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侍タイムスリッパーは第2のカメ止めになれるか

先日、『侍タイムスリッパー』を観てきました。
観たのは2週間ほど前なのですが、その間に体調を崩したり色々用事が立て込んだりしたので、こんな時期に感想を書いている。
『温泉シャーク』の時も感想を書こう書こうと思いつつも、体調不良で書けないうちに上映が終了してしまった。あれは惜しいことをした。
『侍タイムスリッパー』も同じことになるのではないかとひやひやしたが、全然まだまだ元気に上映中なので、大手を振って感想を書く。

ところで、この映画好きの間ではかなりの注目作である、『侍タイムスリッパー』であるが、よく『カメラを止めるな!』(略称カメ止め)と比べられる。
というのも、低予算インディーズ映画から口コミで広まり大ヒットを飛ばした作品という点で、この2作品の境遇はよく似ているのである。
実を言うと私は『カメラを止めるな!』は鑑賞していないので、カメ止めの作品内容については詳しく触れないが、興行収入は最終的に30億円を超えている。一般的な邦画のヒット作の基準となる数字が興収10億円だとすると、この数字はマジに大ヒットなのである。実際、カメ止めは2018年の邦画興行収入ランキング7位に入っており、低予算映画とは思えない成績を残している。

で、『侍タイムスリッパー』であるが、最初の公開劇場はなんと池袋シネマ・ロサの1館だけ!というインディーズにもほどがある状態から、連日満席・口コミ高評価をたたき出し、ついに149館まで上映拡大、興収1.5億円をたたき出している。カメ止めの30億越えの次に語ると「大したことねーじゃん」と思われるかもしれないが、そもそも、公開時(2024年8月13日)の時点では1館だけで、すぐに149館まで上映館が増えたわけではない。そもそもインディーズ映画で興収1億越えは空前の大ヒットレベル、珍事である。ミニシアター系は50館くらいで開始しても興収1億いかないとか普通にある。
ので、だいぶヤバい成績で、そりゃ第2のカメ止めを期待されるのも道理なのである。

個人的には、ぜひともこの『侍タイムスリッパー』には、邦画ヒット基準の10億を超えていただきたいが、それは今後の展開次第だろう。このままの感じでいけば、まずは興収3億くらいが目標値になるかもしれない。

ところで、私はこの映画をTOHOシネマズ日比谷で観たのですが。
シャンテではなく日比谷の方で。(日比谷はお隣にTOHOシネマズシャンテというミニシアター系専用劇場がある)
『侍タイムスリッパー』、日比谷の方、なんですよ。
それも私が観た時は宝塚劇場地下のスクリーン12だった……。
東京の映画館にあまり興味のない方はピンとこないと思いますが、TOHO日比谷って国際映画祭の会場になったり、ハリウッドスターを呼んだりできるレベルの巨大劇場なんですよ……。
そのスクリーン12ってね、TOHO日比谷最大の席数の箱なんですよね。
IMAXよりも席数が多いの。
そこに……『侍タイムスリッパー』が……やべえ……。
インディーズ映画としては破格すぎる扱いなんですけど、怖かったのが土曜日の夕方回という行きやすい時間帯だったことを差し引いても、その大箱の8割ちゃんと席が埋まっていたことなんですよ!こわ!やば!
あと、TOHO日比谷って、スクリーンが多いこともあって、他の劇場が終映になったような作品も客が入る作品はかなりロングランさせる劇場なんですよね。(トップガンマーヴェリックを周回していた時に、最後までお世話になったのは日比谷だったし、なんなら曜日限定でまだやってる)
これは……『侍タイムスリッパー』も超ロングランするのでは……?
オラなんだかワクワクしてきたぞ!(野沢雅子ボイス)
これは第2のカメ止めコース、いけるのでは……!?

ところで、この映画のタイトルを『侍タイム ストリッパー 』だと勘違いしてる人が結構いて笑う。侍のストリッパー、だいぶ性癖が尖りすぎてる。ストリッパーが何のことかわからない人はWikipediaでもググってくれ。


さて、だいぶ前置きが長くなりましたが、ここから先は『侍タイムスリッパー』のネタバレ感想です。
例のごとく、物語の内容にバリバリ触れますので、ネタバレOKな人だけ、下にスクロールしてお読みください。















おじさんが大好きになるショートケーキ販促映画。

いや、本当に観た後、シンプルないちごのショートケーキが食べたくなるんだ。あんなにいちごショートに感激できるおじさんが他にいるだろうか……。

内容は、幕末の侍が決闘中に雷に打たれて現代にタイムスリップしてしまい、時代劇のセットの中に出現してしまったがためにエキストラと勘違いされてしまい、やがて「斬られ役」の役者として出世していくというサクセスストーリー。

そう、サクセスストーリーなのである。

侍のおじさんは幕末に帰ることはなく、普通に努力して現代に馴染んでいき、いつしかまげも普通の髪型になり、洋服を着て、現代の女の子に恋をして、いい感じに役者をこなしていく(が、口調はあまり現代になじまない)

洋服を着て現代に馴染んだだけで、自然に笑いを誘う侍のおじさん。良い。

侍タイムスリッパーの優れているところは、中だるみすることのない脚本で、タイムスリップ→時代劇エキストラとして仕事を得る→因縁の相手との再会→友情→因縁に決着の流れが非常にスムーズなのだ。
サクサク話が進むので、ストレスになるシーンがほとんどない。
観に行ったとき、私は割と寝不足だったのだが、最後まで眠くなることなく観られた。
何より、主人公の高坂が真面目で誠実で非常に性格が良く、こいつムカつくな?というところがない気持ちの良いおじさんと言う点がすごく好感度が高い。最初は渋い頭の硬いお侍さんなのかな、と思ったら、ショートケーキを食べて泣いたところで思わずじんときた。かわいいおじさんなのだ。

タイムスリップした時に決闘していた因縁の相手が、30年早くタイムスリップしており、主人公と同じように役者として身を立てて大物俳優になっていたという設定も面白い。
時代劇で共演することになるわけだが、演技しながら仲良くケンカしてるのもかわいい。この映画、全体的におじさんがかわいい。
恋愛対象になるヒロインが一応いるのに、主人公、手も繋がないからな……。

因縁の相手であり、俳優の大先輩風見が時代劇をやめた理由が、幕末にいた頃人を斬った時の感触を思い出してしまうからなんだけど、これを克服させるために主人公高坂が出した答えが「映画の撮影で、真剣を使って打ち合う」ことなんですが。

この真剣の殺陣、「演技ではなく試合で」と言うんですよね、高坂が。
本気でやり合うんですが、この時の高坂の刀の持ち方、戦闘での真剣の持ち方ではなく、演技(殺陣)の刀の持ち方なんですよね。
多分だけど、真剣を使った因縁の戦いに決着をつける勝負ではあるんだけど、高坂はあくまでちゃんと撮影だってわかっていて、最初から「決着をつけるつもり」ではあっても「殺すつもり」はなかったんだと思うんだ。
高坂は自分がいなくなった後無惨な死に方をした故郷の人々に報いなければならなかったし、風見はかつて人を殺した自分のトラウマを乗り越えなければならなかった。
その結果として、2人はタイムスリップした時のあの決闘に決着をつけなければならなかった。
けど、お互い殺し合いたかったわけじゃないんだよね、この2人。出会った時代が違えば普通に友達になれた2人なんだよ。だから、現代においてはタイムスリップ仲間としての連帯感みたいなのを感じさせるし。
幕末を生きた者として、時代劇を継いでいくことで自分たちが確かに生きていた時代を継いでいく。それが2人の出した結論で、だからどちらかが死ななければならないわけではなかった。現代にきた時点で高坂には風見を殺さないといけない理由がなくなっていたし、風見側にはそもそも高坂を殺す理由はない。
だから、殺す殺されの関係ではなく、真剣での勝負に決着がついた時点で、2人の間には友情が残ったんだよな。
そう言う意味では、侍タイムスリッパーってブロマンス的な文脈のあるストーリーなんだよな。

ちなみに高坂が好きなのヒロインの優子とは、本当に何の進展もなく終わるんですが…。
時代劇の時代はもう終わるのか、と言う問いに対してのこの作品のアンサーである『今はまだその時ではない』が、ヒロインに想いを伝えんのかという風見からの揶揄に対しても使われるのが笑えるところ。まだその時ではない、って言ってどんどん先延ばしにしそうだよ高坂どの。早く言っちゃいなよ。

ところで、私はトップガンマーヴェリックのオタクなので、『まだその時じゃない』のセリフにトム・クルーズがダブってちょっと笑いました。
トップガンマーヴェリックでの文脈も「飛行機乗りの時代はもう終わる」との言説に対して「だがそれは今日じゃない」とアンサーを出すわけなんだけど、用法が同じなんですよね。
もしかしたら、監督、ちょっと意識したんだろうか?と思ってしまいました。だとしたら、オタクとしてはちょっと嬉しいな。
私は祖父と一緒に水戸黄門や大岡越前や暴れん坊将軍を見ながら育ったので、時代劇にはそこそこ愛着がある方なので。
時代劇にそんなに関心がなかったはずの両親も、実家に帰省してみるとよく再放送の時代劇見てるし。
確かに今では新作の時代劇ドラマを作られることは減ったけど、映画ジャンルでは割と時代劇はまだまだ作られていて、だから「終わるのは今じゃない」って思うんですよね。

この『侍タイムスリッパー』という作品のヒットで、時代劇に新しいファンが増えたら嬉しいなと思いました。
あと、物書き目線で言うと、時代劇ドラマって勧善懲悪やストーリーラインがはっきりしているものが多くて、作劇の基本を学ぶのに最適なんですよね。問題発生→主役が問題を発見→悪を成敗→大団円ってなるじゃないですか。あれほどストーリーがわかりやすく組み立てられているドラマって他のジャンルではそんなになくて、割とストレスフリーなんですよね。(そういうところがご年配に受けるところな気がする)
今は時代劇は映画や大河ドラマが多いので、もうちょっと複雑なストーリーや人間関係のものが多いですが…。
昔ながらの人情もの時代劇がまた増えてくれないかなー、と思うのでした。

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