母と子の記憶
その秋はじめての 金木犀の香り
母とならんで 自転車をこぐとき
強く香った
私が産まれた 10月の記憶は
金木犀 だんじりのお囃子
そして 美しい月
それらによって 子の誕生日を思い出す母
結婚し 会うことがままならなかった数年
記憶はより鮮明に 母子に蘇っていた
いつか 私が娘と離れて
暮らすようになったら
まず 何を思い出すのだろう
彼女の産まれた朝にみた
病室からのハドソン川の煌き
ナイフのように突き刺さる
真冬のマンハッタン島のビル風
大雪のなかを 入院へ急いだ
救急車のサイレンの響き
今 毎日一緒にいると とても大変なのに
いつかの 巣立っていく日をおもうと
抱っこする手に 力が入ってしまった