マネジメント 人の視点:視野の範囲と人の能力
僕は普段から、色々な場所で「経営」について話をします。講義や勉強会、顧客である企業の経営者の方など、話す相手は様々です。このなかで話す内容について、必ず論理的な説明を行うことにしています。
このとき、必要があれば、僕がどの分野の論理、例えば単に経営学だけでなく、経済学、社会学などです。そして僕は、必ずこのように説明します。
「企業経営は経済活動だから、ヒト・モノ・カネを扱うもの。さらに経営戦略では、知識や時間を加えて考える。」
この説明をした後で、もう一つ付け加える話があります。それは、「ヒトは心で考える、モノ・カネは科学で管理する」ということです。
ヒトの問題を扱ううえでの、科学的なロジックはあります。しかしこのとき、単にロジックと数字だけで扱うと、うまくいきません。働く人の「心」を考える必要があります。
人を雇うということは、自分にできないことをやってもらうことです。もし自分でできるのであれば、人を雇う必要はありません。
経営者の方の中には、「仕事は全部自分が教えている」と言う方もおられるでしょう。しかし、人を雇わなければ、会社の規模を維持できないのであれば、やはり同じです。嫌なら、自分自身で仕事を回せる範囲まで、会社の規模を縮小すればよいのです。人にうまく働いてもらえないのなら、それはその人の、適正事業規模を超えているのです。
一方、モノ・カネは、科学で考えなければなりません。ヒトは、気持ちよく働ける環境であれば、根性論も時には有効です。しかしモノ・カネ、例えば機械などに根性論は通じません。無理をすれば必ず壊れてしまいます。そして科学で考えるには、科学の法則を学ばなければなりません。
そして企業の問題を考えるとき、モノ・カネを扱うのがヒトであることから、必然的にヒトの問題を扱うことが多くなります。
・リーダーの限界がメンバーの限界
経営者の方からは、よく社員の愚痴を聞きます。その中にはもちろん正論もありますが、一方で、社員の方に同情することが少なくありません。なぜなら僕は「リーダーの限界が組織の限界」と考えているからです。
僕は、僕の仕事は全て教育から始まると考えています。企業の様々な問題を扱います。戦略立案から始まる案件でも、途中で必ずと言って良いほど、教育が必要になります。
問題解決には、組織としての成長が欠かせません。また戦略を通じて、成長や拡大を目指すときも、それまで以上の、組織の成長が必要になります。
このとき、僕は必ず「組織の品格はリーダーの品格」と話します。
ごく一部の専門集団を除き、どんな仕事でも、必ず組織内での教育が必要になります。このとき多くの指導はOJTで行われます。OJTは企業のそれまでの積み重ねです。指導方法も含めて、指導の内容が継承されます。このとき一般的には、最初のリーダーの技術(業務の能力)と指導力を上回ることはありません。
組織の拡大と共に社員が増えれば、技術や指導力といった、さらに能力が高い人材を雇うことができるでしょう。
能力が高い人材は、高い条件を求めます。この人材に合った条件を整えるとき、往々にして最初のリーダーが業務についていたときよりも高い条件を提示しなければなりません。
例えば、、、創業者が会社を立ち上げて、5人を雇ったとします。創業当時、創業者は月給30万円、社員5人は25万円だったとします。
努力の結果、この会社が社員数100人になり、人事教育の専門人材を雇うとしましょう。このような人材で、経験が豊富であれば、月給30万円で雇うことは不可能でしょう。
企業の規模が大きくなりましたから、創業者の給料も随分高くなっていることでしょう。しかし、もしこのとき創業者が、「自分が社員を教育したときの給料より高い!」と文句を言えば、この人材を雇うことはできなくなります。
この例のようなことはまずないかと思いますが、もしこのような狭量な経営者であれば、そもそもここまで大きな会社にはなっていないでしょう。なぜなら、優れた人材は、このような企業を選ばないからです。また同じように、成長とともに能力を身に着けた人材は、このような企業を見限ります。
1990年代まで、多くの売り上げ(≠利益)をあげながら、今人が離れている企業をいくつも見ました。
・人の能力とは
ここで挙げた例は極端(実はそうも言い切れませんが)ですが、リーダーの能力には、心の広さや懐の深さといったものも含まれます。良心やモラルも欠かせないでしょう。僕が尊敬する経営者の方の中には、ご自身は「大したことない人」と仰いますが、とても朗らかな文字通り「いい人」がいます。僕もお会いするだけで嬉しくなれますから、大した人徳です。とても真似のできることではありません。
近年、経営者の必須知識として、リベラルアーツが注目されています。また人材育成では、リカレント教育が注目されています。これらは共に人としての力を育成する教育です。直接業務と関わる技術や能力ではありません。
つまり近年求められている教育は、教養なのです。
僕は常々、視野の広さと人の能力は比例すると考えています。