生きましょう 前編
「殺してくれぇ!!!」そう大声で叫び続けるお隣さんを精神病院へぶっ込んでください!!とセンターの電話が鳴った。
ディープな案件がやってきた。
地域担当の私が住所地の長屋へ駆けつけた。
三畳一間の部屋の勝手口は開け放しで、中を覗くとパンツ一丁の白髪の男性が倒れている。
長屋の住人が数名出てきて「とにかく昨夜からうるさくて仕方ない。頭がどうにかなってるから病院へ運んでくれ。」と騒いでいる。
「こんにちは。看護師がご容態を診に来ました。入っていいですか。」
実際には保健師だが、保険屋さんと間違われるので敢えて看護師と言った。
「殺してくれぇ!!!」
お腹がパンパン膨れあがっていて、下着にも畳にも血が着いている。
細目を開けて私を一瞥した、その眼差しにはどこか鋭さが感じられた。
身体に触れることを伝えながら、血圧計を付けるが、高すぎて何度もエラーになる。
「この役立たずの看護師がぁ!!」
声は威勢良いが身体はぐったりして、自分で起き上がれない。
部屋の様子から、ここ数日間で急に動けなくなり、一人暮らしの生活が立ち行かなくなっているようである。
「殺してくれぇ!!!」
「殺せませんっ!生きましょう!!!」
意味不明な会話のあとに、このままでは本当に死んでしまいますので救急車を呼びますっっっーーー!!!と私が叫ぶと、その剣幕に「はい!」となぜかあっさり同意してくれた。
救急隊員が腹部を触診しながら、このままだと危ないから病院へ行きましょう、と丁寧な対応で促してくれたおかげで、何とか救急車に乗せることができた。
が、あちこち探し回って、やっとこさ見つかった唯一の搬送先から、受け入れる条件として「私の同行」を要請された。
業務範疇外の対応の可否を上司に相談し、生命の危険性を伝えて、緊急事態のため特別対応することとなった。
中編につづく・・・