遥か旅の記憶 1987.春⑧
ユーレイルパスを使って、この旅の西ヨーロッパ最後の国、ドイツへ。
スイスジュネーブからドイツミュンヘンへ入り、ハイデルベルク、フランクフルトへと向かう。
①呆気ない列車での国境超え
ヨーロッパでは、
ポルトガルからスペインへ、スペインからフランスへ、フランスからスイスへと列車での国境越えを体験した。
今回もスイスからドイツへの国境越え。
国境の町に入ると役人が列車に乗り込んで来て、パスポートにポンポンと入国のハンコを押して回る。本当に呆気ない。
入国審査も何もなく、何か質問されることも無かった。
まるで切符の検察かのような気軽さだ。
役人だか駅員だかわからないくらいの緩い感じの人だった。
島国日本人にとっては自国を出て他国へ入国するというのは、「海外」という文字通り海を渡るわけで、それなりに物々しい緊張の瞬間を経験する。
でも地続きのヨーロッパの国境越えは、言葉や通貨は変わるものの、ハードルは極めて低いものだった。
今はユーロ圏でひとつになったので、パスポートの確認さえ無いのだろうか。
②列車の乗り継ぎ間違いで偶然降り立った町
私たちはこの日初めて列車の乗り継ぎを間違えてしまった。
ジュネーブからミュンヘンへは直通列車で行けると思っていたが、どうやら乗り換えが必要だったらしいのだ。
そうとは知らない私たちは、乗り継ぎ駅St. Gallenでの停車中、悠長にパンをかじっていた。
そんな私たちを横目にゾロゾロと全員が降りて行ったが、誰ひとりとして「この列車はここまでよ!」と教えてくれなかったことに、国民性を感じた。
スペイン人なら全員でうるさく教えてくれるはずなのに。
掃除のおじさんに言われて、ようやく気づいた時には乗り継ぎ列車は発車した後だった。
駅前にあったお土産物屋さんで絵葉書を買って、次の列車が来るまで書きながら待つことにした。
③美しいドイツの街
ミュンヘンからハイデルベルクへ向かう途中、
世界で1番美しいお城と言われるノイシュバンシュタイン城を訪れてみることにした。
この城は中世の古城ではなく、19世紀に建築された近代の城館だ。
ロマンチック街道の終点に位置するため、観光客が後を絶たない美しいお城だ。
私たちが訪れた雪の中のノイシュバンシュタイン城は、絵葉書より美しい姿だった。
今で言うなら『アナ雪』の世界そのもの。
ハイデルベルクの町には夜に到着したので、あまりウロウロせずに1階がカフェになっている駅近のホテルに泊まることにした。
ハイデルベルクの街の中心にはネッカー川が流れていて、朝夕には町の人々が散歩をしていた。
いつの間にやらもう3月になっていたので、川べりをのんびり散歩できるくらい暖かくなって来た。
④フランクフルトの動物園
私たちの旅のヨーロッパ最後の都市フランクフルトでは、あまり観光はせず、動物園に行ってみた。
結構いろいろな動物がいて面白かった。
途中放し飼いの孔雀がよってきてくれた。
孔雀だけてはなく、なぜか私が檻に近づくと動物たちが寄って来てくれる。
動物好きがわかるのかな?と思っていたら、近くに来た飼育員さんが私と同じようなモッズコートを着ていた。
エサを貰えると思って寄って来ていたようだ。
⑤安心のドイツ
ドイツへ入った瞬間から、なぜかホームに戻って来たような安心感があった。
街中やホテルの清潔さ。
人々の誠実さや落ち着いた声のトーン。
時間通りに着く列車や正確なお店の開店時間。
日本で暮らしていた時と同じように物事が進んでいく。
これまで当たり前だと思っていたことはそうではなく、
ポルトガル、スペイン、フランス、スイスではかなり調子が狂った。
ミュンヘンに到着した途端、カチッと歯車が噛み合った感覚があった。
でもなんだか物足りなく、寂しい気持ちになる自分に少し驚いていた。
もちろん風景や街並みの美しさは絵葉書のようで、ヨーロッパそのものなのだけれど。
いよいよフランクフルトから北欧フィンランドのヘルシンキへと飛び立つ。