ソニー・ロリンズ『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』 その2
クリフォード・ブラウン(トランペット)とリッチー・パウエル(ピアノ)は、ソニー・ロリンズのリーダーアルバム『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』の録音を終えた約3ヶ月後の1956年6月26日に自動車事故でこの世を去ってしまう。本アルバムはクリフォード・ブラウンの正式録音でのラストレコーディングになりました。
ブラウンもリッチーもまさか余命が迫っているとは思いもしなかったはずです。ミュージシャン仲間も同じだと思います。マイルス・デイビスはこう語っています。
不条理な運命への怒り。同じトランペット奏者として将来のあったブラウンを惜しみます。ブラウンもリッチーもまだ二十代半ばの若者でした。
『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』以降の音源を聞いているとソニー・ロリンズの演奏と音楽にもブラウンとリッチーの影響が大きかったと思います。それはロリンズがワルツのリズムでジャズをする、いわゆる「ジャズ・ワルツ」です。ふたりの不在がこの種の音楽の可能性をのばせなかったのではと。
創成期から1960年代にかけてニューオリンズジャズからスイングジャズへ、モダンジャズからモードジャズやフリージャズへ。ジャズは大文字の変化をするなかで、ジャズ・ロック、ジャズ・サンバ、ジャズとボサノバ、と小文字の変化もありました。これらのカテゴリーと同じ程度で「ジャズ・ワルツ」は生成したものの発展しなかったのではと感じます。
もちろん、ワルツのリズムでジャズをする名曲や名演奏はあります。ピアニストのビル・エヴァンス の「ワルツ・フォー・デビー」(アルバム『ワルツ・フォー・デビー』収録)、テナー・サックス奏者のジョン・コルトレーンの「マイ・フェィヴァリット・シングス」(アルバム『マイ・フェィヴァリット・シングス』収録)です。この後につづく曲と演奏は何かと思い巡らせるとたくさん曲と演奏があるとは感じません。
つづく曲と演奏と言えば、年代は入れ変わりますがソニー・ロリンズの『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』に収録されたロリンズのオリジナル曲「ヴァルス・ホット」だと思います。
「ヴァルス・ホット」はファンファーレのようなテーマの合奏から始まります。揺れるようなドラムの三拍子に乗って優麗なテナーサックス、トランペットのステップ感のあるフレーズ、ピアノのつまずくようなメロディ。あいまあいまにテーマが入る。ダンサーがいれば、一曲のなかでさまざまな表現ができる。
もちろん「シャドウ・ワルツ」(ソニー・ロリンズのリーダーアルバム『フリーダム・スイート』収録)もあり、ドラマーのマックス・ローチもワルツのリズムでジャズをした録音はあります。
ソニー・ロリンズがクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ五重奏団と始めた「ジャズ・ワルツ」。一歩が録音されたものの、才能あるふたりの若者ブラウンとリッチーの不在が、ロリンズにあってその演奏と音楽をパワフルに前進させられなかったのかなと感傷的な思いを抱きます。
もちろん素晴らしい音楽にカテゴリーは必要ないですが、切り口がハッキリと刻まれた方が発展することもあります。
違う枠組みは、1940年代から1950年代のスイング・ジャズからモダン・ジャズへの移行のなかで、結果的にモダン・ジャズは「ダンスなるもの」と手を切ってきました。「ダンス」が出来ないくらいの早いテンポ、縦横無尽なアドリブ演奏。この潮流にあってダンスのためのリズム、ジャズ・ワルツは発展する条件に乏しいです。
ワルツと言っても、社交場でドレスを着て男女が優雅に踊るためではなく、リズムはワルツの3拍子で新しい演奏と音楽の生成と発展があったのでは、という考えです。
人を揺らさずにはいられないリズムとダンサブルなメロディ。それらと一体化し自発的で自在なダンスの誕生。ダンスとジャズが一体感をもった「ジャズ・ワルツ」あるいは「ヴァルス・ホットなジャズ」が発展したのではと思うところです。
後年クラブDJが出てきてレコード・スクラッチプレイをし、クラブでその場の雰囲気に合わせてアドリブで聞いたこともない新しい踊らせる音楽が登場します。音源はジャズのレーベル「ブルーノート」だったりします。
ソニー・ロリンズの『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』だけでも、超インタープレイやジャズ・ワルツのすごい演奏を聞くことできます。才能にあふれいますね。
もしよかったら「その1」もどうぞお読みください。
Sonny Rollins『Sonny Rollins Plus 4』