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夢日記「僕のこの格好、きらいですか?」

気持ちのいい高い秋の空。
その日わたしはほぼ初めて、小田急線下北沢駅に降り立った。
今住んでいる京王線幡ヶ谷駅から電車で行こうとすると、すこし面倒な距離にある街。
ところが最近、歩いていくとわりと近い距離だということに気付き、行ってみることにしたのだ。

古着や雑貨など昔からあるようなお店や、今話題のカフェなど、昔と今のカルチャーが入り混じったような街。カレーファンが集う街とも言われるほど、カレー屋さんが多い。せっかく来たのだから、美味しいカレーを食べて散歩しよう。

ああでも前知識なしで来ちゃったから、どこにカレー屋さんがあるか分からない。いや、正しくは結構あるのだが、ありすぎてどこに入ればいいのか分からない。なんだか迷路のように思えてきた。

迷った時は、地元の人に聞くのが1番。方向音痴の母が得意そうに言っていた言葉を思い出した。
角にある、いかにもずっと前から其処にありそうなお店で聞いてみることにした。革の財布やカバンが置いてある。おじいちゃんの職人さんがいそうなお店だなあと思いながら覗いてみる。

「すみませーん」

「はーい」

あれ、若い男の人の声...?
あれれ、なんかすっごい怖そうな人が出てきたんだけど。

少しパーマがかかった、肩につくくらいの長い黒髪。眠そうな目。少しこけた頬。いやもう顔は完全に栗原類。スカルなのか何なのか分からないけど不気味な絵柄が書かれてあって所々破れてゆるっとしている黒いTシャツ。破れた黒スキニー。銀色の留め具の黒ブーツ。普段同じコミュニティにいたら、絶対話しかけないタイプ。

「どうぞ、中に入って見てみてください」
「あ、ああああの、か、かかか...」
「か?」

やばい。地方出身のわたしの悪い癖が出た。いかにも都会っぽい人を見ると、動揺してしまう。

「カレーですか?」
「...?!」

え、何でこの人一文字だけでわかったの?エスパーなの?こわい。

「この辺りはカレー屋が多いですから、それが目的で来る方も多いんです。」

あ、なるほどね、エスパーじゃなかった普通の人だった。

「ここを真っ直ぐ行ってそこの角を右に曲がって、左側の1本目の道を入っていくと、美味しいカレー屋さんがありますよ。ナンも出しています。」
「ナン?!」

あ、いけない、すごい大声出ちゃった。カレーはご飯と食べるものっていうイメージだったから、ナンっていうと特別な感じがする。

「はい、ナンです。チーズナンもありますよ」

あれ、笑うと印象がガラッと変わるひとだな。意外と人懐こそうな笑顔。
にしてもチーズナンもあるなんて。そこにきーめた。

「あ、ありがとうございます」

よし早く行こう。
ぺこっとお辞儀をしてお店に向かおうとしたら、

「僕のこの格好、きらいですか?」

...。

ん?

え、なんでそんなこと聞くの、びびってたの、顔に出てた?!
なにその雨の日に置いていかれた子犬みたいな悲しそうな目は?!

「へっぴり腰だったから」
「いや違うんです、いや違わないかなそのTシャツのガイコツみたいなやつがこっち見ててこわいし...いや何でもないですすみません、地方から来たから少しびびっただけですすみません!」

そう言って小走りで店を後にした。
我ながらよく噛まずに言えたな。火事場の馬鹿力ってやつか。...多分違うな。まあいいか、もう話すことないだろうし。

そして、完全にびびってしまった店員さんから教えてもらったカレー屋さんに向かった。

次の週末。
わたしはまた下北沢にいた。
もうしばらく来ないと思っていたけれど、この前食べたカレーがものすごく美味しかったから。実家でルゥを使ったカレーしか食べたことないわたしにとって、スパイスを使った固形状のカレーは、ルゥ使わなくてもカレーなの?と、衝撃的だった。

えーと、たしかここの角を左に曲がるんだっけ...

「あ、こんにちは」

...。

ん?

いや、覚えている。この、少しパーマがかかった、肩につくくらいの黒髪。眠そうな目。少しこけた頬。いやもう顔は完全に栗原類。そこまでは。

「僕のこの格好は、きらいですか?」

...。

「また話したいなあと思っていたけれど、この前へっぴり腰にさせてしまったので、服装を変えてみました。どうですかね...?」

「え?好き。」

...。

いや、ん?目を見開いてこっち見てるけど、今わたし何を言った?声に出てた?完全に脳が置いてきぼりにされてなかった?
いやまって。好きっていうのは別にその服装のことじゃなくてあなたの事でもなくて、その赤寄りのオレンジ色のジャケットも銀色のスパンコールがついていて模様がたくさんついてる黒Tシャツも黒のハットも都会感出て尻込みするのは変わらないし好みと聞かれたら好みではないんだけど、

その、わたしと話したいから自分の服装を変えるっていう発想と行動に、今心臓がギュンッッてした。

え、なに、今日は脊髄が大王様の日なの?反射でしか反応できない日なの?考える前に感情が前のめりになって勝手に口が動く日なの?そんな日ある?

「よかった」

...。

パニックになった頭が、その人懐こそうな笑顔を見て、一瞬で静まった。
たぶん、わたしはこの人のことを好きになると思った。



これは、昨日見た夢の記録。目が覚めたときに、心臓がギュンッッてした感覚が残っていたほど鮮明で、まるで小説みたいな夢だった。

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