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[小児科医ママが解説] SIDS【Vol.7】これだけは絶対に守ってほしい!赤ちゃんのベッド環境。


乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策として、

「添い寝」は原則推奨されていないこと。
かわりに(寝具は別々だけど同じ部屋で寝る)「同室寝」が良いこと。

前回はこんなことを書きました。

では赤ちゃんのベッド環境で、ほかに気をつけてあげられることはあるのか。

これも複数回にわけて、書いていきたいと思います。
SIDS連載すべてにおいて、共通の参考文献はこちら。

●AAP(米国小児科学会)
"SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment"
(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

●UptoDate
"Sudden infant death syndrome: risk factors and risk reduction strategies"
https://www.uptodate.com/contents/search

●厚生労働省
「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/sids.html


①固い寝具を使う。 
②スリーパーを使う。 
③バンパー・ベッドガードは使わない。


今回伝えたい大きなメッセージは、3つです。

①子ども用の、固い寝具を使って。
毛布やブランケットは使わず、スリーパーを使って。
バンパー・ベッドガードは使わない!

すでにご存知の方も多いとは思うのですが、なぜいけないのか。
どんな研究の報告があるのか。
1つずつ、論文や公式団体の見解を見ていきたいと思います。

①子ども用の、固い寝具を使って。


あらゆる論文で、子ども用でない・やわらかい/沈みこんでしまうような寝具が、SIDSのリスクを上げることが報告されています。

具体的な例としては、ソファー、リクライニングチェアー、ポリエチレンビーズ、エアマットレスなどです。
(①N Engl J Med 1991; 324:1858. ②N Engl J Med 1993; 329:377. ③Pediatrics. 2014 Nov;134(5):e1293-300. Epub 2014 Oct 13. ④Am J Public Health. 2017;107(6):945. Epub 2017 Apr 20. ⑤Am J Public Health. 2017;107(6):838. など)

しっかり空気をいれたエアマットレスでも、SIDS対策としては使ってはダメだよ!
という見解です。(Am J Public Health. 2017;107(6):838.)

ほかにも、大人にとっては心地よい「形状記憶」などのやわらかいマットも、赤ちゃんにはNGです。とくに寝返ったときに、窒息の可能性もあります。
(①J Pediatr. 1998;132(2):234–239 ②Pediatr Res. 1994;36(1 pt 1):7–11)

SIDSはあくまで窒息とは違う疾患の概念(とにかく死に至った原因がわからないもの)ですが、当然、窒息もおこさないようなベッド環境を用意してあげるのは大事なことです。

また、あまり日本では使われていないかもしれませんが、シープスキン(羊皮のマット、毛皮でモコモコ・モフモフしているイメージです)も、SIDSのリスクを上げるといわれています。
特にうつぶせ寝の場合に、よりリスクになる可能性があるようです。(①J Pediatr. 1998;133(5):701. ②Pediatrics. 2009;123(4):1162.)

とくにシープスキンの寝具を使っていなくても、やわらかい寝具に、さらにうつぶせ寝しているときが、SIDSのリスクを上げるという報告はほかにもあります。(①N Z Med J. 1996;109(1023):206.②Pediatrics. 2019;143(5))


前回の記事で、「寝返り返りができるようになったら、うつぶせ寝も許容している」という米国小児科学会の見解をかきました。
が、うつぶせ寝をOKするにしても、こうしたやわらかい寝具を使っていないかは、十分に注意したいところです。


また、子ども用の寝具として、安全基準に適合したマーク (PSC、JIS、SGといったマーク)がついているものを選ぶのは大前提です。
(各マークの詳しい説明は、製品安全協会 ホームページを参照ください。)


ベッドだけでなく、プレイマットでうつぶせになったり、親御さんが思わず寝入ってしまって、プレイマットで寝てしまう可能性もゼロではないですよね。

「ベッドやプレイマットなどでも、CPSC(米国消費者製品安全委員会:consumer product safety commission)の基準にあった商品を使うこと」という提案は複数の論文でもされています。
(①Fed Reg. 2013;78(205):63019–63036 ②Fed Reg. 2012;77(168):52220–52228)

当然、商品の取扱説明書をよく見て、正しい使い方をするのも大事な点です。


また数ヶ月・数年と使っていると、どんな商品でも劣化してきます。
新品のときは満たしていた安全基準も、経年劣化によって安全基準を満たせなくなることはよくあります。

この点を懸念して、米国小児科学会は「お古のベビーベッド(そのほか赤ちゃん用の寝具など)はなるべく使わないように」としています。
(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )

ただ実際は、兄弟が使っていたものを使ったり、知り合いからゆずってもらったり、というケースもあると思います。
万が一、新品でない商品を使う場合は「劣化していないか。すべてのパーツがそろっているか。リコールがないか。などをよく確認すること」と同学会は指摘しています。


なお安全基準を満たしていれば、商品によって多少のばらつきはあっても良い可能性はありますが、

以下が、米国小児科学会AAPが推奨している「安全なベッド」の条件です。

【安全なベッドの数値目標】
●ベッド柵の、棒の間隔が、6cm 以下。
(これ以上の間隔があいていると、赤ちゃんの頭がはさまる可能性。)
●かたいベッドマット。マットとベッドとの間に隙間がない。
●ベッドマットから測定して、柵の高さが66cm 以上。

米国小児科学会, Healthy Children.org  "Choosing a Crib"

②毛布やブランケットは使わず、スリーパーを使って。


「子ども用の固い寝具を使っているし、大丈夫!」という方も、「枕やブランケット・毛布を使わない」という点は守れていないことが非常に多いです。

生まれたばかりの赤ちゃんを含め、枕やタオルケットなどと一緒に、ベビーベッドで寝ているイメージ、ありますもんね。

枕やブランケットなどが、赤ちゃんの寝床に入っている場合、SIDSのリスクが5倍に上がるのではないかという報告があります。
(①N Z Med J. 1996;109(1023):206. ②J Paediatr Child Health. 1994;30(6):506. ③Arch Pediatr Adolesc Med. 1998;152(6):540. ④ediatrics. 2003;111(5 pt 2):1207–1214)

これはしかも、睡眠中の体位・姿勢(たとえば、うつぶせ寝かあお向けか)には関わらず、こうした危険があるということです。

一般的に考えると、こうした枕やブランケットで赤ちゃんの口や鼻がふさがってしまい、赤ちゃんが窒息してしまうかも、という危険は思いうかびます。

たしかに、生後3ヶ月以後など、赤ちゃんがちょっとずつ動けるようになってくると、よりこうした「ベッド内のもの」が窒息・それによる死亡の危険性を高める報告は、当然あります。(Pediatrics. 2014 Aug;134(2):e406-12.など)


ただし単純に窒息という問題だけでなく、そうした余計な寝具などによって、赤ちゃんの自由な動きが制限されて、それにより、赤ちゃんの体温が過剰にこもってしまったり、適切な覚醒・目覚めが獲られなかったりすることで、SIDSにもつながるのではないか、という考察がされています。(①Pediatrics. 2008;121(6):e1478. ②Arch Dis Child. 2008 Sep;93(9):778-83. Epub 2008 May 1.)

実際に、あお向けで寝ていたはずなのに、不幸にしてSIDSになってしまった。
そんなお子さんたちを後から検証してみると、赤ちゃんの頭が、毛布や枕などのやわらかい寝具でおおわれているなど、なんらかのこうした寝具が悪い影響を及ぼしている可能性
があったという報告は多くあります。
(①BMJ. 1996;313(7051):191–195 ②BMJ. 1998;316(7126):195–196 ③N Z Med J. 1996;109(1023):206–207 ④J Paediatr Child Health. 1994;30(6):506–512 など)

また、「添い寝」と「枕やブランケットなど」のコンビは、SIDSのリスクをさらに高めるんでしたよね(前回の記事)。


ふむ。じゃあ赤ちゃんには毛布も枕もいらないと。
でも寒くないの?と心配になりますよね。


そんなときのために、赤ちゃんにはぜひ「スリーパーを使ってね」と米国小児科学会も推奨しています。
寝袋のような形で、赤ちゃんに着せてあげるものです。
お顔以外にも、赤ちゃんの手足がしっかり出る・ガーゼ素材の夏用のものもあれば、そうでない冬用のものなど、色々なタイプがあります。


なおスリーパーを使うことで、赤ちゃんが毛布をバタバタ足で動かして、すぐはだけちゃう!という心配もいらなくなります。

さらに短い睡眠サイクル(深い~浅い眠りの繰り返し)の赤ちゃんにとって、浅い睡眠サイクルになるたびに、「最初に寝付いたときと同じ環境」があるのは安心につながります。

スリーパーを着せてねかせてあげれば、赤ちゃんにとっても「寝るときにあったはずの毛布がない!(そしてちょっと寒い!)」とならないのは、睡眠にとっても良い点です。


基本的に、米国小児科学会は「SIDS予防になるよ!」という市販の商品は、立証された科学的根拠がないので、使用しないように。と注意しています。

が、スリーパーに関しては別です。もし持っていない方がいたら、必要に応じてぜひゲットしていただきたいアイテムだと思います。


なお枕については、頭の形を気にして、ドーナツ型・円座の枕を買ってあげるという方も多いのですが、「頭の形に効果がある、と医学的に証明された商品はない。世界的な見解としても、そうした枕は使わないこと。」という点は、前の記事にもかきました。



というわけで、赤ちゃんのための枕や布団・ブランケットは、買わなくてOK!それを買うお金があるなら、ぜひスリーパーを買ってあげて。

というメッセージでした。



③バンパー・ベッドガードは使わない!


最後のメッセージは「大人用ベッドの横につける、バンパーやベッドガードは使わないで!」というメッセージです。

少し前にニュースでも取り上げられていたので、知っている方もいらっしゃるかもしれません。
が、便利な商品なので、実は使っていますという方もいるのではないでしょうか。

赤ちゃん用のベッドは、決して安くないし、レンタルも面倒。
大人用のベッドにバンパーつけて、そのまま添い寝しちゃおうかな。

こう考えたことのある方も、少なくないのではと思います。

しかしそもそも、大人用ベッドなどやわらかい寝具のうえで赤ちゃんを寝かせるのは、窒息やSIDSのリスクを高める、ということは ① で説明しましたね。

加えて、大人用ベッドにバンパー・ベッドガードをつけることで、以下の危険性があると報告されています。

【バンパー・ベッドガードを使ってはいけない理由】
(J Pediatr. 2007;151(3):271–274, 274.e1–274.e3)。

①バンパーやガードについているパッドがやわらかいので、それによって赤ちゃんが窒息する。

②マットレスとバンパー・ガードの隙間に、赤ちゃんがはまって動けなくなる。

③バンパーやガードについているパッドのひもが、赤ちゃんにからまって窒息する。

まぁ一般的に考えたら、そうだろうなというメカニズムですが。

こうした理由から、赤ちゃんはそもそも大人用の寝具に寝かせてはいけないし、かつ、バンパー・ベッドガードも使わないというのが世界共通の見解です。(Fed Reg. 2012;77(40):12182–12197)


・・・お気づきの方もいると思うのですが、これはSIDS対策としてはもちろん、窒息や赤ちゃん全体の死亡に関する対策、というニュアンスが大きいです。

ただし、たとえば「②赤ちゃんが自由に動けなくなる」という点について。もし赤ちゃんが寝返った状態でバンパーにはまっててしまったら、うつぶせのまま戻れなくなってしまう。
赤ちゃんの体温がこもりすぎてしまう。

そんな理由から、SIDSにつながるリスクも十分に考えられます。

よって、米国小児科学会も「SIDS対策のためにできること」というステートメントのなかで、こうしたバンパー・ベッドガードについても触れているのです。(Pediatrics. 2016 Nov;138(5). )


いかがでしょうか。

①子ども用の、固い寝具を使って。
毛布やブランケットは使わず、スリーパーを使って。
バンパー・ベッドガードは使わない!

というのが大きなメッセージでした。

ほかにも米国小児科学会が推奨している点も一緒に、下記にまとめておきましょう。

●子ども用の、固い寝具を使う。
→ 赤ちゃんの頭がのっても、へこまず、形が保たれるくらいのかたさ。

やわらかい寝具を使わない。
→ ソファー、リクライニングチェアー、ポリエチレンビーズ、エアマットレス、形状記憶の寝具など。
→ マットレス・トッパー(マットレスの上につけて、表面をやわらかくする寝具のひとつ)も、1歳までは使わない。

●枕・毛布・おもちゃなどを、寝床にいれない。スリーパーを使う。

バンパー・ベッドガードは使わない。

●シーツをピンと張る。

マットレスと壁との間など、あらゆる場所に隙間がないように注意する。

お古の寝具は使わない。使うときは、リコールや商品の不備によく注意して。


SIDSの対策にからんでくる、母乳 or ミルク添い寝 or 同室寝。これらについては、各ご家庭でできる範囲で・・・とお伝えしてきました。


が、今回については、上記はぜひ、赤ちゃんがいるご家庭の皆さんに、すべて守ってもらいたいです。

「寝返ってうつぶせ寝になっちゃっても、しょうがないよね」と許容できるのも、こうした安全な睡眠の環境があってこそ、なのです。


さて、上記でスリーパーを使うと書きましたが、

赤ちゃんの寝間着・パジャマってどれくらい着せるのがちょうどいいの?
熱がこもりすぎるのもSIDSのリスクだけど、室温はどれくらいがいいの?

これも、よく質問をいただきます。
引きつづき、書いていきたいと思います。

(この記事は、2023年2月7日に改訂しました。)


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