成功例(体験談)が、あまり役に立たない論理的な理由

先日、毎月開催している勉強会で、論理的思考について行ったところ、参加者の方がこんな話をしました。

「色々な勉強会があって、良い話を聞いた気はするけど、役に立つかわからなくてモヤモヤする。」


世の中には、様々な勉強会があって、成功例を聞くものがたくさんあるようですが、同じような話をよく聞きます。そこで今回は、なぜ成功例があまり役に立たないのかを、論理的に考えてみます。

・よくある成功例の問題点
先日、あるセミナーで、こんな話がありました。

■製品だけでなく売り方も考える

■これからは循環型経済になる

■新しい売り方の例:サブスクリプション

■ロボット掃除機のサブスクリプション成功例

さて、この話の流れのどこに問題があるのでしょうか。
僕は大きく分けて、以下の問題があると考えます。

○関係性の不一致
○理論の不在
○証明の不在

この話は、テーマ、背景、方法例、成功例の順番で説明されています。一見すると問題ないように見えますが、実はそれぞれの関係性が適切ではありません。
しかしそれ以上に問題なのは、何も証明されていない点です。

ちなみにこの事例について、勉強会では僕の意見として、有益な普遍性を述べました。

・普遍性と再現性
何かを実現するため、手法を導入するとき、その手法の普遍性と再現性が、自分が実現したいことと一致しているかどうかを考えなければなりません。

普遍性とは、一定の条件の下で、常に同じ結果が得られることです。導入する手法が適していれば、条件を整えれば結果が得られます。
再現性とは、その手法が常に同じ結果を再現できるかどうかです。その手法が適していても、条件が不可能なら、再現性はありません。

先に挙げた話の例には、この証明がありません。証明には演繹するための大前提となる理論や普遍的事実が必要ですが、これもありません。

多くの成功例(体験談)には、この「普遍性」と「再現性」の説明が欠如しているのです。

・勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
この言葉は、野球の名監督と言われた野村克也氏の座右の銘として有名になりました。元々は、江戸時代の、剣術指南書に書かれていた言葉だそうです。

これは、勝ち('成功)は、幸運などが重なることがあっても、負け(失敗)には必ず原因があるという意味です。

以前も記しましたが、僕はよく「どんな本を読んだら良いか」という質問を受けます。読んではいけない本というものはない(本当はありますが)と思いますが、勧めない本はあります。
それは例えば「名言集」などなのですが、名言は、その言葉が語られたときの背景や思想、環境などを、しっかり理解していないと、本当の意味で理解できないからです。
例え普遍性、再現性が証明されていても、それ以外の要因も考えなければなりません。ただ名言を読むだけでは、文字通り「勝ちに不思議の価値あり」になってしまいます。

・天地人
これは元々、孟子『公孫丑章句上』の1節、「天時不如地利。地利不如人和」で、日本語では「天の時、地の利、人の和」と略して言われます。戦略を実現するときに不可欠な3つの条件です。
「天の時」を、時々幸運と勘違いして説明されているものがありますが、そうではありません。目的に向かって、着実に準備を重ね、最も適切なタイミングで実行することを指します。

この準備とタイミング(タイミングを見逃さない力も含めて)は、あくまでもそれぞれの人の積み重ねですが、時として、これらが整っていないときに成功することもあります。

これが「勝ちに不思議の勝ちあり」でしょう。

・体験と経験
「体験」と「経験」について、言葉の意味を考える場合、いつもなら辞書の説明を挙げますが、今回は、少し違った視点で考えます。

求人募集では、よく「経験者歓迎」などという表現を目にします。特に中小企業で、人材不足の企業では、社内で人材を教育する余裕がないため、よく見かけます。しかし一方で、「体験者募集」という求人はみたことがありません。

これはどう違うのでしょうか。

論理的に考えると、体験者は経験者に含まれません。経験者は、その仕事をすぐにこなせるだけの知識と実績が求められ、、、

と、まあ、回りくどい表現になりましたが、企業が働く人を求めるとき、体験では仕事にならないと考えているわけです、

それなのに、セミナーなとでは、成功した人の体験談を聞く、、、おかしな話ですよね。


成功例にせよ、体験談にせよ、「検証、証明」されていないものは、「普遍性、再現性」がありません。

勿論、何かを成し遂げた人の、志や覚悟の強さ、思いをしることはとても大切です。しそうした「心の強さ」は、むしろ「証明」よりも学ぶことが困難です。なぜなら、その強さに比例する「覚悟」が必要だからです。

しかし、そのような「覚悟」を持った人ほど、「天地人」を、運に頼らず論理的に整え、証明可能な「経験」をしているように思います。

「普遍性」と「再現性」の証明、是非参考にして頂ければと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?