[小児科医ママが解説] SIDS【Vol.9】「正しい"おくるみ」で、SIDS対策を。
乳幼児突然死症候群(SIDS)の一つのリスクとして、体温の過剰な上昇があること。そのための、室温やお洋服の目安などを、前回は書きました。
それに関連して、今回は「SIDSとおくるみ」がテーマです。
おくるみをすることで、それこそ体温が過剰に上昇しちゃわないのか。
おくるみで気をつけることは?
そんなことを、医学的な根拠をお示ししつつ、見ていきたいと思います。
SIDS連載すべてにおいて、共通の参考文献はこちら。
おくるみで、熱がこもりすぎる?
おくるみが、赤ちゃんのoverheating、つまり過剰な体温の上昇につながってしまうのではないか、という報告はあります。
たとえば「おくるみをしている+頭が毛布などで覆われている。」
「おくるみをしている状態+赤ちゃんが何かに感染している。」
こういった状況で、赤ちゃんの体温が過剰に上昇してしまうリスクが報告されています。
(①Child Dev. 1994;65(4):1005–1013 ②BMJ. 1993;307(6919):1609–1611)
ただし、ベッドに毛布やブランケットがない。赤ちゃんも、何の感染症にもかかっていなくて元気。
つまり、他にSIDSの危険な要因がない場合に、おくるみ「だけ」がどこまで過剰な体温の上昇につながっているかは、不明です。
これらを注意することで、おくるみによる体温の過剰上昇を対策できると良いと思います。
「うつぶせ+おくるみ」も危険。
うつぶせや横向きなど、あお向けではない姿勢で寝ることが、SIDSの一つのリスクであることは、前回書きました。
この状態で、さらにおくるみが合わさると、より危険であることが、複数報告されています。
横向き・うつぶせで寝かされたときに、さらにおくるみにされていると、SIDSのリスクが2倍になるのでは、という報告があります。
(Pediatrics. 2016 Jun;137(6) Epub 2016 May 9.)
おくるみをした状態で、途中で寝返ってうつぶせになる状態もふくめると、SIDSのリスクが12倍になるのでは、という報告もあります。
(①N Engl J Med. 1993;329(6):377–382 ②Pediatrics. 2007;120(4).)
普通のおくるみの手順からすると、おくるみをして→あえてうつぶせに置く、というのはあまり多いケースではないかもしれません。
が、おくるみをしてあお向けにおいたはずなのに、おくるみがゆるまったり・赤ちゃんが寝返ったりしてしまって、
結果として、「おくるみ+うつぶせ」の状態になってしまうことは、十分にありえます。
これを受けて米国小児科学会AAPは「おくるみをする場合は、必ずあお向けに置くこと。そして、赤ちゃんが寝返りをトライし始めたら、おくるみからの卒業を。」と提案しています。
もちろん発達の段階に個人差はありますが、寝返りができる前に、寝返ろうとして、体を左右のどちらかに反るような運動を始める赤ちゃんも多いです。
この時期もふくめて、米国小児科学会は「生後2ヶ月くらいになったら、おくるみをやめるのを検討する」としています。
結構早いな、という印象ですが、たしかに生後2ヶ月をこえてくると、手足も活発に動かしたりして、睡眠中の体の動きも読めなくなってきます。
安全を考えると、この時期がたしかに妥当なイメージです。
「正しい」おくるみとは?
おくるみをすると、赤ちゃんがよく寝てくれる。泣き止んでくれる。
そんな情報をきいて、トライしている親御さんたちもいらっしゃると思います。
実際に、おくるみを正しくすれば、赤ちゃんをなだめたり、睡眠を促したりするのに効果的である、というのは複数の研究で報告されています。
(①J Pediatr. 2002;141(3):398–403 ②Pediatrics. 2007;120(4). ③J Pediatr. 2010;157(1):85–91 ④Pediatrics. 2005;115(5):1307–1311)
ただし、もともとずっとおくるみが習慣になっている場合は、赤ちゃんが泣きやまない時・眠れない時におくるみをしたところで、どこまで効果があるかは微妙なんじゃないか、という報告もあります。
(①J Pediatr. 2009;155(4):475. ②J Pediatr. 2010;157(1):85.)
そもそも赤ちゃんが泣きやまなかったり、眠りづらかったり・・・というのには、色々な原因があったり、発達に伴うどうしようもないグズり・ギャン泣きだったりするので、
おくるみだけしたらバッチリ!なんてことは、たしかにありえないわけです。
でも、とくに新生児や(おくるみをやめる一つの基準である)生後2ヶ月までの間は、単純に、おくるみすると抱っこしやすい、という利点もありますよね。
米国小児科学会AAPも、おくるみは絶対にしないで!と言っているわけではなく、むしろ「正しく」おくるみしてね。と言っています。
「正しい」おくるみのポイントは大きく2つです。
①腕はしっかりめ・足はゆるめ(発育性股関節形成不全の防止)。
おくるみをしても良い、生後2ヶ月までなどの幼い赤ちゃんは、モロー反射といって、音にビックリして両手がバッと広がってしまう反射がでてしまいます。
そのため、おくるみをしっかり巻くことで、特に上半身・腕をしっかりピタッと体につけてあげて、モロー反射を起きづらくしてあげることで、よりおくるみの効果がでます。
しかし足については、ゆるく巻くのが推奨されています。
足やお尻がじっと、固定されてしまうようなキツい巻き方だと、股関節の発育に影響がでてくる可能性がある、というのは米国小児科学会AAPも指摘しています。
発育性股関節形成不全は、お股の関節が開きにくい・正しく動かしづらい、といった病気です。
特に小児科医が、生後3~4ヶ月健診のときに注意してみているポイントですね。
詳しくはまた別途、記事にしたいと思いますが、ひとまずは日本整形外科学会のホームページを参考にされてください。
ということで、こちらが、米国小児科学会AAPが推奨している、おくるみの手順です。
まずしっかり上半身・腕を固定します。
が、両足については自由に動かせるように、下のほうのブランケットを軽く上にもってくるだけです。
実際にちゃんと足が動かせる状態かどうかは、上半身におくるみを巻いたあとに、赤ちゃんの両足をもって動かしてあげます。
米国小児科学会AAPが推奨している動画(全体的に、早すぎて見えなーいって感じなんですが)でも、両足を持ってしっかり上まで股関節が動かせるか、ママが確認しています。
(動画 0:17~0:20 あたりのシーンです。)
こうした、赤ちゃんの股関節がしっかり動かせる正しいおくるみのことを、”hip-healthy swaddling”と米国小児科学会AAPは読んでいます。
おしり・股関節にやさしいおくるみをしようね、と推奨しているのです。
②キツく巻きすぎない。
さきほど上半身はしっかりめに巻く、と書きましたが、それでもキツく巻きすぎないように、と米国小児科学会AAPは念を押しています。
具体的には「大人の指2~3本くらいが、赤ちゃんの胸とおくるみの間に入るかをチェックする」としています。
赤ちゃんの呼吸や自然な動きをさまたげないという目的や、また、冒頭で紹介した「おくるみで過剰に体温が上昇してしまうリスク」を少しでも軽減したい目的です。
いかがでしょうか。
今回の記事は、けっして、おくるみ自体を否定するものでは全くありません。
しかし「SIDSや赤ちゃんの股関節の発達を考えた時に、おくるみをするときの注意点があるよ」というメッセージです。
まとめておきましょう。
(この記事は、2023年2月2日に改訂しました。)