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さやか星小学校自慢話シリーズ〜奥田健次先生による職員研修〜

さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎 

 12月26日(木)の、朝7時30分の気温は5度でした。前日が氷点下5度でしたので、その差10度です。そのため、この日の朝は、「暖かいなあ。」と感じました。私も少しずつ長野県人になってきたようです。さて、今週は学校の自慢シリーズです。


学びクリエイターという考え方

 さやか星小学校には、「学びクリエイター」という言葉があります。これは、教師や保護者といった、子どもの学びを支える大人たちも、子どもたちと共に学び続けようという理念を表す言葉です。私は、さやか星小学校独自の理念の中でも、この「学びクリエイター」という考え方が大好きだし、これこそが、さやか星小学校の教育の質を保証していると信じています。
 「教師」という言葉には、一般的には「教える人」というイメージがあるかもしれません。教師は常に学びを与える側であるという「あたりまえ」です。しかし、激しく変化していく社会に飛び出していく子どもたちを教える教師は、実は「子どもたちよりも学び続ける人間でなければならない」と私は考えています。一方で、様々な業務に忙殺される教師に、「学び続ける気がない人間は教師として失格だ。」と叱りつけても、何の解決にもなりません(教育への根本的な情熱がない場合は、別の問題になります)。問題の原因を個人のパーソナリティーに求めることを、行動分析学では「個人攻撃の罠」と呼びます。我々は、子どもへの指導を含めて、問題解決の方法にこれを決して選びません。必ず、環境の操作に解決方法を見出します。教師は基本的に、子どもの成長や行動の改善が好子になります。そのため、新しい知識や技術が身に付くことで教育技術が向上し、子どもたちにポジティブな変化が生じれば、それが教師の学ぶ行動を強化するはずです。つまり、教師の学ぶ行動が強化されるような環境を整えることが重要なのです。

最高の臨床家による、実践的な研修

 さやか星小学校には、教師が学び続けるための環境が整備されていますし、足りない部分はこれからも改善していきます。例えば、既にご紹介した「指導内容検討委員会」では、授業について毎週話し合う時間がシステムとして確保されています。いずれご紹介しますが、週に1回開催される「児童情報共有」という職員会議では、各学年に在籍する児童の学習や行動の様子を共有し、意見を出し合っています。この時、「個々の教師の経験則に基づいた見取り」ではなく、できる限り客観的な行動レベルで、記録を基に話し合えるようにしています。
 そして、月に1回から2回の頻度で行われるのが、奥田健次理事長(以下、奥田先生)による職員研修です。この研修は、実に贅沢な研修だと思います。奥田先生は、日本全国(時には海外)を文字通り飛び回り、誰も比肩できないほどの数の教育相談を毎年行う、最高の臨床家です。その実践から得られた知見は、多くの著書や講演という形でフィードバックされ、我々教師や、子育てに悩む親の道標となっています。その奥田先生に、毎月1回以上のペースで研修をしていただける。しかも、自分が担任している児童への指導や支援について直接アドバイスをいただけるわけですから、これは行動分析学を学ぶ教師にとっては垂涎ものの環境だと言えるでしょう。

好子の重要性

 今年4月からの9ヶ月間で、既に12回の研修を受けてきました。その中で、奥田先生が繰り返し強調されるのは、好子の重要性です。我々は、子どもが新たに望ましい行動を獲得したり、不適切な行動を減らしたり無くしたりすることを計画する時に、好子を使います。好子というと、「お菓子みたいな、子どもが喜ぶご褒美でしょ。」と思われがちですが、お菓子のように甘いものではありません。「その行動の直後に出現すると、その行動の将来の生起頻度を上げる、物・刺激・条件」と定義されていることから分かるように、行動の直後に発生する環境の変化は全て好子になり得ます(もちろん嫌子にも)。奥田先生は、望ましい行動を形成したい時は、子どもが目を輝かせて「どうしても欲しい!見たい!やってみたい!」と思うような好子を用意できるか。不適切な行動をなくしたい時には、「どうしても失いたくない!」と子どもが泣いて後悔するような好子を用意できるかである、と説明されています。そのためには、好子のアセスメントが極めて重要になってきます。奥田先生は、支援を開始する前に、そのお子さんの一日が完全にイメージできるようになるまで徹底的に生態学的アセスメントをし、行動変容を引き起こすインパクトを持つ好子の特定をされるそうです。また、仕事で全国を回る際に、必ず某古本屋に立ち寄り、子どもの好子を探し歩くそうです。そして、「無手で臨まない」ことを徹底されています。これは、我々が児童を指導したり支援したりする際に共通の原理原則であると学びました。
 「そうは言っても、好子をなくしたら、また元に戻るでしょ。」とおっしゃる方も多くいますが、獲得した行動には、行動することそれ自体に好子が内在するようになります。例えば、自転車に乗れるようになるまでは、何度も転ぶから痛いし、上手に乗れないからつまらない。そのため、練習に何らかの好子を随伴する必要があるかもしれません。でも、乗れるようになってしまえば、好きな場所に速く移動できることや、爽快感などが好子になって、付加的好子が随伴しなくても行動は維持されます。算数の問題は、解き方を獲得すれば、問題が解けた喜びが好子になりますし、それを友達や先生が褒めてくれれば、それが好子なって行動は維持されます。私の学級には、朝の挨拶を自分から言う行動が自発しないお子さんがいました。そのお子さんには、適切な挨拶の方法を教え、担任に自分から挨拶ができたらポイントシールを獲得できるという支援を行いました。その結果、担任への挨拶はもちろん、友達や他の先生にも自分から挨拶をするようになりました。自分がした挨拶に相手が笑顔で挨拶を返してくれることや、「素敵な挨拶だね。」と褒めてもらえるといった社会的な好子が、そのお子さんの挨拶行動を強化し、自然に挨拶の対象が広がっていったのだと考えています。

 私も不惑を超え、教師として15年目に突入し、ベテランと呼ばれる領域に入りました。しかし、今なお学び続け、教師として成長していることを実感しています。学び続け、成長を実感できる日々は、本当に充実していて、楽しい。きっと、他の教員の皆様もそうだと思います。さやか星小学校の教員は、「学びクリエイター」として学び続けます。そして、学び続ける環境を、作り続けます。それが、子どもたちの笑顔につながるように。