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創作物感想録②:同士少女よ、敵を撃て

第二次世界大戦中のロシアで、狙撃兵として生きた一人の少女・セラフィマの物語を描いた本作は、本当に大好きな作品であり、多くの人に読んで欲しい。読んでみたいと思わせる文章を書くことはできないが、想いを綴っていく。

戦争小説としての魅力:リアルな描写

この作品は、女性狙撃兵への賛歌のために書かれた作品ではない。戦争の凄惨を伝えるために書かれた作品だと思っている。そして、それを伝えるための描写や物語の運びが圧巻である。

物語は主人公の日常から始まり、その日常が突然、他国の軍隊の襲撃により破壊され、二度と戻らぬものになる。これは物語上に閉じる出来事ではない。国が始めた戦争はそこで暮らす人々の生活を命を突然奪い去ってしまう。

また、戦争に生きた人達の内面の変化もリアルに描かれている。"リアルである"と戦争を体験していない私が評することは決してできやしないが、著者の逢坂氏は、実際に戦地に生きた人達の生の言葉を聞き、それを再現することに挑戦したと述べている。

この作品を通して私が感じた戦争の恐ろしさは、戦争が人を異常な精神状態に追い込むということである。本作の中でも登場人物がこのように述べている。

この戦争には、人を悪魔にしてしまうような性質があるんだ。

私個人としては、人間の心には善の部分と悪の部分が共存している。どちらの心が前面に出てくるかは、縁する人や環境によって大きく影響される。人殺しが正当化される戦場という異常な空間は、人間の持つ悪の部分を最大限に引き出してしまう。それが、悪魔と化すという事だと解釈している。悪魔と化した人間の振舞が、本作では緻密に描写されている。

本の感想から少し話はそれるが、縁する人や環境に紛動されることなく、自らの信念に生きることができるのも人間であると信じている。作中にもそういった登場人物が多く出てくる。そのような人たちの振舞は、私達に人間はかくも偉大になれるという忘れ去られがちな真実を思い出させてくれる。
ユダヤ人の精神分析学者が自らのナチス強制収容所体験を綴った「夜と霧」にも、人間性が崩壊し兼ねない極限の環境の中でも強く生きた人間の生き様が描かれている。私もそのようにありたいと、強く願うばかりである。


エンタメとしての魅力:カッコいい登場人物

「同士少女よ、敵を撃て」の魅力に話を戻す。エンタメとしての面白さについて目を向けると、まず主役となる登場人物達が皆もれなくカッコいいのだ。登場人物は皆性格も、戦いに身を投じる意味も異なる。だけど、皆、漏れなくかっこいいのだ。

第一に、その信念を決して曲げない強さがある。
自分が死ぬかもしれない、または仲間を殺すことになるかもしれない、そういった状況にあっても、皆自分の信念を曲げない。
セラフィマが撃ったドイツの少年兵を、身を挺して助けようとするヤーナ。
イリーナーを殺そうとするセラフィマ。そのセラフィマを殺してでも、その企みを阻止しようとする戦友シャルロッタ。
他にもたくさんある。
どの場面も切なさを伴う。正解はない。
それでも自分で決めて、行動する。
そんな登場人物達がとてつもなく格好いい。


第二に、シンプルに強い。
狙撃兵として精錬されていく登場人物達は、物語の中盤から後半にかけては凄みさえ伴う。女性を馬鹿にする歩兵を投げ飛ばし、黙らせるシーン等はとても痛快だ。常に冷静で、明らかに他の兵士より格上な彼女達の振舞いは見ていて学ぶものが多い。

エンタメとしての魅力:狙撃シーンの演出

その登場人物達による狙撃シーンの演出が臨場感たっぷりに描かれていることもこの作品の魅力だと感じている。プロフェッショナリズムに生きる人間の精錬された技術を少年漫画のように演出している。

例えば、セラフィマが敵を今まさに狙撃せんとするシーンの描写。(冨岡義勇の「凪」を想起してしまいます)

セラフィマの心を無数の感情が掻き乱し、やがて空が訪れた。
明鏡止水の境地に至り、彼女は歌った。

また、セラフィマが自らを狙う敵狙撃の存在に気付くシーン。

かつて自らが隠せなかったもの、
そして今やその探知を会得できたもの、殺気。

さながら、少年漫画のバトルシーンのようである。

エンタメとしての魅力:巧妙な駆け引き

味方内や敵との巧妙な駆け引きも本作の見どころである。特にラストのシーンは圧巻で、セラフィマが自らの目的達成のために仕掛けた様々な策が、どのような帰結を迎えるか息を呑んで見入ってしまう。戦争小説でありながらアガサ・クリスティー賞を受賞に至ったそのミステリー性(?)が万遍なく散りばめられていおり、最後まで緊張感を持ってページをめくることになる。


最期に

私が感じた魅力を述べてきたが、この物語の特筆性は、女性の目線から捉えた戦争を小説にしたことにある。男の目線でしか語られない戦争に、疑問を呈した小説であるのだと私は思う。


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