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責任、の話。

僕は老人ホームで働いている。

最近うちに入居された方がいる。


その方は、ご病気でほぼ体が動かない。

つい最近までお一人で生活してらしたんだけど
ご病気を発症してからの進行が早く、

短い期間で体の動きがどんどんと制限されていって
今では左腕を少し動かせるぐらい。

その他の部分は、ほぼ動かすことができない。


でも認知面、意識はしっかりしておられ
お話をすることはできる。

ものすごく辛いはずなのに
会話から笑顔も見せてくださり、
ご病気に負けない強い方だな…
と感服していた。




自分の言いたいことは
はっきり『して欲しい』と意思表示できるが、

かといってわがままばっかり
と言う感じでもなく控えめで。



時にご入居される方の中には(ご家族にも!)
お金を払ってもらってるんだから
援助はやってもらって当たり前。

という認識でおられる方がいるけれども、


少し表現が厳しいものになるかもしれないが
僕たちはお手伝いさんではない。

なんでもかんでも手伝えばいいと言うわけではない


自立支援が、福祉の根幹、
理想は僕たちがいない世界。



できることは自分でやってもらう

自分でできることを増やしてもらう

それが僕たちのやることだ。


この方はご自分では動くことはできないけど、

よっぽど芯の強い方だなぁ…

支援させてもらえてありがたいなぁ…
と思っていた。




最近、
その方のご様子が少し変わってきていた。


食事中に車椅子に座りながら
体を揺らすようになられる。
お話を聞くと
「誰かに押されている、
お辞儀をしろと言われる」

と、幻覚のような症状を訴えるようになる。


その時は
病気が進行してしまったのか

幻覚が見えるような認知症状が
出てきてしまったのかと、

単純に考えてしまっていた。


揺れてしまうことの無いように、
背もたれの倒れるリクライニング車いすを
使ってもらったが、


普段は揺れないんだけども
こちらから「大丈夫ですね。」
など声をかけると、
思い出したように揺れが始まる。

そしてまた、
誰かに押されている、
お辞儀をしろと…
との発言が繰り返される。

僕はお医者さんではないので
断定はできないけれども
認知症というものは
急激に発症進行するものではないので、
せん妄状態、と呼ばれるご様子に思えた。

往診医に相談したが、
「せん妄の疑いは強いが、
現病の専門医でないと判断は難しい」と。

近々かかりつけ医に受診する予定があったので
それまでは様子を見ていくこととなっていた

そんな中、
幻覚や幻聴のような症状は
どんどんひどくなっていく。


食事もままならないほど
揺れることが出てきていた。

これは対応が必要だな…と、

記録を見返していると、
ある時から
揺れや幻覚のような

おかしな表現が現れていることに気づいた。





先日、お薬の面で不備があった。

うちはお薬を薬剤師さんが
セットしてくれるんだが、

セットの時点で、
毎週月曜日だけ朝晩のむ薬が
その日だけ晩の分がセットされていなかった

ご入居から日が浅く、

『晩の薬がないです』と、

本人が教えてくれなければ
僕たちも気付けていなかった。




薬剤師さんに確認し、間違いが明確に。
往診医に対処を相談する。

結果、
医療的には1日のズレはそこまで問題ではなく、
本人にキチンと説明し、
次週から改めて毎週同じ曜日に
内服を続けて行くように、

との指示をいただき、

その方にはお医者さんからの指示をお伝えし

『そうですか安心しました』という
お声をいただいていた。





そうか僕は、

とんでもなく怖い思いをさせたのかもしれない

いや、させている。







障害の受容には段階があり、


はじめはショックを受け、

認めることができず、

落ち込んで、

怒って…を行ったり来たりしながら
自身の障害を受け入れていく、

という考え方がある。
(僕が知ってるのはキューブラー・ロスの
障害受容の五段階。諸説あるんだと思います)

この方はその期間が短すぎた。

瞬く間に体が動かなくなって

今やっと現実を理解していってらっしゃるんでは
ないだろうか



そんな、自分では何もできない状況の中、

自分の病気の進行を食い止めているお薬を
間違えられた。



こんな怖いことがあるだろうか。

その方の意識ははっきりしている。


僕たちのことを信用できない

信用できなくなっているにもかかわらず

その人たちの助けがないと自分は何もできない


精一杯の自己表現が、

体を揺らす、

理解が歪んでしまい、

幻覚が見えてしまっているのではないだろうか。

これは、むちゃくちゃ怖い。







いやでも、
覚えてくださっているからこそできる事がある。



失った信用を取り戻す。
解決には長い時間が必要になると思う。


これは素人の発想で、

これが根本の原因では無いのかもしれないけれども

考えれば考えるほど、

動くこともできず、

他者に自分の全てを握られている中で
生きていくストレスと言うものは
とてつもないものであろう。

と言う思いにたどり着く。



まずは、

この思いを正直にお伝えして、心から謝る。




体を動かすことができないストレスであったり
実際問題、
人に頼らなければ生活をしていくことが
できないことを受け入れてもらいながら、

不安の解消、
楽しみ、役割をつくっていかなければならない。


簡単なことではないけれども

できないことでもないと思う。


寄り添っていこう
この考えを広めていこう







本当に怖い思いをさせてごめんなさい

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