第8回「エスプガルーダ」
キノコを食うと腹の具合がいい。
多分、それなりに健康に気を使っている人はみんな食ってるわけだが、自分の場合はその頻度が多い。
食ってると随分と腹の調子がいいから食ってる、と言う理由だけで食ってるわけだが、そんな話を先日行った献血でしたら対応してくれた看護師さんが「どんどん食べた方がいい」と笑顔で言っていた。
医療関係者が手放しに褒めている、と言うことはやっぱりキノコは身体に良い物と世間では決まっているらしい。
ただ、そのキノコで一度だけ失敗したことがある。
去年の夏頃だろうか。ラーメン屋にフラリと入った時、その日はトッピングのキクラゲが半額の50円だった。
キクラゲも好きだったから迷わず頼んだわけだが、トッピングの量としては丼全体を覆うほどの大量のキクラゲに少々圧倒された。
まぁ、迷わずモリモリと食ったわけだが、食後三時間ほどで異変が起きた。
ゲリと吐き気をダブルで併発するというあまりにも酷い事態だ。
こんな経験は他にないから、最初は何が原因なのか分からなかった。
だが、それなりに小賢しく生きてきたなりに思い当たる節があった。
キクラゲだ。
キノコの類は大量に食うと食中毒やらを引き起こすと、どこかで目にした覚えがあった。フラフラの頭を絞ってそれならばと、胃に残ってるキクラゲを全て吐き出し、緑茶で胃洗浄することで若干緩和したが、まぁ、あの時は本当にひどい目にあった。
頭から汚い話をしました。ごめんなさい。
まぁ、何事も食い過ぎは良くない典型だと思う。
結局その後も普通に中華料理のキクラゲは常識的な量で口にしている。
腹の調子はとてもいい。
cruel destiny
前回、さんざっぱら「怒首領蜂大往生」をやって、自分がSTGがとんでもなくヘタクソだったと言う話に終始してしまった。結局、色々書くとか言いつつ、あの頃のヘタヨコシューターのクソの役にも立たない話をダラダラと書いただけの酷い内容だったな、と後から見返してちょっと泣きたくなったけれど。
そして、その後も懲りずにボクはゲーセンでSTGをやっていた。
あの当時はたしか、斑鳩やボーダーダウン、ゼロガンナー2、あとはチェンジエアブレードあたりをなんとなく触っていた時期だ。
ただ、どれもピンと来る感覚はなかった。
大往生の次にCAVEからでたケツイも自分の肌には合わなかった。
頭の中で首領蜂隊としての感覚が染み付き過ぎていた感覚だった。
バーチャロンフォースなんかもやっていたが、大往生の時に注ぎ込んだような熱はもうなかった。それでも激戦区池袋を根城にして対人勝率50%前後をキープ出来ていたのだから、それなりなんじゃないかと言う感覚はあった。
ある日の夜。池袋GiGOの向かいのゲーセンに気になるゲームが稼働し始めていた……今はその雑居ビルもGiGOらしい。
少なくともGiGOになる前も、その前もずっとゲーセンが入ってるビルだったことは覚えている。
そこで稼働していたのは、以前P'パルコで見かけたエスプレイドみたいな名前のゲームで、全体的にエメラルドグリーンの画面が綺麗で惹かれた。
CAVEの新作だった。
とりあえず100円を筐体に入れてプレイしてみた。
エスプレイドとはまるで違う、と触ってすぐに理解出来た。
まず、音楽がとんでもなくかっこいい。キャラ選択画面での音楽がすでにカッコいいのだ。そうしてキャラを選んでプレイを始めると、本当にシステムからなにからSTGとしてだいぶ新しいゲームだと分かる。
自機となるキャラクターが「覚聖」というモードチェンジをすることで弾幕の速度低下を生み出すと言う面白いシステムだ。
面白いのはシステムだけではなく、キャラクターが性転換する。
今でこそTS物は一般向けもエロ方面でもかなりよく見るジャンルだったが、あの当時はちょっと珍しかった。
冒頭から断言するのだが、本作を語る上でストーリー設定からゲームシステム、音楽まで何もかもがこの「覚聖」と言う要素が付き纏う。
このゲームの名は「エスプガルーダ」と言う。
エスプレイドに続く「エスプ」の系譜に連なるゲームだ。
先にも書いたが「覚聖」と言うシステムは、敵の放つ弾幕速度の低下を引き起こすことで全体的な難易度が大幅に引き下げられている。
同時に稼ぎにも関わるシステムであり、難易度低下一辺倒のシステムではない。
また、万能な物ではなく使い続けるとむしろ「弾幕の速度が上がる」と言うリスクも孕んだ諸刃の剣と言える。
status quo
CAVEのSTGはボクのさんざやり込んだ「怒首領蜂 大往生」で難易度としての頂点に到達していた。
稼働から20年経過した現在でも、多少の異論はあるだろうが、最高クラスの難易度を誇る弾幕STGであることは多くの人が認める所だろう。
多くのSTG好きからすれば、難易度が高いことは喜ぶべきことだろう。
難しいことを楽しむ狂人たちのことをシューターと言うのだが、それは同時に新しいプレイヤーの参入を拒むハードルであることはまごうことなき事実だ。
CAVEとて会社組織だ。商品を販売し、遊んでくれる人間が減ってしまえば商売として成立しなくなる。既に存在しているファンの要望を無視してでも新規の顧客がいなければ、いずれ滅ぶ未来が訪れる。
極端な話ではあるが、シューターたちの間でもそれは言われていた。
そういう点では本作「エスプガルーダ」はかなり難易度が抑えられたSTGだったと言える。
大往生やケツイのような二週目は存在せず、一周で終わり。
弾幕も覚聖システムで速度の制御ができ、条件付きでオートボムも搭載。画面に登場する弾幕の量そのものも抑えられており、非常にとっつきやすいゲームとして仕上がっており、稼働当初は周囲のシューターたちからも「どうしたんだCAVE」と言う声が聞こえてきた。
このように、あらゆる意味でそれまでのCAVEの方向性とは違うゲームだったわけだが、実際にプレイしてみると、全ては我々プレイヤーの杞憂だったことを理解出来た。
覚聖システムは難易度低下のための物だ、と書いた。
だが、その本質はより稼ぐためのシステムであった。
覚聖中、たしかに敵の弾幕の速度は低下するが、それにより画面には大量の弾幕が残り続けることになる。ここで覚聖システムの挙動の一つとして「撃破した敵の吐き出した弾が全て得点アイテムになる」と言う特徴が挙げられる。これが本作の重要なキーとなる。
シューターの中にはスコアラーと言うタイプのプレイヤーが存在する。
文字通り、スコアをどれだけ稼げるかと言うSTGが存在した当初からあるプレイスタイルだ。
そして弾幕STGの多くはスコアを稼ごうとすると難易度が途端に跳ね上がる傾向が強くなるわけで。覚聖システムをステージ攻略だけではなく、稼ぎに利用することとなる。
必然的に、普通にゲームをプレイして攻略するよりも全体の難易度がアッパーされるわけだ。
初心者用の間口を広げつつも、より高難易度のプレイ体験を得たいプレイヤーへの遊び方を提示するこの方式は、既存のシューターたちにも喜ばれた。
では、中途半端にSTGが上手くなってしまった人間にとってこれはどんなシステムになるのか。
稼げないし、生き残れない。
最悪のシステムだった。
稼ごうとして、無理をして。日和って使わずに、稼げない。
割り切れない人間が使いこなすにはとんでもないジャジャ馬な代物だった。
ただ、ヘタクソでもやってれば、理解していく。
稼ぐために使うのか、先に進むために使うのか。この割り切りが出来ないプレイでは簡単に死に繋がる、アーケードゲーム特有の罠として機能している。
一度でも覚聖によるスローモーションと爽快感を知ってしまうと自制が効かなくなる。このスリリングさと気持ちよさのせめぎ合いがプレイヤーの感覚を狂わせていく。
3000E
エスプガルーダの最大の魅力は音楽かもしれない。
とにかくカッコよかった。
あの当時、ゲーム音楽におけるトランス系はアングラなエロゲがメインで、あとは音ゲー関連ではそこそこ使われていたジャンルだが、それ以外のアーケードゲームではちょっと目新しいと言うか、新鮮な感覚が強かったと思う。
ただ、その音楽を出力するための能力が、ゲームの方になかったと言うことを詳しい人は知っているかもしれない。
当時のCAVEが使用していた基板は性能的に少々厳しく、具体的に言うと「怒首領蜂 大往生」は前作にあたる「怒首領蜂」よりも性能が一段下がる物を使用していた。
エスプガルーダでも大往生と同じ物を使用しており、グラフィックはもちろんのこと、音楽においても制約があったと言う。
だが、その点を差し引いてもゲームセンターの雑音の中でエスプガルーダの音楽は異彩を放っていた。
また、ステージの進行に合わせて曲の盛り上がりなどが来るように想定して作曲されていたのだが、覚聖システムの影響でステージ進行速度にズレが生じてしまうと言う致命的な部分もあったと言う。
この点に関しては、後のCAVE作品では改善なり対策が行われているだが、当時はそう言った面でも実験的な作りだったことを伺わせる。
実際、覚聖を道中で一切使わないプレイだと、BGMの盛り上がりや切れ間などが非常にきれいにまとまっている。
個人的にはステージ2の「渓谷」が本作で一番好きな流れかもしれない。
プレイしていても実際に楽しいステージだ。敵の弾幕を回避し、大型機を覚聖状態で撃破して稼げる、非常にバランスのいい構成で好感が持てる。
続くステージ3の「要塞都市」への流れも自然であり、ゲーム全体の盛り上がりに期待を持たせてくれる。
当時、「怒首領蜂 大往生」に狂っていたボクにとって、エスプガルーダはある意味癒やしでもあった。
言うならば、大往生は狂戦士の鎧を開放して使徒と殴り合ってる状態だったのに対し、ガルーダはイシドロに稽古をつけているような感覚が近いだろうか。
ガルーダも後半ステージにもなるとなかなか歯ごたえのある場面はあるのだが、終始「楽しい」と言う感覚でプレイ出来ていた。
これにはさんざん殺意だらけの最前線、首領蜂隊で鍛えられた成果があってこそな部分もあるだろうが、やはり耳に聞こえる音楽の影響が大きいことを疑う余地はない。
cold like stone
当時、池袋でエスプガルーダがプレイ出来る場所は少なかった。
ビックカメラの裏にあるサファリは治安も悪いし、音楽が全然聞こえなかった。GiGOの地下1Fには入ってなかったし、モアイにも入っていなかった。もしかしたらあの当時、西口や他の通っていないゲーセンで稼働していたのかもしれないが、少なくとも自分の知る範囲では結局GiGOの前のゲーセンでタバコを咥えてプレイする他なかった。
ここで当時の池袋がどういう場所だったのかを軽く脱線すると、まぁ治安は悪かった。
北口は今もそうだと思うが、中国人と韓国人とタイ人、フィリピン人にヤクザなんかがウロウロしている繁華街だ。
池袋ウエストゲートパークやデュラララで描かれるような半グレは普通に街にいたし、銃撃事件も一度か二度あった。
東口は比較的マシだが、それでも今は亡き豊島区公会堂前の公園や、アムラックス、首都高の周辺にはホームレスがゴチャゴチャと住んでいた。誰が管理しているのかも良く分からない雑居ビルばかりだった。
今ではABCマートになっているビルはインディース専門のCDショップとゴスロリの専門店とゲーマーズとカードショップが同居するカオスだった。
ただ、再開発の噂みたいなのは色々なところで聞いていた。
西口ではそれが特に顕著で、大通り一本入った路地の先には昭和そのままな居酒屋やスナック、氷屋に酒屋、乾物屋が並んだ長屋街のような雰囲気だった。通りを挟んでラブホテルやチェーンの定食屋、一軒向こうは汚い雑居ビル、そういう街。
今ではその大半が取り壊され、きれいなビルに生まれ変わっている。
オタクと半グレ、アングラと昭和、東京のカオスをそのままぶちまけたような街が池袋だった。残念ながら、首のないライダーや自販機を投げ飛ばすような怪力男はいなかったけれど。
あの当時つるんでいた仲間は、ほぼ全員と連絡が取れない。
一時的に同じ水域で泳いでいただけの間柄だ。たまたま同じような水温が心地よくて、たまたま同じようなエサを食ってただけに過ぎない。潮目が変われば水域を離れる、そんな繋がりばかりだった。
ゲーセンが潰れたらもう会えない、稼働しているゲームが無くなれば話さない。人間関係なんてそんなもんなんだろうと学びながら登る大人の階段は、小汚い雑居ビルの外階段のようだった。
vision2
エスプガルーダの攻略は、楽しかった。
なにより、大往生よりもサクサクと進んだ。
プレイし始めて一月か、二月か。そんなペースでラスボスまで到達出来ていたと思う。
ただ、このラスボス到達のあたりで気づく。
こんなにも美しいビジュアルと音楽で彩られた作品なのに、垣間見える狂気があまりにも大きい。
このゲームは、生身の人間がザコやボスとして立ちはだかる。
それも、最初のステージから。
怒首領蜂などでは倒した戦車は地面に爆発した痕が残るだけだが、本作では生身の人間キャラクターたちは倒すと血溜まりになる。
最初のステージでは、まぁなんというかそれもしょうがないのかな、と言うグロテスクな側面もなんとなく理解出来るのだが、終盤であるステージ5後半からCAVEの、いやエスプガルーダに込められていた狂気が全面に出てくる。
倒した敵が悲鳴を上げる。
これだけ書くと「そりゃ当たり前だろう」と。21世紀のゲームで声がついてるんだから、そんなもんはあるだろうと。
問題は、大量のザコ敵として画面を埋め尽くすほどのクローンの少女がこちらに殺到してくること。そして、殺す都度に悲鳴を上げ、血溜まりに変わり、ステージの床が真っ赤に染まっている。
これに気づいた瞬間、怒首領蜂大往生とは別の種類の狂気に触れているのだと気づいた。なにより攻略に必死で何を殺しているのかプレイ中には理解出来ない。
ゲーム脳、なんて昔誰かが言っていた。
そういう脳味噌でなければ楽しめない作品に触れていると気づく。
筐体から、最高にカッコいい音楽が流れていた。
筐体から、数百の女の子の上げる悲鳴が聞こえていた。
ゲームだから出来る演出だ。
ゲームだから楽しめる描写だ。
そして、悲鳴を上げる敵は、自分の操作するキャラクターたちにとって、すり潰すべき敵だった。
なによりも、殺しに来ているのだから、殺さなくてはいけない。
後に、設定資料集を読んで分かったこともある。
あれは殺してやったほうが良かった敵なんだと。
rhythm meister
果たして、対にガルーダとして覚醒した主人公たちを操作し、ボクは悪の王様であるラスボスの撃破に成功した。
もう春になる頃だっただろうか。あまりその辺の記憶はない。
クリアしても、ボクはガルーダにコインを入れていた。
音楽を聴くために。
ゲームセンターと言うのは、日常的にうるさくて、臭くて、汚い場所だ……そんなイメージを抱く人もいるだろう。
今ではタバコは分煙だったり禁煙の場所も多いし、どこもかしこも小綺麗な場所ばかりだが、うるさいことだけは共通しているだろうから通じると思うが……まぁ、音楽を聴くような場所ではない。
それでも、ゲームセンターの雑音まみれの中で聴くエスプガルーダのあの音楽が大好きだった。
基板パワーが弱くて、想定通りの音ではない物だったのかもしれないけれど、あの騒音を切り裂く鮮烈なトランスに耳を傾けながら戦うのが好きだった。
お前はおかしい、異端だ、狂ってる、センスがない、狂ってる。そう言う人もいるかも知れないが、ボクは好きだった。
ああ、そう言えばと思い返す。
そもそも、ボクが最初に好きになった「音」はデパートのゲームコーナーで鳴っていたアウトランの楽曲だったのだ、と。
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