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[小児科医ママが解説] 【SIDS(乳幼児突然死症候群)の連載をはじめます】知ることは、安心につながる。

「乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)」

妊婦健診や、乳幼児健診でもパンフレットが配られるなどして、ほとんどの人が聞いたことのあるワードかと思います。

赤ちゃんがせっかく寝ついても、赤ちゃんが息をしているか心配。死んじゃわないか心配。
そんな経験は、特に母親であれば、多くの人が経験していると思います。SIDSはそんな親御さんたちにとって、言葉を聞くだけでも脅威ですよね。

恐怖に対して、私たちができるこの一つに「知ること」があります。

おそらく多くの方がきいたことがあるだろうな、という一般的なことからはじまり、最新の研究でわかっていることまで。

SIDSについて今後複数回にわたって、連載していきます。

SIDSについて正しく・ちょっと詳しく知ることで、少しでも親御さんの安心につながれば幸いです。

共通の参考文献はこちら。

●AAP(米国小児科学会)
"SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment"
(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

●UptoDate
"Sudden infant death syndrome: risk factors and risk reduction strategies"
https://www.uptodate.com/contents/search

●厚生労働省
「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/sids.html


死後解剖しても、原因がわからない。6000~7000人に1人。


SIDSの定義は「それまでの健康状態および既往歴から、その死が予測できず、しかも死亡状況調査および解剖検査によってもその原因が同定されない、原則として1歳未満の児に死をもたらした症候群。」

つまり、お亡くなりになる前後で明らかな原因がないのに亡くなってしまった、というものです。
窒息や、明らかに何か病気があって呼吸や心臓が止まった、とか、そういう状態での死亡とは、全くことなる概念です。

平成30年では60人ほどの赤ちゃんが、SIDSと診断されて、お亡くなりになっています。
年間で90万人弱の赤ちゃんが生まれてくる中で、この人数ですから、私たち小児科医もしょっちゅう見るものではありません。

が、不幸にもSIDSと診断しなくてはならない状況に立ち会うこともあり、なんともいえない、胸が押しつぶされる気持ちにこちらもなります。


なんとかして、SIDSを少しでも予防できないか。対策できないか。

アメリカで1990年代に「back to sleep キャンペーン」つまり、あおむけで寝よう!というキャンペーンが開始されると、
SIDSでお亡くなりになる赤ちゃんの数が、1993年には4700人だったのが、2010年には2063人まで減少
しました。

うつぶせ寝以外にも、おうちでできること。ご存知の項目も多いとは思いますが、あらためてリストにして見てみましょう。


以下は、SIDSの対策として、推奨されていることのリストです。

どれももちろん大事なのですが、今までの論文や研究、報告の質や量に応じて、推奨されているレベルが高い順にA→B→C、と分類されています。

"SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment" 
(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

<推奨レベル A>
●すべての睡眠において、あおむけで寝る。
●マットレスはかための物を使う。ほかにも、やわらかい寝具・おもちゃ、ゆったりした寝具(シーツがピンとはっていない)を避ける。
できれば母乳で。
寝具は大人と分けるが、部屋は大人と同じにする(同室寝)。
●昼夜つうじて、寝つくときに、おしゃぶりを使うことを考慮する。
●熱がこもりすぎないように注意する。
●妊娠中~生まれた後も、受動喫煙・飲酒をさける。
妊婦健診を指示どおりに受ける。
予防接種・ワクチンを受ける。
●市販されている、自宅用の心臓・呼吸のモニターは使わない

<推奨レベル B>
●安全な睡眠をさまたげる睡眠グッズを使わない。
赤ちゃんがしっかり起きていて、保護者もしっかり見ている状態で、tummy time(うつぶせ)の時間をしっかりとる

<推奨レベル C>
おくるみ(swadlling)がSIDSのリスクを下げる、というエビデンスはない。


どうでしょうか。

むずかしいのが、こうした対策を全部気をつけていても、残念ながらSIDSでお亡くなりになる方もいれば、逆もまたしかりです。

寝ている間に寝返っちゃうから、SIDSで死んじゃうかもしれない。
ミルク育児だから、それだけでSIDSのリスクになるんじゃないか。

ただでさえ不安でいっぱいの子育ての中で、SIDSのことを考えると気が狂いそうです!という親御さん、結構、外来でお声をききます。

そんなときに、心を休める一つのきっかけが、「もう少しふみこんで知ってみる」ことじゃないかな、と思います。


たとえば母乳がSIDSのリスクを下げると言っても、じゃあ何ヶ月くらいまで母乳をあげていると、よりSIDS予防の効果があるのか。
完全母乳と、ミルクとの混合とでは、SIDSの防止効果にどれくらい差があるのか。

うつぶせ寝がだめなら、横向き寝ならいいの?あおむけ寝だと、どれくらいSIDSのリスクを下げてくれるの?

もうちょっとつっこんで知ってみると、じゃあ自分はこうしてみよう!これは少なくとも気をつけてみよう!というところが、見えてくると思います。

他に兄弟がいるか、ワンオペ育児なのか、住宅環境など、ご家族の状況は本当にそれぞれなので、どこまでトライするか・できるかは、親御さんが納得して、ご自分で決めることですから。


語弊をおそれず言うならば「自分としては、できる範囲で、納得して、ここまで対策した。それでももし我が子がSIDSになってしまっても、後悔しない!」と思えるところまでいければ、ベストだと思います。

自分の子が死んでも後悔しない、なんて、頭おかしいんじゃないか白井と思われるかもしれないですけど、結局、子育てってこういう選択の繰り返しなんじゃないかと思います。

どんなにベストを尽くしても、1秒先・1日後・1年後の子どもがどんなになっているかなんて、誰にもわからない。
でも、そのときそのときで、私にできる範囲で、ベストを尽くしてきた。
その結果、子どもや家族がどうなったかなんて、結局は結果論です。
生身の人間ですから。


ちょっと話がそれてしまいましたが、そんな感じで、親御さんに少しでもSIDSを知ってもらい、安心してもらい、かつ、自分なりのベストな選択肢を見つけてもらいたい。

そんな思いで、これからSIDSを複数回にわけて取り上げていきます。

(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)


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