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『ボーはおそれている』を観たよ ※少々のネタバレ有り感想

 2月16日に公開された映画、『ボーはおそれている』を観てきた。監督は『ヘレディタリー/継承』や『ミッドサマー』でおなじみのアリ・アスター、主演は『ジョーカー』のジョーカー役ででアカデミー賞を受賞したホアキン・フェニックスによる、ホラー・コメディ・ヒューマンドラマ作品。



あらすじ

 ボーは母親の誕生日を祝うため家に帰ろうとしていた。だが彼は様々な要因が積み重なった結果、乗るはずだった飛行機を逃してしまい、失意の中母親へと電話を掛けた。帰宅するのを楽しみにしていた母親は彼を叱りつけるが、「もういい」とだけ彼に告げ、電話を切られてしまう。翌日はなんとかして帰ろうと奮闘するボーだったが、再び電話を掛けた時、母親は自宅でシャンデリアの下敷きとなり亡くなっていた。

 何が現実で何が幻想だがわからない、そもそもずっとボーの幻想描写を見せられ続けているのでは? と思わせられるほど、ありえない異常な場面と事態が連続して描写され、気付いた時には信じられないような何かが起きて、呆然としているうちにその何かが終わっているという体験をさせられる作品。

 主人公であるボーの目線を通して語られていく話であるはずなのに、そもそもボーが見ていることすら信用出来ないため、今起きていることですら現実のことなのか、それとも彼の精神世界で起きていることなのかもわからない描写がずっと続いてくのが本作の特徴で、例を上げると、彼が飛行機に乗るために部屋を出ようとした瞬間、ドアに刺したはずの鍵や用意したトランクが無くなっていたり、薬を飲もうとしたら水道から水が出ず、仕方なく水を買うためにアパートを出たら路上にいた人々が一斉に彼の部屋へと押し掛けて占領し、クラブのようなどんちゃん騒ぎを起こしたり、風呂に入っていたら天井に貼り付いた男がふってくるなど、どう考えても異常な事態が起こったりするし、遭遇したらボーはめちゃくちゃに焦るせいでどんどん状況がおかしなことになる。
 どのような不条理な事態が起ころうとも、結果としてなぜか彼が置かれている物語と状況が悪い方へ進行していることしかわからないのだ。

 そして肝心な物語だが、良く言えばジャンルを超越したありとあらゆる要素がぶち込まれた内容、誤解を恐れずに言えば支離滅裂な内容であり、初めから終わりまで「変な出来事が起きている……」としか把握出来ないのが非常にもどかしく、しかもボーの過去話が現在の話の中で急に始まったりするので、時系列の行ったり来たりもそこそこ激しい。物語の中盤で話に関わる登場人物が増えてから、なんとなく今こういう状況では?といった認識や、作中劇を通してこの作品の全体像を示唆するような話もされるのだが、答え合わせなどは一切されないため、それすらも正しい理解なのかもわからず、ボーと同じように暗闇の中を突っ走ることしか出来ないのだ。
 明らかにこれはおかしいぞ!!という疑問点が物語上多々出てくるのだが、それに答えようとする気が一切ないのもすごいところで、ただただ謎が提示されただけで終わるのもなんとも座り心地が悪く、もどかしさをおぼえさせながら物語は終わっていくのだが、多分そうなることも含めて全て監督の思惑通りなんだろうな……となる。

 めちゃくちゃアリ・アスターという監督がやりたいことをやったせいで一般向けとは程遠い内容になっているため、観終わってから「ふざけんなよぉ!!」と怒る人間も少なからずいるだろうが、アリ・アスターを期待して観に行くとほぼ満点に近い物がお出しされているのは確かなので、ただただ感服するしかなく、ぼくは終盤のとある物の登場(これも凄まじく唐突な登場である)で大笑いしてしまったので、「アリ・アスター、お前の勝ちだよ……」と屈するしかなかったが、それでも作品自体が面白いかと言われたら、「いや面白くはないよ」と言い切ってしまえるような作品なので、本当にこういう変な映画が好きという人間以外にはオススメできない話ではあった。みんなはハイキューに行ってください、お客さんが10倍くらいいました。

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