形を変えて続いていくもの
神保町の黒カレー屋さん、キッチン南海が閉店した。
Twitterにそう綴られた文字にどきりとする。カレー好きとしてはいつか行こうと決めていた店のひとつだった。
キッチン南海は池袋をはじめ、各地にのれんわけをしているが、本店は言わずもがな神保町である。
学生たちに安くうまいカレーを届けるのをコンセプトに、今年で創業60周年を迎える。店主はなんと御歳90歳だ。
閉店する理由はお店の入ったビルの老朽化だという。
コロナウイルスが原因じゃなくて良かった、と心の中で安堵する。
ここ数ヶ月、商いで生計を建てている人たちにとって、見えない敵との戦いはより深刻なものだった。多くのお店が営業不振に陥り、泣く泣く暖簾を下ろしていく。
休業中の張り紙や、シャッターが下ろされたお店。その前を通り過ぎるたびに、奥にいる商売人たちの存在が頭をよぎる。
彼らの生活には大なり小なりひずみが生じていて、回復には時間がかかるのかもしれない。
実際に外出自粛期間中、結婚式のブーケを作ってくれたお花屋さんの女性店主から、SOSのLINEをもらった。
いつもお友達感覚で安く売ってくれることもあり、少しでも助けになればと思って、お花を数輪とバジルとパセリを購入する。
久しぶりにお花を飾った部屋は心地良く、自宅の鉢に植え替えたバジルとパセリはぐんぐん成長し、食卓を彩ってくれた。そして何よりも、店に女性店主がとても喜んでくれたことが嬉しかった。
それが自粛期間中、一番有意義なお金の使い方だったと思う。わずかだが、困っているお店を助けることができたからだ。
そんなわけで、今後もわたしにできることは可能な限りお店で消費することだと思う。外出量はぐんと減ってしまったが、せめて好きなお店には定期的に通いたい。
わたしにとっても誰かにとっても大切なお店が、これ以上消えてしまわないように。
──
今日から7月が始まった。
上半期を振り返ると、2020年はつくづく予想外な出来事の連続だったなあと思う。
日本も世界中の国々も、見えないウイルスに恐れ慄き、医療従事者たちは休む暇もなく、経済はぐんと低迷した。
休日でも人がまばらの繁華街を横目に、本来なら今ごろ国中が東京オリンピックに向けて心浮かれていただろうかと想像する。
そんな中でも、環境に合わせながら前向きに進み続ける人たちがいる。というよりも、前進するにはそうせざるを得なかったのかもしれない。
在宅勤務、分散登校、座席間隔を開けての映画鑑賞。
以前の生活は姿を変え、再びまわり始めた。
世界は形を変えながらもきっと続いていくのだ。
──
そういえば、キッチン南海の話には続きがある。
「キッチン南海」の味は、現在の料理長・中條知章氏(52)が今後、独立。同じ神保町に店を構えることで受け継がれるという。
なんと、これからもお店は続いていくらしい。
30年もキッチン南海の厨房で働いてきた創業者の甥っ子さんが、移転先では店を構えるという。
60年続いたキッチン南海は終焉を迎えたが、店の場所と創業者を変え、これからも神保町の街で歴史を刻んでいく。
一つのレストランの終わりと始まりが、不思議とコロナ後の社会への希望と重なった。
コロナ前と形を変えた社会が、どうか少しでも明るい方向へ向かいますように。2020年の下半期に期待をしている。
それと個人的に、
新・キッチン南海のカレーは絶対に食べにいく!
そう心に決めているのだ🍛
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