日経平均の大暴落をもたらした8つの理由と今後の対策
こんにちは。
高衣紗彩です。
8月に入った途端に、相場が荒れていますね。
8月2日(金)と5日(月)にそれぞれ2,216円(下落率5.8%)、4,451円(同12.4%)下落し、年初からの上昇分をすべて吐き出したかと思えば、6日(火)には3,217円(10%)戻し、7日(水)には日銀の内田副総裁の「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」との発言から414円の上昇と、本当にジェットコースターに乗っているような毎日が続いています。
また、為替市場でも、つい一か月前は162円を超えてさらにドル高円安が加速する勢いでしたが、一時は141円をヒットし、130円台も視野に入る展開となっ他あと、145円あたりで推移しています。
このような大きな変動を経験するのは、初めての方も多いと思います。
日本株は、23年から順調に安定的に上昇基調を辿り、年初からは上昇ペースが加速していたのに、なぜ、突然、このような急落に見舞われたのか。
今日は、そのポイントをまとめてお伝えしたいと思います。
結論から言いますと、その要因は以下になります。
1 日米中央銀行の時を同じくした政策転換
2 米国経済の失速
3 雇用統計の悪化
4 米半導体銘柄の失速
5 米大統領選の見通しの変化
6 円キャリートレードの巻き戻し
7 ドル円の方向性の転換
8 中東情勢の緊迫化
ひとつずつ、見ていきます。
1 日米中央銀行の、時を同じくした政策転換
日銀の植田総裁が、7月末の政策決定会合で、0.25%の利上げを決定しました。そればかりでなく、今後は1%まで上げていくとの考えを示しました。それまでは、量的緩和は正常化するけれども、すぐに利上げが続くということではなく、利上げはまだまだ先という見方を示していたので、突然のハト派(インフレ退治に緩い姿勢)からタカ派(インフレ退治に厳しい姿勢)に『突然』転換したとみなされ、これが市場にとって「サプライズ」となりました。
巷では、植田さんのこの発言が円高をもたらし、株安の引き金を引いた、との見方がされていますが、それは数ある要因の中の一つのきっかけに過ぎず、それがメインの原因ではありません。
その背景に、すでに、マグニフィセント・セブンと呼ばれる、これまで米国市場をけん引してきた半導体銘柄の先行き見通しが悪化していたり、米国経済が水面下でほころんでいたりー。
そんな背景が元々あって、投資家がリスクオフに向かわんとしているタイミングで、利上げを行ったので、格好の標的にされてしまいました。
このタイミングで株安に一役買ったのは、植田さんだけではありません。もう一人、重要な人物がいます。
それが、FRBのパウエル総裁です。彼は、利下げの可能性については、これまでは、データを見ながら慎重に行うとしていました。早すぎる利下げは、再びインフレを招くからですね。
ですが、先週はいよいよメジャーな経済指標も想定を上回って悪化したことから、目線がインフレから景気後退リスクに向かいました。そして、米国経済がハードランディング(急激な景気後退)に陥る可能性を指摘、FOMC後の記者会見で、「早ければ9月会合での利下げが選択肢になり得る」との認識を示したのです。これが、これまでのタカ派からハト派への転換したとみなされ、これも市場にサプライズを与えました。
パウエル氏は、「利下げのタイミングが遅きに失した(だからハードランディングしちゃったじゃないか!)」と言われないよう、迅速に政策転換を図ったのでしょう。
このように、日銀のタカ派(利上げに積極的)への転換、FRBのハト派(利下げに積極的)への転換が同時に起こった。だから、日米金利差の縮小が予想より早まり加速する、とみなされ、円高ドル安が一気に進みました。
これが、それまでの円安傾向が円高傾向に転換したきっかけです。
巷間では、「植田ショック」などと呼ばれ、植田総裁のせいにされている感もありますが、それだけではないということです。
さらに、これらをきっかけに、円キャリートレードの巻き戻しが起こった、ということもあるのでが、これについては、後ほど触れたいと思います。
2 米国経済の失速
ここへきて、米国経済のほころびがあらわになりました。
これまでも、米国経済の内情はかなり悪化しているとのデータが出ていたのですが、それらはみんなはあまり見ていないマイナーなデータなので、市場にはスルーされていました。というか、気づいていないんです。
毎日市場を見ている人でさえ、「米国経済はまだまだ健全。ハードランディングはありえない」との見方をしている人もとても多いです。ですが、実情は異なります。
そして、先週は、マイナーなデータばかりでなく、市場がウオッチしているメジャーな経済指標も悪化を示しました。
例えば、
ADP雇用指数
ISM製造業景気指数
公的・民間債務の上昇
→国家債務が史上初の35兆ドルを突破
→個人貯蓄率がリーマンショック以来の水準に低下
→クレジット債務残高が1.06兆円と過去最高
不動産市況の悪化の前触れ
米国メジャー銀行が債務不履行の可能性に備えているとの報道
などです。このメールは、経済レポートではないので、そして、誰も詳細には興味がないと思うので、一つひとつ解説することはここではしませんが、背景として、米国経済が悪化を示していた、ということを理解しておいてください。
また、債券市場で2年超継続されていた「逆イールド」が、FRBの9月利下げ期待の高まりにより解消されたことも「景気後退」示唆、と取られました。
経験則的なものですが、逆イールドが発生してから、18ヶ月から24ヶ月で景気後退に陥ると言われており、それが解消されるタイミングで実際に景気後退に入る、と言われています。
FRBの、9月に利上げあり得る発言を受けて2年物債券利回りが長期債利回りの低下を上回る低下を遂げたことにより、逆イールドが解消されました。これを持って、「やばっ!リセッションに入った!?」と思う向きが増えたのです。
3 雇用統計の悪化
指標の中でも、特に注目されたのが、失業率です。数か月前までは3%台で安定して推移していたものが、ここ数か月は毎月悪化し、7月は4.3%となりました。事前予測は4.1%だったので、「保っていた労働市場がいよいよ緩み始めてきた!」と、これも市場にサプライズとなりました。
それだけでなく、景気後退に入ったことを示すサーム・ルールにヒットしたことが、市場に材料視されました。サーム・ルールとは、過去3か月の失業率の平均が、12か月の最低値を0.5%以上ことをリセッション(景気後退)開始の目安としているというもので、過去50年にわたり高い精度を示してきました。
7月のデータが0.53%となったことで、「リセッション懸念なんてないない」と言っていた人たちが、突如として、「もうリセッション始まってるのか!」というサプライズとなりました。
4 米半導体銘柄の失速
少し前から、これまで米国株式市場をけん引してきた「マグニフィセント・セブン」 の雲行きが怪しくなってきていて、株価も軟調に転じていました。例えば、市場を牽引してきたNVIDIAは、6月11日の高値から7月末まで26%下落し、マイクロソフトは、7月31日の決算後に8%下落しました。デルやインテルなどは、今年に入って15%の人員削減を行っています。
これについても、ここではこれ以上詳細には入りませんが、市場参加者は、少なくとも生成AI関連銘柄は「未来への期待」から大きく買われていただけで、期待は行き過ぎていたのではないか、バブルの「終わりの始まり」の足音が近づいてきているのではないか、と気づき始めたと言えます。
5 米大統領選での見通しの変化
トランプ元大統領の暗殺未遂事件、共和党大会におけるトランプ氏の大統領候補決定、バイデン大統領の立候補辞退、などを経て、トランプ氏の当選が確実視されるようになりました。
民主党は、バイデンの辞退後、カマラ・ハリス氏を立てて盛り返しを見せましたが、トランプ優位に変わりはなく、投資家はトランプ当選想定でポジションの調整に入りました。
すなわち、マグニフィセント・セブンを初めとする半導体銘柄から、減税や規制緩和、小型株やエネルギー株などトランプ氏の政策の恩恵を受ける”トランプ銘柄”への入れ替えが開始されたのです。ちなみに、マグニフィセント・セブンはバイデン寄りの企業です。
6 円キャリートレードの巻き戻し
7 ドル円の方向性の転換
6と7を一緒に見ていきます。キャリートレードとは、低金利通貨で借り入れを行い、高金利通貨に投資することで、2国間の金利差を利ザヤとして運用成果を上げる投資手法です。
金利差が高ければ高いほど高い運用成果を得ることができます。また、為替の動向も運用成果に影響します。例えば、円売りドル買いのキャリートレードでは、日米金利差が5%で運用期間中にドル高・円安が3%進行した場合、リターンは5%+3%=8%となります。一方、10%のドル安・円高となった場合、5%-10%=▲5%の運用成果となってしまいます。
なので、キャリートレードの成否を決める要因は二つ。一つは、金利差が高いこと、そして、もう一つが為替のボラティリティが低いことです。この二つが揃うと、キャリートレードにとっては魅力的な相場環境となります。
この数年間、日銀が量的緩和を続け、米国他欧州各国も利上げ方向にあったことで、金利差が高く、また為替も動かない状態が続き、まさにキャリートレーダーにとって最高の相場環境となっていました。
低金利に苦しんだ日本の銀行が、前回の金融危機以降で低金利で調達した資金をドルに変換して海外での貸し付けを積極的に増やしていったことも、急増した要因でしょう。日本初の流動性が世界のバブルを引き起こした可能性があります。
日銀とFRBのほぼ同時のタイングでの方向転換に加えて、金利差が想定以上に急速に縮小するとの見方が広がり、円キャリートレードを手仕舞う(反対売買をする)動きが加速しました。
反対売買とは、円での借入を返すために、ドルを売って円を買う取引です。この巻き戻し取引が活発化し、円高に向かい、円高を受けて株安が加速しました。(日本は輸出企業が引っ張る経済なので、円高が進むと株価は下がります。)
この1)日米金利差の縮小を背景とする円買いと、2)景気後退懸念、AIバブル崩壊懸念が急浮上してきたアメリカから資金を逃避させるべく、相対的に安全資産とされる日本円が買われるリスクオフの動き、この2つの要因に同時に見舞われた結果、急激な円高が進行しました。
ドイツ銀行のレポートでは日本のGDPの505%の巨額のキャリートレードが巻き戻されているとのこと。ゴールドマンは、約20兆ドルと指摘。そして、JPモルガンのレポートによれば、今回の巻き戻しで解消されたのは、全体の60%に過ぎないとのこと。これからも、乱高下が予想されます。
8 中東情勢の緊迫化
7月31日、イランの首都テヘランを訪れていたハマス最高指導者ハニヤ氏がイスラエルと見られる攻撃により命を落としました。ハマスはイスラエルによる攻撃と断定。自国での殺害を許してしまったイランも、同国最高指導者ハメネイ師が「ハニヤ氏暗殺に対する報復はイラン政府の義務」と述べ、イスラエルとハマス&イランの対立が激化しました。
レバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラは2日、司令官殺害を受けて、イスラエル軍への攻撃を再開し、一部の航空会社はイラン上空の飛行を避け、イスラエル発着のフライトを取りやめているという情報もあります。
イラン国営テレビが「これから数時間で、世界は驚くべき光景と非常に重要な展開を目撃するだろう」と報道するなど、いつ戦争が起きてもおかしくない状態となりました。
これを受けて、投資家は「リスクオフ」の動きに出ました。リスクオフとは、自分のポートフォリオが取っているリスクを低める行動を指します。すなわち、リスクの高い投資先(通常は株式)、リスクの低い投資先(通常は債券)に資金をシフトさせるのです。この証拠に、米国債利回りは、軒並み低下しています。
これも、不思議なことに、日銀、FRBと同じタイミングで起こっています。
*
今回は、8月2日(金)、5日(月)の株価暴落の背景をまとめました。
人間は、正体がわかっているお化けは怖くありません。
この2日間の急落の背景がわからないと、これからの動きがわからなくなってしまいます。上記8つのポイントを繰り返し読んで、しっかり理解しておいてください。金融リテラシーが高まります。
個人投資家の行動
5日、証券会社にあるコールセンターには、午前9時の取り引き開始直後から問い合わせが殺到したそうです。問い合わせ内容は、今後の経済や株価の見通しに関するほか、保有する株式を売却したいという内容も多かったということです。
JPモルガンは、機関投資家が下落時に買いを入れた一方、個人投資家はパニック売りを積極的に行ったと発表しました。
今朝のポッドキャストでお伝えした通り、このような大暴落を受けて、恐怖に駆られて売ってしまっては、資産を構築することはできません。
では、恐怖を感じないようにして、目を瞑って我慢しながら投資を続けることができるかというと、それもできないと思います。
仕事が手につかず、人とも笑顔で話ができないと思います。周囲の人に八つ当たりをしたり、やけになってさらに衝動に駆られた行動に走ってしまったり。
恐怖を感じることをやめようとするのではなく、恐怖を感じない投資をすることが、重要なのです。
それが、拙著「ポートフォリオ・マネジメントで一生お金に困らない人になる!」本でも紹介している「ポートフォリオ・マネジメント」という運用手法です。
この手法をとっている人たちは、この局面でも全く恐怖を感じていません。笑顔で普段通りの生活をしています。その例をポッドキャストで話しているので、ぜひ、聞いてみてください。
https://podcast8.kiqtas.jp/mikke/archives/2024/08/385.html
この暴落をきっかけに、知人友人の皆さんの金融リテラシーも一緒に高めてあげていただきたいと思います。