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「まんがで伝授:課長のための君主論」がかなり良質な君主論入門である件
概して「まんがでわかる○○」というタイトルのものには、過度な誇張や不正確なトンデモ設定にされているものが多い印象があり、
この「課長のための君主論」も表紙を見る限りはトンデモ系かな、と思ったのですが、
いや、これはかなり見事な仕上がりでした!
「商品企画の課長に抜擢された気弱な新米課長が、上司に勧められた『君主論』を読んで開眼していく」という展開ですが、
作中で起こる事件が「会社でいかにもありそう」な常識の範囲内の事件ばかりという、サラリーマンには親近感のわくリアル路線になっています。
たとえばマキャベリの『君主論』では、
「反対者を片付けるときは一気に粛清せよ、なぜなら細かい罰の積み重ねは恨みを買うが、大きな粛清を一発かませれば恐れられ、恨みにはならない」
という意味のことが書いてあるのを、
「リストラするなら小出しに辞令を出さず組織改革で一斉に降格の嵐を吹かせよう、個別にやったほうがむしろ怨恨になる」
といった、現代の常識でも「たしかにね」と思えるテーゼに置き換えていたり。
なにしろ君主論を学んで成果が出るようになった主人公が、社長の前で謙虚にしてみせることで自分がリストラされることを防ぐ、という現実的な賢い判断をみせたり、「日本サラリーマン的にも実現可能な君主論の応用」の実例集としても読めて、とても面白かった。
マキャベリの『君主論』といえば権謀術数の書とされていますが、たしかに日本的な意味での「権謀術数」には、敵対者にも腹の中でアカンベーをしつつうまくヨイショして対立を回避するという技術も含んでいるのかもしれず。大事なのは結果であって、プロセスが君主論らしからぬ「日本的な」根回しになったとしても、それでうまく生き残れるなら君主論の立派な応用と言えそうです。
だいいちマキャベリの『君主論』をいきなり読んで、「明日からこのとおりに生きよう」と思い立った人なんてのがいても、少なくとも日本の会社では生きていけないと思うしw。
現代日本のサラリーマンの身の丈にあった君主論の応用事例として、とても面白く読めました。『君主論』の入門書としてかなりオススメです。