マーケティング 最初に強みと弱みを考えてはいけない

僕のnoteでは何度か「強み、弱み」という言葉について記しています。そのときあった出来事や感じたことを元に書いていますから、すぐに全てを思い出すことはできませんが、僕の記事でははこの「強み、弱み」という言葉について、否定的な内容のものが多いかと思います。

以前もいくつかの視点から記しましたが、多くの場合、競争優位を確立できない、主観的な視点になっていることが多いことや、根拠を説明できないものが多いためです。
最近もとある集まりで、この「強み、弱み」という言葉を聞きました。
この集まりはデザインの団体で、毎年セミナーを開催しています。僕はこの委員を務めていますが、セミナーの内容を議論している際に出たものでした。

このとき、僕は大きな違和感を覚えたのです。

そのため今回は、マーケティングの、いくつかの視点から「強み、弱み」という考え方の問題点について考えたいと思います。

・プロダクトアウト・マーケットイン
製品開発の考え方に、プロダクトアウト、マーケットインという考え方があります。
プロダクトアウトは、商品の企画開発や生産において作り手の論理や計画を優先させる方法です。一方マーケットインは、商品の企画開発や生産において消費者のニーズを重視する方法です。

どちらが正しいかというもんだいではないのですが、一般的に1990年代前半までの日本は、プロダクトアウトによって、高い性能を競争優位を確立してきました。しかし1990年代後半から、大量生産大量消費から多品種少量生産に移った頃から、日本は競争力を失い、イノベーションを起こせなくなったと言われています。お気づきかと思いますが、多くの消費者のニーズに応えなければならない多品種少量生産では、自社の論理ではなく、市場のニーズに自社の能力を合わせていかなければならないため、一般的にはマーケットインが適しています。

しかし日本は、戦後からの発展とものづくり、つまりプロダクトアウトの考え方から脱却することができませんでした。
「日本の高い技術があれば、日本のものづくりは復権する」などというのは、このような状況判断の間違いによる考え方と言えるのではないてましょうか。

これはあくまでも僕の経験からの見解ですが、「強み、弱み」という言葉を使う方は、プロダクトアウトの考え方が強く残っているように感じます。
これは名古屋という地域性もあるかと思いますが、製造業に限らず根強いようです。

先程も述べたように、デザイン(デザイナー)の協会でこの言葉が出るのは、かなり危険であるように感じました。近年では、デザインイン、コンセプトインという考え方が重視されるようになっていますから、この問題はかなり深刻です。

・ウォンツ、シーズ、ニーズ
引き続きマーケティングの用語に、ウォンツ、シーズ、ニーズという言葉があります。
これらについて世の中には様々な説明がありますが、僕は、例えば講義などでは以下のように説明しています。

ウォンツ(wants) ヒトの‘欲しい’という欲求
シーズ(seeds)  ニーズを実現する企業の能力(技術、企画力など)
ニーズ(needs)  購買可能(価格面など)な需要

よく「ニーズに応える」という言葉を聞きますが、これは市場(支払い可能な人たちの要求)に対応することです。しかし多くの情報が溢れ、多様な要求に応えて、自社が有利な市場を確立するためには、まずは人々が、根本的に何を求めているのかを理解しなければなりません。つまり社会の、または自社が携わる(分野≠市場)で何が求められているのか、つまり「ウォンツ」を知る必要があります。そのうえで、自社の「シーズ」がウォンツをニーズに変えることができるのかを考えるべきです。

例えば「シーズ志向」という考え方があります。これは自社の能力で、いかに「ニーズ」を実現するか、という考え方ですが、1つ注意が必要です。
なぜなら「ウォンツ」や「ニーズ」に応えるのはマーケットイン、つまり消費者の要求に応える作業です。しかし「シーズ志向」は自社の技術や能力を前提とした考え方であり、プロダクトアウトになります。

先にも述べたように、必ずしもプロダクトアウトが全て時代遅れというわけではありません。製品やサービスの内容によって、どちらが適しているかは異なります。しかしほとんどの場合、「シーズ志向」が実現することはありません。

日本では、有名なテレビ番組のように、大きな成功例や職人の仕事が神格化される傾向にあるように思います。しかしこうした成功例には普遍性がなく、再現性がないのにも関わらず、全ての日本の企業の道標であるかのように扱われることが多いです。

・「強み」は本当にあるのか
しかしよく考えてみて下さい。
他に類を見ない成功例や、日本を代表するようなブランドの職人仕事などが、はたして多くの日本企業のモデルになり得るのでしょうか。

これは例えば、「愛工大名電へ行けばイチローになれる」と言っているのと同じだと思います。

最初に述べた通り、こうした表現をする人ほど、「強み、弱み」という言葉を使っているように思います。

客観的かつ定量的な競争優位ならともかく、、、

多くの「強み、弱み」は、個人的な見解だけで埋められたSWOT分析のような、社会や消費者を無視した、自己弁護に聞こえてならないのです。

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