こいのぼり
大気の状態が不安定だと予報が言っていたから早めに夕方の散歩に出た。
毎年揚げている家のこいのぼりが左にたなびいていた。東からの風が日中の暑さを少しだけ和らげるように涼しさを含んでいた。
いつもそこで曲がる郵便ポストのある角にさしかかると、右手から男の子が歩いてきた。
こんにちは
と大きな声ではないけれど、はっきりとした口調であいさつをしてきた。
こんにちは、と返す。
かわいい、とノンを見る。
ありがとう
なんとなくその男の子がノンをかまいたそうにする素振りを見せたから、ぼくは屈んでノンの肩を持って彼が安心して近づけるようにした。ノンはおとなしいから吠えついたりだとか飛びかかったりだとかはしない、と思っているけれど、そういうところから事故は起きる。
男の子が寄ろうとすると、逆にノンの方が尻込みしてしまう。いつものこと。
ごめんね、人見知りなんよ、人見知りってわかる?
うん
あっつい
と両手で汗の光るうなじを撫でる。長袖のTシャツの下に、タンクトップ、というか白いランニングシャツがのぞく。ほっぺたがまだ丸みを残してどことなく幼い表情を見せる。ぼくは会話をしながら何歳くらいかな、と推測する。息からジュースのような甘い匂いがする。
今日暑いよね、でも夕方雨が降るかもしれんよ、と、さっき見たこいのぼりと天気予報を念頭に男の子に伝える。
ほんと?
空はまだそんな気配がないな、と不安になって
あー、でも絶対じゃないかも
とぼやかす。
会話に少し間が空いた。
散歩?
と訪ねてみる。そんな年齢の男の子が一人で散歩はないな、とはわかっている。
友達んちから帰るところ
あ、そうか、気をつけて帰るんで
うん
それが合図になってぼくらは別れた。
大人と話ができるんだな、小1にしてはしっかりしてるし、三、四年生にしては小さいかな、二年生くらいかな、と勝手に決める。かわいい子だったな、とノンと散歩を続ける。
子どもがみんな天使だとは言わないけれど、今日、あの子の天使のような様子に触れられてよかったと思う。