見出し画像

雨のレパートリー、その数なんと400種類【エッセイ】

「明日は雨らしいよ」
このフレーズはたいていネガティブな文脈で交わされる。
雨が降る、気分もなんだか沈む。
日曜日に遊びに行くって約束があると、大してあたりもしないのに1週間先の天気予報をみて、一喜一憂する。無論、一喜は、晴れのマークに対してだし、一憂は傘のマークに対してだ。

どうやらぼくらは、つくづく雨を憎んでいるようだ。
雨が降ると喜ぶ人がいるらしいが、それは農家と野球嫌いの野球部員くらい。ほとんどの人は、雨を拒み、太陽を受け入れる。

ぼくは、どうかというと、雨はそんなに嫌いじゃない。
それは、GORE-TEX(雨に濡れない素材)の靴を履く口実になるからだ。
別にふだんから履いたっていいのだけど、雨だから着るアークテリクスのマウンテンパーカーがあったり、履くニューバランスがあると、テンションが上がる。
だが、これは雨を避けるテック素材があるから、雨が降ってもかまわないというスタンスであり、本質的に雨を嫌っているわけではないのではないかと問われれば、ぐぬぬと返す言葉が見当たらない。
そういう意味じゃ、ぼくも多少なりとも一憂側に立っているのかもしれない。

話は変わるが、ぼくはnote創作大賞に敗れたその日から、語彙力が足らない自分を変えるため、辞書を毎日読んでいる。
知らない単語には、黄色いマーカーを入れて、大学受験生のようにパラパラめくって、覚えている。
そこで気づいたことがある。
日本語には、雨を表す言葉が異常に多いのだ。

ぼくにとっては、雨なんて「大雨」「小雨」くらいの認識しかなかった。
まぁ、車に乗るようになって、「豪雨」「霧雨」という概念も誕生したが、それでもせいぜい4種類。

ところが、大和言葉を眺めていると、雨を表す言葉が多いこと、多いこと。

たとえば、淫雨いんうという雨がある。
これはいつまでも降り続く雨という意味らしい。
長く降り続く雨としては、霖雨りんうも忘れちゃいけない。
|小糠雨《こぬかあめ》というのもある。これは、細かく降る雨のことで、にわか雨との違いがよくわからない。
ほかにも、白雨はくう涙雨なみだあめ微雨びう煙雨えんうなど、
雨という自然現象に対して、非常に多様な呼び名がある。

もしくは、雨が降る季節や時期によっても呼び名があるらしい。
五月雨さみだれというとわかりやすいかもしれないが、これは旧暦の5月を表す言葉で、ユリウス暦の5月に降る雨は麦雨ばくうである。
3月下旬から4月にかけて降る雨のことは、菜種梅雨なたねづゆという。

また、体感によっても雨の呼び名は変わる。
冬に降る冷たい雨は氷雨ひさめ
暑い時期のあびると気持ちよさそうな涼雨りょううというのもある。

かっこいいのだと、『家庭教師ヒットマンREBORN!』の山本が使っていた技名の、篠突く雨しのつくあめ。凛として時雨というアーティスト名にも入っている時雨もある。

雨をあらわす言葉がたくさんあるというのはどういうことだろうか。
ぼくは、それだけむかしの人は雨を楽しんでいたんじゃないかと推察している。
だって、好きじゃなきゃ名前なんか細かくつけないでしょ。
ぼくはガンダムシリーズを見ていないので、Zガンダムもガンダムもはっきり言って違いはわからない。仮面ライダーもウルトラマンもよくわからない。でも、たくさんいる。似たようなのがうじゃうじゃいる。セーラームーンにも、マーズやジュピターがいる。
かくいうぼくも、幼いころ、親からデジモンとポケモンが同じものだといわれ腹を立てた記憶がある。
このように、似たようなものに名前をつける行為の背景には、当事者たちの並々ならぬ熱意があるのだ。

だったら、むかしの人が雨にこれだけ呼び名を与えていたのも、雨を楽しんでいたからという推察には一定の説得力がありそうだ。

現代社会に、雨を楽しむ感性は生きてるだろうか。
皆無とはいわないが、むかしの人に比べりゃ圧倒的に希薄化していると思う。

雨が降った。
「わー急に降ってきた!驟雨だねぇ」「いや、これは村雨だよ」
「比叡山に黒い雲がかかってるね。山雨だね」
地雨のリズムが気持ちいいねぇ」

こんな風な会話があったのかどうかは知らないが、雨が降ったら、お天気アプリでいつ止むのかを調べて、雨雲レーダーが西から東に流れる雨の予想を眺めて、その予定に合わせて計画を練ったり、場合によっちゃ傘を買う算段を立てたり、車で迎えを頼む連絡をしたり。その過程の中に、雨を楽しむ感性は生きているだろうか。

グローバル化していき、生成AIがあらわれて、ますますぼくらの言葉は簡潔になっている。今後はもっとそうなっていくんだろう。
でも、むかしむかしのぼくらの国では、雨に多様な呼び名を与えていたことを忘れたらいけない。
ぼくらの祖先が、やりとりした言葉の蓄積を放棄したらいけない。

だから、ぼくは雨の違いがわかる男になろうと思う。

空の雲集から散らす雨粒たち。
秋霖の音色に耳を預け、文庫本でも開いて物語の世界に耽りもんだ。


【こちらもおすすめ】
このエッセイがおもしろかったら、下のエッセイも覗いてみてください^^
ただいま、エッセイ感謝の正拳突きにチャレンジ中です。

毎日投稿は約束できませんが、毎日文章に向き合っています。
山門文治のことばの百式観音完成まで楽しんでいただければ!

コメント返しのコーナー

なんてエッセイ書いたらさ。
けっこうたくさんコメントが来ていて、
ひとつひとつじっくり、まなじりを決しているわけだ。
みんな、コメントありがとう!
コメントのひとつひとつがモチベにつながっているので、ぜひぜひどしどし。

そして、このエッセイのコメントには、全国津々浦々のソーメン専門店の名前や住所を教えてくれる。

いやぁ、、、すません!無知がはずかしいですwめっちゃありますねw
よく調べもせずに申し訳ない!!!

なんというのかな。
ちゃんぽん専門店のリンガーハットや天丼専門のてんやみたいな、ああいう意味合いでも専門店がないよな的な感じで書いてましたよ〜
とはいえ、ぼくのコメ欄、気になるお店をたくさん紹介してくれてるのでぜひ覗いてみてください!

ちなみに、コメントしてくれてる本田すのうさんは、ぼくに長野県の善光寺
のお戒壇巡りを教えてくれたという思い出があります。
一度お話したことあるけど、ええ人でした。
彼女のエッセイも読み応えあっておもろいので、みなさまぜひぜひ読んでくれ。

ほいじゃ、またの!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?