2022年日本映画市場考察②〜邦画アニメが市場を席巻している〜
前回「2022年日本映画市場考察①〜洋画と邦画のあいだに出来た明らかな格差〜」では、洋画と邦画のあいだで800億円もの興収格差が生まれてしまった理由について分析し、拡大公開(初日5万席以上)される洋画と邦画の本数に大きな開きがある、というひとつの要素を提示しました。また、1本あたりの初日動員数では洋画と邦画のあいだにそれほど差がないことを示しつつ、それでも洋画には明らかな課題があるとして項を終えました。本項ではまず、その課題について説明していきます。
洋画の興行が頭かぶりになっている
初日の動員数でそれほど差がないのであれば、その後の興行で洋画と邦画のあいだに差が生まれていることになります。そこで、「初日販売割合」、すなわち、全興収のうち初日の売上が何%を占めるのか、その中央値を洋画と邦画で比較してみましょう。
コロナ前は洋画/邦画ともにほぼ同じ水準だった初日販売割合ですが、コロナ後の2022年は数字に大きな開きができています。初日販売割合が高いということは、すなわち、興行が短命であるとも言えます。ちなみに、「上映日数」の中央値は、邦画が77日なのに対して洋画は60日ですので、やはり短命であることに間違いはなさそうです。2022年に拡大公開された洋画のうち約半数は60日以内に興行を終えているという事実は、コロナ前後で大きく変化した要素のひとつです。
その原因は、言うまでもなく配信とのウィンドウ期間が短縮されていることにあります。ディズニーが掲げる”基本45日”ルールを筆頭に、劇場公開から配信開始までの期間はどんどん短くなっています。配信時期が見えにくい邦画と比べ、洋画の劇場興行が頭かぶりになるのも仕方のないことです。
邦画にも大きな課題が…
さて、洋画と比べると順風満帆に見える邦画ですが、大きな課題が横たわっています。すでに巷でも囁かれているように、「実写」と「アニメ」のあいだに大きな格差が生まれているのです。
2022年の映画興行を引っ張った100億円超作品のうち、実に3本が邦画アニメ作品でした。もっと言えば、97億円の興収をあげて年間第5位のヒットとなったのも邦画アニメ作品です。TOP5のうち4本を占める邦画アニメの人気ぶりは、あらためて指摘するまでもないことでしょう。
昨年、興収10億円の大台を突破した邦画アニメ作品は全部で14本ありました。邦画実写、洋画合わせて10億円を突破した作品が全部で40本でしたから、実に35%を占めています。興行収入に換算すると、その占有率はさらに高まります。昨年、10億円を突破した作品の総興収は約1500億円。そのうち邦画アニメ作品は46.7%となる約700億円を稼ぎ出しています。
この占有率はコロナ前から右肩上がりに上昇しており、2018年時点のそれから倍増しています。日本が世界に誇る邦画アニメは、国内市場でも堂々たる覇権を握ったと言えそうです。
ただ気になるのは、その強い光のおかげで見えにくくなっている邦画実写作品の苦戦です。
上のグラフは、拡大公開された邦画アニメ/邦画実写/洋画のそれぞれが、10億円を突破した確率と1本あたりの興収中央値を示したものです。
絶好調の邦画アニメは年間21本が拡大公開され、実に70%を超える15本が興収10億円を突破するヒットとなりました。一方、問題の邦画実写はと言うと、年間57本が拡大公開されたにもかかわらず、10億円を突破した作品は11本にとどまっています。確率でいえば19.3%という低さです。洋画の10億円突破確率が37.8%ですから、実は洋画にも増して、邦画実写は興行的な苦戦を強いられているのです。
10億円に届かなかった邦画実写作品を見てみると、「TANG タング」や「“それ”がいる森」など人気のジャニーズ俳優が主演している作品や、テレビドラマからの映画化「劇場版ラジエーションハウス」、評判が良かった「ハケンアニメ!」など、コロナ前なら10億円を超えていてもおかしくなかったような名前が並びます。
100億円を超えるような特大ヒット作が市場をにぎわせる一方、作品の規模や話題性では劣っても着実に集客してきた中ヒット作品が明らかに減ってきています。次項では、そのあたりの現実について、もう少し深堀りして考察していきます。
「2022年日本映画市場考察③〜特大ヒット作が市場を独占?〜」に続きます。
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