開校することを決めました。そして、山野学区ではなく広瀬学区に「特認校」を設立する理由は明らかにされないままでした。

 さらに(B)のように、市教委は山野住民に「特認校」の説明をしていますが、この説明がされた時にはすでに2019年2月13日の教育委員会会議で「特認校」の開校が決定されていました。他方、「特認校」が設置される広瀬学区では、2019年2月13日以前ですでに説明会が2度ほど実施されていることが、同教育委員会会議の議事録でわかっています。つまり、市教委は山野学区には説明をせずに広瀬学区における「特認校」の開校を決定したことが明らかになりました。

 「特認校」の開校準備を進めていく中で、特認校準備委員会によって「特認校」に通う対象児童が定められています。その定められた対象児童の中には、「特認校の教育環境を希望する」生徒が含まれています。そして、ここでは「特認校の教育環境」は「一人ひとりに応じた学びや体験学習」とされました。しかし、この「一人ひとりに応じた学びや体験学習」は、これまでも小規模校で行われています。つまり、「特認校の教育環境を希望する生徒」とは「小規模校での教育を希望する生徒」であるといえ、このことから、広瀬学区に設置される「特認校」の実態は、「小規模特認校」であると考えられます。つまり、広瀬学区は「小規模特認校」という形で学校が残ったといえるでしょう。

 一方、山野に小規模特認校を作らない理由として、市教委は「一定規模の集団を確保するために学校再編を行っているため、小規模特認校は考えない(C)」と回答しました。つまり、福山市では小規模特認校を作らないということです。しかし、先述の通り広瀬の「特認校」の実態は小規模特認校であるといえます。つまり、市教委は、山野学区では「福山市で小規模特認校は考えない」と説明しているのにもかかわらず、広瀬学区に小規模特認校を新たに設置して学校を残すことにしたということになります。このことから、市教委の「広瀬には学校を残すが、山野には学校を残さない」という意思が明確であり、明らかに市は地域を選別したうえで末端切りを行っているといえます。つまり、学校再編に反対した山野学区には、学校を残さないという考えであるということです。

 このような「山野に学校は残さない」という考えは、(F)の「山野に学校を作る、残すとかいうことではない」という教育長の言葉からもわかります。この発言からは、「学校を残す、残さないということは過去の話だ」という市の姿勢が表れています。また、市は「町づくりとして、何を作っていくか、町づくりのために何をしていくかということは考える(F)」としており、「市教委の行う学校再編に賛同するならば、まちづくりを考える」という行政の立場を利用した高圧的な姿勢が読み取れます。しかし、この段階ではまだ山野で学校再編は決定されていません。それでも市がこのような断定した言い方をするようになったのは、内海・沼隈学区での学校再編が「決定」できたために、山野学区でも学校再編を決行することができると確信したからなのではないかと考えられます。

 山野学区でも学校再編を達成できると確信したとする市の姿勢は、(G)の教育長の発言からもわかります。これまでの学校再編についての話し合いの中で、「学校再編はさらなる人口減少を引き起こす」という話題は何度も挙げられてきましたが、その都度、市側は「学校と地域は別問題である」として学校再編が人口減少や学校再編に与える影響を度外視してきました。しかし、第Ⅵ段階になって急に教育長が「これまで子どもが少なくなってきたのは、教育行政が反省するところ(G)」だと発言しています。つまり、「②学校と地域の関係」の分析でも明らかになった通り、学校再編が「決定」できると確信した段階で、急に「学校と地域の関係」や「学校教育が地域存続に関係している」ということを肯定しています。このように市の考えがこれまでと一転したのは、やはり市行政の中で山野学区の学校再編が確定したという意識があり、地域や住民に対して真に向き合う必要がなくなったと考えているからなのではないでしょうか。

 そして、「人口減少の進行は、教育行政が反省するところ」といいながら、それでもさらなる人口減少を引き起こす学校再編を断行するということからは、市教委が山野地域の過疎化が進行することについて何も考えていない、さらには地域の衰退は教育には何も影響を及ぼさないので、地域がなくなっても構わないとする市教委の態度が明らかに示されています。

 以上のように、市は強引なやり方で山野学区を追い詰め学校再編を押し進めていきました。そして、この学校再編に対して、市長は「次代を担う子どもたちを育てることは、今を生きる我々大人の責任(D)」だとして再編を正当化しています。この発言は、市の施策に反対する人々は、責任を果たしていないという意味にも取れます。しかし、山野・広瀬学区の学校再編について言えば、市が小規模校に通う生徒が集団になじむことが難しい児童であるという実態を把握したのは再編計画を策定した後であり、「特認校」の設置も後出しでした。それに対して、住民はずっと地域の学校教育に積極的に参加し協力しています。これまでの経緯から、どのように考えても市の方が責任を果たしていないといえますが、市長はその立場を利用し「責任」という言葉を用いて住民の問いに対して回答することによって学校再編を強引に進めていきました

 さらに問題なのは、2020年12月11日の市と住民との話し合いによって、市が山野小学校の耐震性がないことがわかっていたにもかかわらず、「学校再編の対象校であるため耐震化は行わない(H)」という市の考えによって耐震化をしてこなかったということが明らかにされたことです。この耐震化の対応からも、再編が「決定」していないのにもかかわらず、市が「学校再編は実施したもの」として勝手にその先の事業に着手していることがわかります。また、小学校に耐震化がないということ自体を保護者や地域に一切説明していなかったということは、明らかに市が職務を怠っているといえますが、むしろ人口が少ない地域は消滅するものだからインフラを切っても構わないという市の姿勢が露呈しているといえます。

 このように、まだ山野学区で学校再編が決定されていない段階にもかかわらず、市は学校再編が実施されたものとして様々なやり方で強引に山野学区を追い詰め、最終的には市のやり方を押し通す形で2021年に山野学区の学校再編は「決定」されました(I)。

⑶新型コロナウイルス感染拡大への対応

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・室長:こうした感染防止に万全を期することは、当然、学校ではやってまいります。そのこと(コロナ禍で密を避けること)と、子どもたちに必要な力を育んでいくための、学びの環境づくりのために行っております。再編の取り組みというところは、違う問題というふうに私たちは捉えております。(p.2)・・・(J)

 第Ⅵ段階では「新型コロナウイルス拡大防止」という新たな視点が生じました。コロナ対策に関して、住民から「感染防止の視点においても、学校再編による大規模学級の編成は避けるべきなのではないか」という意見が出されましたが、市教委はそれに対し「文科省の新しい生活様式マニュアルに沿ってコロナの感染防止に努めるが、学校再編は違う問題であるため別で進める(J)」と回答しました。むしろ、コロナによって住民が話し合いをすることのできない状況を利用して再編を進めたともいえます。このような回答から、たとえどんな状況があっても、学校再編は決定したから成し遂げられるものだとする市の前提が露呈しているといえます。

⑷学校長寿命化計画

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・室長:学校の長寿命化計画、この目的は、これまでの建物の、今までは事後保全をしてたんですけれども、これからは計画的な予防保全へ方針を転換して、トータルコストの縮減や予算の平準化を図りつつ、求められる機能や性能の確保も行うということを目的にしています。一方、学校の適正規模、適正配置は基本方針に沿って進めていく考えです。(p.9)・・・(K)

 2020年3月に、市教委は新たな施策として「学校長寿命化計画」を策定しました。この計画は市内小中学校の学校施設の老朽化に伴い、中長期的な建て替え・改修のトータルコストの縮減を図るために策定されたものです。しかし、この計画の中には、なぜか学校再編の実施状況が記載されています。具体的には、再編後の新しい学校の開校予定年月と再編対象校が挙げられました。

 なぜ、学校再編の実施状況が計画の中に書かれているのでしょうか。それは、7か月後の2020年10月に山野学区で行われた「小学校校舎耐震化の問題についての話し合い」において、明らかになります。つまり、「学校長寿命化計画」に再編計画や開校予定時期が記載されたのは、市全体のトータルコストの縮減のために再編で閉校になる学校は建て替え・改修をしないという趣旨だったのです。ここでの問題は、住民の合意を得ていない学校再編を既定事項として、別の計画の立案を進めていることだといえます。

また、学校再編と並行してこのようなコスト削減を目的とする計画が出されていることから、第Ⅲ段階以降見られるようになった、福山市の公共施設・コスト削減の方針を進める上で学校を1つのターゲットとして考えていることが確認されました。

⑸市長の選挙公約の変更
 2020年8月2日に福山市長選が行われ、現職の枝廣氏が無投票再選を果たします。この市長選に向けて作られた選挙公約は、実は当初作られたものを途中で変更していました。まずはその変更について確認します。

 枝廣氏は、選挙公約の1つとして「5つの挑戦~変化を確かなものへ~」を掲げています。その中の「挑戦4 未来を創造する人材の育成」では、当初「義務教育学校・イエナプラン教育校・小規模特認校の開校」ということが掲げられました。この「小規模特認校の開校」が公約として掲げられたのをみて、特に再編対象学区の住民は驚きとともにそれに期待したといいます。なぜなら、内海学区や山野学区の住民は、これまで繰り返し小規模特認校の開校を市に要望してきたものの、市は「小規模特認校は考えない」という姿勢を示し続けてきたからです。この公約の発表後、住民は市長の公約を踏まえて改めて市教委に小規模特認校の設置を要求しました。2020年7月30日の「『新しい学校づくりにむけた説明会』内海学区」では、次のような市教委と住民とのやり取りが行われてます。

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内海学区】(2020年7月30日)
住民:もう一つなんですけれども、市長の公約のパンフレットを見たんですけれども、そこに「小規模特認校をスタートさせます」という風に書いてありまして、広瀬の学校は小規模特認校ではないという風に聞いたことがあったので、もしかしてこれは内海のことなのかなと思って、今日ちょっと期待をして来てしまった部分もあるんですけれども、この小規模特認校をやるというのは、どこの地域のことなのか教えていただきたいです。

再編室長: それからもう1点の、小規模特認校は、福山市では作る考えはないんですけれども、今、広瀬学園は、特認校という風に呼んでいるので、そのことかなと思います。

 市長の公約として掲げられた小規模特認校の開校について、住民から問われた市教委は、「広瀬学園は小規模特認校ではないが、公約ではその学校のことを指しているのではないかと思う」と回答しました。しかし、市長の公約には「小規模特認校」という言葉が書かれていることに加え、これまで市教委は、広瀬学区の「特認校」は小規模特認校ではないと住民に説明をしていることから、この公約を読んだ住民はだれしも「特認校」とは別に、市が「小規模特認校」を認めたと理解するでしょう。

 ところが、このように住民が市教委に小規模特認校の設置について問われる最中、市長の選挙公約は、「挑戦4 未来を創造する人材の育成・義務教育学校・イエナプラン教育校・特認校の開校」と変更され、「小規模特認校」が「特認校」に書き換えられています。つまり、市教委が2020年7月30日に公約の「小規模特認校」は「特認校」のことではないかと発言したことが、変更によって「特認校」だと公言されたということです。さらに、変更に関して市長から説明されることはありませんでした。つまり、市民への説明なく市長が勝手に変更したのです。この点、市長は市民を軽視している姿勢がみられます。

 さらに、この公約の変更は地域住民が市教委に小規模特認校についての問いかけをした後に行われていることから、公約の変更過程には市教委が絡んでいることが推察できます。つまり、市教委が「特認校」という表記に変えるよう示唆したのではないかということです。このことは、市長が学校再編に対して正確に理解していないということを示しています。つまり学校再編についてきちんと理解していないのにもかかわらず、市長は学校再編を推進しているということです。このように、市長が学校再編について理解していないという様子は、第Ⅲ段階でもみられました。つまり、市長自らが学校再編自体を目的としており、再編の過程においては子どもの教育や学校の意義を軽視しているということがいえます。

⑹教育長のパワハラ問題

【「中立的に判断」残る疑念(中国新聞記事)】(2020年12月7日)
・校長男性によると、パワハラは1月22日、教育長室であった三好教育長との定期面談であった。学校の課題を聞かれ、「学年相応の学力や生活環境を考えると、十分なことができていない」などと説明。自身の力不足を認め、改善する意思を伝えた。
これに対し、三好教育長からは「話になりません」「学年相応の学力とは何ですか」などと追われたと主張。さらに「教師が決めつけた枠の中に子どもを入れようとする教育が子どもたちの主体性や学習への意欲を奪っている」などと叱責され、「これ以上、話しても意味がありません」「降格願を出してください」と告げられたとしている。・・・(L)

 2020年11月に、教育長によるパワハラ問題が報道されました。現職の校長が教育長と定期面談を行った際、教育長に強く叱責され怒号を浴びせられたという報道です。この問題からは、教育長の高圧的な人格が表れています。

 ここで報道された教育長の様子は、2019年5月10日に「内海説明会」で見られた教育長の様子と重なるものがあります。この説明会の際も、教育長が住民に対して怒号を浴びせ、威圧する形で強引に学校再編を推し進めていました。つまり、教育長自身の高圧的な人格が市民を威圧したことによって、学校再編を強行することができたともいえます。

◆行政の論理 ⑥決定のあり方

 最後に、行政側の資料から「⑥決定のあり方」に関する発言を抽出し、論理を整理します。

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・室長:保護者役員の方と、いろいろ保護者の思い、意見が聞ける機会をたくさん取ろうということで、相談しながら物事を進めてきたんですけれども、その役員のほうから、一人一人の声を聞いてもらいたいので、教育長との話し合いの場を設けてほしいということがありました。それで、私たちも保護者の皆さまの声を聞きたいという思いがあったので、この話し合いというものを行ってきたということです。(p.2)・・・(A)

・室長:こうした保護者との話し合いや保護者アンケートでは、できれば内海町に学校を残してほしいという共通の思いは、私たち、しっかりそこは受け止めております。そこはよく分かっておりますが、そういう共通の思いとともに、「子どもたちのために新しい学校について具体的な話ができるよう、早く決断をしてほしい」「子どもの数が少なくなってきているので、また教育が大きく、今、変わってきている。そういう中で子どもの将来を考えると、今のままでは不安です。これからの町づくりをどうしていくか、前向きに行政と一緒に考えていきたい」ということが、この残してほしいという思いと並行して、多数のご意見を聞かせていただきました。そうしたご意見を踏まえて、保護者や地域の皆さまの総意であるというふうに判断をしたものです。(p.2)・・・(B)

・室長:それまでの話し合いでいただいたご意見を踏まえて、教育委員会が責任を持って、新たな学校をつくるということについて話し合いを始めるというふうに、あの場で判断をいたしました。6月29日に開校準備委員会を設置したところでありますが、開校準備委員会、新しい学校づくりをスタートさせたので、これまでのような地域説明会という形では開催する予定はありません。それから場を変えてというところで、保護者や地域の皆さんが不安に思われていることなどに対する、そういった意見交換は今後もしっかりとさせていただきたいというふうに思っています。(p.2)・・・(C)

・室長:そういう話をお聞きする中で、教育委員会の再編をする目的とか、子どもたちの教育環境っていうところで、反対に説明をさせて。その意見交換をずっと重ねてきてたんですよ、こちらは。しっかりそこはお聞きしてきました。(p.6)・・・(D)

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内浦学区】(2020年7月21日)
・教育長:皆さんご存じのように再編適正規模というところは、条例で設置した「学校教育環境検討委員会」という福山市教育委員会の付属機関でご意見を聞いて答申した。その答申を、ご意見を尊重して作っていったのが「基本方針」であり「適正化計画」だ。教育委員会が勝手に作ったものではない。きちんと経過をとっている。(p.13)・・・(E)

・市教委:学校を残すという考えは、申し訳ないがありません。(p.17)・・・(F)

【市教委と山野学区住民との話し合い】(2020年8月12日)
・教育長:気持ちに応えたいという気持ちはある。でも学校を残したいという気持ちにはどうしても応えられない。(p.4)・・・(G)

・教育長:「学校再編はわかった。町づくりの方で」と言われるなら、私は全面的に何とかしたいと思いますけれども、学校を作る、残すという話は、ご理解いただきたいと。・・・学校再編するということをぜひご理解いただきたいと思います。お願いします。(中略)学校についてはないです。申し訳ないですけど。(p.6)・・・(H)

・教育長:これ以上進まないし、学校を残す、作るということは、そこを譲歩はできない。・・・教育委員会会議で決まったというか、今この方向でやるということは当然、教育委員会会議の中で説明もしていますし、当然決まったというか、その方向でやるということは改めてそれを見直すという議論はしていませんので。(p.7)・・・(I)

【2020年度第2回市政懇談会】(2021年1月14日)
・市教委管理部長:市教委はどうしてこういう考えを持っているのか説明会が出来ていない。保護者と地域に説明したい。(p.2)・・・(J)

【山野小学校・中学校の学校再編に係る対応方針について】(2021年8月)
・皆様のご意見も踏まえさせていただきつつ、行政としての今後の対応方針(2023年度の学校再編)を下記のとおりまとめております。ついては、下記対応方針についてご理解いただくとともに、今後、地域と行政が協力しながら地域の活性化、持続に向けた協議、取組をしていくに当たって、引き続きご協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。・・・(K)

 繰り返しとなりますが、内海・沼隈学区では、第Ⅴ段階の2020年2月27日に行われた説明会で学校再編が「決定」されました。ここで、住民との合意がなされていないにもかかわらず市教委が強引に学校再編を「決定」した理由として、教育長が実施した希望する保護者一人ひとりとの非公開での個別面談が挙げられています。この個別面談を実施した理由として、市教委は「話合いの場ではなく、一人ひとりの話し合いの場が欲しいという保護者からの意見があった(A)」からだとしました。市教委によると、この個別面談では保護者から「学校再編に賛同する」ということ、また「説明会の場では学校再編に賛成する意見が出しにくい」という意見が出されたということです。そして、市教委はこの個別面談の結果を踏まえ、学校再編が「保護者や地域住民の総意である(B)」と判断しました。

 もちろん学校再編に賛成する人がいることや、個別面談でそのような意見が出されたことは否定できません。しかし、これまでの説明会で多くの保護者や地域住民が学校再編に対して反対の声を上げてきたことや、アンケートの結果7割以上の住民が学校再編に反対しているということも事実であり、そのことは市教委も把握しています。それでも市教委は一方的に市の主張を押し付け、個別面談で出された賛成の意見だけを取り立てて「住民の総意」としました。このような市のやり方からは、市教委に反対する人の意見はないものとするという考えが露呈しています。

 そして学校再編が「決定」したことで、これまで以上に市教委の「住民に向き合う必要がない」という態度が明確になります。それは、「もう説明会は行わない(C)」という発言や「学校を残すという考えはない(F)」「『学校再編はわかった。町づくりの方で』と言われるなら、私は全面的に何とかしたいと思います(H)」という発言に表れています。また、第Ⅵ段階では「責任は市がとる(C)」という発言が見られます。このことは、学校を残す・残さないという“生殺与奪権”は市行政にあり、住民は従うのみだという市の考えを示しているといえます。

 しかし、学校の設置などの事業の遂行は、行政だけで進めるということはあり得ません。住民の意見を全く聞かずに再編を強行することは、住民自治の根本を揺るがすものだといえます。このことについて、市は「基本方針」や「適正化計画」は教育委員会だけで作ったものではないと主張し、学校再編が行政だけで決定したものではないと主張しています(E)。この発言、及び「基本方針」や「適正化計画(第1要件)」の主体は誰なのかについては、後の記事で確認します。

 山野学区では2021年8月に学校再編が「決定」されますが、内海・内浦学区と同様に決定される前から学校再編を前提だとする市の態度がみられます。特に第Ⅵ段階では内海・沼隈学区での学校再編が「決定」されているため、そのような態度がより一層表れています。このことは「学校を残したいという気持ちには答えられない(G)」「学校についてはない(H)」という発言から読み取ることができます。

 そして、(I)では「学校再編は教育委員会の中で当然決まった」という発言もされました。これまで市教委は、説明会などで住民に対しては「行政が独断で学校再編を進めることはない」ということを主張してきました。しかし、ここで「学校再編はすでに教育委員会内で決定していることだ」市教委が明言したことから、学校再編は「適正化計画(第1要件)」策定時から、すでに住民との合意関係なく「決定」されているものだったのではないかということが推察できます。そして、学校再編が「既定」だったということを第Ⅵ段階で明言したのは、やはり内海・沼隈学区のやり方で山野学区でも再編が達成できると市教委が確信したからではないでしょうか。繰り返しになりますが、もちろんこの時点ではまだ山野学区での学校再編は「決定」されていません。2021年1月14日の「市政懇談会」においては、市教委は「地域住民に説明できていないなら説明させてほしい(J)」という発言をしました。この発言にも、「説明はするが、学校再編について考え直すことはない」という市の態度が表れています。

 このように市教委は「学校再編は決まったもの」という前提で、学校再編を無理やり押し進めました。そして「⑤行政の役割」でも見られたように、地域住民を強硬に丸め込む形で2021年8月に学校再編が「決定」されました。

 最後に、内海・内浦学区の学校再編が正式に市議会で決定された際の議事録を確認します。内海・内浦学区の学校再編、及び想青学園の開校は、2021年6月24日の「福山市議会定例会 本会議」において、福山市学校設置条例の一部改正が賛成多数で可決されたことにより決定されました。

 なお、山野学区については、広瀬学園(=特認校)の開校が2021年9月28日の「福山市議会定例会 本会議」で決定されたものの、現段階では山野・広瀬・加茂学区の学校再編に伴う福山市学校設置条例の改正は決定されていません。しかし、市教委は山野学区の学校再編を「決定」したとして政策を進めており、内海・内浦学区と同様、今後市議会による条例の改正がなされ学校再編が決定されることが考えられます。

【福山市議会 定例会 本会議】(2021年6月24日)
・文教経済委員長(連石武則):文教経済委員会の委員長報告をいたします。(中略)議第81号福山市立学校設置条例の一部改正については、2022年令和4年4月に内浦小学校、内海小学校、能登原小学校、千年小学校、常石小学校、内海中学校及び千年中学校並びに常金中学校及び新市中央中学校を再編し、それぞれ想青学園、新市中央中学校を設置すること、また、再編後の旧学校施設を活用して常石ともに学園を設置することに伴い所要の改正を行うもので、その内容は、条例別表において再編後に設置する学校の名称及び位置を定めるとともに、廃止する各学校の項を削除するもので、(中略)討論において、反対の立場から、日本共産党は、本条例案は、内浦小学校、内海小学校、能登原小学校、千年小学校、常石小学校、内海中学校及び千年中学校並びに常金中学校及び新市中央中学校を統廃合し、2022年4月にそれぞれ、想青学園及び新市中央中学校を設置すること、また旧常石小学校の学校施設を常石ともに学園として、2022年4月に開校するものである。
 これまで、市教委は一定規模の人数が必要として小規模校を否定してきた。しかし、少人数だからこそ、学校、地域、家庭がつながり、親密で安定した異年齢の人間関係を築くことができる。それは、自己肯定感を育み、社会性を育て、社会人になって求められる必要な力をつけることになる。少人数の協働学習が有効であるのは立証済みである。小規模特認校やコミュニティ・スクールなど、小規模校を存続するための方策を検討することなく、スケジュールありきで進めてきたことは許されない。(中略)
 子どもの権利条約第12条には子どもの意見表明権が掲げられているが、市教委は当事者である子どもの意見を聞かず統廃合を決めた。これは子どもへの権利侵害であり許されない。(中略)
 また、内海町では2012年から空き家対策の活動を行い、約150人の移住者を迎えるなど、地域の発展に力を注いできた。このような地域の取組を無視し、統廃合計画を強引に進めることは、子どもを健やかに産み育てる環境づくりや、郷土愛を培い将来のまちの担い手づくりなど、持続可能な地域づくりを壊すことにほかならない。とりわけ、内海町に学校を1校は残してほしいという、多くの声があるにもかかわらず、民主的な合意形成は不十分なまま強権的に決めた統廃合は、住民の中に分断をもたらした。
 地域の衰退を招きかねず、教育的効果の科学的根拠も示されていない福山市学校規模・学校配置の適正化計画は撤回すべきである。
 以上述べた理由により、反対

 次に、賛成の立場から、水曜会は、本条例案は、2022年度令和4年度から、新たに想青学園、新市中央中学校及び常石ともに学園を設置することに伴い、それぞれの学校の名称及び位置を定めるため、改正されるものである。
 関係する各学区においては、これまで開校準備委員会などを通じて、開校に向け、精力的に議論を重ねてきた。
 引き続き、児童生徒にとって最善となる教育環境の整備に向けて、関係者との協議を行うとともに、児童生徒が新たな学校生活に円滑に移行するための事前交流事業を実施し、併せて校舎の建築に当たっては、学校内外の安全確保と学習環境に十分配慮して進めることを求め、賛成

 同じく、賛成の立場から、市民連合は、本条例案は小中学校の再編により、2022年4月に想青学園及び新市中央中学校を設置すること及び再編後の旧学校施設を活用して、同月、常石ともに学園を設置することに伴い、所要の改正を行うものである。
 2015年から進めてきた本市の学校再編計画については、この間、各学区の住民から様々な意見、要望も出され、今も、その課題が整理されていない地域もある。
 教育委員会は、こうした課題等に真摯に対応し解決を図る努力をすべきである。
 今後も機会あるごとに、地域住民と真摯に向き合い、理解を求めるよう一層の努力を行うことを強く求めて、本条例案に賛成

との意見がそれぞれ述べられ、採決の結果、委員多数をもちまして、原案のとおり可決すべきものと決定いたしました。…以上をもちまして、文教経済委員会の委員長報告といたします。

議長(小川眞和):これより質疑に入ります。質疑はありませんか。(中略)起立多数であります。したがって、委員長報告のとおり決定いたしました。

 以上のように、学校再編を最終的に正式に決定する権限を持った市議会では、共産党による反対意見が見られたものの、賛成多数で条例改正案が可決されました。これにより正式に内海・内浦学区、沼隈学区の学校再編、そして想青学園の開校が決定されました。

◆住民の論理 ①人口減少

 ここからは、住民側の資料から各観点における住民の論理を確認します。まずは、「①人口減少」に関わる発言を抽出していきます。

【市教委との話し合い(山野)】(2020年8月12日)
・住民:学校をなくしたら、若者が住めない。そしたら、人が増えない地域活性化できない。(p.2)・・・(a)

 住民からは、「学校をなくしたら、若者が住めない。そしたら、人が増えない。地域活性化できない。(a)」という意見が出されています。このような、学校再編はさらなる人口減少、少子化を引き起こすという論理は、「適正化計画(第1要件)」の策定時から一貫して主張されています。

◆住民の論理 ②学校と地域の関係

 次に、「②学校と地域の関係」に関わる発言を時系列で 抽出し、住民の論理を確認します。

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・住民:私が言いたかったのは、地域と学校っていうのが、もう当たり前ですが、子どものためにもなるし、地域のためにも非常に大事な公共的な財産なんですよね。・・・いろんな効能がある中で、そういうつながりが切れてく。それを持ってたのは学校なんですよ。単純に地域をどうつくるかっていうときに、理屈じゃなくて、そういうつながりの中で地域がつくられてるんですよ。それを簡単に切ってもらっちゃ困るんですよ。いうのが、それはもう当たり前で、分かってると思うんですよ、教育委員会は、教育をする者は。(p.12)・・・(a)

・住民:少人数でもその地域に学校があることの意味というのを本当に考え、地方創生を進めるという取り組みの中で存続して。要するに、その小さい学校は宝っていうふうに見てほしいと思うんですよ。それがあるから、そこに人がおり、親がおり、つながっていくっていう。(p.12)・・・(b)

【市教委との話し合い(山野)】(2020年8月12日)
・住民:そこが違う。町づくりをするにはね、学校がなかったら町づくりはできないんよ。(p.1)・・・(c)

・住民:周辺部は学校と町づくりを切り離しては考えられない。(p.3)・・・(d)

 「①人口減少」と同様、「学校と地域は一体だ」という論理が「②学校と地域の関係」でもみられます。そのため、「学校がなかったら町づくりはできない(c)」、「周辺部は学校と町づくりを切り離しては考えられない(d)」と主張されました。また、学校は地域にとって重要な役割を果たしているという意見も出されています。それは「小さい学校は宝(b)」という言葉に示されています。つまり、学校は「地域のためにも非常に大事な財産(a)」であり、それらを切り離して考えることは不可能だと主張しています。

◆住民の論理 ③教育理念

 次に、「③教育理念」に関する発言を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内浦学区】(2020年7月21日)
・住民:してその郷土愛はどこから生まれる?自分の生まれ育った住む町の、父祖の地を大切に思うのが郷土愛だろう。それはどこから生まれる?自分が育った地域・社会の中で育つ。そして自分が小中学校で地域の人に見守られながら学んだ、その地元の教育環境の中で育って生まれてくるものではないのか。その辺りをどう考えるのか聞きたい。(p.2)・・・(a)

・住民:私の子どもが通学していたころから、ここは地域と学校と家庭の3つが一体となってという感じがあり、それは今も変わらないと思う。地域の協力なくして学校というものはあり得ないと思う。(p.6)・・・(b)

【市教委との話し合い(山野)】(2020年8月12日)
・住民:移すことが子供の環境を整えることにはならない。子供は数がいればいいということは言えない。自然の環境やいろんな環境がある。(p.2)・・・(c)

【2020年度第2回市政懇談会】(2021年1月14日)
・住民:一人一人の子どもを人間として育てる教育内容が大切だ。(p.1)・・・(d)

 住民は「一人一人の子どもを人間として育てる教育内容が大切だ(d)」として小規模校の教育が子どもたちに必要なものだということを訴えました。また、郷土愛は「地元の教育環境の中で育って生まれてくるもの(a)」だという意見からも小規模校の役割が主張されています。このように小規模校は子どもたちのための役割を果たしているとともに、「地域の協力なくして学校というものはあり得ないと思う(b)」として、学校にとって地域は必要だとし小規模校を残すべきだと主張しました。また、「子どもの数がいればいいということは言えない、自然の環境や色んな環境がある(c)」という発言によっても小規模校の必要性を訴えています。

◆住民の論理 ④学校再編の理由

 次に、「④学校再編の理由」に関する発言を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。

【公開質問状3 提出(統廃合ネット)】(2020年6月23日)
・市教委からは、「義務教育学校を作る計画はありません。」との発言で、検討しようとの姿勢は全くありませんでした。 
常金丸学区でも、「小中一貫校・義務教育学校でよいので学校を残してほしい。」との要望 に対して、(仮称) 千年小中一貫校 (義務教育学校) 以降、「義務教育学校を作る考えはない」との見解が伝えられています。
鞆の浦学園は、小規模校なのに、義務教育学校でした。どういう基準があるのでしょうか。小中一貫教育校(義務教育学校)を設置する場合の「基準・条件」を、お示しください。・・・(a)

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・住民:小規模の学校っていうのはそういう面ではいいわけですから、そう言われるんであったら、大規模校でこんな成果が上がりましたよっていうのをいっぱい出してほしいし・・・。(中略)今になって小さい所は大きい所へ行かないけない。そういう中ではちゃんとした教育はできない、進められないっていうのを全く理解できないんです。(p.13)・・・(b)

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内浦学区】(2020年7月21日)
・住民:それから、この小中一貫校を始めたときに教育委員会は「小中一貫校は国から2分の1の補助が出る」と言われた。それが何年経ってここまで来ても変わらないと思う。「子どものため」といわれるが、自分たちの予算の都合で学校を造ろうとしていることに一番腹が立つ。(p.1)・・・(c)

【小学校校舎耐震化の問題について(山野)】(2020年12月11日)
・住民:耐震化とか再編とかは同じ話なんですか?いろんなことを考えたうえで、福山市としては、進めていこうという話なんですか?・・・(d)

【2020年度第2回市政懇談会】(2021年1月14日)
・住民:統廃合しないと、そういう子どもは育たないのか?(p.2)・・・(e)

 「④学校再編の理由」の分析では、小規模校では「ちゃんとした教育はできない、進められないっていうのを全く理解できない(a)」「統廃合しないと、そういう子どもは育たないのか?(e)」という住民の発言からわかるように、行政の説明する再編の理由を受け入れることができない様子が示されました。

 また、行政が教育以外の理由を学校再編の理由として挙げることに対しては、これまでと同様に疑問視する様子もみられます。それは「自分たちの予算の都合で学校を造ろうとしていることに一番腹が立つ(c)」という意見や、「耐震化とか再編とかは同じ話なんですか?(d)」という意見に示されています。この点、学校再編を実施する際には子どもたちのためなのかという当たり前のことを考えなければならないとする住民の考えが示されています。さらに、「鞆の浦学園は、小規模校なのに、義務教育学校でした(a)」と主張し、どうして地域ごとに差があるのか、そこにどういう基準があるのかということを疑問視する声も挙げられました。

◆住民の論理 ⑤行政の役割

 次に、「⑤行政の役割」に関する記述を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・住民:福山市教委の場合は、2月27日っていうのは例の全国的にこのコロナの対策が出された日ですから、それから後、休校中を挟んで、一直線に開校、統廃合を進めると。少ない所ほど安全なわけですから、これは今、真逆の政策ではないかっていうことを私たちは言っているわけです。(p.3)・・・(a)

・内海でそういう(移住者を呼ぶ)取り組みを地域住民の方が地域おこしでやられてることは、非常に貴重なことであるし、そこを応援し励ますのが福山市としての姿勢ではないかっていうことをずっと思ってるわけです。(p.10)・・・(b)

・住民:とにかく教育の根本を知ってください。小学校にも行ってください。中学校の生徒がどんだけ成長したか。それを知らないで学校を壊さないでください。それが子どもたちにとっても、残してほしいっていう声をずっと聞いてきてる、そこら辺を理解してほしいなと思います。(p.10)・・・(c)

【山野連合会要望書】(2020年7月14日)
・山野町は、2017年8月21日に開かれました「市長との車座トーク」の席においても、山野小中学校の存続を要望し、以来毎年山野からの課題として、学校存続をお願いし続けております。小学校校舎の耐震工事もされないまま、危険な状態で子どもたちが学校生活を送っていることは、地元の住民からすれば、行政の怠慢としか思わざるを得ません。・・・(d)

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内浦学区】(2020年7月21日)
・住民:どうしても再編問題を進めたいのであれば、まず沼隈町で再編合意の地域を中心にしてから内海町に一貫校として教育環境を残してもらうようお願いしたい。(中略)小規模学校にも教職員と児童生徒の人間的ふれあいや教育的な利点があるから無理な統廃合は行うべきではない。(p.1)・・・(e)

・住民:お願いです。内海中学校に一貫教育学校を造ってください。お願いします。(中略)ただ子どものことや現状を考えると、(全部を)残してほしいというのは無理だと思った。内海中に一つだけでいいから造ってください。お願いします。(p.14)・・・(f)

・住民:こういう状況を作っているのは、いろんな要望やアンケートの結果が出ているにも関わらず、内海町に(学校を)一つも残せないと教育委員会の皆さんが判断しようとしているからだと思う。 3校すべてを残せとは言わないが少なくとも1校を残すとしつつ、義務教育学校の準備を進めるということは出来ないのだろうか。(p.15)・・・(g)

【市教委との話し合い(山野)】(2020年8月12日)
・住民:一旦広瀬小中学校は廃校にして新たに広瀬学園を作るなら、山野も一旦は廃校にして小規模特認校にしてほしい。それが山野の折衷案だ。(p.1)・・・(h)

【第二市政懇談会での質問事項】(2020年12月11日)
子供たちの多様性を認めながら、一定の学校規模しか認めないのはなぜなのか。・・・(i)

【2020年度第2回市政懇談会】(2021年1月14日)
・住民:市教委ははじめから結論ありきだ。市教委の押し付けにしかとれない。教育行政は学校を守るのが基本だ。今は少なくなったら潰していく施策になっている。道端に倒れているものを踏み潰すやり方だ。小さい学校でも育てていく姿勢でいてもらいたい。(p.1)・・・(j)

 これまで見てきたように、住民は小規模校の利点を主張したうえで、「⑤行政の役割」では、「小規模学校にも教職員と児童生徒の人間的ふれあいや教育的な利点があるから無理な統廃合は行うべきではない(e)」として学校を残すことが行政の役割だとしました。

 内海内浦学区では、(f)(g)のように内海に少なくとも1校を残すべきだという意見が出され、山野学区では「小規模特認校にしてほしい(h)」という意見によってその論理が示されています。また、学校と地域を切り離して考えようとする行政に対しては、住民の地域おこしの取り組みを「応援し励ますのが福山市としての姿勢ではないか(b)」との意見や実際に小中学校に行き、そこで子どもたちがどれだけ成長しているかを見るべきだ(c)という主張がされました。

 さらに第Ⅵ段階ではコロナ禍に対する行政の対応について非難する声もみられます。具体的には、コロナ対策と学校再編は別問題としてとらえる行政に対して、学校再編は「今、真逆の政策ではないか(a)」という意見が出されました。また、山野学区では「学校再編の対象になっている学校は耐震化しない」という行政の姿勢に対し、「小学校校舎の耐震工事もされないまま、危険な状態で子どもたちが学校生活を送っていることは、地元の住民からすれば、行政の怠慢としか思わざるを得ません(d)」として非難しています。

 この明らかにインフラ切りといえる施策を進める行政に対し、「教育行政は学校を守るのが基本だ、小さい学校でも育てていく姿勢でいてもらいたい(j)」とも反論しました。もっとも、行政は学校再編を行うことによって子どもたちの「多様性を認め合う力」を培おうとしますが、教育環境については「一定の集団規模を確保する」という画一的な環境を無理やり揃えようとしています。この行政の再編の進め方に対して「子供たちの多様性を認めながら、一定の学校規模しか認めないのはなぜなのか(i)」という疑問が出されました。

◆住民の論理 ⑥決定のあり方

 最後に「⑥決定のあり方」に関する記述を時系列で抽出し、住民の論理を確認します。

【公開質問状3 提出(統廃合ネット)】(2020年6月23日)
・教育長は「内海町のこれからを考えると、このままではいけないという思いをいっぱい聞いた」としていますが「保護者個人面談」に参加したのは、対象が94世帯中の10数人と されるだけで、出された意見の概要の説明はなく、教育長の一方的な受け止めかたを押し付けたものとなっています。 
表向きは熱心にひざを突き合わせて話合うなどと、保護者の立場に立った教育長を演出しますが、個別面談は、そもそも保護者の人数が少ないからできることであり、責任者が個別に出向くなど極めて説得めいており、社会的立場を利用し、威圧的です。異例のものと言えます。どうしても統廃合をやりぬくという教育委員会の露骨な懐柔行動、説得工作・突破へのアリバイつくりと言われても仕方のないものです。
意見を聞くならアンケートで十分であり、参加者が少ないのも当然です。 
この「保護者個人面談」は妥当なものと言えないと考えます。見解をお聞かせください。(p.3)・・・(a)

・教育長は、冒頭「学校は残したいという思いはみなさんもっておられる。残してほしいという気持ちがよくわかった」と言いながら「意見の違いを出すことはとてもしんどい。表立っては言えない。言いにくい。(教育長と)話をしたことがわかることが心配。」といった保護者の声を聞いたと強調し、「学校を残してほしい」という統廃合に反対する声を、統廃合賛成の声が出しづらいと、まるで不当な圧力のように描きだしました。そして、「『新たな学校をつくる』」ということ、『まちづくりについて話を始めたい』ということが、皆さんの総意であると判断しました。」とし、「本日の会は、その区切りをつける会としたい。」と述べました。
しかし、「総意」であるはずもなく、どう見ても統廃合は反対、学校を残すという意見は多数であることも動かしがたい事実です。(p.5)・・・ (b)

【公開質問状3に対する回答=話合いの場(統廃合ネットと福山市)】(2020年7月14日)
・住民:要するに統廃合の意見が多数だというふうに言われるっていうのは、非常に理解がいかない。民主主義の社会ですから。私もいろいろたくさんの場で発言する機会ありますが、嫌だけども、手を挙げて発表させてもらいます。それは最低限のルールだと思うんです。(中略)そういうことを理由にして学校再編を、あとで個別に聞きました、とか、アンケートのところでこういうのをよく聞きました、意見がこういうふうにありますなどということを理由にして、内海の多数の意見のところを無視するというか、それを強行するっていうのは、絶対に到底、認められるものではないと思うんですが。(p.5)・・・(c)

・住民:それ(2月27日説明会)は福山市の教育長の意向を尊重して、住民無視の行動の表れだと思うんですよね。・・・そのたんびに教育長さんに言われることが、住民との意見のすれ違いというか、絶対にかみ合うことがないんだなっていう福山市の意向がものすごく突き刺さって、本当に福山市と内海町の問題になりますけど、どんだけ住民を傷付け、この統廃合のために住民の意思を聞こうともしない。合意はっていうのを最初から言ってても、強硬に教育長のほうの意見を尊重されて、住民の合意できてないっていうことを伝えても、書面も出しても全て伝わらない。その書面に関しても、教育長さんはこんだけの人が反対してるっていうことに真摯に答えようっていうこともまずなかったっていう。
 本当に合意をするっていうことは、反対の人の意見を真摯に受け止めて、こういうことで反対をしているんですっていうことを教育長さんはちゃんと聞いてほしいのに、それも聞くことはなかった。それで、この27日に突然こんだけの賛成の人がいるんだから、おまえたちは従えみたいな、そういう福山市のやり方に、もう本当に心が折れてます。内海町の住民の人たちに本当に謝ってほしいなって思います。もうとにかく、この報告書を見てびっくりします。(p.5)・・・(d)

【「新しい学校づくりに向けた説明会」内浦学区】(2020年7月21日)
・住民:どこに内海町の保護者住民の総意があるかという見極めが、教育委員会の方で十分に出来ていないのではないかと私は思っている。
 再編問題については基本的に内海町の総意を前提として進めるという、これは当初から言われてきたことなので、それをきっちり守って、内海町の住民また保護者の総意はどこにあるか(見極めてほしい)。
教育委員会が出されたアンケートは非常に数が少ないので、とても総意とは言い難い。(p.1)・・・(e)

・住民:とにかくこれで打ち切って前へ進めるというのは乱暴すぎる。・・・もうこれで決めるのでしょう。(p.16)・・・(f)

【市教委との話し合い(山野)】(2020年8月12日)
・住民:合意できない。合意できないと前に進めないということだったね。
→教育長:気持ちに応えたいという気持ちはある。でも学校を残したいという気持ちにはどうしても応えられない。
→住民:そしたら合意できない。地元と話をしても進まないから、スタートさせますというわけにはいかない。そういう気があるの?それこそ権力の横暴になる。(p.4)・・・(g)

【企画政策課と北部地域振興課との話合い】(2020年9月1日)
・住民:長は記者会見で最後は行政を信じて任せてくれと言っている。地域と話し合いはするが、最後は行政が決断しますと言っている。話し合いをする意味があるのか?・・・(h)

【2020年度第2回市政懇談会】(2021年1月14日)
・住民:市教委ははじめから結論ありきだ。市教委の押し付けにしかとれない。教育行政は学校を守るのが基本だ。今は少なくなったら潰していく施策になっている。道端に倒れているものを踏み潰すやり方だ。小さい学校でも育てていく姿勢でいてもらいたい。(p.1)・・・(i)

・自治連事務局長:決まっているから、やるというのではなく、それ以前に話し合いがないのはなぜか?説明会がいまだに開かれていない。2022年度ありきではない話し合い。(中略)ありきでは意味がない。子どもの教育環境を考えて、今の状況をより良いものにしていきたい。潰すというふうに考えないで、より良いものを考えていく。(p.1)・・・(j)

 内海・内浦学区では、2月27日の説明会で保護者と教育長との「個人面談」を経て学校再編の「決定」されたことに対し、「どうしても統廃合をやりぬくという教育委員会の露骨な懐柔行動、説得工作・突破へのアリバイつくりと言われても仕方のない、『保護者個人面談』は妥当なものと言えない(a)」と非難の声が上がっています。

 また、この個別面談を経て学校再編の実施が総意だとする市教委の判断に対しては、一部の保護者からの学校再編に賛成の声を聞いただけで、「『総意』であるはずがなく、どう見ても統廃合は反対、学校を残すという意見は多数であることも動かしがたい事実(b)」「どこに内海町の保護者住民の総意があるかという見極めが、教育委員会の方で十分に出来ていない(e)」としました。そして、「内海の多数の意見のところを無視するというか、それを強行するっていうのは、絶対に到底、認められるものではない(c)」、「これで打ち切って前へ進めるというのは乱暴すぎる(d)」と強く非難しました。

 この点、住民が実施しているアンケートの結果や署名の数から学校再編に反対している住民の方が多いというのは明確であり、総意ではないという住民の主張は妥当なものだといえます。それにもかかわらず、賛成の声だけを声高に主張し学校再編を強行する市教委の方法は、行政の決定プロセスとして到底認められるものではありません。

 山野学区では、計画の策定当時に「住民の合意がなければ再編は進めない」と市教委が説明したことを改めて確認し 、この学校再編は地域として合意できないということを主張しました。その際、行政が住民との合意形成を図ることなく学校再編に踏み切ることは「権力の横暴(g)」だとして強く非難しています。しかし、行政は「最終的には行政が決定する」として住民との協議を避けてきました。この行政の姿勢に対し、住民は「話し合いをする意味があるのか?(h)」「行政ははじめから結論ありきだ。市教委の押し付けにしかとれない(i)」「決まっているから、やるというのではなく、それ以前に話し合いがないのはなぜか?(j)」と反論しています。

 最終的に、山野学区は他学区の学校再編の「決定」や耐震化問題をはじめとする行政のインフラ切り、広瀬学区にのみ認められた「特認校」の設置などによって学校を残すということを主張することが難しくなり、行政に追い詰められる形で学校再編を受け入れ、山野学区の学校再編も「決定」されました。

◆行政と住民の論理のずれ

 ここで、本段階で生じた行政の論理と住民の論理の齟齬を確認します。今回は、大きく「地域」「教育」「行政」の3つに分けて整理していきます。

⑴「地域」に関する齟齬

 はじめに、「地域」についての行政と住民の考えの相違を「①人口減少」と「②学校と地域の関係」の分析を整理することによって確認します。「①人口減少」の分析では、行政は2015年当時の人口推計だけで判断して、今後は人が増えることはないと決めつけたことで、強引に学校再編を進めていることがわかりました。つまり、住民がいくら地域の人口を増やそうとする努力を行っていたとしても、あくまで「適正化計画(第1要件)」を策定した当時の推計値だけで判断し、その推計で人口減少が想定されているのであれば、地域衰退は「決まっている」としたということです。

 しかし、内海・内浦学区では、住民の取り組みによって実際に児童生徒数が増えています 。現に、2021年の内海小学校の生徒数は「適正化計画(第1要件)」の基準に当てはまらず、学校再編をする必要はありません。それでも、行政はそのような住民の取り組みやその結果に対しては目もくれず、「学校再編は決定している」という一点張りで再編を強引に進めました。このような行政のやり方からは、人口の減る地域には学校、及びインフラの整備は必要ないという考えのもと、学校再編の推進を妨げるものは無視するという行政の姿勢が明確に示されています。

 一方、住民は「適正化計画(第1要件)」の策定時から一貫して学校再編を行えば人口減少がさらに進んでいくという主張をしています。また後述の「⑤行政の役割」の中では、「行政は住民の移住対策の取り組みを支援すべきだ」という意見も出されていることから、行政はとにかく学校再編を実施することで人口の少ない地域から学校をなくすということに執着しており、その再編を妨げるような地域の取り組み、さらに学校再編に反対する地域の存在は軽視していることがわかります。それに対し、住民は地域存続に向けて人口を増やすためには学校が不可欠だとし、学校再編は地域の人口減少をさらに促進させるとして地域に学校を残すよう強調しました。

 学校再編が「決定」されると行政の態度は一転し、地域の人口を増やそうとする地域住民の移住対策を肯定し、さらに支援するという態度を示していることがわかりました。この行政の態度からは、学校再編を説得する必要がなくなり、住民に向き合わなくて良いという姿勢、そして学校再編を実施さえできればあとはどうでも良いという姿勢が読み取れます。

 「②学校と地域の関係」の分析からは、行政のなくなる地域に学校を残しても仕方がないという態度が明らかに表れています。そしてここでも、学校再編の推進を妨げる学校と地域の関係を意図的に排除 して話を進めていることがわかります。ところが学校再編が「決定」されて以降、行政は学校と地域は関係があると発言し、そして新しい学校に協力するよう住民に呼びかけました。この態度の一転も、学校再編を実施さえできればよいという考えから派生しているものだと考えられます。

 一方、住民はこれまでと同じく「学校と地域は密接だ」という前提のもと、地域存続には学校が不可欠だということを主張しています。さらに、学校にとっても地域は切り離せないものだということも主張しました。以上より、行政は学校再編を決行するために学校と地域を切り離して考えるとしている一方、住民は、地域にとって学校が切り離せないものだけでなく、学校にとっても地域は切り離せないものであるとして、学校と地域を別問題として考えることはできないと主張していることがわかりました。

⑵「教育」に関する齟齬

 次に、「教育」に関する行政と住民の考えの相違について「③教育理念」と「④学校再編の理由」での発言を整理して確認します。「③教育理念」の分析では、行政はこれまで挙げてきた教育理念を第Ⅵ段階において再び取り上げていることがわかりました。しかし、それらすべての理念は「一定の集団規模」を確保することによって成し遂げられるものという点で共通しているものでした。

 また「④学校再編の理由」では、子どもたちの教育環境の整備のためということが繰り返し主張されましたが、その教育環境にも「数」が不可欠だとしています。つまり、行政の考える教育には「数」が不可欠であり、「数」がなければ教育は成立しないとする論理であることがわかりました。そしてついには、「教育的に良いかは別として、適正規模に満たない場合は再編する」という発言までしています。結局は、この学校再編は子どもたちのためでなく、ただ子どもの数が少ないという理由だけで進められていることが露呈しました。

 それに対して住民は、「一人ひとりの子どもを人間として育てる教育」が大切だと主張しました。このような教育は、地域による教育によって成立するものです。つまり、住民は「地域のこどもは地域で育てる」という前提のもと、市の子どもではなく「地域の子ども」として地域が教育を行っているのであり、これからも地域単位で教育を行うべきだという論理であることがわかります。また、「④学校再編の理由」に関しては、行政の説明に対して「良い教育環境は、数を揃えるだけで整備できるものではない」と反論し、「数」の理由一辺倒で学校再編を決行する行政を非難しました。

 このように、行政は、教育には「一定の集団規模」が不可欠だという前提で、数が足りなければ良い教育ができないため学校再編をするとし再編を決行しました。一方、住民は「一人ひとりの子ども」を育てることが教育の本来の役割だとし、教育には「一定の集団規模」が不可欠だとする行政の考えに反論しました。学校再編が「決定」された今もなお、「一人ひとりを育てる教育をすでに行っている地域の学校を残すべきだ」と主張を続けています。

⑶「行政」に関する齟齬

 最後に、「行政」に関する行政と住民の考えの相違について「⑤行政の役割」と「⑥決定のあり方」の発言を整理して確認します。「⑤行政の役割」の分析からは、行政はどのような条件があったとしても学校再編を断行することが行政のやるべきことだとして無理やり学校再編を推し進めたことがわかりました。このような行政の姿勢は、新型コロナウイルスの感染拡大についての行政の態度から明らかに読み取れます。つまり、学校再編は最初から決められていることであり、遂行しなければならないという論理によって、このような強硬な学校再編が行われたと推察できます。また、学校再編を推進する過程では、「人口の少ない地域にインフラを残しても仕方がない」とする行政の考えもみられました。この考えは、山野学区における「耐震化」の問題によって明らかに露呈されています。

 それに対して住民は、行政の役割は学校再編を進めることではなく、地域の学校を守ることだと主張しています。そして、行政が学校再編を無理やり進めていることに対しては、教育理念として「多様性を認め合う」ことを挙げているのに、どうして教育環境の多様性を認めることができないのかと声を上げました。さらに、新型コロナウイルス感染拡大を受けてもなお「感染対策と学校再編は別の問題だ」として再編を進める行政に対し、学校再編を進めて教室内の生徒数を増やすのは行政のやるべきことに逆行しているのではないかという非難の声も上げられました。

 「⑥決定のあり方」については、行政はこれまで見てきたように学校再編は絶対に実施するという考えのもと、再編を妨げるような取り組みや状況を無視しています。第Ⅵ段階では、行政に対して賛成の立場をとる地域や住民には柔和な態度をとり、反対の立場をとる地域や住民に対しては強硬な態度を示すという差別によって、住民が学校再編に反対するという状況を作りにくくしている様子が明らかになりました。さらに2020年2月27日の内海地域説明会においては、学校再編に反対する住民に対して「本当に子どものことを考えていない」「住民を追い詰めている」と非難する行政の発言もありました。そして、最終的には学校再編に反対する住民の声はないものとされ、再編の実施は住民の総意だと行政が恣意的に判断することによって、学校再編が「決定」されています。

 このような決定の仕方に対して、住民からは多くの非難の声が上がりました。特に内海・内浦学区では、「再編に反対だとする住民が大半であることがアンケートや署名によって明らかであるのに、どうして反対の声を無視できるのか、そしてどうして再編が総意だと判断できるのか」という非難が殺到します。さらに教育長が個別で保護者と面談をしたということに対しては、「教育長がその立場を利用して保護者に圧力をかけたのではないか」という声も上がりました。

 山野学区でも、同様に「住民との合意形成がなされていないのになぜ学校再編を前提とした話が進んでいるのか」として行政を非難し、その決定のやり方を「権力の横暴」だと主張しています。

 このように、行政はどんな手段を使ってでも学校再編を実施するという姿勢のもと、最後まで住民の意見を無視し行政の一存で学校再編を推し進めました。それに対して住民は、行政の在り方としておかしい、住民自治の根幹を揺るがすものだとして非難を続けています。しかし、住民が反対の声を上げれば上げるほど行政の強硬さは増し、ついには学校再編に反対する住民との協議が回避され、行政の判断で「決定」と判断されました。実際、内海・内浦学区では住民の8割が学校再編に反対していましたが、行政はその8割の住民と向き合って話をすることを避け、行政と同じ考えの住民だけと話し合いを行ったことで住民との合意形成を図ったとしています。行政がこのようなプロセスで学校再編を進めたことにより、住民の反対の声が行政に届くことなく、行政の恣意的な判断によって学校再編は「決定」されました。それでもなお、住民は反対の声や行政を非難する声を上げ続けています。


 次回は、第Ⅰ段階から第Ⅵ段階までの全体を通じた行政の論理を見ていきます。



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