ひとむくどり
ちょうど目的地手前の電線に黒い血と膿の充実したイボに似たかたまりが寄り添って並んでいる。むくどりだ。路面はすっかり艶黒に濡れていたが糞の雨はまだ止む気配もなく。
道を変え学校前を抜けようとしたが西向きの道には糞の横断幕がかかっていた。マリオ文具の前、頼光くん家の通り、森沢病院の坂道もむくどりが押し寄せてびちゃびちゃと邪魔をする。
気がつくとぼくは道を失い、廃校の裏山にすっかりのぼっていた。高みから見下ろせば今日の軌跡だけが薄灰色に浮かび上がる。
その奇妙さに思わず笑ったぼくの背中で、小さな祠が口を開いた。
以来ぼくはむくどりとなって、電波塔からの難解な命令に支配され、飛び続け糞をし続けた。肛門から黒い爆弾を投下するために苦い赤い実を飲み込み続けた。
ある日赤い実を取り落としたのは下界を歩くぼくを見た時だ。彼は毎日お母さんのごはんを食べ、学校に通っているようだった。
「最近内間くん感じかわったね」
えりちゃんが彼に話しかけているのを見てむくどりの目から涙がいっぱい流れた。えりちゃんえりちゃんと泣きながら糞をしたがきっと聞こえなかった。
そしてある日いつもの通り糞の袋小路行きに選ばれた人間をびちゃびちゃぼうっと待っていたら門を出てきたのはえりちゃんだった。
えーさいあくとぼくらを見上げ、そんな時誰もがするように振り返り別の道を探した。
えりちゃんが被害の小さそうな方へ歩き始めると糞を撒き散らしながら黒い群舞がフォーメーションをかえる。えりちゃんの行く道を開けるようで追い詰める。取り囲む。見知らぬ店の軒先や知らない路地が誘うけれど、負けるな、逃げるな。糞を撒き散らしながらぼくは鳴く。
待っているのが好きな子との約束だとしてもぼくはきっと応援できるから、だから真っ直ぐ走ってえりちゃん。
むくどりだけにはなるな。