[小児科医ママが解説] おうちで健診:股関節脱臼の予防のためにできること ①向き癖 ②抱っこ ③おくるみ
「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。
先天性股関節脱臼の3回目、ラストです。
前回までは、健診では小児科医がどんなことに注意して診察をしているのか(家でも見られるポイントがあるか)、
また、女の子・逆子・家族歴がどれくらいリスクになっているかなどを、見てきました。
今回は、ご自宅でできる「先天性股関節脱臼の予防法」です。
前の記事でもお伝えしたとおり、赤ちゃんはみんな、ある程度うまれながらにして、太ももの骨がズレやすい状態です。
これがさらにズレて脱臼の状態にならないために、ご自宅でできることがあります。
健診や検査をうけるまでの時間を、少しでも前向きに・有効にすごしていただける助けになれば、幸いです。
今回の参考文献はこちら。
※以下の画像について、注釈がない限りは「先天性股関節脱臼予防と早期発見の手引き」から編集させていただきました。
向きぐせは脱臼のリスク。向きぐせ対策は、頭の形・乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策としても有効!
生後3ヶ月くらいまでは、向きぐせのある赤ちゃんも多くいます。
お腹の中にいたときの頭の形や姿勢の影響もありますし、また、「非対称性緊張性頚反射(ATNR)」とよばれる神経の反射が残っている時期、という理由もあります。
(あお向けの時に、左や右をむこうとすると、弓矢をひいたような姿勢になる反射です)
生後3ヶ月を過ぎてくるとこの反射もなくなってきますし、
向きぐせがあるだけ、で股関節脱臼に必ずしもなるわけではないです。
しかし…
という可能性があるといわれています。(Clin Orthop. 1960;16:203. など)
というわけで、向きぐせをなるべく強くつけなけないことで、股関節脱臼のリスクを減らそう!ということになります。
向きぐせ対策については、前回の記事にもあげていますが、
あらためてポイントを見てみましょう。
生後まもない赤ちゃんは、寝ているか・授乳しているか、の時間がほとんどですが、親御さんの利き手によって、赤ちゃんがとる姿勢や左右の位置が、おのずと固定されてきます。
親御さん・お子さんがムリのない範囲で、左右をチェンジしたり・授乳や抱っこの姿勢を変えたりするなど、色んなバリエーションがあるほうが良いでしょう。
リスト一番下の」安全な状況で「うつぶせ時間」を取る。」も、ぜひやっていただきたい対策です。
親御さんが見ていられる・お子さんもご機嫌が良いときに、子ども用のプレイマットなど、安全な状況で「うつぶせ時間」を取る。これもまた、乳幼児突然死症候群(SIDS)対策になるんでしたよね。
1日のうち、どれくらい、うつぶせ時間をとったらいいのかは定かではありません。
一応、頭の形の左右差対策としては「1日3~30分くらい」という目安が提示されています(Neurosurgery. 2016 Nov;79(5):E627-E629.)ので、一つの目安になるかと思います。
なお、赤ちゃんの向きぐせは「右を向く」クセがある赤ちゃんが多いとされています。
これはお母さんが右利きが多く、その結果、抱っこや授乳のときの姿勢で、赤ちゃんが右を向きやすいシチュエーションが多くなることも一因です。(そのほか、産まれる前、お腹の中での赤ちゃんの姿勢も関係しているのでは?としている説もあります。)
その結果、左の足・股関節が立て膝の状態がつづくことで、左の股関節脱臼のリスクが上がるお子さんが多いです。
実際に、2013年に発表された日本のデータでは、先天性股関節脱臼のうち69%が左側だったという報告です。(小児保健研究 第75巻 第2号 2016(149-153))
先天性股関節脱臼は左が多いというデータは、海外でもあります。(①ISRN Orthop. 2011;2011:238607. Epub 2011 Oct 10. ②Eur J Radiol. 2012 Mar;81(3):e344-51. Epub 2011 Nov 26.)
赤ちゃんが「M字型に足を開ける」抱っこ。
間違った抱っこも、股関節脱臼のリスクを上げるといわれています。
どういう抱っこだと、どれくらい脱臼のリスクがあがるのか、という明確な数字をだしている報告はありません。
が、単純に・物理的に考えても、膝をピンと伸ばした状態だったり、赤ちゃんにとって不自然な姿勢でずっと固定したりするような抱っこは、望ましくありません。
もちろん、横向き抱っこや、スリングを使っちゃいけない!というわけではありません。お母さんの体調だったり、赤ちゃんの好みだったり、いろんな理由で、横向きやスリングが楽な場合もあると思います。
ただしいつも・長時間、横向きやスリングでの抱っこだと、赤ちゃんの股関節や足に負担がかかる可能性がある、ということだけ、頭の片隅においてもらえたら嬉しいです。
正しいおくるみで、脱臼や、乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策にも。
おくるみをすること自体は、決してわるいことではありません。
しかし間違ったおくるみは、股関節脱臼のリスクになりうる、という報告は複数の研究でされています。
(①Clin Orthop Relat Res. 1968;56:179. ②ISRN Orthop. 2011;2011:238607. Epub 2011 Oct 10. ③J R Coll Surg Edinb. 1989;34(2):85. ④Saudi Med J. 2003;24(10):1118.)
間違ったくるみかたによって、赤ちゃんの股関節が内側にねじれたり、伸ばされて不自然な状態で固定されたりすることが原因です。
(Arch Dis Child. 2014;99(1):5.)
米国小児科学会AAPが推奨しているおくるみの方法など、詳しいことは、前回の記事を参照にされてください。
ここではポイントだけ再掲しておきます。
また乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策という観点からは、
おくるみは生後2~3ヶ月ころに卒業を考える、のがベストでしたね。
どうでしょうか。
あらためて、ご自宅でできる対策をまとめておきましょう。
そして、前回・前々回の記事もまとめて、受診をしたほうが良い目安もまとめておきます。
実際に整形外科に紹介をされたあとは、整形外科の先生の診察のほか、エコーやレントゲンといった画像の検査を受けます。
最近は、被曝をしないエコーの検査をすすめている病院も少なくありません。
そして先天性股関節脱臼と診断され、必要な場合は、治療にうつっていきます。
生後6ヶ月未満であれば、パブリックハーネス(リーメンビューゲル装具)が90%近い成功率があります。
(①J Bone Joint Surg Br. 2002;84(3):418. ②J Bone Joint Surg Br. 2007;89(2):230. ③J Bone Joint Surg Br. 2010;92(7):1013. など)
が、生後6ヶ月をこえると、この装具による成功率は50%未満に下がってくるので、もっと大掛かりな装具や、手術も含めた別の治療を検討しなければいけなくなります。
(Weinstein SL. Developmental hip dysplasia and dislocation. In: Lovell and Winter's Pediatric Orthopaedics, 7th ed, Weinstein SL, Flynn JM (Eds), Woltersk Kluwer Health, Philadelphia 2014. p.983.)
・・・となると、もし先天性股関節脱臼をうたがった場合、生後4ヶ月いっぱいまでには、整形外科に紹介をうけたいところです。
いかがでしょうか。
股関節について健診で指摘を受けると、びっくりしたり、ショックを受けたりする方もいらっしゃるかもしれません。
でも、股関節の異常については、早めに発見することが大事なんですね。
「早く見つけてもらえてラッキー!」という気持ちで、
ぜひチェックしてもらってください。
(この記事は、2023年2月20日に一部改訂しました。)