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ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑯~ コクガンコロニー上陸②

■ 新島命名!?

7月4日、今日も晴れ。10:00出発で、今日は別のコクガンコロニーへ。

小生「今日行く島の名前は?」

ワロージャ氏「名前がついてないんだよね

そりゃ不便!なんか名前つけないと!

小生「じゃあ、Sawa島にしよう

ロシア語でサワ(スペルは、Соваで違うが…)は、フクロウという意味。そして、この島にはシロフクロウが繁殖することもあるらしいので、ちょうどよいではないか!?
ワロージャ氏も「ハッハー」という感じで、名前が決まった(?)。

Sawa島はここ。北緯72°55'、東経129°22'

Sawa島

Sawa島には、約50ペアのコクガンが繁殖している。ここでは、シロカモメ、セグロカモメのコロニーと同居していた。

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■ 大型カモメと同居するコクガン

セグロカモメ、シロカモメがいる分、昨日よりもコロニーは賑やか!
カモメさんたちも子育て中!

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もちろん、コクガンも。
精一杯威嚇してくるけども、まったく怖くない…声も
「ん? ん? んん?」
という感じ…
たよりないなぁ。

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ここでは、コクガンの巣の位置、大型カモメの巣の位置をすべて記録
黒がコクガンで、白が大型カモメ(Sawa et al. in press)。
コクガンの巣間距離は、平均 16.0 m (6.2 - 30.9 m)。コクガンとカモメの巣の距離は平均 23.1 m ( 2.0 - 88.7 m)。

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なぜ、こんな近くにコクガンと大型カモメは巣を作っているのか!?

大型カモメ類は、コクガンのヒナなの捕食者になりうる。しかし、コクガンが同所的にコロニーを作るのは、大型カモメ類が営巣している場所は、キツネがいない指標になったり、よりやっかいな天敵であるトウゾクカモメなどを大型カモメが追い払ってくれるためといわれている。

Ebbinge, B. S., & Spaans, B. (2002). How do Brent Geese (Branta b. bernicla) cope with evil? Complex relationships between predators and prey. Journal für Ornithologie, 143(1), 33-42.

キツネがコロニーに入ってしまうと、そのコロニーはほぼ壊滅してしまう。そうならないように、大型カモメの防衛力を利用しているのだ。そのためであれば多少、ヒナを食べられても仕方ない、ということなのだろう。

また、コクガンは大型カモメのほか、シロフクロウの巣の近くにも巣を作ることが知られている。

写真家 星野道夫氏の「アラスカ 風のような物語」の中に「コクガンの賭け」という一節があり、そのことが書かれています。

コロニーの中でも、カモメの巣に近い巣、コロニーのはずれのほうの巣など、少し様子が違うような気がする。

 カモメに近い巣のほうが、営巣成功率は上がるのか?
 それとも近すぎると、カモメにヒナをやられてしまうのか?
 ちょうどよい距離はあるのか?

といったところが興味深そうだが、今回の調査ではそこまでは調査できず。コクガンの巣の分布やクラッチサイズなどは、以下の論文にまとめている。

Sawa Y, Sato T, Ikeuchi T and Pozdnyakov V. (in press). Banding survey at colonies of Brent Goose, Branta bernicla in the Lena Delta, Russia and a recovery record. The Bulletin of the Japanese Bird Banding Association

■ まさかの強制終了!?

この日も順調にコクガンの捕獲は進んでいく。
そして後にとても重要な役割を果たしてくれた92番の個体もここで標識。このお話はまた今度。

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少し落ち着いてきた15:00頃。コクガンが巣に戻るのを待っているときに、ワロージャ氏がやたらと

「今のところ、合計20羽は捕獲できそうだが、十分か?」

と聞いてくる。

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小生「当初の目標は30羽だから、もうちょっといけるとうれしい」

と答えるも、なんだかきまりが悪そうな感じ。
すると、

ワロージャ氏「実は、、、ガソリンがもう帰りの分しかなくて、コクガンのコロニーに来れるのは今日が最後なんだ」

佐藤氏・小生「えっ」

そしてワロージャ氏は続ける。

「ドラム缶満タン(約600ℓ)にガソリンを入れてもらったはずなのに、おそらく3分の2くらいしか入ってなかったんじゃないかな…」

あのプーチンハウスでガソリンを入れた時だな!
なんてこったい、プーチンめ!!

と思いつつも、現実を受け入れる以外の選択肢はない。

みなで、「今日、できるだけ捕ろう!」と気合を入れなおし、頑張る。
いや、やるしかない!

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結局22:00くらいまでノンストップで調査を続け、本日の捕獲は12羽。
これまでの合計を21羽まで伸ばすことができた。

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あぁ、バイバイ、Sawa島!!次来ることはあるだろうか!

3人ともぐったりで、23:00に帰宅。
小屋で待ってるボバ氏も心配していたようだ。

■ Sawa島の鳥たち

さて、小生の島の鳥たちを紹介しよう!

おなじみのユキホオジロ

お初お目にかかります、ツメナガホオジロ

夏羽がまぶしいつやつやのセグロカモメ

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迫力満点、シロカモメ

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思わず見とれるトウゾクカモメ

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おっとりヌマライチョウ

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きれいなアビ

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われらがコクガンのひな

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すこやかなれ!Sawa島の鳥たち!!
つづく

【過去記事】
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ①~ はじまり編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ②~ 資金集め編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ③~ 準備編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ④~ 出発編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑤~ ヤクーツク編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑥~ ヤクーツク編その2
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑦~ チクシ編
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑧~ チクシ生活事情
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑨~ いよいよチクシ出発
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑩~ レナデルタ潜入
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑪~ METEO散策
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑫~ 調査拠点到着
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑬~ 北極圏の洗礼
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑭~ シギチ天国
ミニ連載:雁の道を越えて ~ロシア北極圏探訪記 ⑮~ コクガンコロニー上陸①


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澤祐介@渡り鳥調査中
渡り鳥の研究には、旅費や発信器購入、罠の作成など、そこそこのお金がかかります。もちろん科研費や助成金などを最大限獲得していますが、それだけでは大変厳しく、手弁当も多いです。渡り鳥についてもっと知ってみたいという方々のご支援よろしくお願いします。

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