《女の愛と生涯》訳詩──3.わたしにはわからない
わたしにはわからない、信じられない
夢が私を魅了していることが
どうして彼はあらゆる人の中で
わたしに腕を差し出し、幸福にしてくれたの?
わたしは起きたの、彼は言ったの
「ぼくは永遠に君のものです」
わたしは夢を見ているようでした
それは決してありえないことだから
ああ、夢の中でわたしを死なせてちょうだい
彼の胸で揺られ
とても幸せな死をわたしは感じるわ
果てのない喜びの涙の中で
*
6月23日に演奏する、
シューマン作曲の歌曲集《女の愛と生涯》。
ひとりの女性が愛する男性と出会い、
彼の子供を産み、彼を見送るまでの生涯を描いた作品です。
一日一篇ずつ、
シャミッソーの詩を訳していきます。
(平日のみ)
第三曲「わたしにはわからない」では、
秘めた恋を抱える少女は激しく困惑します。
思いを捧げる相手が、
自分のことを愛していると言ってくれたのです……!
わたしにはわからない、信じられないと、
最初は現実を受け入れられない少女。
しかし彼の言葉を思い出し、
徐々に夢見心地になっていきます。
シューマンはこの詩の冒頭、
「わたしにはわからない、信じられない」
から始まる第一連に、
非常に激しい音楽をつけました。
前奏はなく、
少女の言葉から第三曲は始まります。
音楽は徐々に夢見るようになりますが、
シューマンは最後に再び、
第一連を歌い手に委ねる構成を選びました。
詩句と音楽の繰り返しによって
少女の困惑と喜びを色濃く描いたのち、
彼女の思いを優しく包み込むような後奏が穏やかに流れます。
この後奏、
少女が彼に愛される喜びをじんわりと噛みしめるようで、
曲中の中でも好きな箇所です。
少女の秘めた恋には光が当たり、
彼と思いが通じ合いました。おめでとう!
彼女はこれからどのような人生を辿るのでしょうか。
それは来週のお楽しみ。
演奏はジェシー・ノーマンです。