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ネタバレ │ 伏せた言葉と想い

著書『スノードロップ ー雪の雫の日記ー』の刊行から早2年半。
たくさんの方々のお力添えがあって思いがけないほど多くの反響とご感想をいただきました。

想いが伝わった嬉しさと、結末に驚いてもらえた手応えと、そういう捉え方もあるんだという発見に喜ぶ一方で、解説を入れるべきだったかなという反省もありました。

その反省の裏には、葛藤がありました。
核心となる「とある情報」を明言するか、しないか。

明言することで捉え方が変わる方がいるかもしれない、傷つく方がいるかもしれない、誤解を生むかもしれない。
だから私は著書では明言しないという決断をしました。

今回、それを伝えようと思ったのは、notoをはじめたことで「読むか」「読まないか」を読者さまに委ねることができるようになったからです。

ここから先はそんな情報とネタバレを含みますので、お読みになるかは自己判断でお願いいたします。


作品紹介 『スノードロップ ー雪の雫の日記ー』

“幸せ”を追い求めた一輪の花の物語。
「透くんと一緒なら、きっと幸せになれるよね」
中学時代に出会って互いに惹かれ合い、恋人同士になった。
幼い頃から数奇な運命に弄ばれてきた雫を側で支え、愛し続けた透。
つらく苦しい数々の出来事を乗り越えて、永遠を誓った二人だったが——。

【ネタバレ】伏せた言葉と想い

この物語で続く悲しい出来事は、ヒロインの雪野雫が幼少期につらい経験をしたことがきっかけで起こります。

孤独や寂しさは誰しもが感じたことがあると思います。
その程度はさまざまですが、幼少期の強いストレスが引き金となって精神疾患を発症してしまう場合があります。

著書で私が明言しなかったことは以下の2点です。
❶ 雪野雫が精神疾患を抱えていたこと
❷ その精神疾患が「代理ミュンヒハウゼン症候群」であること

ミュンヒハウゼン症候群=虚偽性障害。
自分が怪我や病気であると偽り、周りの人の気を引いたり同情を集めることで精神的に満たされようとする行動を繰り返す症状です。
今回の「代理」ミュンヒハウゼン症候群というのは、自分ではない人を傷つけ、他者からの気を引こうとする症状です。

私はエピローグで以下のように書きました。
雪野雫の婚約者である黒田透の回想であり、著者である私自身が過去に見たドキュメンタリー番組の記憶。

 ふと、いつか見たドキュメンタリー番組を思い出す。何となく見入ってしまったその番組では、まだ生後間もない子供に自分の血液を飲ませて病気にしたり、健康そのものの子供に繰り返し暴行を加えて入退院を繰り返させていたりする人、そしてそういった行為が行きすぎてしまって殺害してしまった人を取り上げていた。いずれも共通するのは、決して子供に対して憎悪や嫌忌の感情から起こした行動ではないということ。そして重度のストレスを抱えているということ。
 解説した医師によると、幼少期に家庭環境に恵まれず孤独を感じる中で、病気やケガ、事故や事件に巻き込まれたときに限って周囲から注目された記憶が発症の引き金になることが多いということだった。つまり、自らきっかけを作り出し関心を得ることで自分の心を守り、安心感と満足感を得るための行為であり、れっきとした精神疾患だという。
 なんの確証もない。ただ、うっすら記憶に残っていたその番組で取り上げられていた人と雫の存在が重なってしまう。

『スノードロップ ー雪の雫の日記ー』エピローグ(P.278)

実際に起こった事件が著書の題材になっています。
しかし、お会いした読者さまの約半数がこの精神疾患を知らなかったとおっしゃっていました。そこが私の反省点。

明言せずとも伝わるよう最大限工夫しましたが、明言しなかったことで「孤独や寂しさは共感できるけれど殺人まで犯すだろうか?」とモヤモヤした方もいらっしゃったと思います。

その可能性を全く考えなかったわけではありません。
ただ、この「ミュンヒハウゼン症候群」「代理ミュンヒハウゼン症候群」の裏には想像を絶する心の傷、心の闇が存在することを想うと、明言して殺人と結びつける表現はできませんでした。

 雪野雫という人物を創り上げる中で、彼女は悪の存在ではなかったと思い至ったからです。遠い記憶だとしても、母、父、そして祖父母からの愛情を感じ、友人や恋人からも大切にされていることを実感していたからこそ、失ったときに孤独という感情が芽生えたのだと思っています。
 不運にも、母、そして父の死をきっかけにその純粋さと不安定な心情ゆえに孤独から解放される方法は身近な人物が命を落とすことしかないと信じて疑わなかったのです。
 早くに両親を亡くしてさえいなければ、誰からも愛され、普通の幸せを手に入れて、いつまでも笑顔でいられたのではないか、そんなことを考えているうちに「この子を最後まで可哀そうな子のままにしたくない」そう思って筆を進めていました。

 世間から見た幸せとはほど遠い結末かもしれない、それでも雫と透の二人にとっては ハッピーエンドであってほしい、私自身そう願っています。

『スノードロップ ー雪の雫の日記ー』あとがき(P.284)

あとがきに想いのすべてを詰め込みました。
「ハッピーエンド」と言い張る私に対して否定的な意見もあると思います。
誰の視点で読むかと、ご自身の置かれた状況で結末の捉え方は変わるでしょう。
それが物語の楽しさであるとも思っています。

最後に

著書をお手に取ってくださったみなさま、この記事まで読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。

また作品を通じてお会いできますように。

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