労基署にメールしたら匿名でも動いてくれた話【立ち入り調査編】
とある地方中小企業の総務課長であるSさん。
社長が残業代を意図的に支払わおうとしない態度に我慢ならず、労働基準監督署への申告を決意。
とはいえ会社に身バレしたくないので、厚労省の「労働基準関係情報メール窓口」を利用し、匿名にて情報提供するに至りました。
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悪魔は突然やってくる
情報提供してから約2ヶ月後、それは突如やってきました。
受付担当が総務部長にそう伝えます。
入り口には、何やらソレらしい細身の男性が立っています。
宮川大輔のような風貌の、こざっぱりして眼鏡で小柄な男です。
しかしどこかただならぬオーラを漂わせるその風情は、マルサの女のように、これから不正を追い詰める人間のものです。
S課長は期待に胸を膨らませます。これから我が社がこてんぱんにされるにかかわらず。なにせそれこそが彼が望んでいるものだから。
その大輔は、完全にアポ無しでやってきて、会社側の都合そっちのけで自分の仕事を淡々と開始しました。それは会社にとってはどんなクレーマーよりも招かざる客と言えました。しかしS課長にとっては渡りに船。立場変われば、悪魔が天使にもなるのです。
情報提供者であるS課長は立ち会わず、総務部長のみで対応しました。
大輔の座る接客テーブルと書庫との間を何度も行き来する部長。その小脇には、出勤簿やら社員の退勤時間を記録した書類やらが抱えられています。
その往復の回を重ねるほど部長の顔色はみるみる青ざめます。一見穏便に見える接客テーブル上では、大輔からの強烈な連続パンチが次々と繰り出されているであろうことが、やすやすと想像できます。
S課長の期待が確信に変わります。
大輔は2時間は悠々と居座りました。
それだけ指摘事項が多かったことを示しています。
さて、会社の言いなりである総務部長は、社長にどう報告するのか。
そしてどのような対策が取られるのか。
S課長は胸の高鳴りを隠すのが精一杯。
コロナ禍によるマスクで隠された口元では、ニヤリとした笑みをたたえていたに違いありません。
後日、S課長は総務部長から事の顛末を聞くこととなります。
なんと、「情報提供があったことさえ明かさずに調査」という、ミッション・インポッシブルとも思えた不自然極まりない困難な仕事を、その大輔似の職員はやすやすとやってのけたのです。
しかも、情報提供では指摘しきれなかった点についても加えて指摘してくれています。
彼、良い仕事してくれたものです。
立ち入り調査後の、信じられない会社対応
後日、さっそく会社は手を打ってきました。
しかし、その不誠実さは、S課長を唖然とさせました。
ある日の朝礼で、総務部長から、歯に物が挟まったような口ぶりで、以下が連絡されます。
その上で、労基署から確認と報告を指示されたであろう過去の出勤簿における30分前後の居残りについて、社員一人一人に対し「残業ではありませんでした」と記載の上署名するように、という指示がなされたのです。
更にひどいことには、社長から「残りたいなら、退勤打刻してから残れば良い」という旨の発言がなされるのです。この社長はリスク管理という言葉を知らないのか。
これには社員全員が閉口。
あまつさえ、システム担当でもあるS課長に「そんな事言うなら、自動的に退勤ボタンが押されるようにシステム化してほしい」などという、労働時間管理に置いて本末転倒な意見が提出されるほどです。
情報提供、アゲイン
この会社のやり口に、怒りの頂点を極めたS課長。
「労働基準関係情報メール窓口」で、これらやりとりをふまえて再度情報提供をするに至ります。
1回目の情報提供では冷静な文体でしたが、こうなっては感情も交えた熱量の高い文章とならざるをえません。
情報提供記述欄では下記のように締めました。
この投稿に対しての労基署のリアクションは、初回より遥かにスピーディーでした。
彼らもプロ。一度調査が始まってしまえば、とことん本気になってくれるようです。
具体的には、S課長のケータイに、労働基準監督署から直接に電話がかかってくる、というかなりアグレッシヴなものでした(情報提供フォームにて連絡先は記載済)。
つまり、匿名での情報提供者に対して直接アプローチしてきたわけです。
その電話によって、事態は更に加速度的に展開していきます。
当初、
「匿名の上、メールがあったことも明かさないでもらいたい」
という立ち位置で情報提供をしました。
それが、とある出来事をきっかけに、
「情報提供があったことのみ明らかにしてよい」
にアップグレードすることとなったのです。
それによって、この不誠実な会社にどんな動きが生じたか、次回にて。
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