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サルトリイバラを探して        さやのもゆ

年々暖かくなってきた、冬の季節。
今年の紅葉は、色づく前に葉っぱが散ってしまうもののようだ。
休日の午後になると、母とふたりで、都田川の堤防をウォーキングするのが日課になっている。

12月初旬の日曜日のこと。この日は、いつものように河川敷に車を置いて、堤防の遊歩道を歩き始めた。だが、一週間前からは澪(みお)つくし橋を左に見て、数百メートル南のところで迂回しなければならない。
理由は、これより先で都田川の河口を渡る、細江大橋までの堤防工事が始まっていたからである。
すでに歩道の柵は取り外されており、土手の一部は、草どころか立ち木まで、根こそぎ掘り起こされていた。
どうやら、前の週に来たときよりも、着実に工事がすすんでいる様子である。来年の3月、工事が終わるころには、堤防がすっかりコンクリートで固められてしまいそうだ。
そうすると、この先で堤防の土手に自生している蔓草など、あとかたも無くなるに違いない。
そう見てとると、母と私はさっそく堤防の土手の下を、田んぼ沿いの真っ直ぐな道で南に歩き始めた。始終、チラチラと上を眺めながら、お目当ての蔓草を見逃さないようにと。
時折、それらしい姿を見かける度に立ち止まって確かめる。が、ことごとく、“ノイバラ”とか“ツルウメモドキ”ばっかりなので、ガッカリして後にする。

いつもより足が進まず、道のりを遠く感じたが、河口から数百メートル手前まで歩いたところで、私は上を見たまま、ピタリと立ち止まった。
それは、土手の木に蔓をからませて上へと昇っている。バラの実よりも大きくて丸く、鮮やかな赤い実をつけた蔓草ーサルトリイバラが、そこにあった。

高い所に実が残っているので、数メートルほどの土手を登らなくてはならない。
先ずは、私ひとりで行ってみる。こんなの、大したヤブじゃないとタカをくくっていたら、ノイバラのトゲに捕まってしまった。引っ掻きキズをこしらえながら草を分け、何とかサルトリイバラの前に立つことができた。
しかしその蔓は、ツルウメモドキのそれに比べるとずっと太いもので、当然、トゲも大きい。
さらにそれが、結構な知恵の輪のように絡まりあっているものだから、折り取るのにこれまたひと苦労した。
 トゲに気を付けて、できるだけ実の多いところを選ぶ。数本収穫したところ、何と母までが土手をよじ登ってきた。そして、私よりも慣れた手付きでサッサと数本手に入れ、持ちやすいようにまとめた。

「これくらいあれば、十分だよ。もう、下りよう」
母の言葉を合図に、ふたりは土手を下りることにした。

ところが、今度はヤブの中の何処から登って来たのかが、分からなくなってしまいーまたもや、引っ掻きキズを負いながらのヤブ漕ぎとなった。
ふたりがやっと道路に降り立った時、母は、そっとサルトリイバラを手にしていた。

冬になると、母はいつも言うのだー「赤い実のなったツルがほしいんだけどね、アレは何ていう名前だっけ?それそれ、サルトリイバラがいいんだよ。」

今年は、夏から秋への移り変わりがハッキリしなかったためか、葉っぱの色づきも遅く、枯れ気味に褪(さ)めたものだった。
それにつられる様にして、毎年決まった時期に赤い実をならせる蔓草も遅れて行き、待ちかねた鳥たちに食べられてしまったのではないか。

ともあれ今年も、母のささやかな願いが、こうして叶ったことに、ホッとした私であった。

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