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「大都市の上空にエイリアンの巨大母船が!」・・・というステレオタイプを逆手に取った『第9地区』を映画館で観ておいてよかったといまだに思うハナシ

アーサー・クラークの『幼年期の終わり』から、ハリウッド超大作映画『インディペンデンスデイ』にいたるまで、

「ある日、世界の大都市の上空に巨大なエイリアンの宇宙船がやってきた」というオープニングはSFの歴史上、何度も使われてきたイメージですよね。

そして私自身も、この「パターン」は、往々にしてステレオタイプなストーリーに陥りがちとはわかっていても、ハッキリ言って、物語のスタートとしては、大好きなパターンですw

それが『幼年期の終わり』みたいに「実は侵略目的じゃなかった」に転ぶにせよ、『インディペンデンスデイ』のように「もろに侵略者だった」に転ぶにせよ、ツカミとしては強力で、玄人なSFファンもとりあえず盛り上がれますからね。

たとえば映画なら、オープニングで巨大宇宙船がグゴオオオっと、ニューヨークあたりの上空に覆い被さるスペクタルな特撮シーンをひとつ入れるだけで、観ている方も、

「お!『巨大宇宙船が上空に現れた』のパターンか!さてさて、今回は、『侵略者だった』パターンかな?『侵略者じゃなかった』パターンかな?あるいは、『侵略者だった→侵略者じゃなかった→いや、結局、やっぱり侵略者だった』の、二重ドンデン返しをやってくる凝ったパターンかな?」

と、「定番の見せ方」だとはわかっていても、心はツカまれちゃいますよね。特撮が派手なら派手なだけね。

というわけで、

私自身は、この、ド定番の「巨大宇宙船が大都市上空に出現!」パターンをいまだに愛する者ではあるけれど、

この定番パターンをドンと使いつつ、しかし、「お?今回は侵略者かな?それとも友好的な宇宙人かな?」と勘繰る私たちの心理のまさに逆手を取ってきた凄まじい事例が存在します。

『第9地区』という、南アフリカ出身の映画監督による超絶傑作です。

「まだこの映画をみたことがない」という方にはぜひオススメしておきたい。

あまり語るとネタバレになってしまうのですが、簡潔にいうと、

「大都市の上に巨大なUFOが?あれは侵略者だろうか?それともそうでないのか?」という二分法でまず考えてしまう私たちの直感を、恥ずかしい、と思わせてくれる、哲学的なテーマなのです。

つまり、この宇宙人、難民のメタファーなのですよ!

衰弱していて、困っている。しかしなるほど、武器も持っている。未知の感染症を持っているかもしれない。いやそもそも、数が多いので、地球に受け入れてやる土地を用意してやることも簡単ではない(とりあえずの隔離施設として人類が南アフリカに用意するのが「第9地区」)。 

そしてこの映画の秀逸なところは、かつてアパルトヘイトがあった南アフリカを舞台にしている分、どうしても政治的なテーマを読み込んでしまうのですが、

作った側は「あまり現実政治を読み込みすぎず、エンターテインメント映画としてみてほしい」と強調している通り、サスペンスとスリル、そして最後には(切なさを伴う)カタルシスのオチが用意されているという見事なSFである、ということです。

私自身も、この映画を初めて観た時の感想としては、

世界のどこかの特定の難民問題や政治問題のメタファーというよりは、それらを包括するもっと深い問題、「強い側と弱い側の立場、どちらの立場に立つかで、物の見え方が逆転する」という体験を視聴者に迫るという認識哲学的なテーマを扱った野心的な作品と思った。

もちろん、この映画を観た人が、家に帰ってニュースを見れば、この映画とよく似た構図がいろんなところにあることに考えさせられてしまうことには結局なるのですがw、

確かに、特定のどこの国の話をモデルにしてる、とか、特定のどんな政治問題をモデルにしてる、とかいった作り方をしているわけではなく、もっと大きな視野の普遍的な問題、、、つまりは、いろんな時代のいろんな地域で起こり得ること(それはつまり、もしかしたら、私やあなたにも生まれた国や時代によっては起こり得ること)を普遍的に表現していると言ったほうがいい。

そして、私にとってちょっとした自慢とも言えることは、私はこの映画を、前評判も特に聞かず、とうぜんネタバレ情報も入ってない状態で、フラリと入った映画館で鑑賞し、ドギモを抜かれた、という体験をしていることです。

先述のように、「お?巨大宇宙船が出てくるパターンのSFかあ?さあて、今回は、宇宙人が侵略者ってパターンかな?友好的ってパターンかな?」というくらいの気持ちで見始めた私が、どれだけ、この映画の展開に裏をかかれ、驚かされ、ラストには胸からこみあげてくるものを感じたか。

まこと、こういうことがたまにあるから、映画館というものにはそれなりの頻度で通ったほうがよい。

まれに掘り出し物に出会った時の感動がたいへんな大きさになるし、そもそも、今回の記事のように、何年か経った後も、「僕はあの映画を公開当時、まだ前情報もほとんどない時期に、映画館で観たんですよ!あれは凄い感動体験でした!」と言えるわけですからね。

というわけで、

SF映画のステレオタイプなイメージをツカミに持ってきつつ、それを逆手にとった展開で観るものを驚かす『第9地区』を、未見の方には私としてはぜひオススメしたいし、

しかしそのいっぽうで、

昔ながらの、単純明快な展開の、「巨大宇宙船が現れた、どうしますか?」テーマのSF映画がこれからも量産されていくこともまた、おおいに望む者なのでした。たくさんのストレート勝負な作品が安定的に量産されてこそ、たまに現れる「変化球」投手も輝くわけですからね。

そして、ストレート勝負を受け止めるにせよ、たまに現れる変化球投手の魔球に素直に驚かされるにせよ、よい出会いを求めて、

ぜひ、映画館という場所には、定期的に通うようにしましょう!


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