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2022年日本映画市場考察③〜特大ヒット作が市場を独占?〜

前回「2022年日本映画市場考察②〜邦画アニメが市場を席巻している〜」では、邦画アニメが絶頂期を迎えている裏で、実は邦画実写作品が苦戦に強いられている現状について指摘しました。本稿では、考察をもう一歩先に進めて、興収レンジごとの内訳がコロナ前後でどう変化しているのかについて、見ていきたいと思います。

まずは日本映画製作者連盟が発表した資料から、2022年に興収10億円以上を稼いだ作品のリストを見てみましょう。ちなみに年間1143本の映画が公開された中で、10億円を超えたのは40本のみ。その確率はわずかに3.4%とあって、下のリストに名を連ねた作品は、押しも押されぬ人気作と言って差し支えないと思います。

興収10億円を超えた2022年公開作品
※日本映画製作者連盟発表資料(12月公開作品を追加)
※興行収入の単位は十万円
※興行収入は2023年1月31日時点

興行収入レンジごとに見る構成比

2022年は『ONE PIECE FILM RED』の197億円を筆頭に、4本もの100億円超作品が生まれました。この4本は長らく映画館で上映されていましたので、この特大ヒット作品たちが市場をほぼ独占しているんじゃないか!?という印象を持った方は多いのではないでしょうか?そのあたり、実際にどうなのかを検証してみましょう。興行収入を10〜19億円、20〜49億円、50〜99億円、100億円〜という4つのレンジに分けて、それぞれの構成比を比べてみます。

興行収入レンジごとの構成比
※日本映画製作者連盟発表資料より

上記グラフの2022年部分を参照ください。問題の「興収100億円以上作品」は合計564.2億円で、全体(2131億円)の26.5%という結果でした。年間1000本以上が公開されている中で、わずか4本の映画が全体の4分の1を超える興収をたたき出しているのですから、市場を独占しているという印象もそれほど見当外れではなさそうです。

続く「興収50〜99億円作品」は合計で212.6億円(全体の10.0%)。このレンジに属する『名探偵コナン〜』もほぼ100億円作品ですから、いかに特大ヒット作の占有率が高いかがわかります(100億円超レンジに含めた場合、占有率は全体の31.2%)。

興収50億円を超えるこれら7本が稼いだ合計776.8億円という興収が、およそ1000本以上の「10億円以下」作品が稼ぐ合計690億円を上回っているというのが、実は現在の映画市場の構造なのです。1000本の興行収入 < 7本の興行収入。なかなかにインパクトのある事実です。

興収10億円台のヒット作輩出が難しくなっている

この構造はコロナ前の2018年、2019年から変わらないのですが、コロナ後に大きく変化したこともあります。それは「10〜19億円」レンジの作品の苦戦です。

2019年には合計459.3億円を稼ぎ出していた10億円台の作品群ですが、2022年には約55%減となる219.8億円まで激減しています。本数で比較しても、2019年が34本だったのに対し、2022年は17本と半分にまでその数を減らしています。

なぜ、「10〜19億円」レンジの作品数が減ってしまったのでしょうか。実は、アメリカの映画市場でも同じような現象が起きています。「2022年 全米ボックスオフィス考察④〜配信サービスとの住み分け〜」で示したとおり、アメリカでも中規模公開の作品がコロナ後に大きく興収を減らしているのです。その稿では、理由は配信サービスまで待てばいいという目に見えないユーザー心理にある、と書きました。おそらく日本市場でも、同じ理由でこのレンジの作品が集客に苦戦しているのだと思います。

コロナ前後に公開されたシリーズ作品を例にあげてみるとわかりやすいかもしれません。

コロナ前後で公開されたシリーズ作品

通常、続編は前作よりも興収が落ちるとされているので、一概にコロナの影響とは言えませんが、こうして並べてみるとそれぞれの作品で大きく数字を落としているのがわかります。東映のホラー映画『犬鳴村』はコロナ直前の2020年2月に公開されて興収14.1億円のサプライズヒットとなりました。しかしその翌年に公開された『樹海村』の興収は6.8億円まで激減し、シリーズ3作目となる『牛首村』は5.6億円まで数字を下げています。

名探偵エルキュール・ポアロが活躍するシリーズ作品の興収激減については、「2022年 全米ボックスオフィス考察④〜配信サービスとの住み分け〜」でも書きました。全米では興収1億ドルを突破した『オリエント急行殺人事件』に対し、『ナイル殺人事件』は55.3%減となる4,560万ドルの興収に終わっていますが、日本ではさらに落ち幅が激しく、実に前作から68%も興収を落としています。

松竹の『ザ・ファブル』はそこまでの落ち幅ではないのですが、やはり20%近く興収を減らしてしまいました。アクションの切れ味も増し、作品としてはグレードアップしているだけに、もしコロナの影響がなければ…と思わざるをえません。

ではここで、興行収入が惜しくも10億円に届かなかった2022年公開作品の主だったところを確認してみましょう。

惜しくも興収10億円に届かなかった2022年公開作品

これらの作品は、もしかするとコロナ前であれば10億円台の興収を稼いでいた可能性があります。その根拠について、次項で「観客構成の変化」をテーマに解説してみたいと思います。

2022年日本映画市場考察④〜映画館ユーザー構成の変化〜」に続きます。







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