《女の愛と生涯》訳詩──1.あの方にお会いしてから
あの方にお会いしてから
目が見えなくなったみたい
どこに眼差しを向けても
あの方だけが見えるの
まるで覚めた夢を見ているように
あの方のお姿が浮かんでくるの
深い闇から浮かび上がるのよ
明るく高く
その他のものは光も色もなく
わたしの周りのすべてのものは
妹たちとの遊びも
もうしたいとは思わないの
それよりも泣いていたい
ちいさな部屋の中で静かに
あの方にお会いしてから
目が見えなくなったみたい
*
6月23日に演奏する、
シューマン作曲の歌曲集《女の愛と生涯》。
ひとりの女性が愛する男性と出会い、
彼の子供を産み、彼を見送るまでの生涯を描いた作品です。
今日から一日一篇ずつ、
シャミッソーの詩を訳していきます。
(平日のみ)
第一曲の「あの方にお会いしてから」では、
彼と初めて出会った少女の心のときめきと不安が、
みずみずしく語られていきます。
妹たちとの遊びにも、もう魅力を感じず、
小さな部屋の中で静かに泣きたいと願う彼女。
彼女の心の震えは、
静かなピアノと控えめな歌唱によって、
おずおずと語られていきます。
恋のはじまり。
その時の戸惑いや不安、そして喜びが詰まった第一曲です。
訳詩と共にご紹介していきたいのは、
ジェシー・ノーマンによる歌唱。
昔から大好きな歌手です。
それと同時に、
自分の声は彼女と傾向が似ているので、
レパートリーなどの参考にしています。
家事の合間や、
休憩時間にでもお聞きいただけたら嬉しいです。
今日もどうぞ、
穏やかな一日をお過ごしくださいね。