映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」を見て
先日、ポレポレ東中野で大島新監督の「なぜ君は総理大臣になれないのか」を観た。
この映画は小川淳也氏という、政治家としてはあまりに純粋で不器用な男の、15年あまりの活動に焦点を当てたドキュメンタリーだ。
私自身はもともと政治に関して浅学で、そもそも選挙の仕組みや政治の基礎知識すら十分にはない。
しかしこの作品はただ政治をテーマにしたドキュメンタリーではなく、小川淳也氏の政治家としての思想とその活動とそれを支える彼の家族の想いを中心に描いているため、政治に知識や強い関心がなくても十分に楽しめる内容だ。
小川氏は、ベーシックインカムの導入賛成に代表されるように、理想主義的な純粋さで政策立案をするのが政治家としての特徴だ。
「40代で総理大臣になり、50歳で潔く引退する」という目標を、32歳で初めて選挙戦に出馬した当初から掲げていた。
しかし選挙区での落選が続き比例復活で当選している小川淳也氏は、党内での発言力も小さく、なかなか出世コースに乗れない。
それでも、香川に住む妻子と離れて、東京で働く生活を10年以上続けてきた。自分の身を投げ打ってまで政治のために奮闘する小川氏が変わらぬ情熱を持ち続ける姿が胸に熱く響いてくる。
そしてそこまで頑張る彼の姿は痛々しいほどで、見ているこちらが辛くなるほど報われないものに見えた。
「彼は政治家に向いていないのではないか」
彼の両親、そして大島新監督自身の心に、そんな問いが浮かび上がってきた。
「啓蒙するのは得意だから、大学教授とかの方が向いているんじゃないのか。政治の世界から、私たちのもとに息子を返していただきたい」と語る彼の両親の言葉が突き刺さる。
政治家の汚職が続き、安倍政権への不信感が募る昨今、こんな純粋な思いで政治家として活動している人間は本当に稀有な存在だと思う。
しかし皮肉なことに、それ故に彼は政治家として行き詰まっているのかもしれないということを本人も自覚しているようで、作品中でもこのように発言している。
「自分には政治の世界で偉くなりたい、出世したいという突き上げるような野心がない。それは政治家として致命的だ。」
17年という年月を経ても、いまだに若々しいその容貌が象徴するように、政治家っぽい独特の「濁り」のオーラが彼には感じられない。
それは、少し前に汚職で逮捕された河合夫妻とは対照的なものに思えた。
河井夫妻を非難する声は多いが、関係者に金を配るようなことは、政治家なら誰でもやっているとさえ言われる。
でも、そんな小賢しい人間しか政治家として勝ち残れない世界になってしまったのはなぜなのだろうか。有権者の私たちにとっても、決して他人事ではないはずだ。
2018年時点で、彼は40代後半に差し掛かっていた。自分が当初決めた政治家としてのリミットが近づきつつある。
今でも総理大臣になりたいと思っているか?という大島監督の問いに、小川氏はこう答える。
「もし僕が総理大臣になることを諦めたときには、政治家をやめる。だからこうして議席を持っている以上、諦めるなんて絶対に言わない。」
私たちが選挙で選んだ政治家が作る今の国会。腐敗した政治家たちの言動に呆れて批判するのは自由だが、それは私たち国民の総意による選択の結果だということを忘れてならない。
投票率は依然として低いし、それは「本当に信頼できる政治家がいない」という国民の本音を反映している。
小川淳也氏のような、政治家っぽくない政治家、そんな人が出馬したら、ぜひ投票したいと思った。
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