君との日々を記すノートにして

彼と出会ったのは、まるで古いアルバムの中からふと飛び出した1枚の写真のような瞬間だった。彼の名前は透(とおる)。彼との時間は、穏やかな波が打ち寄せる海岸のように心地よく、気づけば私は彼にどんどん惹かれていた。

「ねぇ、最近どう?」

透からのメッセージが届いたのは、私たちが出会ってから2ヶ月が過ぎた頃だった。私はすぐに返事を打ち始める。あの日、彼と一緒に過ごした公園でのピクニックのことを思い出しながら。柔らかな日差しの下、彼が見せた無邪気な笑顔や、ふいに見せた真剣な眼差し。そんな思い出を思い返しながら、私は自分の気持ちが少しずつ深まっていることに気づく。

私たちは何度かデートを重ねるうちに、お互いのことを少しずつ知っていった。彼の好きな映画や、幼い頃の思い出、仕事に対する姿勢。毎回新しい発見があり、彼のことをもっと知りたいという気持ちが止まらなかった。まるで、心の中に小さなノートを広げて、彼との思い出を書き留めているような感覚だった。

しかし、ある日気づいた。私は、そのノートをこまめにつけていなかったのだ。

「昨日、楽しかったね」と彼が言ったその言葉に、私は一瞬戸惑った。昨日?昨日は何をしていたのか。確かに楽しかったはずだけれど、その具体的な内容が思い出せない。彼との時間を大切にしているつもりで、私は記憶の中に埋もれてしまった大切な瞬間をこぼしていたのだ。

そんな私に、透がふいにこう言った。「ねぇ、僕たちの関係もちゃんと『お小遣い帳』みたいにこまめにつけた方がいいんじゃない?」

彼の言葉は唐突で、思わず笑ってしまった。でも、その言葉に込められた意味を考えると、私はすぐに真剣な気持ちになった。彼が言いたいのは、ただ単にお金の管理をするように、私たちの関係も小さな瞬間を大切にし、一つ一つ記録することが必要だということだろう。

「そうだね」と私は笑顔で返した。「私たちの思い出を、ちゃんと心の中に書き留めていくことが大事だね。」

それからの私は、透との時間をもっと意識的に過ごすようになった。彼とのランチでの会話や、週末に見た映画の感想、突然降り出した雨の中を一緒に走った日のこと。どれも忘れたくない思い出として、心のノートに書き込むように意識した。

日々が過ぎる中で、私たちはますますお互いのことを理解していった。透が忙しい時は、彼の大好きなコーヒーを買って行ってあげたり、彼が落ち込んでいる時は、彼を元気づけるようなメッセージを送ったり。こうして、私たちの関係は深まり、まるで一本の長い物語を共に紡いでいるようだった。

だがある日、ふと彼が遠くを見つめながら言った。

「最近、何か大事なことを忘れている気がするんだ。」

その言葉に、私も思わず考え込んでしまった。私たちはお互いのことをよく知っているつもりで、もしかしたら本当に大切なものを見逃しているのかもしれない。心のノートに記すことを忘れた何か。

「ねぇ、透。これからは、毎日一つずつ、お互いに感謝していることを書き留めていかない?」

彼は少し驚いた顔をした後、穏やかに笑った。「それ、いいかもね。」

そして、その日から私たちは、新しい習慣を始めることにした。毎晩、寝る前に一つだけ、お互いに感謝していることを言葉にして、心の中のノートに書き留める。そうすることで、私たちは今まで気づかなかった小さな幸せに気づくようになった。

「今日は君が作ってくれたお弁当、すごく美味しかったよ。ありがとう。」

「今日は君が話してくれたあの話、すごく励まされた。ありがとう。」

日々の感謝の積み重ねは、私たちの関係をさらに豊かにしてくれた。気づけば、お互いの心にもっと深く触れ合えるようになり、どんな困難も乗り越えられるような気がしてきた。

その日々の中で、私は確信した。透との関係も、お小遣い帳のようにこまめに大切にしていくことで、どんな小さな幸せも見逃さず、もっと幸せになれるということを。

そして、私たちの物語は続く。心のノートに、毎日少しずつ大切なページを増やしながら。

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