まりたつきほ
何度か読み返すものや考えたことを…
「短歌人」に掲載された短歌を集めていきます。国東杏蜜名義。
500字と800字の超短編小説を基本的に… いろんな名前で書きました(そして忘れました)てのひら怪談やみちのく怪談に投稿したものもあります。
相談ドットコムには今日も面白い話がたくさん集まってくる。 ID制の掲示板で、相談者が書き込み、それにおせっかいを焼きたい人々が答えていく。専門的な質問もあれば、こども相談室のような素朴な質問があり、ただの言葉遊びがあり、明らかな釣りがあった。 釣りだって少量ならおいしいスパイス、立派なエンターテインメントである。有象無象の人々がいるこの日本の片隅で、夫が動物園のシロクマと浮気をしたり、火星人になる資格試験に三百万円を払おうとする姑を阻止する嫁がいることは、いい客寄せにな
「若きウェルテルの悩み」を読みました。もう何回も読んでいるのだけど、光文社古典新訳文庫から初版を翻訳したもの、わたしが何度も読んだ「若きウェルテルの悩み」とは違う版が、新しい訳で出たというので、喜んで読みました。とても面白かった。もう今更250年前の小説について(250年前!)ウェルテルがどうなったか、書いたからってネタバレってことはないとおもうけど、最後はほんとうにかっこよくて、この行為をかっこいいって言うことは危険だから書き方を変えると、つまりウェルテルのこのかきぶりがあ
わたしはあなたに会えてよかったと思う。わたしはあなたに会えてよかった。わたしはあなたの姿を見る、あなたはわたしの姿を見る。 そのときわたしは、あなたがぼろぼろの傷だらけであることに気づく。わたしはあなたの傷に触れることをためらう。 あなたは誰? 傷だらけのあなたがあなただろうか、それとも傷づく前のあなたがあなただろうか。傷は癒えるものだろうか、それはこの先永遠にあなたに刻まれたものであろうか。刻まれつつあるのだろうか。 「あなたに会えてよかった」 傷ついたあなたに、
わたしにも人の心があったと言う風の噂で泣いてしまった けぶる森、湖のボート、バルテュスのポーズで眠っている女の子 てきとうにうそついた朝うそだってしってきいてる顔おもしろい 八ヶ月ぶりですよという美容師の手にはさみありよい人である 口に入れすぐに継ぎ目をさがしてる飴を割るとき祈る太陽 こわい できないことが消えてくだんだんできそうな気がしてくる (「短歌人」2021年4月号 国東杏蜜)
……というわけで、2022年3月、社会人になって編入した放送大学を無事卒業いたしました。3年計画だったので(だったっけ?)まあ順当に単位がとれたというところでしょうか。間に新型コロナの蔓延や土日休めないサービス業への転職を挟んだこともあり、卒業式もなーんも出席せず、やけにでっかい学位記が家に届いてそれでもやっぱり実感はありません。 まじか、卒業ってしようと思えばできるんだな。 日本語をうまくできるようになりたいと思って入学したのでしたが、次第に「考え」について言語化できる
窓の光に猫が寝てるをまたいで開ける風、まだすこし花粉が匂う 映画館 予告でへとへとになっているポップコーンは誰かにあげる 白い店今も買いたい絵がかかる壁のストライプばかり思い出す 歯磨き中鏡の中で笑っているのはイマジナリー姉さん陽気です 嬉しいな、すてきなたのしい歌集を買ったでもきっとどこかで人が死ぬ 歌集ってミステリの次くらい人が死ぬしかもほんとの死だって 噂 国東杏蜜「短歌人」2021年3月号掲載
春に机の位置やベッドの位置を入れ換えたりしているうちに(模様替えではない)パソコンの電源コードがコンセントから遠い… めんどい… とかいって状況が好転しないもんかしら、と祈ったりしてみましたが当然むりで、平気で半年くらいたってしまいました。あるある(ない)あ、ついでに転職しました。 通信制の大学も5学期目が終わり、10月から6学期がはじまります。夏休みってわけですね。さあここで単位が全部とれたら最終学期なんですが、履修科目も決めたいまとなっては(新学期の教科書が届くのを待っ
ネヴァーモアとカラスは言うが信じないネヴァーモア耳を塞いで眠る 痛みは槍 力点がやけに遠くあり崩れつつある高速道路 銀木犀が泣いてわんわんでかくなりついには星を降らせる話 季節が去るそのおとがとてもいやだからいいこにしてるがまんができる 立居全て祖母に似ており葬式に出ると周囲の時間が戻る 昼寝する猫を枕に目をつぶるゆるやかな上下、いずれくるパンチ (「短歌人」2021年2月号 国東杏蜜)
大破してまだ息がある鹿があり銃がなく弱い両手がある 死を見張るわたしの両眼を怖がって暴れる鹿の痛みが垂れる パジャマのまま黒い群衆に紛れ込む白い窪みに沈香がにおう ひがさでもみぎしたをむけふりはらうぱらぱらおちるひかりのしずく やわらかい心がなくてわからない優しい言葉もみすみす捨てる なぜおまえうまれてきたと声がする答えるなそれは質問じゃない (「短歌人」2021年1月号 国東杏蜜) ※この号から会員1欄にあがり、最大6首掲載されるようになりましたー
クレンジングオイルが浴室にもうないがジーンズを出てTシャツを脱ぐ 葉脈が木に似ているのはかわいいこと好きに生きてもいいと知ってる 金の籠に果物を置く葉を毟る画家を待ってる静かな光 村でまた行方不明者が出たもよういるのにいないいないのにいる 手を擦りドアの隙間に足を入れするり、生まれた日をやり過ごす (「短歌人」2020年12月号 国東杏蜜)
人形の背骨になる日の左腕 木で言えば楓、実で言えば栗 俺のこと歌にするのと聞く人にできないよってとりあえず嘘 かけがえのなさをもたずにうまれてきた人間でいて竹の抱擁 きみおれの木嶋佳苗になってくれって笑えるけれど笑ってていい? 人生は空中ブランコ手が滑るネットがないのよく見ていてね (「短歌人」2020年11月号 国東杏蜜)
たすけてって言ったらたすかる? たすかるなら言う? タッパーウェア みんなして人差し指を負傷して土嚢の口をくくったしるし 視界から消えることしかできることないような気がして靴を履く 強い雨、、、 強い祈りを観測する湖に降るすべての命 ベッドの東そこがいちばん死に近い痛みの形は生への土下座 (短歌人2020年10月号 国東杏蜜)
とにかく眠い。眠くてぼんやりしている。なぜ眠いかというと眠れないからである。この話をすると眠かったら寝ればいいのにと言われるが、そうできたらいいとわたしもほんとうにおもう。 いつも言うのだけれど感覚としては不眠は便秘に似ている。そうしたいし、準備もできているし、誰もなんの差し支えもないのにそうできないのである。ここで言われることもだいたい同じ。運動とか、薬とか、逆に限界まで追い詰めてみるとか、とか… いいの。いいの、大丈夫。みんなが思いやりを持って言ってくれてることはわかる
お嬢さん、おはいんなさい出れないよ回転が複雑になっていく セロテープの台でむちゃくちゃ殴ってる これは夢です あれは星です 愛なんていずれ忘れるものだけどほんとのことにも証明はいる 赤緑金金まだらまばたきでもうわからない花火の順番 運転が出来なくなって空は青、白線は格子、人間はいない (短歌人2020年9月号 国東杏蜜)
人生の最初の方でこけたままだれかが台車を押してくれてる 明け方に発作があるとわかってて眠る胆力を見せつけてやる 麻酔から覚めたとたんに嘘をつくうわごとを言ったかは、知らない 筋肉とつよいこころが必要です月を見上げて自転車を漕ぐ 生き残る努力はしました許してね、と言えるくらいに頑張るやくそく (短歌人2020年8月号 国東杏蜜)
ねえなあに たばこをとんとんするのはなあに ねえそれはなんのおまじない だめですよ毎晩泣いても偉くなるお友達がもう増えないらしい 人は愛で倒れたりはしないんだって爪の間が蕗の皮の黒 世界中の恋人たちの声がする猫の目が四つどの窓にもある ゆるしてのいみならわかるぜったいにうまれてこない つぎは ゆるして (短歌人2020年6月号 国東杏蜜)