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どうして おかみさんは たぬきを にがしたのだろう?
さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎
国語科では、「たぬきの糸車」という物語を学習しています。そのお話の中で、罠にかかった狸を、おかみさんが逃がしてあげる場面があります。罠をしかけたのは、おかみさんの夫です。それに、狸のいたずらには、おかみさんだって迷惑していたはず。それなのに、どうして狸を逃したのか?これを、子どもたちとディスカッションしました。一番びっくりしたのは、子どもたちが叙述を根拠に自分の意見を発表することができていたことです。教科書をよく読み、言葉を大切にして話し合っていました。以下、話し合いの内容を島岡の記憶を元に再現しました。
A男君 「おかみさんは、たぬきが可哀想だったからだと思います。」
島岡の心の声(そうね。『かわいそうに』というおかみさんの台詞もあるしね。)B子さん 「おかみさんは、たぬきが可愛いと思っていたからだと思います。」
島岡の心の声(うんうん、『いたずらもんだが、かわいいな。』という台詞もあるよね。)
C子さん 「たぬきじるにされてしまうからだと思います。」
島岡の心の声(なるほど。たぬきじるにされる=死んでしまうということだから、『可哀想』という理由に繋げていけそうだね。)
D男君 「教科書には、『きこりはわなをしかけました。』って書いてあるから、おかみさんは罠のことを知らなかったと思います。だから、びっくりして逃してあげたのだと思います。」
E子さん 「でも、おかみさんが罠を知らなかったら、水を汲みに行く時とかに、おかみさんが罠にかかっちゃうかもしれないよ。」
島岡「すごい!教科書を根拠に自分の意見が言えている!!最初の方の意見は、理由となる台詞が教科書にも書いてあるし、誰でも納得できそうですね。でも、おかみさんが罠を知っていたかどうか、教科書にはっきりと書いてある部分はありますか?」
子どもたち「ありませ〜ん。」
島岡「ということは、はっきり分からないということだね。『可哀想だから』とか『可愛いから』みたいに、みんなが納得できる意見もあれば、『それは違うんじゃない?』という意見が出るものもあるよね。でも、そうやって色々な意見が出し合って話し合いをして、自分では思いつかなかったような考えを友達から学ぶ。これが、学校で友達と一緒に勉強する良さだよね。」
F子さん 「それに、『ふうふ』ってことは、おかみさんときこりは結婚しているんだもんね。だったら、罠をしかけていることはきっと話し合っているよね。」
島岡の心の声(なんて純粋なんだ!そうだね。罠にかかったら大変だもん。たぶん、話し合ってるよね。)
?子さん 「でも、夫婦にだって秘密はあるよ。おかみさんに言えないことだってあるのよ。」
島岡の心の声(え!?今なんかぼそっと聞こえたけど?どうしよう!なんて反応すれば良いの!?助けて、ドラ◯も〜ん!!)
夫婦の繊細な関係を理解している1年生がいることに戦慄を覚えつつ、この授業は平和に終わりました。
国語の文学的な文章の学習は、①構造と内容の把握→②精査・解釈→③考えの形成→④共有という流れで学習することが、学習指導要領に定められています。物語の登場人物や出来事を読み取り、登場人物の行動や気持ちを想像し、自分なりの考えを持って友達と共有するという学習の流れを、全ての教材において行うということです。これは公立学校で国語を教えていた時の自戒にもなりますが、文学的な文章を読むときは、「そのお話だけが読めれば良い」という授業をしてしまっていた気がします。例えば、4年生の教科書には、どこの教科書会社であっても、必ず「ごんぎつね」が載っています。ごんぎつねを読む間は、毎日何度も音読し、細かい言葉まで確認し、ごんの行動の理由について徹底的に話し合いました。子どもたちの「ごんぎつね」の読みは深まりますし。話し合い活動は充実しましたが、授業で得たはずの読む力が、「ごんぎつね」の外に広がらないという課題を常に感じていました。これは、私の授業が「ごんぎつねを読む授業」で、「文章を読む授業」になっていなかったからだと思います。
では、どうすれば子どもたちに「文章を読む」という普遍的な力を獲得させることができるのか。前述の通り、国語科の文学的な文章で付けようとしているのは、「ごんぎつねを読む力」ではなく、全ての文学的な文章について、内容を把握し、精査して考えを持ち、他者と共有する力です。教科書に載っている文章は、その練習と位置付け、子どもたち一人ひとりの興味関心に応じた物語を読む時間に広げていくような授業にしたい。そこで、学習指導要領に示された段階ごとにワークシートを作成し、児童がその流れに沿って学習を進めていくと、最後には感想文が出来上がっているという単元計画を考えました。
① 構造と内容の把握・・・分からない言葉の確認、登場人物の確認、主人公の人物像、物語を5W1Hで記述する。
② 精査・解釈・・・そのお話の中で「なぜ?」「どうして?」と思った部分について考えたり、話し合ったりする。
③ 考えの形成・・・読書感想文を書く。
④ 共有・・・読書感想文を読み合い、コメントし合う。
実は、この学習の流れは、私が公立学校で行ってきた国語の授業を、ワークシートに落とし込んだものです。これができれば、子どもたちはどんな文学的な文章であっても、自力で感想文を書くことができるようになります。「物語を読む勉強をするのは、教科書で物語を学習する時だけ」という当たり前を脱し、少しでも時間があれば、いつでも文章を読む学習に取り組むことができるようになります。教員も、その物語専用の教材研究をするのではなく、色々なお話に目を向けて、子どもたちと一緒に物語を楽しむことができる。「教科書に載っているお話はあまり好きではないけれど、こっちの本は大好きだよ。」というお子さんだっているはずです。
表紙の写真は、分からない言葉について確認している場面を撮影したものです。「やぶれ障子の穴からたぬきがのぞいている」場面を動作化し、イメージを共有しました。言葉を正確に理解することは、文章を読む上でとても大切です。
文学的な文章の学習の目的は、究極的に言えば、読書の楽しみを子どもたちに知ってもらうことだと思います。まだまだ改善の余地はたくさんありますが、さやか星小学校の国語の授業が、本好きの子どもをたくさん生み出すような授業になるように、日々工夫をしていきたいと思います。