【四刷記念公開】『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』担当編集から枡野さんへの手紙
枡野浩一さま
19歳で短歌を読むようになったときからずっと、枡野さんはスター歌人でした。ファンも多ければアンチも多く、短歌に関わる以上「無視できない」存在。私自身は「文学的」なものが好きで、穂村弘さんのことを「ほむほむ」と呼ぶような(枡野さんの嫌いなタイプの)若者でしたが、枡野ファンの同級生の男の子が貸してくれた歌集『ハッピーロンリーウォーリーソング』を読んで、好き嫌いを超えて「すごい」と思いました。36歳になった今もその思いは変わりません。
2020年代に入り、何度目かの「短歌ブーム」と言われています。じっさい、短歌を気軽に読んだり書いたりする人は増えている。情熱をもった書店員さんも多く、毎月のように書店で短歌フェアが開催されています。すばらしい棚、活気ある売り場、その盛り上がりの恩恵を受けながら、ここには枡野さんの歌集が足りないと思いました。当然あるべきものがない、という感覚です。でも、最近短歌に触れた人たちは、その不在に気づくことができない。だから、枡野さんの歌集をいま出すのは私の仕事である、と、はっきり思いました。
とはいえ、ご依頼に対する枡野さんの最初のお返事は、かなり後ろ向きなものでしたね。たくさん本を出してきたからこそ「本当に需要があるのだろうか?」という悩みがあったと。その気持ちは、私も経験は浅いながら、少しわかるような気がしました。でも、こちらも諦めるわけにはいきません。行きつ戻りつ、少しずつ少しずつ進んで、ついにここまでくることができました。
ちなみに「枡野浩一全短歌集」の打診メールを見返してみたら、2021年の9月24日で、「昨日はお誕生日おめでとうございました」と書いていました。一冊の本になるまで、ちょうど365日かかった計算になります。
誕生日ありがとう また再会のように初めて会えますように/枡野浩一
デビュー25周年の大切な年に、一緒に前を向いてくださってありがとうございました。本の形になった枡野浩一全短歌集で、再会のように、初めて、また。
担当編集・筒井菜央
(『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』刊行記念特別冊子「枡野浩一と私」より転載)