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映画レビュー『沈黙のパレード』
※注意事項
一部物語に関わることが書かれていますが、ネタバレにならない程度に抑えていると思うので、その辺りだけ ご了承下さい。
作品情報
公開日:2022年9月16日
監督:西谷弘(『容疑者Xの献身』、『アマルフィ 女神の報酬』など)
全体的なレビュー、感想の箇条書き
・「家族や たくさんの人から愛された少女の死をきっかけに、彼らの秘密や闇が明らかとなる」というストーリー展開を見て、真っ先に思い浮かんだのが海外ドラマ『ツイン・ピークス』だった(※)。
・同作は家族やクラスメイト、町中の人々に愛された少女ローラ・パーマーの死から始まり、主人公のクーパー特別捜査官は捜査する内に、住民達の秘密や町の闇、悪の存在などが明らかとなって行く群像劇である。
・そして本作も この群像劇方式によって、より濃密になった人間関係と「誰が真犯人なのか?」という、これまでのTVドラマ・映画シリーズにはないハラハラドキドキ感があった。
・加えてタイトルでもある『沈黙のパレード』に隠された、本作が最も伝えたかったこと―
○沈黙
⇒愛する人を守るために/傷つけないために、真実を隠すことは正しいことなのか?/真実を隠し続けながら生きて行くことは出来るのか?
➡被害者の家族や彼女と親しかった人々。
⇒もしくは自分がこれ以上傷つかないために、真実から目を背けることは正しいことなのか?/見て見ぬふりをしながら生きて行くことは出来るのか?
➡過去の事件にトラウマを抱え、今回の事件を捜査することに迷う草薙。
○パレード(ここでは「仮装」に置き換える)
⇒愛する人のために「善良な(普通の)人間」という仮装をして、周りを偽りながら生きて行くことは出来るのか?
という葛藤や苦しみ、痛みを後述する俳優達の演技によって、セリフに頼り過ぎずに上手く表現出来ていたと思った。
・ただ、結末の描き方が あっさりし過ぎな感じもした。ネタバレになるのでここでは深く書かないが、ややスッキリとしない部分もあった。
・初期のコミカルさと冷静さ、渋さを上手くブレンドした湯川=福山雅治。
・TVドラマ版に比べ、落ち着いた印象になりつつも湯川との絡みで実家のような安心感を見せてくれた内海=柴咲コウ。
・どこか飄々とした印象があった初登場時に比べ、本作では自身のトラウマに直面する内に精神的に追い詰められて行く草薙=北村一輝など、俳優陣の素晴らしい演技は見物だ。
・そして、今回の事件の容疑者となっている人々も吉田羊、檀れい、椎名桔平といった主役級のメンバーが揃っている。
・特に殺害された少女の父親役である飯尾和樹はバラエティー番組で見せるコミカルさを抑え、娘の死に対する深い悲しみと彼女を殺した犯人に対し怒りと殺意を露わにする姿を見事に演じ切っていた。
・欲を言えば、せっかくTVシリーズのメンバーが再集結したのだから湯川を陰で支えていた栗林さん=渡辺いっけいも何らかの形で出演して欲しかったと思う。
・本作では二つの歌が作品を彩る。
一つは作中で殺された少女が歌う平原綾香の『Jupiter』英語版である。日本語字幕付き(以下にURLあり)で再度聴いてみると、意外にも歌詞と映画の内容がリンクする部分があると感じた。
・もう一つは本作の主題歌『ヒトツボシ』である(こちらも以下にURLあり)。この歌はキーパーソンとなる少女が家族や親しかった人に向けたメッセージのように感じるが、映画を見終わった後にもう一度聴くと実はある人物が愛する人に向けた言葉にも聴こえて来るのだ。その人物とは誰か?誰に向けた言葉なのか?もし映画を鑑賞した際は、是非 見終わった後にこの二つの歌を聴いてみて欲しい。
(※)ちなみに筆者の東野圭吾氏は、アガサ・クリスティ著の『オリエント急行の殺人』を本作のイメージにしたとパンフで語っている。
まとめ
久しぶりの『ガリレオ』シリーズの劇場版。
今回はこれまで以上に人間ドラマ、再集結したTVドラマキャスト陣を含む俳優達の演技に力を入れ、「愛する人のために真実を隠す=沈黙することは善か?悪か?」、「痛みや苦しみを偽りながら生きて行くことは出来るのか?」というテーマを描いた物語は、少々不満点はあれど上質な物に仕上がっていた。
『ガリレオ』ファンなら間違いなく楽しめるが、シリーズを知らない人も本作から入って過去のTVシリーズや劇場版を見てみるというのもアリかも知れない。
『ガリレオ』劇場版シリーズの集大成と言っても良い本作、是非劇場で堪能して欲しい。
参考・参照・引用元
映画『沈黙のパレード』公式サイト (galileo-movie3.jp)
和訳♪ the voice ~jupiter english version~ / Ayaka Hirahara (ザ ボイス~ジュピター英語バージョン/平原綾香) - YouTube