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さいしんコラム#1215 載せられなかったインタビュー/載せられなかった写真
写真=篠田由美子
さいしんコラムではもったいをつけて「とっておきの写真」「最高の趣向を凝らした写真」としか書いていないが、2019年12月15日の武田の写真がこれだ。
高円宮杯プレミアリーグファイナルは、イースト10チーム、ウエスト10チームの両リーグで優勝したチームが日本一を懸けて激突する。両リーグの代表であることを象徴するように、スタジアムのフェンスにそれぞれのリーグ所属チームのエンブレム旗が飾られている。埼スタの北側半分にイースト、南側半分にウエストというふうに並んでいた。
優勝した青森山田高校の応援席は埼スタのバックスタンド北寄りだった。表彰を終えた青森山田イレブンは応援席の前で、何度目かのカップを行い、フェンス沿いに半周してメーン側に戻って来ようとしていた。
僕は取材ではなく、観客としてメーンスタンドに居たのだが、キャプテンの武田がカップを抱いて歩いてくるコースを見てひらめいた。
「このまま進めばレッズのエンブレム旗の前を通る!」
急いでピッチで写真を撮っているカメラマンの中で知った顔がいないか探した。
いた!
恥ずかしかったが、スタンドから声を掛けて「あのカップを持ってる選手が、レッズの旗の前に来たら止めて、エンブレム旗の横でカップを持ったカットを押さえておいてもらえませんか。彼はレッズに加入が決まっているんです!」
そのカメラマンが、どの媒体の仕事で来ているのかも知らず、とにかくお願いした。そのカメラマンは、一方的なお願いに戸惑いつつも、リクエストどおりの写真を撮ってくれた。そもそも、仕事なら僕も取材エリアにいるはずなのに、なんでメーンスタンドなのか不思議だったに違いない。
2020年2月26日のMDPに掲載する際には「ひと足早く、埼スタで優勝カップを手にした武田。次はJリーグか」とキャプションをつけるはずだった。
それができなくなり、次はレッズが何かのタイトルを獲ったタイミングで「実は〇年前に、武田は埼スタで優勝カップを手にしていた」とでも写真説明をつけて載せようか、と考えていた。だが、レッズが天皇杯を獲った2021年12月19日も、三度目にACLを制した2023年5月3日も、レッズの登録選手に武田英寿の名前はなかった。
こんな形で表に出ることになるとは思っていなかったが、僕の中では「こいつは来年、レッズで活躍するに違いない」と確信していた証のような写真だ。
そう言えば、たしかカメラマンにギャランティは払っていなかった。けじめをつけなくては。