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ゲームと教育「エデュテインメント」

 現代社会では、ゲームの要素を教育やビジネスなど多様な分野に応用する試みが活発化しています。その中で「エデュテインメント」、「ゲーミフィケーション」、「シリアスゲーム」という3つの用語が注目を集めています。これらは一見似ているようでありながら、目的や適用領域が異なります。本稿では、この三つの概念の共通点と違いを述べます。

1. エデュテインメント

 エデュテインメント(Edutainment)は、教育(Education)とエンターテインメント(Entertainment)を融合した概念で、学習者が楽しみながら知識を習得できるコンテンツや活動を指します。主に学生向けのゲーム教材、教育番組、展示物などで構成され、学習者の興味を引き出し、理解や記憶の定着を促進します。
 具体的な実践例としては、(1)学習ゲーム: ゲーム形式で数学・物理・経済などを学べる教材、(2)教育番組: キャラクターが科学や歴史をわかりやすく解説する映像作品、(3)博物館の展示: インタラクティブな展示物で触れて学ぶ体験型の教育、などがあります。
 エデュテインメントの概念は、19世紀からの教育用玩具や20世紀の映画に遡ります。現代ではデジタル技術の進歩により、マルチメディアを活用した高度な教育コンテンツも開発されています。

エデュテインメント:チェス駒を何かに見立てている

2. ゲーミフィケーション

 ゲーミフィケーション(Gamification)は、ゲームのデザイン要素やメカニズムを、ゲーム以外の文脈で活用することを指します。具体的には、ポイント獲得、バッジ、ランキング、レベルアップといったゲーム的要素を、ビジネス、教育、ヘルスケアなどの分野に取り入れ、ユーザーのモチベーションやエンゲージメントを高める手法です。
 具体的な実践例には、(4)マーケティング: ウェブサイトやアプリでユーザーが特定の行動を行うとポイントが貯まって報酬や特典と交換できる、(5)企業内研修: 社員が研修プログラムや設定された目標を完了するごとにバッジや称号を獲得してモチベーションを維持する、(6)健康管理: 歩数計アプリで歩いた距離に応じてゲーム内のキャラクターが成長するとともに健康的な生活習慣を促進する、などが挙げられます。
 ゲーミフィケーションの背後には、行動心理学や自己決定理論があります。人間は自律性、関係性、有能さを感じるとモチベーションが高まるとされ、ゲーミフィケーションはこれらをゲーム要素で刺激します。

3. シリアスゲーム

 シリアスゲーム(Serious Games)は、娯楽以外の明確な目的を持って設計されたゲームを指します。教育、医療、軍事、ビジネスなど、多岐にわたる分野で活用され、ゲームを通じて特定のスキルの習得や問題解決能力の向上を図ります。
 具体的な実践例としては、(7)医療補助: 外科手術のシミュレーションゲームで医師の技術向上を図る、(8)軍事教練: 仮想環境での戦術シミュレーションを通じて兵士の訓練を行う、(9)経営学習: 経営シミュレーションゲームでビジネス上の判断の理解を深める、などが知られています。
 シリアスゲームの開発には、分野によっては高度な技術が必要になります。例えば、リアリティの高いシミュレーションを実現するには、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの先端技術が重要で、またシミュレーションを実行するには、AI(人工知能)の技術も不可欠です。

シリアスゲーム:軍事教練

4. 三つの手法の共通点

 これら3つの手法は、共通してゲームの要素やメカニズムを活用し、ユーザーのモチベーション向上や行動変容を目指しています。特に、以下の点で共通性があります。
・モチベーションの向上: ゲーム的要素で興味を引き、積極的な参加を促す。
・学習効果の促進: 楽しみながら学べる環境を提供し、理解と記憶の定着を図る。
・行動変容の促進: 望ましい行動を誘発し、継続的な参加を促す。

5. 三つの手法の相違点

 それでは、これら3つの手法は、どのような点で方向性の違いがあるのでしょうか。様々な視点から、あらためて分類することにします。
 
(ア) 目的
エデュテインメント: 教育と娯楽を融合し、楽しみながら学べるコンテンツを提供。
ゲーミフィケーション: 非ゲームの活動にゲーム要素を組み込み、モチベーションやエンゲージメントを高める。
シリアスゲーム: ゲームそのものを教育や訓練のツールとして活用し、特定のスキルや知識の習得を目指す。

(イ) 適用の方法
エデュテインメント: 教育的内容をエンターテインメント形式で提供。
ゲーミフィケーション: 既存のプロセスやシステムにゲーム要素を追加。
シリアスゲーム: 特定の目的のために設計・開発されたゲームを提供。

(ウ) ターゲット
エデュテインメント: 子供、学生、一般の学習者。
ゲーミフィケーション: 一般消費者、従業員、Webユーザーなど幅広い層。
シリアスゲーム: 専門職、訓練生、医療従事者、軍人など特定のスキル習得が必要な人々。

(エ) コンテンツの性質
エデュテインメント: エンターテインメント性の高い教育コンテンツ。
ゲーミフィケーション: ゲームそのものではなく、ゲーム的要素の活用。
シリアスゲーム: 高度なシミュレーションや専門的な内容を含むゲーム。

(オ) 具体例
エデュテインメント: 科学原理をアニメで説明する教育番組。物理化学の法則を学習するためのカードゲーム。ジグソーパズルのようにして新しい遺伝子やタンパク質を設計するゲーム。歴史的キャラクターになりきるRPG。
ゲーミフィケーション: フィットネスアプリでの歩数に応じたバッジ獲得やランキング機能。顧客対応のシナリオを選択肢で進行させる営業トレーニングゲーム、又はロールプレイシナリオ。
シリアスゲーム: 災害対応訓練のための仮想現実ゲーム。サイバーセキュリティの知識を高めるためのシステム障害やデータ流出を模擬した対ハッカー対策ゲーム。

学習効果があるカードゲーム

6. 研究とエビデンス

 これらの手法の有効性については、多くの研究が行われています。
エデュテインメント: 学習意欲の向上や理解度の深まりに寄与するが、エンターテインメント性が高すぎると学習効果が薄れる場合もある。
ゲーミフィケーション: ユーザーのエンゲージメント向上や行動変容に効果があるが、過度な競争心を煽ると逆効果になるリスクも指摘される。
シリアスゲーム: スキル習得や意思決定能力の向上に効果的であるが、開発コストや専門性が高い。

7. 倫理的考慮

 これらの手法を適用する際には、以下の倫理的な側面にも注意が必要です。
プライバシーの保護: ユーザーのデータ収集と利用に関する明確な規定や透明性を確保する。
依存性の防止: 過度なゲーム要素によりユーザーが依存症にならないよう調整する。
内容の適切性: 特にシリアスゲームにおいて、暴力的・差別的な表現が無いように配慮する。

8. まとめ

 エデュテインメント、ゲーミフィケーション、シリアスゲームは、ゲームの持つ魅力やメカニズムを活用し、教育やビジネス、社会問題の解決に新たな可能性を提供しています。
 共通してユーザーのモチベーションやエンゲージメントを高めることを目指しながらも、それぞれの目的、適用方法、対象ユーザーには明確な違いがあります。
 専門職の方々にとって、これらの手法を正しく理解し、適切に活用することは、組織や社会における課題解決に大きく貢献します。
 デジタル技術の進歩とともに、これら手法の導入はさらに続き、様々な領域での応用が期待されます。今後も、倫理的なことに配慮しながら、新しい可能性への探求が続くでしょう。
 

ゲームと教育:授業風景、新しい可能性への探求が続く

あとがき

 教育を目的に設計されたゲームや、使い方次第で教育効果のあるゲームは、世の中に多数存在します。しかし、ここでは個々の商品については言及いたしません。応用の各論については、後日あらためて書こうと思います。


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