もし雪女とむじなが現代論理学を学んで時事問題に斬り込んでみたら
雪女「むじなさん、おそば、くださいな」
むじな「おや珍しい!東京に出てきたのかね?最近どうりで東京も寒くなったと思ったよ!さあ、座って!よくこの店が分かったね」
雪女「だって、ラフカディオ・ハーンの『怪談』の『むじな』を読んだら、老人がむじな(のっべらぼう)に会ったのは赤坂だってわかるんだもの。ラフカディオ・ハーンのマニアなら、あなたに会いたければ赤坂界隈を探すでしょ?」
むじな「いやー、まいった!あんたもかなりの、ラフカディオ・ハーンマニアだねえ?」
雪女「というか登場人物だし」
むじな「俺たちの場合は、さしずめ、登場妖怪ってとこかね?それにしても浮かない顔だがどうしたね?」
雪女「東京に来る時に新幹線の中でスポニチ読んでたら、気になる記事があって。女性議員さんが『女性はいくらでもウソがつける』と発言したらしいんだけど」
むじな「あー、あのニュースね。ところでその議員さんというのはもしかして、
こんな顔だったかい?」
雪女「、、、んー違うなあ。その議員さんには目も鼻も口もあったし。むしろ目も鼻も口もインパクトが強い感じ」
むじな「そいつは残念。もはや俺たち妖怪には現代日本にますます出番ないね。で、気になったというのは?」
雪女「私、最近、論理学にハマってて」
むじな「そいつは初耳!」
雪女「で、『うそつきのパラドクス』というのを学んだんだけど、『女はウソをつく、と、女性議員が言った』場合は、パラドクスにあたるのかなって」
むじな「おー、面白いね。俺も論理学好きだからノッちゃう話題だね!で、結論から言うと、これはパラドクスじゃなくて、ちゃんと真偽が検討できる命題だと思うね」
雪女「へえ、というと?」
むじな「論理学の『量化』(※)という手法を使うと、こういう主張の構造はスッキリするんだ。
簡単に言うと、『〇〇は△△である』という主張は、『いつも』なのか『あるときは』なのか、また、『すべての』なのか『ある者は』なのか、をハッキリさせなきゃいけない、という説明がいいかな」
雪女「あー、わかってきた。さっきの女性議員さんの発言も、、、」
むじな「そうそう。ご本人が『すべての女性は、いつもうそをつく』という意味で言ったなら、これはパラドクスというか、まあ、論理的に変な発言ってわけよ。でも常識的に解釈すると、この人は『ある女性は、ある時にはうそをつく』と言いたいんだろうね。だから発言自体は論理的にはおかしくないので、この人の発言が適切だったかどうかを粛々と検証すればいい」
雪女「なるほど。
でもさ、だとしたらなおさら、この人は『ある特定の女性たちは、うそをつくことがあるんです』と攻撃的なことを言っていることになっちゃわない?」
むじな「そうだね。そもそも『うそをつく』とか『女性というものは』みたいなコトバの選び方をしていること自体が、非常に攻撃的な印象で、
これだけ分断の克服がテーマになってる時代に、分断を煽るようなコトバの選び方をする戦略自体、政治の世界で目立つには効果あるのかもしれんけど、見ていてイヤなもんだねえ。
その点で言うと、この議員さんの発言を巡って、擁護派からも批判派からも『頭が腐ってる』『クソどもが』『脳にうじがわいてる』的な攻撃的なコトバがネット上で応酬されているのは、日本の古典妖怪としてなんともショックだねえ。
この記事のライターは過去記事でも徹底したバフチン主義者と標榜してる人だから、なおさらこのニュースに透けて見える分断に危機を持ちつつ、やはりバフチン主義者としてはこのニュースもなんとか『カーニバル的笑い』に変えられないかと、俺たちなんぞを呼び出してキャラとして使ってるのだろうね」
雪女「他にもまだ気になることがあるの」
むじな「ほう、なんだい?」
雪女「さっきの分析のとおりに考えると、この議員さん、『なんと言われようと私は本気でそう思ってるのだ』と言い張れば、内容の是非はともかく、論理としては一貫したはずなのに。なんで『そんな発言はしていない』と逃げに入ったのかしら?」
むじな「まあ、論理的には、その点ではこの人がうそをついていたことになっちゃうねえ」
雪女「ある女性はあるときにはうそをつくって、ご本人のこのことだったのかしら?」
むじな「おや!たしかに、論理的にはそうなるね!うまくこの話にカーニバル的なオチをつけたね!」
雪女「いろいろありがとう。勉強になったわ。おそばも、おいしかった。今度は私の雪国へも遊びに来てよ。いい居酒屋を紹介するから」
むじな「おお!いいね!楽しみだね!いやー、実は俺、北国の地酒というものに、目がないんだよねー!」
雪女「、、、のっぺらぼうだけに、ね」
※「量化」論理学についての参考文献としては、以下の第一章を是非!義務教育の教科書に載せてほしいくらいです!論理学とエピステモロジーが学校の必須科目になってくれないかな。