漫画『静粛に、天才只今勉強中!』は「フランス史通」ならビリビリくる上級者向け
ひさしぶりに以下の話題の続きです。フランス革命時代を舞台にした面白い作品を集めて紹介していこう、と思っているのですが、
このたびは、掘り出し物に出会ったと言えるかもしれません。
倉田江美さんの『静粛に、天才只今勉強中!』がめちゃくちゃ面白かった!
フランス革命期からナポレオン時代までを、天才的な才覚と沈着冷静な「時代の先読み」判断で、見事に生き抜いていく、ジョゼフ・コティという人物を描いた漫画。
このコティという人物は、ロベスピエールやタレーラン、ナポレオンといった重要人物たちとも深く関わり、フランス史が大きく動く場に居合わせることになる、、、って、ハイ、フランス史通ならもうおわかりですね、このジョゼフ・コティという主人公は架空の人物ではなく、フランス史最大級の奸雄かもしれない、ジョゼフ・フーシェをモデルにしているのです。
で、私が読んだところ、これは「モデルとしている」どころか、ほぼほぼ史実に忠実な「ジョゼフ・フーシェの伝記漫画」ですな。ロベスピエールに対するクーデターの件も、ナポレオンを追い落とすためにタレーランと手を組んだ経緯についても、ジョゼフ・フーシェに関する有名エピソードは全部入ってる。
フーシェはとかく裏表が激しく陰謀好みすぎて、この人物に興味を持つ人は男性ばかりかと思っていましたが、倉田江美さんがこのフーシェという怪人にどうしてこのような熱意を持って、魅力的な主人公に彫琢することになったのか、それも興味がある。
そうなんです、この漫画に描かれているジョゼフ・コティ(史実でいう「ジョゼフ・フーシェ」)は、史実通りに陰謀ばかりに顔を突っ込んでくる油断ならない政治家なのですが、やけに魅力的!
ラストシーンで、まんまとナポレオンの没落政権からあらかじめ逃げ出して、田舎の豪邸で奥さんと二人のんびりと過ごしている時の穏やかな顔などをみていると、なるほど史実のフーシェも悪人とか怪人とかではなく、「たんに激動期をうまく乗り切って、家族とのんびりした余生を手に入れたかった人」なのかもしれない、とも納得させられます。
その他、フランス革命史上の、「もう知っている」と思っていた人物や事件に意外な解釈をあててくるのでとても面白い!ただし、フランス革命に前もって通じている歴史マニアでないと、面白どころがちょっとわかりにくいかもしれません。つまり、通好みの作品かと!