見出し画像

ソニー・ロリンズ『ホワッツ・ニュー?』


『ホワッツ・ニュー?』はソニー・ロリンズがブラジル音楽に取り組んだ名作であり、ボサノヴァの隠れた名演を含むアルバムです。
ソニー・ロリンズの歩みで位置づければ、第2回目の引退から復活し、復帰3部作のうちの第2作目にあたります。第1弾がモダンジャズの『橋』、第2のブラジル音楽の『ホワッツ・ニュー?』です。ピアノレスの取り組みも続きます。

🔵『ホワッツ・ニュー?』のリリース事情

私は『ホワッツ・ニュー?』を国内版のレコードで持っています(RGP−1161)。収録曲は、
A面が
① ドント・ストップ・ザ・カーニバル
② もし貴方と別れる時は
③ ブラウンスキン・ガール
B面が
① ブルーソンゴ
② 夜は千の眼をもつ
③ ジャンゴソ
です。
世界最大の音楽データベースと呼ばれるディスコグスでアルバムリリースの履歴を読むと、年代と国により収録曲が異なります。1962年のアメリカ盤を基準とすると①が未収録。日本盤でも①があり、②が無かったりするようです。紆余曲折を経て収録曲が6曲で決まりとなったようです。

🔵『ホワッツ・ニュー?』を聞き通すことを難しくする「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」の高い壁

私は6曲で決まったレコードで本アルバムを聞き始めました。カートリッジを降ろして聞こえるのが第1曲目の「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」です。陽気なリズムとかけ声ではじまるこの曲に正直ドン引きしました。

ドント・ストップ・ザ・カーニバル(0:13あたりから)

ブラジル音楽が好きな方であれば、普通じゃないか、良いんじゃない、と感じられると思いますが、モダンジャズを聞きたい耳には厳しい

私の感じとは裏腹にターンテーブルではレコードが回り、音楽は流れつづけます。
「ドント・ドント、ストップ・ザ・カーニバル〜。チャララ〜、チャラララ〜、ラララ〜」

中古レコードでかなり安価に買えたという自分を納得させる理由もあり、「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」の壁を超えられず、2曲目以降を聞くことができず。『ホワッツ・ニュー?』を聞き通すことなく数年を過ごしました。

🔵 「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」の壁を避けてB面を聞く

壁を超えるキッカケは単純でした。A面から聞くから「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」にはね返される。だからA面はやめて、B面から聞こうと思い立ちました。

B面は「ブルーソンゴ」、「夜は千の眼をもつ」、「ジャンゴソ」と続きます。一通り聞き終えると斬新な演奏が展開されていました。驚くほどリズムが違います。

「ブルー」はロリンズのテナーサックスの独奏からクランショウのベースと続き、ラテンパーカションが入り合奏します。クランショウのウォーキングベースを中心にテナーサックスとパーカションが絡みます。モダンジャズであればドラムが打ち鳴らされるところが、パーカッションに変わっているため不思議な響きがあります。

「夜」はボサノヴァ風です。一定を刻むリムショットに導かれて、ロリンズのテナーサックスは余裕たっぷりに吹きあげます。音色がとても良いです。ホールのバッキングとソロはリラックスに満ちています。
「夜は千の眼をもつ」

「ジャンゴソ」はクランショウのベースのリフが演奏の柱となります。繰り返されるベースに音色がダーティなテナーサックスと高揚感あるパーカッションで演奏が進み、曲後半ではテナーサックスとパーカッションとのインタープレイが入ります。ロリンズのテナーの叫びもあり未聞の響きです。

B面はボサノヴァを真ん中にパーカションリズムの曲を前後にはさんでいます。

🔵『ホワッツ・ニュー?』の良さに開眼

B面から聞き始めると、これはこれで良いんじゃないかと感じます。グッと本アルバムの面白いところ、趣旨が見えてくる感じがします。

ジャケット裏のライナーノーツはプロデューサーのジョージ・アヴァキャンが書いています。その横に大きくメッセージがあります、「Bongos,conga drums,all kinds of Latin percussion- plus the new rhythm from Brazil,the bossa-nova」です。
翻訳ソフトに読み込ませると、
「ボンゴ、コンガドラム、あらゆる種類の
ラテンパーカッションとブラジルの新しいリズム、ボサノヴァ」と訳されます。

B面はこの通りの世界です。モダンジャズを聞くアルバムではなく、ロリンズがブラジルのリズムに取り組んでいるとはっきり書いています。

🔵開眼後のA面

A面の収録曲は「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」、「もし貴方と別れる時は」、「ブラウンスキン・ガール」です。こちらはサンバ風とボサノヴァ風の組み合わせの面です。

「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」と「ブラウンスキン・ガール」はサンバ風のリズムで、男女のかけ声が最初に耳に入ります。これを演奏の横の流れとして、メインフレーズと聞き進めると、特に「ドント」では壁にはね返されます。

ロリンズは歌物が上手いことを思い出して、かけ声が大切ではなく、それはコーラスだ、サブフレーズと耳を変えて、ロリンズのテナーサックスの演奏を歌とするといつものロリンズ節が耳に届きます。

テナーサックスがよく歌っています。歌というよりハミングに近いです。このロリンズのハミングにワン・ツー、ワン・ツーというリズムが絶妙に合います。これを言えば「ブラウンスキン」のホールのギターも同じです。

・ブラウンスキンガール

「もし貴方と別れる時は」はボサノヴァ風です。正確無比なシンバルレガードとリムショットによるノリが組み合わさるリズムにそってロリンズもホールも軽快に風を切るように演奏します。曲のエンディング部分、終わりの決め方がカッコ良いです。
「もし貴方と別れる時は」


🔵『ホワッツ・ニュー?』はまとめてた方が聞きやすいのでは

レコードやCDなどのパッケージメディアで順序の通り聞くと第1曲目は「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」です。その壁は避けられません。もちろんCDプレイヤーにはスキップ機能があるので、2曲目からプレイをすればよいのですが。

壁を避けて裏からまわってB面開始で聞くと本アルバムの良さがわかります。繰り返しB面から聞いていると、抵抗感が無くなりA面を思い切って聞いてみる気になります。収録曲の順序を崩しますが音楽の傾向もわかります。

サンバの趣きは「ドント・ストップ・ザ・カーニバル」、「ブラウンスキン・ガール」
ボサノヴァの趣きは「もし貴方と別れる時は」、「夜は千の眼をもつ」
ラテンパーカションの趣きは「ブルーソンゴ」、「ジャンゴソ」

🔵ところで1962年のジャズシーン

ボサノヴァ奏者と言えば、スタン・ゲッツの名前があがります。名盤『ゲッツ/ジルベルト』。シングルカットされた「イパネマの娘」は時代を超えて世界中で愛聴されています。

それに先立ってゲッツはボサノヴァのアルバム『ジャズ・サンバ』を1962年2月にレコーディングし同年リリースします。ギターはチャーリー・バードです。シングルカットされた曲は「デサフィナード」でこちらも大ヒットします。

ロリンズの『ホワッツ・ニュー?』は1962年4月と5月にレコーディングされ同年リリースされます。ギターはジム・ホールです。本アルバムにも素敵なボサノヴァ風の曲が収録されています。けれども、同時代にあって『ホワッツ・ニュー?』がブレイクしなかったか?は謎が残ります。ゲッツの漂うような演奏とロリンズの空気を切り裂くような演奏。



いいなと思ったら応援しよう!